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日米協調による為替介入は、円相場の流れを変えられるか

Van Luu, Ph.D.

Van Luu, Ph.D.

Director, Global Head of Solutions Strategy




日米協調による為替介入は、円相場の流れを変えられるか

以下は、2026年8月5日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

要点

  • 日本と米国は、1998年以来初めてとなる協調為替介入を実施しました。これは、為替相場が極端に変動した場合、両国が円相場の下支えに向けて、より強い姿勢で対応する用意があることを示しています。 

  • 今回の介入を受け、円は短期的に上昇しましたが、持続的な円高基調への転換には、日銀による金融政策の引き締めと、日本経済のファンダメンタルズの改善が必要になると考えられます。

  • 円高が進行した場合、為替ヘッジを行っていない外国資産の円換算収益が低下する可能性があり、機動的な為替管理の重要性が一段と高まります。

  • 当社が四半期ごとに実施しているアクティブ運用機関との意見交換では、日本市場の中長期的な見通しについて前向きな見方が維持されました。一方、AI関連株が大幅に上昇したことを踏まえ、今後はより慎重な銘柄選別が求められるとの見解が示されました。


日米協調による為替介入―何が起きたのか

日本と米国は、1998年以来初めてとなる協調為替介入を実施し、円の押し上げを図りました。先週末に行われた今回の措置に先立ち、円相場は1ドル=164円近辺まで下落し、1986年以来の安値を付けていました。背景には、日本の金利が依然として低い水準にあることに加え、拡張的な財政政策に対する懸念がありました。

日本の財務省はニューヨーク市場で、約590億米ドル相当のドル売り・円買いを実施しました。米国側は介入額を公表していませんが、報道によれば50億~100億米ドル程度とされています。介入中には円が対ドルで急伸し、ドル円相場は1ドル=163円から157円まで下落しました。

両国は2011年にも協調介入に参加していますが、その際は東日本大震災後の急激な円高を受け、G7各国とともに円売り介入を行いました。今回の介入では、米財務省がドルではなく、ユーロ建ての外貨準備を用いて円を買い入れました。米国が為替介入においてユーロ建ての外貨準備を使用したのは、今回が初めてです。

投資家にとって、今回の措置は為替政策上の重要な転換を示すものです。市場の動きによって通貨が極端な水準に達した場合、日米当局が共同で介入する用意があることが明確になりました。 

ドル相場への配慮

今回の介入において、米国がユーロを用いて円を買ったこと以上に重要なのは、日米が協調して介入を行った点です。過去の事例では、単独介入よりも協調介入の方が、相場により持続的な影響を及ぼす傾向がみられました。

米財務省がユーロを使用したのは、ドル相場の下落を回避するためであった可能性があります。また、米国の政策当局は、日本が為替介入の原資を確保するために米国債を売却し、世界最大の債券市場に対する信認を不安定な局面で損なうことを懸念していたと考えられます。

今後の介入余力を検証する

日本は2024年初め以降、円相場を下支えするため、推計で累計2,250億米ドルを為替介入に投入しています。これには、2026年7月に実施された今回の日米協調介入も含まれます。財務省は2024年4月から7月にかけて大規模な介入を行ったほか、2026年にも4月、5月、7月に介入を実施しました。

これまでに投入された金額は相当な規模ですが、日本が保有する約1兆3,000億米ドルの外貨準備の一部にとどまります。日本の外貨準備高は中国に次いで世界第2位です。介入規模からは、政府が円相場の安定に強い決意を持っていることがうかがわれます。一方、外貨準備の規模を踏まえると、今後の追加措置に向けた介入余力も残されています。

ドル円相場と為替介入

US dollar to yen exchange rate timeline chart

出所:ラッセル・インベストメント、LSEG Datastream、財務省

米国の参加は象徴的な意味を持つものの、資金面での影響は、日本の豊富な外貨準備と比べれば限定的です。米財務省が今後もユーロ売り・円買いによる介入を続ける場合、その規模は米国が保有するユーロ準備額によって制約されます。

米国が為替介入に利用できる外貨準備は、日本と比べて大幅に小さい規模です。7月24日時点で、為替介入の主要な手段である為替安定化基金(ESF)と連邦準備制度の公開市場勘定(SOMA)が保有する外貨準備は、合計約380億米ドルです。その内訳はユーロが約70%、円が約30%となっています。

