シリーズ 「新興国投資の再考~移り変わる世界の勢力図」 新興国への投資意義(第1回)

木村 信治、コンサルティング部 コンサルタント

新興国投資の振り返り

今回、新興国への投資をテーマに複数回にわたってレポートをお届けする。機関投資家向けコミュニティにおいて、これまで新興国は一つの固まりとして捉えられてきたものの、地域や国によってその状況は大きく異なり、変化している。なかでも中国は世界の覇権国の地位をめぐり、米国と対立しているとさえ言われる状況にある。こうした状況下、新興国の中身を掘り下げ、改めて理解することが必要と考えたためである1

本邦の年金基金では2000年代前半より、新興国株式への投資が始まった。2003年にゴールドマン・サックス社が発刊したレポート 2はBRICsという言葉を世に広め、個人投資家だけでなく、機関投資家にとっても新興国投資への後押しとなった。当初の投資家の新興国投資に対する期待は経済成長に支えられた高いリターンや分散効果であり、新興国に対する長期的な期待は長期投資家の投資姿勢と一致したものであった。

2011年まで増加傾向にあった新興国株式への投資は、その後伸び悩んだ3 。様々な理由が考えられるが、一番の理由は2010年代に入って新興国株式の実績が先進国株式の実績を劣後するようになったことである。その背景としては、米国の巨大テクノロジー企業が世界の株式市場を牽引したことや、先進国企業が新興国を含んだグローバル経済の成長の果実をより上手く取り込んだこと(国際的な分業によって製造される米国のアップル社の携帯電話はその好例だろう)、またシェール革命による原油供給の増加などによる資源価格の低迷等を挙げることができる。

新興国への投資は、債券を通じて行うことも考えられる。新興国債券は先進国を中心とした従来の債券とは性格が異なり、信用リスクや政治リスクがより高まるものの、リスクに応じた魅力的な金利を提供する。このため本邦の年金基金においても、2000年代後半から投資対象となった。

新興国債券への投資も株式と同様に2010年代前半まで増加傾向にあったが、その後は高いボラティリティとリターンの低迷が嫌気され、投資に二の足を踏む投資家が増えた。しかし近年では世界的な金利低下の影響を受けて本邦の年金基金も利回り確保に苦心しており、新興国債券への投資を再検討する兆しも見受けられる。

新興国市場は拡大の一途

相対的なリターンの低迷が主因となり、2010年代後半以降の新興国への新規投資は減少したが、その経済は順調に成長している。新興国のGDPは2010年から2020年にかけて、およそ1.5倍(年率4.1%増)に増加した 4 。2000年から2010年にかけての高い成長率(3.2倍、年率12.4%増)に比べるとさすがに減速したものの、先進国に比べて高い経済成長を記録している。この結果、世界全体のGDPに占める新興国の割合は2010年から2020年にかけて35%から41%に増加した。

資本市場も拡大しており、2009年12月末と2019年12月末の時価総額を比較すると、株式は約2.2倍、債券は約1.8倍に拡大している 5。先進国との対比でリターンは劣後したものの、経済や資本市場はその規模を拡大させていたのである。

人口動態の観点でも新興国はその存在感を高めている。新興国の総人口は2010年から2020年にかけて50億人から65億人に増加し、生産年齢人口も31億人から43億人に増加している6 。またインフラ整備のための投資の拡大や生産性向上による成長余地が大きいことや、いわゆるレガシー資産が少ないため最新の技術を導入しやすいことも、経済成長にとっては追い風となる。

このように考えていくと、2000年代の新興国投資に対する期待であった「経済成長に支えられた高いリターン」は、現在もなお期待することが可能と考える。実際に国際通貨基金による予測では、2020年から2025年にかけて新興国は年率7.8%のGDP成長が予想されており、先進国の5.1%よりも高い数値が見込まれている。ただし2010年代の経験から、GDP成長率が投資リターンに結びつくことについて疑問を感じる投資家も多いと思われる。本シリーズではこうした疑問についても論考する予定である。

規模拡大以外の変化

新興国は経済や人口の規模的な伸張だけでなく、その中身も変化していることも見落としてはならない。以下はMSCI社の新興国株指数内の国別配分だが、2000年代当初は一定の配分を確保していた中南米が、現在ではその存在感を低下させている。一方で2009年12月末には他の新興国主要国と同程度の組み入れ比率であった中国が、2019年12月末には突出した存在感を示している。業種配分の観点でも、同指数の組入れ上位銘柄は先進国と同様にテクノロジー企業が占めており、資源銘柄が上位を占めていた10年前から様変わりしている。

