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プライベート市場における複雑な為替ヘッジにどう対処するか

2025-08-13

Van Luu, Ph.D.

Van Luu, Ph.D.

Director, Global Head of Solutions Strategy




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現在のグローバルな投資環境において、機関投資家にとってプライベート市場への投資は、ますます重要な役割を果たすようになっています。しかし、プライベート投資には往々にして大きな為替リスクが伴います。これはポートフォリオのボラティリティに大きく影響するにもかかわらず見過ごされがちです。為替ヘッジはパブリック市場では一般的に理解され、広く活用されていますが、その手法をそのままプライベート市場に適用することは困難です。

本レポートでは、プライベート市場における為替ヘッジ戦略の導入に際して生じる構造的および実務的な課題を概説します。また、パブリック市場での慣行との違いに触れながら、日本の投資家の皆様が特に注意すべきポイントについても取り上げます。さらに、流動性やコストの懸念を管理しつつ、ヘッジ効果を高めるための実践的なソリューションについてもお伝えします。

パブリック市場とプライベート市場における為替ヘッジの違い

パブリック市場における為替ヘッジは、透明性や流動性の高さ、定期的な評価サイクルによって対応しやすい傾向があります。為替エクスポージャーの算出が容易で、ヘッジは為替フォワードや為替スワップといった標準化された金融商品を利用して実施できます。パブリック市場では、為替マネージャーが定期的かつこまめにポジションをリバランスできるため、ヘッジは市場の動きに応じて動的かつ柔軟に対応することが可能です。

一方、プライベート市場の特徴として、評価頻度の低さ、長期の投資期間、そして予測困難なキャッシュフローが挙げられます。たとえば、プライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラ、実物資産は、時間の経過とともに変化する複雑な為替エクスポージャーを抱えており、その大きさを正確に測ることは容易ではありません。こうした特徴により、ヘッジの実施、サイズの決定、維持管理に大きな課題が生じます。

ラッセル・インベストメントの調査によると、米国と欧州の公的年金基金の多くは、オルタナティブ投資の為替リスクを個別にヘッジすることはしていません。代わりに、ポートフォリオ全体の為替プログラムを通じて、為替エクスポージャーを包括的に管理しています。ファンド・オブ・ファンド(FOF)の運用マネージャーは、顧客のニーズに応えるために、為替ヘッジ付きのシェアクラスやビークルを提供するケースが増えていますが、プライベート市場の為替リスクを正確にヘッジするのは依然として非常に困難です。また、キャピタルコールや分配の不確実性に加え、広範なポートフォリオの中から小規模な為替エクスポージャーを特定することの難しさが非効率性や、追加コストを招くことが多くあります。多くの関係者が、そのような小規模な為替ポジションをヘッジしても、ポートフォリオ全体のリスク管理にはあまり効果がなく、かえって不要なコストがかかるだけだと考えています。

しかし、日本では投資家の志向に独自の傾向があります。多くの日本の年金基金のお客様は、プライベート資産であっても為替ヘッジが組み入れられた金融商品を求めています。日本の投資家に提供されるファンドは米ドル建てであることが多く、為替ヘッジの運用は信託銀行や外部のサブ・インベストメント・マネージャーが実施しています。これらのマネージャーは、一般的に3カ月ロールの為替フォワード取引を利用しています。そのため、投資家はロールオーバーのたびに為替ヘッジによる実現損益を認識しなければなりません。また、プライベート資産で一般的なキャピタルコールが発生する場合には、さらに複雑な課題に直面することになります。キャピタルコールの発生時期が予測できないうえに、3カ月ごとにヘッジポジションを維持するための資金を投入する必要があることが、複雑さをさらに増す要因となっています。綿密なキャッシュフロー管理が不可欠となり、ヘッジ管理と実際のキャッシュフローのニーズにずれが生じると、予期せぬ流動性の逼迫を招く可能性があります。

プライベート市場において為替リスクはヘッジすべきか?

リスクを伴うにもかかわらず、一部の市場参加者は、プライベート市場での為替ヘッジは必ずしも必要ではない、あるいはその複雑さに見合う価値がないと主張しています。ハミルトン・レーン社の2022年報告書(※1)によると、プライベート市場の投資家は資産を長期保有する傾向があり、その間に短期的な為替変動は相殺される可能性があります。さらに、ヘッジを行わない立場を支持する意見としては、外国通貨へのエクスポージャーがもたらす分散効果や、キャッシュフローが不規則かつ予測困難な資産については、ヘッジのサイズやタイミングを正確に見極めることが難しいというものがあります。また、プライベート市場特有の流動性の低さが、為替ヘッジによる損益の処理を困難にしているという意見もあります。特に、マージンコールへの対応や契約決済のための現金を即座に用意できない場合は、その難しさが一層増します。こうした見解を踏まえると、ヘッジはパブリック資産とプライベート資産の両方を含むポートフォリオ全体で管理すべきであり、その際には、上場株式や債券といった伝統的な資産クラスにおける流動性の高い金融商品を活用するのが望ましいと考えられています(※2)。

