2022年第1四半期(1-3月期)株式運用機関レポート:インフレが運用機関の最重要リスク

以下は、2022年4月28日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

2022年第1四半期のパフォーマンス概要に加えて、インフレおよび中国の景気減速に対する各運用機関の予測を紹介。

メディアでは連日のようにインフレ関連の話題やデータが取り上げられている。このような状況で株式運用機関はポジションの見直しが必要になっているだろうか?

答えは「イエス」でもあり「ノー」でもある。

ラッセル・インベストメントの1-3月期株式運用機関レポートでは、ほとんどの運用機関が、コロナ後の経済回復によってグローバル市場は引き続き下支えされると考えていることが判明した。同時に、急激なインフレについては見通しが不透明なため、ポジショニングに対して慎重になりつつある運用機関が多い。当レポートの所見では、インフレの影響をヘッジできる価格決定力のある企業や、健全なバランスシート、着実な収益力を持つ企業への注目度が高まっている。一部の運用機関は、金融引き締め策や、それに伴う成長率鈍化の影響を受けている割高なグロース株からの移行を続けている。

インフレに対する懸念は、2月末のロシアのウクライナ侵攻によってさらに悪化した。各国政府や多くの企業が、厳しい経済制裁や投資の引き揚げという異例の対応を取っている。インフレや地政学的緊張の高まりで各国の株式市場は売り一辺倒となり、第1四半期は多くの市場が大幅なマイナス圏で終えることとなった(米ドル建、各国通貨建の両方)。

第1四半期は、米国の大型株と小型株、および日本、オーストラリア、カナダの株式を手掛けている運用機関にとって比較的有利な環境であった。一方、グローバル株、米国を除くグローバル株、新興国株、欧州株、英国株、グローバル・インフラ株およびロング/ショート戦略の株式運用機関にとっては厳しい環境となった。注目すべきは、バリュー・ファクターが全地域において優れた成績を残したことである。ボラティリティの低い銘柄も大半の地域でアウトパフォームした。対照的に、グロース・ファクターやクオリティ・ファクターはアンダーパフォームしている。結果として、スタイルの違いが各戦略のパフォーマンスを決める大きな要因となった。

セクター別では、エネルギーのパフォーマンスが極めて良好で、全地域においてインデックスのリターンの大部分を占めた。ただし、新興国市場においては例外であり、ロシア関連資産の価値がゼロになっている。素材セクターや公益事業セクターも健闘した。一方、新型コロナの感染拡大から恩恵を受けていたITセクターや一般消費財セクターは、全市場でアンダーパフォームが続いた。

中国の長期的な見通しについて投資家は引き続き楽観的だが、短期的にはゼロコロナ政策がサプライチェーンや消費に与える影響を踏まえ、これまで以上に見解が分かれる結果となった。株式運用機関は、利下げや財政出動など、さらに具体的な経済支援策を期待しているようだ。

本レポートは、ラッセル・インベストメントが運用機関との間に築いた独自の関係を活用して、運用機関のスペシャリストの見解を読みやすい形にまとめたものである。2022年第1四半期の世界の主要な株式市場と地域について、主な戦術的見通しを以下で紹介する。

オーストラリア株式

エネルギー関連銘柄を保持

  • 第1四半期にパフォーマンスが良好だったエネルギー関連銘柄について、運用機関はオーバーウェイトを維持している。各銘柄固有の理由に基づいてオーバーウェイトしている場合もあるが、オーストラリアのエネルギー企業を他国のエネルギー企業と比較すると、長期パフォーマンスや株価収益率(PER)のバリュエーションが依然として低いからでもある。ウクライナ侵攻によるガソリン価格・需要への影響も、理由の一つとなっている。

オーストラリア証券取引所(ASX)には今後のアウトパフォームを期待

  • 各運用機関はオーストラリアの株式市場について、以下の理由から、他の先進国市場よりも良好なパフォーマンスが期待できると予測している。
    • ASXのファクター構成は、バリュー・セクター(金融、天然資源など)が多い。金利上昇局面やインフレ局面では、これらのセクターはITやヘルスケアよりも有利になると予想される。
    • エネルギーや天然資源を扱う企業は、今後アウトパフォームが期待されている。ウクライナ侵攻の影響で供給が限定されており、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から新規プロジェクトもほとんど承認されていないからである。
    • オーストラリアは、地政学的紛争のある地域から離れており、適切に規制された信頼できる市場と見られている。
    • 中国で予想されるGDP(国内総生産)成長により、鉄鉱石やリチウムの価格が下支えされている(鉄鉱石やリチウムの産出国は他にほとんどない)。