債券市場においても信用力の改善がみられる。ブルームバーグ・バークレイズ社の米ドル建て総合指数の平均格付けは1999年12月末にBB格想定であったが、その後2009年12月末にBB+格相当へ、そして2019年12月末にはBBB格相当に改善している。

新興国投資について考える際、こうした変化の検証が求められるだろう。また中国は市場の透明性や外国人の投資受け入れの観点で他国と同列に扱いにくい面があると言われており、中国への投資スタンスを改めて確認しておくことも有意義と思われる。

投資に当たっての課題

新興国経済には様々なリスク要因が存在する。その要因は国によって異なり、代表的なものとして、不安定な政治、経常収支の赤字、資源価格の低下、高いインフレ率などが挙げられる。またグローバル化の逆回転が起きているとされる昨今、イデオロギーの違いについても再整理しておく必要がある。こうしたリスクを踏まえた上で、新興国投資を行う場合に投資家が検討すべき主な課題として、以下の4点が考えられる。

  1. 新興国をどう定義するのか
    株式においては代表的な指数であるMSCI Emerging Markets指数によって新興国市場が定義されることが多いが、同じMSCI社による指数でも、フロンティアと呼ばれる新興国に至る前段階の市場を対象にした指数(MSCI Frontier Markets指数)が存在する。また、新興国すべてを投資対象とせず、その中で絞り込みを行い、例えばアジア地域のみを投資対象とすることも考えられる。債券においては株式ほど代表的な指数が存在せず、すでに複数の定義が存在している。投資対象とする新興国をどう定義するのか、またその中で存在感が突出している中国をどのように取り扱うべきか、これらは大きな課題と言える。

  2. 新興国株式・債券それぞれに対する投資意義と目的をどう考えるか
    新興国投資といっても、株式と債券ではその資産特性の違いから、役割期待が異なる。株式はリターン追求を目的とすることが多いため、新興国株式への投資意義等は整理しやすい。一方、債券は安全性を最重要視することが多く、相対的に大きなリスクを伴う新興国債券への投資には従来の債券投資とは異なる整理が必要になる。また株式と債券では国毎の発行状況が異なることから、国別構成割合が大きく異なることにも留意するべきだろう。

  3. 投資手法をどうするのか
    新興国市場は国別配分・業種配分等のマクロ判断と個別企業の調査によるボトムアップ判断のいずれにおいても、ベンチマーク対比で付加価値を期待しやすい市場とされている。国・業種によって景況感が大きく異なることに加え、企業調査を行うアナリストの数も先進国市場よりも少ない。このように新興国市場はアクティブ運用に取り組みやすい市場ではあるものの、運用報酬に見合う超過収益が得られるのかは検証する必要はある。一方で運用報酬が低廉なパッシブ運用は、ベンチマークに追随することが先進国以上に難しく、結果的に想定外の実質コストを負担していることも珍しくない。パッシブ運用を選択する場合は高い取引コスト等により恒常的にベンチマーク対比の劣後が存在することに対し、何らかの整理が必要になるだろう。またESGの観点を運用にどう活かしているのかも、確認しておきたい点である。

  4. 新興国特化で投資するのか、グローバル株式・債券の一部として投資するのか
    前者の場合、より幅広い新興国銘柄が投資対象となることが期待できるものの、新興国のリスクを長期的に受け入れることになる。後者の場合、新興国の個別銘柄もさることながら、投資魅力度に応じた先進国と新興国間の配分変更 (先進国と新興国を含んだ全世界型指数をベンチマークとする場合)や先進国対比で魅力的な新興国銘柄に投資すること(先進国指数をベンチマークとし、ベンチマーク外の投資として新興国銘柄に投資する場合)による付加価値が期待できる。

このシリーズ「新興国投資の再考」では今後こういった課題に対してマクロ及びミクロの観点から検証を行い、当社の見解を述べていきたい。

 

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1 新型コロナウイルスへの対応では、私権の制限をめぐって様々な議論がなされている。因果関係は必ずしも明らかではないものの、私権を強く制限した国・地域が成果を上げたとされており、そうした国は新興国に分類されていることが多い。新型コロナウイルスは私権を重視する我々に難しい問題を投げかけた

2 ゴールドマン・サックス「Dreaming With BRICs: The Path to 2050」2003年

3 当社コンサルティング顧客の投資状況に基づく。以下、投資家の動向は当社コンサルティング顧客の投資状況に基づく

4 国際通貨基金「World Economic Outlook」2020年10月。以下、GDPに関する統計は同データベースに基づく

5 株式はMSCI社の新興国株式指数(Emerging Markets)、債券はJPモルガン社の外貨建て新興国債券指数(EMBI Plus)

6 国際連合「World Population Prospects 2019」2019年