ESFは米財務省が単独で活用でき、米連邦準備制度理事会(FRB)との調整を必要としないため、比較的機動的に利用できます。一方、米国が自国通貨を売却して円相場を押し上げる場合、外貨準備額による制約は受けません。

円安基調は持続的に反転するのか

市場にとっての焦点は、円相場を下押ししている金利や経済面の圧力に対し、為替介入だけで十分に対抗できるかという点です。過去の経験を踏まえると、当社は介入だけでは十分ではないとみています。

為替介入は、経済のファンダメンタルズや投資家のポジションによって裏付けられた円相場の動きを、誘発あるいは後押しすることはできます。

例えば、2024年4月と5月に実施された介入は、円安基調を反転させるには至りませんでした。しかし、2024年7月の介入時には、日銀による利上げ、米国の軟調な経済指標、キャリー取引の急速な巻き戻しが重なりました。これらの要因を受け、ドル円相場は2024年7月の1ドル=158円から、同年9月には140円前後まで低下しました。

もっとも、円高は長続きしませんでした。日銀の利上げペースが市場の期待に届かなかったことに加え、高市新政権の財政政策に対する懸念が浮上したためです。2025年から2026年の大半において、円は対ドルで下落し、2026年7月下旬には約40年ぶりの安値を更新しました。 

消費者物価と政策金利の動向

Multi-line percentage trend chart over time

出所:総務省、日銀

アクティブ運用機関の見方

中長期的な見通しには前向き。ただし、2026年8月5日時点では、より慎重な選別が必要

日銀による為替介入に先立って実施した当社とアクティブ運用機関との四半期ごとの意見交換では、主に2つの論点が挙げられました。

運用機関は引き続き、円安と日銀の金融政策の方向性を、日本市場を左右する重要な要因と捉えていました。また、バリュエーションに対する規律を一段と重視しつつも、AIインフラ投資の中長期的な見通しについては前向きな見方を維持していました。

意見交換を行った時点では、通貨先物市場のポジションから、投資家が大幅な円売り持ちに傾いていたことが確認されています。この状況は、市場参加者が大規模な円売りポジションを積み上げていた2024年7月と類似しています。 

為替介入に円高を支えるファンダメンタルズ要因が加われば、これらのポジションが巻き戻され、円相場が急速に上昇する可能性があります。

ハト派的な政策姿勢は当面継続

あるアクティブ株式運用機関は、直近の為替介入によって政策当局が円安を懸念していることが明確になったものの、日銀は短期的には総じてハト派的な政策姿勢を維持する可能性が高いと指摘しました。

ただし、円安が長期化すれば、今後数カ月の間に金融引き締めのペースが速まる可能性もあるとの見方が示されました。また、国内投資には改善の初期的な兆候がみられ、年限の長い日本国債の利回りは、現在の水準近辺で下支えされるとの見方も示されました。 

前向きな見通しは継続

運用機関は、AIデータセンター投資の中長期的な見通しについても、引き続き前向きな姿勢を示しました。AI関連投資の拡大は、部品の高機能化を促し、サプライチェーン全体で製品構成の高度化や、サーバー1台当たりの部品搭載額の増加につながっています。

長期的に前向きな見方を維持する一方、多くの運用機関は、直近数四半期に株価が大幅に上昇したことを受け、AI関連銘柄の保有比率を選別的に引き下げていました。

短期的な供給制約は、すでにバリュエーションへおおむね織り込まれています。このため、運用機関の関心は、AIの収益化がハイパースケーラーによる設備投資のさらなる拡大を支えられるかどうかに移りつつあります。 

投資家への示唆

為替介入だけでは、2012年以降続いてきた円の構造的な弱さを反転させるには不十分であると考えられます。持続的な円高には、日本の金利上昇と米国の金利低下による日米金利差の縮小に加え、投資資金の流れが円買い方向へ転じることが必要です。

もっとも、協調為替介入は、ファンダメンタルズの改善を伴う場合、短期的に大幅な為替変動を引き起こす可能性があります。

したがって投資家は、円相場の長期的な方向性が最終的には金融政策や資本フローに左右されるとしても、当面は為替変動が一段と大きくなる可能性に備える必要があります。 

為替ヘッジを行っていない外国資産を多く保有する日本の投資家にとって、円高が持続すれば、海外資産の円換算価値が低下することになります。

こうした環境では、円安局面では為替ヘッジ比率を抑え、円高局面ではヘッジ比率を引き上げるなど、市場環境に応じて機動的に為替ヘッジを調整することで、為替変動による影響を管理しやすくなると考えられます。