カナダ株式

アクティブ運用で幅広いセクター分散を活用

  • コモディティ価格高騰と金利引き上げが、第1四半期における各セクターのパフォーマンスを左右した。エネルギーセクターと素材セクターが大きく上昇し、両セクターと最下位セクターとのパフォーマンスの差は約65%となった。
  • アクティブ運用にとっては、幅広いセクターがあることが総じて有利に働いた。例えば、割高になったシクリカル銘柄を売却し、割安レンジまで値下がりしたセクター(テクノロジー・セクター、資本財セクターなど)をポートフォリオに加え、市場ボラティリティに乗じて収益を上げた運用機関がある。一方、売られすぎたハイクオリティなシクリカル銘柄をオポチュニスティックに購入した運用機関もあった。

ディフェンシブなポジショニングは今後も続く可能性

  • 運用機関は、マクロ経済の先行きに対する不確実性・不透明感の広がりに応じて、シクリカル銘柄を削減している。
  • 不透明感の蔓延や、ガソリン価格の高止まり、金利の継続的な上昇により、消費者支出に対する懸念が増大している。
  • 予測成長率が下落していることから、ディフェンシブなポジショニングが支持されている。運用機関は、シクリカルなセクターの中でも、パイプラインや総合金融機関といったディフェンシブな業種を重視している。

コモディティ価格は上昇しているが、先行きに対しては慎重

  • 各運用機関は、FRBのタカ派姿勢、イールドカーブの逆転、サイクルの成熟などを理由に、コモディティに対するエクスポージャーを削減している。
  • 懸念材料としては、エネルギー銘柄のバリュエーションに織り込まれている高い原油先物価格や、金利上昇による金価格への下げ圧力が挙げられる。
  • 一方で各運用機関は、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、北米産エネルギーの需要が増大するとの期待感も抱いている。

サプライチェーン問題が最大の悩み

  • コストが不安定なため、各企業は利益率に対する下げ圧力を感じており、これが短期的に投資家センチメントにも影響を及ぼしている。半導体不足は引き続き自動車部品サプライヤーにとって逆風となっているが、各運用機関は需給が平常化するタイミングを好機と見ている。
  • 米国西海岸の港湾の混雑が続いていることは、鉄道会社や陸運会社にとっては代替的な輸送ルートを提供できる商機となる可能性がある。

新興国株式

ロシアの排除で上流生産者が恩恵

  • ロシアは経済制裁により打撃を受け、MSCI指数からも除外された。また、ウクライナ侵攻に対する政治的反発により海外資本流出も起こっている。
  • 経済的影響を考慮し、多くの運用機関はロシア向け投資分を償却するか、可能であれば売却している。
  • 天然ガスや金属(ニッケル)など、コモディティ価格への深刻な連鎖的圧力により、各運用機関はブラジル(石油、金属、農作物)や「湾岸協力会議」(サウジアラビア、アラブ首長国連邦など)といった他の供給国への投資シフトを始めている。
  • ロシア企業への投資以外でも、ポーランドやエジプトを通してロシアに投資された間接的なエクスポージャーの価値下落に苦しんでいる投資家もいる。

インフレが投資機会に影響

  • 新型コロナによって発生したサプライチェーンの混乱が、ウクライナ侵攻によって深刻化している。各運用機関は、ブラジル、チリ、メキシコ、アフリカ諸国、インドネシアといった輸出国の中から、貿易収支を改善できる国を見つけようとしている。
  • 上記のような見逃されてきた割安な市場は、インフレヘッジに役立つだけではなく、バリュエーションに対する感応度が高まる環境において投資妙味がある。
  • 投入コスト上昇により企業の利益率や経済成長率が下げ圧力を受ける中で、各運用機関はインドやフィリピンといった輸入超過国に対するエクスポージャーを削減している。
  • グロース株の下落が続いているが、グロース株運用機関は最近値下がりした人気銘柄(eコマースなど)に対するエクスポージャーを再検討している。金利が上昇し、バリュエーションの上限が下がるからである。

中国の政策動向に注目

  • 消費が弱含みになっていることや、上海などの主要都市でゼロコロナ政策によるロックダウンが実施されていることを受け、各運用機関の中国に対する見解はまちまちとなっている。
  • 当初は強気だった投資家も不安になっており、金利引き下げや財政出動パッケージといった経済支援策の兆候を探しているが、まだ具体化していない。
  • エネルギー価格の高騰により、再生可能エネルギーへの移行に向けた政策や投資が一層進むことになると見られる。