実務的な観点からは、プライベート資産の為替ヘッジを行う際には、ファンドの通貨建と投資対象となる資産の通貨を考慮する必要があります。例えば、米ドル建てのプライベート・エクイティ・ファンドがユーロ建ての資産に投資する場合、日本円のヘッジ(オーバーレイ)に加え、米ドルとユーロ間のヘッジが必要になることがあります。しかし、プライベート資産は流動性が低く、評価にも遅れが生じるため、投資家が為替変動に伴う損益をリアルタイムで管理するのは困難です。このため、一部の投資家は為替リスクをポートフォリオ全体で管理し、ヘッジ戦略は流動性の高い資産でのみ実施すべきだと主張しています。

パフォーマンス測定には現地通貨ベースのアプローチが有効です。プライベート資産のリターンは、現地通貨ベースで評価し、さらに金利差などに基づく予想為替ヘッジコストを考慮して調整することが望まれます(※2)。これにより、頻繁な時価評価による調整に依存せず、為替ヘッジあり・なしのエクスポージャーを明確に比較できるようになります。

パートナーズ・キャピタル社は2023年報告書(※3)の中で、投資家は為替リスクの戦略的な役割についても考慮すべきだと述べており、特にポートフォリオ分散の目的を踏まえて検討する必要があるとしています。すべての通貨エクスポージャーをヘッジするのではなく、ポートフォリオの中での通貨リスク予算に応じた戦略的ヘッジ比率を設定することを提案しています。流動性の低いプライベート市場資産については、評価のたびにヘッジ比率を動的にリバランスするのではなく、状況に応じて、一定の部分的なヘッジを維持しつつ、定期的に見直すという対応が適している可能性もあるでしょう。

プライベート市場特有の為替ヘッジに伴う課題

流動性の低さと評価の遅れ

プライベート市場の資産は一般的に流動性が乏しく、評価は四半期に一度行われれば良いほうです。このため、特定の時点における為替エクスポージャーの正確な把握は困難で、適切なヘッジ比率の算定は一層複雑になります。最新ではない評価額をもとにヘッジを行うと、ポートフォリオに対してヘッジのかけ過ぎや不足といった問題が生じるおそれがあります。

キャッシュフローの発生時期の不確実性
プライベート市場では、キャピタルコールや分配金の支払い、投資のエグジットといったキャッシュフローの発生時期が、その性質上、予測しづらいものとなっています。こうした予測の難しさにより、ヘッジ契約の満期と実際のキャッシュフローの発生時期を一致させるのが難しくなります。その結果、為替が不利に変動した場合にヘッジが適切に機能しなかったり、流動性に圧力がかかるリスクが高まる可能性があります。

運用上の複雑さ
プライベート資産に為替ヘッジ戦略を導入するには、堅牢な運用インフラが求められます。これには、担保管理(補足:多くの場合、為替ヘッジに担保は不要)、法的書類の整備、カストディとの連携、会計システムとの統合などが含まれます。多くのアセットオーナーやファンド・マネージャーにとって、特に少人数体制で運用している場合、こうした要件は大きな障壁となり得ます。

パフォーマンスの低下

プライベート市場のファンド・マネージャーが為替ヘッジの責任を負っている場合、証拠金要求への対応や為替ヘッジによる損失の補填のために、投資家に現金の拠出を求めることがあります。このような構造では、実際のプライベート市場投資とは関係のない支払いに対して、コミット済み資本の一部が充てられてしまうため、パフォーマンスの低下を引き起こす可能性があります。

キャッシュフローの予測可能性を基準としたヘッジ戦略の枠組み

プライベート市場のエクスポージャーに対する有効とされるヘッジ手法の一例は、キャッシュフローの予測可能性に基づいて投資を分類することです。

  • 予測可能なキャッシュフロー:プライベート・クレジットやインフラ・デット、一部の長期リース不動産といった戦略は、比較的安定したスケジュールに基づく支払いが見込まれます。これらの資産は、ラダー型の為替フォワード取引やクロスカレンシー・スワップを用いたストラクチャード・ヘッジが適しています。
  • 予測困難なキャッシュフロー:プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、オポチュニスティック不動産などは、不規則な分配や不確実な出口タイミングを伴うことが多い資産です。これらの資産に関しては、ヘッジサイズの設定がさらに困難となります。状況に応じてより適している可能性がある部分的なヘッジ手法を、シナリオ分析や動的な調整と組み合わせて用いるアプローチが有効です。

流動性管理ツールと戦略的ソリューション

前述のとおり、プライベート市場における為替ヘッジには特有のリスクが存在します。とりわけ流動性リスクを念頭に置いたうえで、機関投資家が為替エクスポージャーを効率的に管理するために活用できる、いくつかのツールや手法をご紹介します。

