株式と債券との相関について:相関性が変化する理由と投資家にとっての意味

2025-08-19

Amneet Singh

Amneet Singh

Director, Asset Allocation Strategy




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概要

株式と債券の値動きは逆方向になるという考えは古くからありますが、それが常に正しいとは限りません。2022年には両市場が同時に下落し、投資家にとってのサプライズとなりました。ただし、過去の例を見ると、株式と債券の価格が順相関となることは珍しくありません。単にこの十年か二十年程度の間には順相関が頻繁に発生しなかっただけにすぎません。

直近までの株式と債券との関係

1960年以降は米国株式と債券の価格が正の相関になることが少なくない。

米国の株価と債券価格との相関 (3年移動平均)

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出所:ラッセル・インベストメント、Ibbotson Associates、LSEG Datastream。S&P 500 指数およびブルームバーグ米国長期国債指数の月次リターン。インデックスは資産運用管理の対象とはなりません。インデックス自体は直接的に投資の対象となるものではありません。インデックスには運用報酬がかかりません。

株式と債券との相関性を決定する要因

株式と債券の関係を形成する主な要因はインフレ、金融政策および全体的な経済環境です。

  • インフレ率が低く安定している環境(2%未満)では、多くの場合、株価が下落すると債券価格が上昇します。その理由は、経済成長率が減速すると、企業業績が悪化する(株式に不利)とともに中央銀行が利下げを行う(債券に有利)ためです。このような結果は負の相関だといえます。
  • インフレ率が高い環境では、株価と債券価格が同時に下落する可能性があります。インフレが生じると中央銀行による利下げの実施が難しくなり、株価の下落ほどには債券価格が上昇しなくなります。その結果として正の相関が生じます。

相関のシナリオ

株式と債券の相関は経済成長率やインフレ率の上昇に伴って、負の相関から正の相関へと転換する。

米国の株価と債券価格との相関シナリオ (3年移動平均)

上記のシナリオ分析は単純な2ファクター回帰モデルによる予測に基づくものであり、DKWモデル(Kim、 Don、Cait WalshおよびMin Wei(2019年))による5年予想インフレ率および米国鉱工業生産10年ローリング前年比成長率に対して、株式と債券の3年ローリング相関率を回帰させたものです。

出所:ラッセル・インベストメント、連邦準備制度経済データベース(FRED)、データストリーム

経済成長率とインフレ率はどちらも相関に影響を与える

一般に、経済成長率が上昇すると株価と債券価格との相関は低下します。これは、経済成長率が上昇すると企業業績が改善し、株価に有利に作用するためです。ただし、経済成長率が上昇すると金利も上昇するため、株価と債券価格の両方に悪影響を与える可能性があります。インフレ率と経済成長率がいずれも高い場合は、相互作用がより複雑になります。経済成長率の上昇は株式市場に対して有利に働きますが、インフレ率の上昇は各種金利の上昇につながり、株式と債券のどちらにも悪影響が生じます。

重要な論点:株式と債券の相関について考える場合には、インフレと経済成長の両方についてその動向を把握することが重要です。

インフレと経済成長の見通しに影響を与える要因

 

インフレと経済成長に影響を与える要因には、短期的(循環的)要因と長期的(構造的)要因があります。

循環的要因

  • インフレ動向:現在、コアインフレ率は米国連邦準備制度理事会(FRB)の目標値である2%近辺にありますが、物価上昇リスクはまだ払拭されておらず、例えば追加関税問題により輸入物価が今後上昇することもありえます。一方、住宅価格やサービス価格の上昇は落ち着きつつあります。
  • 財政政策:米国の税制改革法案によりインフレ率が大幅に上昇する可能性は低いと考えられます。
  • エネルギー価格:原油価格は過去3年での最安値圏にあり、インフレ圧力を緩和する方向に作用しています。

構造的要因

  • インフレ目標:FRBがインフレ目標の変更を今後検討する可能性はありますが、現在のところその予定は公表されていません。
  • 貿易およびサプライチェーン:脱グローバリゼーションの動きが続けば、グローバルな生産がもたらすコスト優位性は低下する可能性があります。
  • エネルギー移行:2028年以降の政策により、インフレ率が約1%(年率)上昇する可能性があります。
  • 地政学的な緊張:防衛支出の増加(特に欧州)により、米国の各種金利が影響を受ける可能性があります。
  • 公的債務:米国の公的債務残高が増加すれば、長期的には長期債利回りが上昇する可能性があります。
  • テクノロジーおよび人口動態:電子商取引、AI(人工知能)および高齢化は、今後もインフレ抑制要因となる可能性があります。

ポートフォリオにとっての意味:新しい分散化手法の追求へ

株式と債券の相関は、長期的なインフレと経済成長の予想に影響を受けます。インフレ率と経済成長率がいずれも高い場合、従来の分散化は機能しません。現在のような環境においては、投資家がこれまでとは異なる分散化手法(リアルアセット、絶対リターン戦略、プライベート市場のエクスポージャーなど)を求めるようになることもありえます。そうした手法はインフレの影響を受けにくいため、株価と債券価格が同時に下落した場合でも安定性の高いリターンが実現する可能性があるでしょう。