なぜ外貨建て資産投資を行う必要があるのか
例えば米国の投資家と比較して、日本の投資家の方がグローバル投資を進めている傾向がある。その主な理由は何であろうか?
海外資産(≒外貨建て資産)投資を行う主な理由として、以下が考えられる。
収益源泉の拡張
投資対象の拡張
国内インフレ対応
① 収益源泉の拡張については、グローバル投資を拡大し、収益源泉の拡張によるリターンの向上や、分散効果によるリスクの低減などを目的とする場合が考えられる。例えば、プライベートアセット投資をはじめとするオルタナティブ投資がそれにあたる。
② 投資対象の拡張については、国内市場の規模が小さい場合や流動性が乏しい場合に、海外市場に投資対象を求める場合が考えられる。例えばハイイールド債券投資や証券化商品投資などがそれにあたる。
③ 国内インフレ対応については、自国通貨の下落は輸入物価の上昇を通じてコストプッシュ型インフレを発生させてしまう懸念がある。その場合に外貨建て資産に投資していれば、円安メリットを享受できることから国内インフレに対するヘッジになり得る。なおコストプッシュ型インフレは、国内債券に対してはインフレに伴う金利上昇が、国内株式に対してはコスト高に伴う企業収益の減少が、ネガティブ要因になり得る。
米国などは自国市場が発達していることから、十分な収益源泉や投資対象が存在している。一方で日本の投資家の場合は、海外市場に存在する多くの収益源泉や投資対象に分散投資する必要性があることから、グローバル投資が進んできたと考えられる。また今後の投資環境においては、国内インフレ対応も重要なテーマとなる可能性がある。
日本円の特徴を再整理
日本の投資家にとって、その運用通貨となる日本円の特徴を理解しておくことは、為替管理の方針を決定するうえでも重要なこととなる。その特徴を理解することにより、ヘッジすべきか否か、どのようにヘッジすべきかの方向性が定まってくる。
為替ヘッジ方針やその理由は、通貨ごとに異なり、主に以下に依存すると考えられる。
リスク特性(特に株式等のリスク資産との相関関係・分散効果
ヘッジコストの高さ(≒自国短期金利の低さ)
① リスク特性については、グローバル株安時に自国通貨高になる傾向のある通貨と自国通貨安になる傾向のある通貨が存在する。例えば豪ドルのようなコモディティ通貨の場合、グローバル経済が後退し、コモディティ需要が減退するような局面で通貨安となる傾向がある。よって豪州の投資家(運用通貨=豪ドル)は、外貨投資を行うことにより、グローバル株安時にプラスの為替リターンを享受することが期待できる。つまり株式等のリスク資産との分散効果が期待できる訳である。
一方で日本円の場合、グローバル株安時に円高になる傾向があることから、株式と為替の間における分散効果が効きにくい。このためリスク資産との分散効果の観点では、為替リスクを抑制(ヘッジ)するような為替管理が求められる。
② ヘッジコストの高さについては、言うまでもなく日本円が相対的な低金利通貨であることに起因する、相対的に高いヘッジコストの課題である。
よって、日本の投資家の場合、為替ヘッジを行うと高いヘッジコストを負担することになり、ヘッジを行わないとリスク資産との正相関性による分散効果の喪失が課題となる。このため、特に為替管理方針や為替ヘッジ方針の策定が重要となる通貨なのである。
日本の投資家に適した為替管理手法とは
実際のところ、為替は交換レートであり、例えば債券のクーポンや株式の配当(もしくは企業成長)のような明確な収益源泉を持たないことから、ヘッジコストが低いのであれば、リスク抑制としてフルヘッジしてしまうことが理想であろう。
しかしながら、先に述べた為替オープンの場合の分散効果の喪失と、一方で為替ヘッジの場合の高いヘッジコストの負担の双方を考慮すると、オープンとヘッジのどちらが正解なのかが判断しづらい。また最適な為替ヘッジ比率というものを計算したとしても、それは分析期間における均衡値に過ぎず、分析期間の違いにより最適比率は変化する。
このようなことからも、日本の投資家に適した為替管理手法とは、固定ヘッジのような静的管理ではなく、状況に応じてヘッジ比率を変化させる動的管理である可能性がある。
為替の動的管理とは
詳細な説明は別の回に譲るとして、今回は動的管理の選択肢について、簡単に紹介したい。
本稿では代表的な為替管理の手法として、ルールベース戦略とダイナミックヘッジ戦略を紹介し、その特性の違いについて見てみたい。
為替の動的管理の選択肢(ルールベース戦略とダイナミックヘッジ戦略)
ルールベース戦略とは、一旦全ての通貨をヘッジし(為替リスクを中立化し)、そのうえで特定の通貨(米ドルや欧州ユーロ等)に偏ることなく、通貨横断的に為替エクスポージャー(どの通貨をどれくらい持つか)の最適化を図るものである。具体的には、内外金利差や購買力平価などの為替の基礎的理論を用いて、上昇すると考えられる通貨を買い持ちし、下落すると考えられる通貨を売り持ちすることにより、リターンの創出を目指すものである。
為替エクスポージャーについては、債券や株式の市場ベンチマークにおける通貨構成比が必ずしも最適だとは限らない。このためベンチマークの通貨構成比は一旦無視して(ヘッジして)、先進国の主要通貨を平等に扱い通貨横断的に最適化を行うことがポイントとなる。
ダイナミックヘッジ戦略とは、主に為替のトレンドに着目し、円高(為替損の発生)局面でヘッジ比率を高め、円安(為替益の発生)局面でヘッジ比率を低めるものである。このため機動性や為替リスクが高まった局面でどのような対応を行うのかがポイントとなる。
ではどの戦略を用いることが適切なのであろうか。それはその目的に依存する。
ルールベース戦略の目的は、主にリターン追求となる。それは為替ヘッジ部分に適用することから、為替リスクは抑制されているものの、ヘッジコストの負担があるためである。
ダイナミックヘッジ戦略の目的は、主にリスク抑制となる。それは為替オープン部分に適用することから、為替リターンの享受が期待される一方で、為替リスクを負っているためである。
日本円を運用通貨とする日本の投資家にとって、為替はリスクの増大や分散効果の喪失、ヘッジコストの負担など課題が多い管理対象となる。一方でグローバル投資が進んでいる分、ポートフォリオ全体における為替リスクの影響は大きい。このため適切な管理手法を適用することが、ポートフォリオ全体の効率化に直結すると考える。