債券ポートフォリオにおける絶対収益型戦略活用の効果と留意点

2024-11-26

Morito Tsujita

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FRBやECBをはじめとする主要先進国の中央銀行が利下げを開始したにも関わらず、円ヘッジ付き外国債券運用は引き続き苦境に立たされている。FTSE 世界 国債インデックス(円ヘッジ)は2020年度から2023年度にかけて4年間連続でマイナスリターンを記録しており、2024年度も10月末時点の累積リターンはマイナスとなっている。

利下げは開始されたものの、そのペースは今のところ緩やかなものであり、イールドカーブの逆イールド状態は継続している。それにより、依然として本邦投資家にとっては為替ヘッジコスト控除後のインカム・リターンが獲得し辛い状況にある。

更に、米国においてはトランプ氏及び共和党が「トリプル・レッド」を達成したこと等も受け、米国国債のイールドカーブは今後ベア・スティープ化(金利上昇を伴う急勾配化)すると予測するマネージャーもおり、キャピタル・リターンを獲得できる蓋然性も短・中期的には下がりつつあると言えるかもしれない。

このような状況に対するソリューションの一つとして絶対収益型債券戦略の活用が挙げられよう。本稿では、債券ポートフォリオに対して絶対収益型債券戦略がもたらす効果を解説すると共に、組み入れ時に留意すべき点についても言及をする。

絶対収益型債券戦略とは

債券のアクティブ運用と言えば、FTSE 世界 国債インデックス(WGBI: World Government Bond Index)や、ブルームバーグ・グローバル総合債券インデックス(Bloomberg Global Aggregate Bond Index)をベンチマークとする戦略(以下:ベンチマーク型戦略)が一般的であるが、中にはベンチマークを全く意識せず、マーケット・サイクルを通じて安定的な絶対収益の獲得を目指すものが存在する。

例えば、債券先物のショートやCDS等を活用することで、金利上昇やクレジットスプレッドの拡大といった、通常のアクティブ運用ではマイナスリターンへ直結する市場の動きをも収益機会とする戦略や、利回りの高いクレジット債券への投資を通じて恒常的に高いインカム・リターンを享受する戦略等、その運用手法は多種多様である。

債券運用に求める役割と課題意識の整理

本題へ入る前に、年金投資家が債券に投資する目的を改めて整理したい。投資家が債券へ期待する重要な役割の一つが「安定的なインカム・リターンの獲得」である。長期間の債券インデックスの累積リターンを要因分解してみると、リターンは概ねインカム(クーポン)・リターンで決定され、プライス・リターンは概ねゼロ回帰する傾向にあることが分かる(図表1)。つまり、債券運用を効率化するためには如何にボラティリティを抑制しながら安定的にクーポン収入を獲得できるかという点が重要であると言えよう。しかし、ここ数年は債券市場のボラティリティは高く、また為替ヘッジコストも上昇しており、安定的にインカム・リターンを獲得するのが難しい状況となっている。

図表1:インデックスの累積リターン要因分解

出所:Bloomberg
※Bloomberg Global Aggregate Bond Index(円ヘッジベース)の累積リターンを要因分解

投資家が債券に求める役割をもう一点挙げるとすると、「株式とのリスク分散」であろう。通常、債券は株式と低相関関係にあり、特に株式市場が下落する局面において、債券はその損失のクッションとなることが期待される。

これらの、投資家が債券ポートフォリオに求める役割を踏まえた上で、絶対収益型債券戦略が債券ポートフォリオにどのような影響をもたらすのかを考察していく。

ボラティリティの低減と収益源泉の分散

前段において、債券運用ではボラティリティを抑制しながら安定的にインカム・リターンを獲得することが重要であると述べた。絶対収益型戦略は一部の戦略を除いてベンチマーク型戦略よりもボラティリティが低い傾向にあり、「ボラティリティの抑制」という観点においては有効な戦略であると考えられる(図表2)。

ベンチマーク型戦略はインデックスのデュレーション(6~7年程度)を起点にしながら、±2~3年程度の範囲内でポートフォリオ全体のデュレーションを調整するのが一般的である。それに対し絶対収益型戦略 は、デュレーション0年近辺を起点としながらロング・ショートを機動的に切り替えるものや、デュレーションを恒常的に短期に抑制してクレジット債券のアロケーション調整や銘柄選択で収益を獲得するものが多く存在する。デュレーションは短ければ短い程、金利変動に対する価格変動性が抑制される。(但し、クレジットリスクを大きく取るような絶対収益型戦略の場合、例えばクレジット債券市場が軟調になるような局面においては、たとえデュレーションが短くてもボラティリティが大幅に上昇する可能性がある点には留意が必要である。)

図表2:過去10年間のボラティリティ(標準偏差)の分布

出所:ラッセル・インベストメント
※ラッセル・インベストメントがモニタリング対象としている絶対収益型戦略(有効データ
数:20)と、Bloomberg Global Aggregate Bond Indexをベンチマークとする戦略(有効データ
数:22)の標準偏差(2024年6月末基準、過去10年、年率)の分布
※分析対象には日本国内で提供されていないプロダクトを含む