欧州および英国株式

リオープニング・トレードの難度が高まる

  • 航空分野などは燃料費が大きいため、リオープニング・トレードにおいては、燃料価格の上昇にあまり影響を受けない他の分野へとエクスポージャーがシフトしつつある。例えば、ホスピタリティ分野は経済再開から恩恵を受けられるが、エネルギー関連コストは最低限で済む。

グリーンエネルギーへの転換が加速

  • 西側諸国がロシア産エネルギーからの脱却を進めており、中期的なグリーンエネルギーへの転換が早まりつつある。この動きは、エネルギー転換を支える企業(ESGに関する高い評価を受けてきた資本財セクターの企業)に恩恵をもたらすはずである。

エネルギーと採掘

  • 多くの運用機関がコモディティ価格の高止まりを予測している。供給が逼迫する一方で、グリーンエネルギーへの転換に必要となるコモディティへの需要が増大していくからだ。余剰生産能力が減少していることから、現在有利な立場にあるエネルギー企業や採掘企業については短期的に投資妙味がある。

予測成長率はプラスを維持

  • 2022年と2023年のユーロ圏における予想GDP成長率は、下方修正されたものの、プラス圏内を維持している。ユーロ圏の成長は、低い失業率、高い消費者貯蓄水準、各国政府による継続的な財政支出により、引き続き下支えされるだろう。

グローバル化の減速

  • 新型コロナとロシアのウクライナ侵攻により、欧州企業のサプライチェーンの脆弱性が露呈した。その結果、欧州におけるリショアリングの動きが顕著となっている。国際的なエクスポージャーが少ない、欧州内の資本財メーカーが恩恵を受けることになるだろう。

グローバル株式

マクロ経済の不透明感からリスク回避

  • ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー価格の高騰やサプライチェーンの制約など、地政学上の影響が随所に見られるようになった。例えば、ウクライナではヒマワリの播種時期を逃してしまったため、ヒマワリ油が不可欠な生活必需品セクターの企業は収益が悪化することになる。
  • 不透明感が強まっていることから、グローバル株式の運用機関はトラッキング・エラーやベータの低減など、ポートフォリオのディリスキングに取り組んでいる。

インフレによる影響の回避策を模索

  • 先進国市場においては、賃金水準の上昇や労働市場の逼迫により、希少品の値上がりに拍車がかかっている。
  • 運用機関はインフレによる影響に対処するために、価格決定力のある企業を探している。小売銘柄や住宅関連銘柄はこれまで、需要に懸念がある場合の一般的な資金源となってきた。

金融引き締め策によりグロース株売りが活発化

  • 運用機関は、金利上昇により世界成長や企業収益が下げ圧力を受けると懸念している。
  • 運用機関は、ハイグロース株やハイバリュエーション株を売却し、金利に対する感応度の低い銘柄に入れ替えている。

原油・ガス:短期的には勝者だが、長期的には犠牲者

  • ロシアのウクライナ侵攻や、それに対するEUや米国による規制介入を受け、ロシア以外のエネルギー関連企業が良好なパフォーマンスを示している。ウクライナ侵攻によって、以前から崩れていた原油供給のバランスがさらに悪化し、世界的にインフレ圧力が高まった。
  • 各国が原油・ガスにおけるロシアへの依存の軽減を図っていることから、多くの運用機関はエネルギー転換のペースが速まると予想している。
  • ただし、逆張り投資家やバリュー重視の投資家は、クリーンエネルギーへの転換は関連銘柄の株価上昇ほどは速く進まないと考えており、この見解に基づいて投資機会をうかがっている。一方で、米国の原油生産高の予測は上方修正されつつある。

日本株式

金融引き締め策でさらなるバリュエーション調整

  • 米国のインフレ率が高止まりし、ロシアのウクライナ侵攻がインフレ圧力をさらに上昇させている。米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締め策により、グロース株、特に新興グロース株は悪影響を受けている。
  • グロース株運用機関の多くは、FRBによる金融引き締めの影響は市場でほぼ織り込まれたと考えている。そのため、魅力的なバリュエーションとなったグロース株を買い増している運用機関もある。

