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資産運用業務におけるルーティンを考える

2025-09-05

Atsunori Yamaura

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ルーティンとは何か?

「はじめは人が習慣をつくり、それから習慣が人をつくる」というのは英国の詩人であるジョン・ドライデンの名言である。また孔子も「習慣は自然のごとし」と習慣が人の天性に大きな影響を及ぼすことを説いている。最近、米国野球殿堂入りしたイチローさんは現役時代に最高のプレーをするため日常的な習慣(ルーティン)を継続しており、まさに名言を体現していたと言えよう。

一方で、ビジネスでいうルーティン業務は、ともすればルールに沿った定型処理や反復作業が想定され、AIによる自動化の波を真っ先に受ける領域だと言われており、肯定的に捉えられているとは言い難い。また、定められた業務ルールに則って同じ作業を繰り返すという印象があり、決められた仕事以外はしないといった変化を阻害する要因としても受け止められることもあるだろう。

しかし、本来のルーティンの定義には「状況によって変化するもの」という要件が含まれているはずである。ルーティンそのものが進化することで業務の質を高めていくことがその本質である。

 

ルーティンは進化する

多くの企業では方針・規定・マニュアルが文書化され、その内容を理解した上で組織として業務を遂行することが求められているはずだ。個々人がバラバラに判断するのは効率的ではないし、誰かが適切な業務方法を確立したとしても、標準化された手続きに昇華していかないと組織として効果が得られないからである。ただし、文書整備はあくまで形式知の共有に過ぎない。ルールに従って繰り返し皆が同じ行動をするということで、その行動パターンは暗黙の了解となり、ノウハウが蓄積されていくことになる。

例えば、当社がオペレーショナル・デューデリジェンスを実施する際、様々な文書のレビューを行い、その内容を責任者が理解しているかどうかインタビューを通じて確認する。さらには、定期的な文書の見直し、現状の課題をヒアリングすることで、組織が新しい認知の幅を広げ、学習、進化する組織であるかを確認している。つまり、定期的に改善点を見出すプロセスを有し、必要に応じて変化させるような組織がオペレーショナル・リスクを抑制するという考え方に成り立っているということになる。

 

資産運用業務におけるルーティン

年金運営にも定期的に実施している業務は存在する。ここでは資産運用に限定して思いつくものを挙げていく。

▪          数年に1度、ALMを実施して基本資産配分を見直す

▪          資産配分や運用機関構成が想定以上に乖離した時点でリバランスを実施する

▪          定期的に運用機関の成績を評価し、より良い運用機関があれば入れ替えを実施する

ALMの実施、リバランスルール、パフォーマンス評価基準といった業務は基金内の業務マニュアルに定められているはずだ。これらは日常的に生じるのではなく数年に1回のイベントではあるものの、斬新的に変化している代表例が基本資産配分である。年金基金のオルタナティブ比率の割合はALMを経て高くなってきている。ALM自体はルーティンワークであるが、それを契機に年金基金は新たな資産クラスに対する知識を蓄積し、それをポートフォリオに取り入れるようになった結果である。

一方で、オルタナティブ投資が十分に浸透し、投資後5年以上経過しているにも関わらず、ルール化が不十分な分野も存在する。まずはパフォーマンス評価を例に取ってみよう。伝統資産であれば絶対リターンでプラスであったとしても、BM対比で過去3年、5年のアルファ水準が期待に満たない場合は解約するという基準が設けられている。しかし、プライベートアセットは伝統資産と異なり資産クラスレベルでBMを設定していないことが多い。そのため自分たちの採用したファンドの良し悪しを十分に把握できないまま、保有し続けているケースもあるのではないだろうか。ルーティンが進化を促す手段という定義に従えば、適切なパフォーマンス評価基準を定めていない組織がポートフォリオを活性化することは難しい。

プライベートアセットでは世間一般的に統一されたBMは存在しないものの、以下に挙げるいくつかの候補を組み合わせつつパフォーマンス評価の基準を設定することが重要と言える。

▪          不動産であればODECのようなプライベートアセットを対象としたBM

▪          PreqinやPitchbookといったデータベースを活用した同業他社比較

▪          ファンドの目標リターン

▪          上場資産の組み合わせ(上場株式と債券の比率を資産特性に合わせて可変)

さて、プライベートアセットのパフォーマンス評価には、いつの時点から正式な評価を開始するかといった課題も残る。資産特性からいって過去3年や5年で評価するのは短すぎる。当社の見解では、概ね6‐8年程度を経過しないと本当の能力を見極められないと考えている。比較的早期にオルタナティブ投資を開始した投資家であれば優に評価できるだけの期間が過ぎているはずだ。逆にまだ正式なパフォーマンス評価を行うまでに時間的猶予がある投資家もいるかもしれない。しかし、今から適切な準備を行い、組織内の標準的手続きとして記録しておくことが求められよう。

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運用機関調査や運用機関構成のルーティン

例えば基本資産配分の変更によってオルタナティブ比率を高めた時や、パフォーマンス評価によって運用機関の入れ替えを決定した際には、新たに運用機関を採用するというプロセスが生じる。しかし、運用機関調査のルーティン化が進んでいる年金基金は決して多くない。運用機関評価は、必要な情報を収集し、評価すべきポイントを階層化し、運用責任者へのインタビューを通じて総合的に評価するという繰り返される行動パターンである。形式知だけではなく経験を通じた暗黙知の蓄積も不可欠であることから、特殊な人的資産が求められる分野といえる。企業においても特定分野でスキル・ノウハウ・経験を十分に有した人的資産・組織が決定的に重要であることと同様である。たまたま運用機関の採用を担当することになったものの、マニュアルも無ければ過去に採用した運用機関評価の記録もない、ということになれば資産運用業務の進化は期待できないということになる。さらに特定の運用機関だけではなく、適切にファンドを組み合わせて運用機関構成を構築していくことになると更に難易度が高くなる。

この人的資産の獲得には内製化と外注の選択肢がある。運用機関を買収することは現実的ではないので、運用経験がある人材を採用することでノウハウを強化することも考えられよう。あるいは、OCIOとして外部の専門家に委ねるという選択肢もあるだろう。OCIO業務には人的資産だけでなく、個別の投資家ニーズに対応する、つまり特定用途の特殊性も兼ね備えている。単なる外注というよりも戦略的な共同開発に近いイメージで捉えなおす方がより実態に近づけることになろう。

 

個人的ルーティン

筆者個人の話で恐縮であるが、私には他人に紹介できるようなルーティンがほとんどない。ことさら健康に関する行為では文字通り三日坊主という性質である。しかしこの1か月程度、ゆっくりと時間をかけて無理のない範囲でストレッチを行うことをルーティンとしている。しぶとく続けていると筋肉や関節も諦めてくるのか、柔軟性を取り戻しつつあるという感覚になってきている。不思議なもので普段からの姿勢も気にするようになり、気候が落ち着いてきたらジョギング位はしてみようかなという気にもなっている。ルーティンによる進化と言っても良いかもしれない。ルーティンは、それだけに依存すれば組織が硬直化する。従って定期的にゼロベースで見直すことが重要だ。組織も体も少し柔らかい方が長持ちするものである。


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