  • 専用の信用枠(クレジット・ライン):変動証拠金やフォワード契約の決済に対応するための信用枠を設定することで、資産の売却や、過剰な現金保有の必要性を軽減できます。
  • その他の信用に基づくソリューション:流動性調達の負担は、近年人気が高まっているストラクチャーを活用することで軽減される可能性があります。このストラクチャーでは、銀行のカウンターパーティがヘッジ契約の満期を延長する役割を担い、決済時に損失を確定する必要がありません。代わりに、未実現損失に対して信用が供与される形となります。
  • ヘッジ満期の分散:ヘッジ契約の満期をカーブ上の異なる時点に分散させることで、リスクの集中を軽減し、資金需要が予想される時期に合わせることが可能になります。
  • 外部委託によるオーバーレイ管理:経験豊富な為替オーバーレイの専門業者と提携することで、取引の執行が円滑になり、規制遵守も確実に行えます。また、複数のプライベート市場の資産区分にまたがる為替エクスポージャーを包括的に管理することも可能です。適切な体制が整っていれば、キャピタルコールや分配金に対して迅速にヘッジを行うことができます。これらの活動に伴う為替取引も、為替マネージャーに委託可能となります。複数通貨で運用されるファンドでは、プライベート市場のマネージャーから定期的に通貨ごとの保有比率が報告され、その情報と時価評価額をもとに、ヘッジすべき為替エクスポージャーが決定されます。

日本の投資家にとっての課題

実務上、日本の機関投資家は為替ヘッジの管理業務を信託銀行や専門のサブ・インベストメント・マネージャーに委託することが多くあります。米ドル建てで流動性が低いプライベート資産に対する為替ヘッジは、日本の年金投資家にとって依然として大きな課題となっています。日本の投資家が為替ヘッジされたエクスポージャーを強く好む背景としては、日本円が安全資産通貨としての性質を持っていることや、規制上、あるいは負債とのマッチングの理由が挙げられます。

先に述べたプライベート資産のヘッジに関する課題は、低金利通貨である日本円から米ドルなどの高金利通貨へのヘッジコストが高いことでさらに深刻化します。これを適切に管理しなければ、ネット・リターンに大きな影響を与える可能性があります。(最近の日本円と他の主要通貨間に見られるように)金利差が大きい場合、ヘッジコストがかなり高くなることがあります。さらに、フォワードレートと実際のスポット為替の変動との差(ベーシスリスク)が、ヘッジ効果を損なう可能性があります。

効果的な為替リスク管理に向けたパートナーシップ

プライベート市場における為替ヘッジは、従来のパブリック資産向けのヘッジ・プログラムとは異なるさまざまな課題を伴います。

ラッセル・インベストメントは、こうした課題に直面している機関投資家のお客様との豊富な経験をもとに、実践的な知見とインプリメンテーション(執行)支援をご提供しています。私たちはお客様の流動性ニーズやキャッシュフロー・パターン、さらにはポートフォリオ全体の目標を踏まえてカスタマイズしたヘッジ戦略を構築、ご提案しています。こうしたサービスをご提供するため、プライベート資産の多様なストラクチャーやヘッジ手法に対応できる体制を整えており、投資家の皆様が為替リスクを効果的かつ運用面で持続可能な方法で管理できるよう支援しています。

特に日本の投資家の皆様には、非常に負担が大きく、かつ見通しづらい円ヘッジコストや、円が持つ安全資産としての特性など、円へのヘッジに伴う特有の課題に対応する戦略をご提供しています。ラッセル・インベストメントは、キャリーコストを抑えつつ、キャッシュフロー管理の柔軟性を保つアプローチを採用しています。

 

結論

プライベート市場における為替リスクの管理には、資産特有の構造的な特性を踏まえた、慎重かつ規律あるアプローチが求められます。パブリック市場のヘッジ手法が出発点となるものの、プライベート資産におけるリスク管理には、リスクの軽減、コストの効率化、流動性管理のバランスを考慮したカスタマイズされた戦略が必要とされます。

一部の投資家は、長期に渡る投資期間や分散効果、実務上の複雑さといった理由から、プライベート市場における為替エクスポージャーをヘッジせずに運用するという選択が合理的であると考えるかもしれません。一方で、自身のリスク許容度や資金調達のニーズ、負債との整合性に応じて、オーダーメイドのヘッジ戦略に価値を見出す投資家も少なくないでしょう。

予測モデルの活用、目的に応じた金融商品、そして経験豊富なインプリメンテーションパートナーとの連携を通じて、投資家の皆様はポートフォリオの健全性を損なうことなく、効果的に為替リスクを軽減することが可能です。ラッセル・インベストメントは、お客様がこれらの複雑な課題に取り組み、プライベート市場における為替リスク管理の持続可能な解決策を見出せるよう、全力で支援することに努めています。

Hamilton Lane (2022). Private Markets and Currency Risk: A Framework for Institutional Investors. https://www.hamiltonlane.com/en-us/insight/currency-hedging

あくまでも一例であり、投資判断はご自身の責任で行ってください

Partners Capital (2023). A Practical Guide to Hedging Foreign Currency. https://partners-cap.com/wp-content/uploads/Partners-Capital-Intellectual-Capital-A-Practical-Guide-to-Hedging-Foreign-Currency.pdf