世界経済に対する見方はまちまち

  • コモディティ価格の上昇、米国の金融引き締め、中国の新型コロナ感染再拡大により、世界経済は悪影響を受ける可能性がある。
  • しかし、経済活動の正常化によって、年末にかけてこれらの不安材料は相殺される、またはそれを上回るプラス効果がもたらされると考えている運用機関もある。また、サプライチェーン問題が年末に向けて正常化し始めれば、過剰なインフレ圧力は緩和されるとの期待も再び高まっている。

不透明感から運用機関は大きなシフトを回避

  • グロース株運用機関は、景気見通しが弱含みになっていることを受け、利上げが延期される可能性もあると予測し、現在のポジションを維持している。
  • マーケット・オリエンテッドの運用機関およびバリュー株運用機関は比較的楽観しており、金融などのシクリカル銘柄への選好を維持している。

テクノロジー銘柄よりも資本財・自動車関連に注目

  • 供給が逼迫しているため、投資に対する需要は比較的旺盛と見られている。自動車メーカーは、サプライチェーンの正常化や円安から恩恵を受けられると期待されている。
  • 対照的に、半導体については多くの運用機関が見方を厳しくしつつある。新型コロナの感染拡大期には高水準だった電子機器需要が下落しているからだ。

ロング/ショート戦略

ヘッジファンドでプライベート・エクイティの活用が進む

  • この数年で、ヘッジファンドのロング/ショート戦略ポートフォリオにおいて、プライベート・エクイティのエクスポージャーを利用するケースが増えてきた。
  • 多くのヘッジファンドでは、プライベート・エクイティと上場株式を区別して取り扱っている。一方で、プライベート・エクイティと上場株式が混在している運用機関の場合は、特に自社管理上の評価額が低下した際に、流動性の問題に直面する可能性がある。
  • ファンド償還が増えてきたことから、流動性の問題を緩和する目的で、プライベート・エクイティを別管理とすることを決めた運用機関もある。

中国株の大量売却進む

  • 2022年第1四半期において、株式ロング/ショート戦略を採用している運用機関の中国株に対するエクスポージャーは、歴史的に見ても非常に低い水準となった。
  • 中国株の売却が続いており、中国に対するエクスポージャーは低いままだが、一部の運用機関は購入し始めている。

運用機関によるデレバレッジが継続

  • 3月のグローバル株式における売却高は、2013年6月以来の高水準となった1
  • ポジショニング/フローの全体像:ヘッジファンドによるテクノロジー株の売却が続いている(同セクターへのエクスポージャーは10年ぶりの低水準)。ロング/ショート戦略の運用機関は、エネルギーセクター株を純額で最も多く購入している運用機関である2

リスクオフで日和見対応が続く

  • エクスポージャーはグロス、ネットともに低水準である。確実と見られる投資機会がなかったことから、各運用機関は日和見対応を続け、状況を見極めようとしている。
  • 低迷する相場において、運用機関は守りの姿勢を続けるとラッセル・インベストメントは予想している。強気の上昇相場となった場合、現在のリスクオフのポジショニングは不利となる危険がある。

リアル・アセット

REIT(不動産投資信託):吸収・合併(M&A)が活発化

  • 国際的な直接取引のレベルが上がっている。
  • 公開REIT同士のM&Aが空前の活況を呈している。
  • REIT運用機関によると、大量のプライベート・エクイティ資本が利用される見込みである。

ホテル、病院、倉庫:経済に直結した不動産

  • 各運用機関は、貸家・アパートやプレハブ住宅が大量に不足している点に着目している。住居の確保は国際的な課題となっているが、規制リスクが高まる可能性もある。
  • 高齢化によって、シニア向け住宅、ライフサイエンス施設、診療所などのセクターが影響を受けることになりそうだ。
  • 占有率が回復し、価格転嫁の動きが明らかとなる中で、運用機関はニーズに基づいた需要を探している。さらに、住宅市場が活況であることから、一般住宅をシニア向け住宅に転用する動きも見られる。
  • eコマース分野では、物流センター、データセンター、倉庫、米国の沿岸地域、インフィル開発地域が人気であり、物件不足となっている。供給のボトルネックおよび在庫管理は、ジャスト・イン・タイム(必要なものを必要なだけ)からジャスト・イン・ケース(念のための備え)に変わりつつある。原油価格上昇や消費減速は、いずれも運用機関にとって懸念すべきリスクとなっている。

