以下は、2026年3月10日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
要点
- 最近の中東情勢悪化など、地政学的ストレスが高まる局面では、ボラティリティの上昇によりビッド・オファー・スプレッドが拡大し、流動性が複数の取引市場に分散します。その結果、外国為替(FX)取引のコストが大きく上昇する可能性があります。
- このような環境において、複数の流動性プロバイダーやベニューに幅広くアクセスできれば、市場の厚みが増し、より安定した価格発見が実現します。
- 一貫性のある独立した取引コスト分析(TCA)は、市場サイクル全体を通じて説明責任を強化するとともに、規律あるFX執行によってリターンがどの程度維持されたかを定量的に示す証拠を提供します。
為替市場は、地政学的緊張が高まると特に素早く反応する市場です。
市場がストレス状態にある場合、FX取引における潜在的な取引コストが大きく上昇する可能性があることから、複数の流動性のある市場へ分散してアクセスできることが極めて重要になります。
この点は、今回中東で緊張が高まった際にも同様でした。為替市場はほぼ即座に調整し、エネルギー価格は上昇しました。投資家は安全通貨へ資金を移し、先進国市場と新興国市場の双方において、ボラティリティが上昇しました。
このような局面では、流動性環境が急速に変化することがあり、FX取引における潜在的な取引コストの指標であるビッド・オファー・スプレッドは大きく拡大する可能性があります。市場の厚みが薄くなり、取引が困難になることも考えられます。さらに、取引ベニューごとの価格差が大きくなる可能性も出てきます。
FX取引や通貨エクスポージャー管理を必要とするグローバル投資家にとって、まさにこのような局面こそ執行の質が最重要になります。そのため、単一の取引相手や取引チャネルへの依存を避けることが不可欠です。
流動性はストレス時に分断される
通常の安定した環境では、先進国通貨や新興国通貨のペアの多くにおいて、流動性は豊富に見えます。しかし、ストレスイベントが発生すると流動性は分断され、カウンターパーティ(取引相手)のリスク選好度が後退し、提示される価格の一貫性が低下する可能性があります。
最近の中東情勢深刻化を受けて、先進国通貨のボラティリティは予想を大きく超える上昇を記録しました。また、新興国通貨では、投資家が米ドルやその他の安全資産へ資金を移したため、相対的に非常に大きなボラティリティの上昇が見られました。投資家が安全通貨へ資金を移したことで、取引量も増加しています。米ドル買い圧力の高まりを背景にボラティリティは大きく上昇し、先進国通貨では予想を約40%上回り、新興国通貨では予想をほぼ100%上回りました。
同様の動きは、2022年にロシアがウクライナへ侵攻した当初にも見られました。為替市場では潜在的な取引コストが大きく上昇し、紛争地域に近い国の通貨ではビッド・アスク・スプレッドが通常水準よりも最大約500%も拡大しました。
投資家のFX取引構造がポートフォリオのパフォーマンスに与える影響
外国為替は、カウンターパーティである銀行のトレーディング部門にとって依然として重要な収益源です1。市場がストレス状態にある局面では、方向性に賭ける取引(ディレクショナル・トレーディング)の取引量が増加する傾向があり、それと同時にビッド・オファー・スプレッドも拡大します。アセットオーナーや運用機関にとって、スプレッド拡大はポートフォリオにおけるコストの大幅な増加につながりかねません。ボラティリティが上昇して流動性が選別的になると、取引をどのように調達し、どのルートで執行するかが、投資パフォーマンスに明確な影響を与えるようになります。
このため、ボラティリティが高い局面におけるグローバルFX取引では、インセンティブの透明性が極めて重要になります。取引タイミング、市場選択、カウンターパーティとの関係についての意思決定は、バランスシート事情ではなく、顧客の投資成果を基準として判断されるべきです。幅広い市場への接続を基盤とするエージェンシーFX執行アプローチは、市場全体にわたる分散的な流動性の確保と継続的な価格発見を可能にします。その結果、潜在的な取引コストが抑制され、投資パフォーマンスの向上につながります。流動性が分断される局面では、複数のプロバイダーへのアクセスを通じて、単一のカウンターパーティへの依存度を下げ、潜在的な取引コストの拡大を抑えることができます。
規律ある枠組みは、強固で独立した取引コスト分析(TCA)と透明性の高い報告を通じて、投資を支えます。平常時と市場が不安定な局面の双方において独立した測定を行うことによって、現在の市場環境と比較しながら執行の質を評価することが可能になります。また、この点はガバナンスの強化にも寄与するものであり、投資委員会や監督機関が執行結果と期待との整合性を評価できるようになります。
2025年単年の平均的なFX取引執行(先進国通貨と新興国通貨の双方を含む)に関する独立したTCA分析に基づくと、エージェンシーのみの執行フレームワークを採用した場合、平均的なカストディ銀行と比較して約5.7ベーシスポイントのコスト削減が実現されています2。
投資家への示唆
市場ストレスが高まる局面は避けられないものです。為替市場は今後も、地政学動向、政策変更、マクロ経済ショックに対して素早く反応し続けるでしょう。ボラティリティ自体をコントロールすることはできませんが、執行の規律はコントロール可能です。
利害の一致が明確で、測定の一貫性と透明性も高い、グローバルに分散した流動性ネットワークは、効率的なFX取引執行の基盤となります。市場に強い圧力がかかる局面では、この基盤によって取引コストの抑制、価値の維持が可能になるため、長期的な投資目標に集中し続けることができます。
1 出所:米国通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency)「銀行のトレーディングおよびデリバティブ活動に関する四半期報告書」。FXは米国銀行のトレーディング収益における重要な要因の一つと位置付けられている。
2 出所:ラッセル・インベストメント「RIIS」トレーディングデータ(2025年通年)。パフォーマンスデータはFX Transparency(外部TCAプロバイダー)より取得。平均取引コストは-0.13bps(エマージング市場/規制通貨を含む)。カストディ銀行の平均と比較して約+5.71bpsのコスト削減を実現。