「安定的なインカム・リターン」という観点についてはどうか。前述の通り、多くの主要先進国でイールドカーブが逆イールド化しており、本邦投資家はヘッジコスト控除後のインカム・リターンを享受するのが難しい状況にある。そのような環境においては、インカム・リターンのみに拘らず、収益源泉を分散させながらリターン獲得を目指すことが肝要であろう。絶対収益型戦略の中には、積極的にクレジットリスクを取ることでより高いインカム・リターンの獲得を目指すものもあれば、債券の価格変動に着目してプライス・リターンを主要な収益源泉とするものも存在する。採用中の戦略との分散を意識することで、多様な収益源泉を確保できるようになることが期待できる。

株式との分散効果

投資家が債券に期待する重要な役割である「株式とのリスク分散」について検証する。絶対収益型戦略・ベンチマーク型戦略とグローバル株式指数との過去10年間の相関係数の推移を比較すると、多くの期間でベンチマーク型戦略の方が相関係数は低い傾向にあることが分かる(図表3)。

図表3:MSCI Worldとの相関係数の推移(3年ローリング)

出所:MSCI、Bloomberg
※ベンチマーク型戦略は、ラッセル・インベストメントがモニタリング対象としている、Bloomberg Global Aggregate Bond Indexをベンチマークとする複数の戦略(有効データ数:22)の月次リターン(USDベース・報酬控除前)の中央値を抽出した仮想のリターン系列
※絶対収益型戦略は、ラッセル・インベストメントがモニタリング対象としている複数の絶対収益型債券戦略(有効データ数:20)の月次リターン(USDベース・報酬控除前)の中央値を抽出した仮想のリターン系列

株式市場と債券市場の間に低相関性が存在する状態においては、デュレーションが長い(市場の金利変動に対する感応度が高い)傾向にあるベンチマーク型戦略の方が絶対収益型戦略よりも株式との相関係数が低くなりやすいと言えよう。但し、金融引き締め時においては株式、債券共に価格が下落することからベンチマーク型戦略であっても相関が高まりやすい点には注意が必要である。

また、前述の通り絶対収益型戦略の中には高いインカム・リターンを獲得するためにクレジット債券にフォーカスするものが存在している。クレジット債券は企業等の信用力に対するリスクを有しているため、国債に比べると株式との相関が高い傾向にあり、クレジット債券中心の戦略は恒常的に株式との分散が効きづらくなると考えられる。

ガバナンス上の諸課題と対応方針

年金投資家がアセットアロケーションを策定する際、基本的には各資産クラスのインデックスの期待リターンやリスク、他資産との相関に基づいた分析を実施することであろう。一方、絶対収益型戦略は代表的な債券インデックスとは大きく異なる特性を有する。その為、組み入れ比率が高まれば自ずと債券ポートフォリオ全体のリスク・リターンプロファイルは当初の計画から変化してくることが想定される。

無論、市場は刻一刻と変化するため過去に定めた計画に固執し過ぎる必要はない。しかし、ガバナンスの観点からは計画に対してどのような変更を行うのかを明確にした上で意思決定を行う必要があろう。その為、絶対収益型戦略への投資を検討する際には、投資対象候補となる戦略の特性や運用手法を深く理解したり、バックテストを実施したりする等して債券ポートフォリオに与える影響を確認することが肝要である。その結果、例えば「株式との相関が強くなる」や、「ベンチマークに対するトラッキングエラーが上昇する」のような副作用がありそうなのであれば、それらの許容可否をよく検討した上で、確固たる信念を持って投資を行うことが望ましい。これは、絶対収益型戦略に限らず社債やエマージング債券、バンクローン等に特化した戦略等、ベンチマークを参照しない他のプロダクトに対しても同じことが言える。

終わりに

本稿では、絶対収益型債券戦略の一般的な特徴や、ポートフォリオ組み入れ時の効果について解説をさせて頂いた。現在、株価の下落を強く警戒している、若しくは金利低下に高い確信度を持っているような投資家にとっては絶対収益型戦略は然程魅力的に映らないかもしれない。一方、市場環境の見通しは不透明であり、中長期的にボラティリティを抑制しながら収益源泉を分散させたいと考える投資家にとっては、ポートフォリオへの組入れ及び保有継続の余地があると言えよう。その際には、図表4に挙げられたメリット・デメリットや個別戦略の特性等を十分に理解した上で意思決定を行うことが望ましい。

図表4:インデックス及びベンチマーク型戦略と絶対収益型戦略を比較した際の一般的なメリット・デメリット

メリットデメリット
市場環境に依らず安定的なリターン獲得を目指すベンチマーク型戦略と比べて恒常的に株式との相関が強い傾向
ベンチマーク型戦略と比べてボラティリティが抑制される傾向資産クラスベンチマークに対するトラッキングエラーの上昇

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