インフラが整備されたサブセクターの差異から投資機会を獲得

  • 成長率が予想より低く、インフレ率が予想より高い時期には、一般的にリアル・アセットの方が株式や債券よりもアウトパフォームする。コスト上昇分をユーザーに転嫁しやすいためである。空港や有料道路の利用料金は、コンセッション契約においてCPI(消費者物価指数)を上回る値上げが定められている。石油・ガスなどの中流業者、貨物鉄道、港湾などはインフレ率に合わせて収入が増える仕組みになっている。規制下にある公益事業は、インフレの影響に対応できる短期的な料金設計である

米国大型株式

経済再開関連の銘柄に対して慎重な見方

  • 新型コロナ後に業績が回復しつつある業種に対して投資家は引き続き前向きだが、慎重に銘柄を選別するようになっており、インフレの進行が消費者支出に与える影響についても懸念を強めている。例えば医療機器メーカーに対しては運用機関は引き続き楽観的であるが、旅行・娯楽関連の業種に対してはより慎重な見方をするようになってきた。

インフレはピークアウト?

  • 多くの運用機関はインフレについて、(解消されたわけではないが)減速しているとの楽観的な見方をするようになっている。サプライチェーン問題が多くの業種で緩和されつつあるため、インフレ率の上昇幅は小さくなるはずである。例えば、自動車生産は既に、半導体不足による制約は受けなくなっている。
  • また、投資家は、多くの業種で雇用が減速しており、賃金インフレが抑制されると見ている。ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格は予想外の急騰となったが、他の多くの商品やサービスについてはインフレの勢いが衰え始めている。

米国内を主な対象とする企業には、収益の安定度から投資妙味

  • ウクライナ侵攻が発生し、欧州経済の減速も懸念されている中で、各運用機関は米国経済との関連が強い大型株への投資に注力している。
  • グロース株とバリュー株のどちらにおいても、運用機関は着実な収益を上げられる企業へのシフトを行っている。

長期運用戦略はハイグロースのテクノロジー株に期待

  • バリュエーションが割高となっているハイグロース株は、2四半期連続で大きく売られた。グロース株を重視する長期運用機関は、長年成長を続けてきたハイクオリティ銘柄について、成長見通しが大きく悪化したわけではないと考えており、値下がりした銘柄の購入を徐々に増やしている。

米国小型株式

小型株のバリュエーションは魅力度を増す

  • 小型株の相対的なバリュエーションは約27年ぶりの低水準となっている。超大型株に比べて、EV/EBITDAベースで44%のディスカウントとなっている。3
  • また、大型株と比較すると、小型株は2022年と2023年の利益成長率が高いと予測されている。つまり、今後の収益力に対して魅力的なバリュエーションといえる。

銀行株人気は低下

  • 前四半期には、どの投資スタイルの運用機関も銀行株を選好していたが、現在では多くの運用機関が銀行の置かれた環境に疑念を抱いている。イールドカーブの逆転現象や、それによる純預貸利ざやに対する悪影響について懸念が膨らみ続けているからだ。

マーケット・オリエンテッドの運用機関は、グロースからバリューへの銘柄入替が続くと予測

  • これらの運用機関は、小型株の売り一辺倒は過剰反応だったと見ているものの、グロース株からバリュー株への入替はまだ続くと考えている。この考えに基づき、公益事業などのディフェンシブなセクターへの投資資金を回収し、比較的割安な資本財セクターへのシフトを行っている。

エネルギーセクターへの見方はまちまち

  • 一部のバリュー株運用機関は、エネルギー銘柄を売却し、生活必需品やヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄に入れ替えている。
  • 少し意外にも思えるが、グロース株運用機関(特にシクリカルなグロース株を保有している場合)は、エネルギー銘柄に対して強気の見方を維持している。

グロース株運用機関はテクノロジー銘柄に期待し続けているが、バリュエーションやタイミングには引き続き警戒

  • グロース株運用機関はテクノロジー銘柄について、長期的な成長余地があるとの考えを崩していない。一部の運用機関は押し目買いを開始しているが、2022年第4四半期に底を打つまでは何度も下落が発生すると予想している運用機関もある。

結論

長引くインフレ圧力に加えて、中国経済の失速、ウクライナ情勢の不透明化、それがコモディティの調達や価格にもたらす影響など、懸念事項は山積しており、第2四半期における投資家の警戒感は高まっている。そのような状況下で、運用機関のスペシャリストの見解は、今後のリスクや投資機会を特定し、活用するに当たって重要なものと考える。ラッセル・インベストメントでは今後も各運用機関の見解をご紹介していく予定である。

1 Morgan Stanley Prime Brokerageのデータ

2 Morgan Stanley Prime Brokerageのデータ

3 出所:Bloomberg、WPG Partners