マーケット・
アウトルック
2024年:
10-12月期
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2024年:
10-12月期
DEFINITELY MAYBE
データは、米国経済のソフトランディングと米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが見込まれることを示しています。市場では景気後退を回避できるという観測が支持されているため、この観測が誤りであった場合にはポートフォリオにリスクが生じます。米国の週間新規失業保険申請件数は、どのシナリオが現実になり得るかを投資家に示す最善の指針となる可能性があります。
アンドリュー・ピーズ(Andrew Pease)
チーフ・インベストメント・ストラテジスト
Definitely Maybe
英国のポップロックバンド、オアシスの再結成ツアーの発表は、1990年代への郷愁をよみがえらせています。一方投資家は、経済のソフトランディングという形で1990年代への回帰を期待しています。FRBが積極的な引き締めを行った後、景気後退を回避したのが1990年代半ばのことであったからです。
しかしこの考えには大きなリスクが伴います。市場はソフトランディングを織り込んでいるため、たとえマイルドな景気後退であっても、株式市場への深刻な調整の引き金になる可能性があります。経済データもソフトランディングへの期待を裏付けていますが、それでも、ソフトランディングと矛盾しない程度の減速が最終的に景気後退の扉を開く可能性はあります。
現時点では、ソフトランディングが実現する可能性は高いとみられています。インフレ率は低下しており、賃金上昇率は鈍化し、労働市場のひっ迫は緩和しています。重要なことは、経済的ストレスの明確な兆候が現れる前にFRBが金融緩和を開始したことです。しかし、景気後退のリスクに関しては依然として危機から脱したとは言えず、ケインズの「倹約1 のパラドックス」が起これば、景気減速がオーバーシュートしてハードランディングにつながる可能性もあります。「倹約のパラドックス」とは、労働市場が悪化すると消費者が慎重になり支出を減らし、これが企業の支出と雇用の削減につながり、その結果さらに消費者の不安が増大するという現象です。個々の企業と家計にとって賢明に思える行動が、経済全体では深刻な結果を招くことになります。
今後数ヵ月間注視するべき指標を1つだけ選ぶとしたら、週間新規失業保険申請件数でしょう。米国経済がリバランスの過程にあるのか、それとも景気後退に向かって流されているのか判断するにあたって、これはリアルタイムでもっとも明確な指針になります。新規失業保険申請件数が週26万件超で推移する場合、より大きな痛みを伴う調整に警戒する必要があります。逆に、それ以下の水準が継続するのであれば、FRBの引き締め政策は景気を悪化させなかったことの証となります。
主要指標: 米国週間新規失業保険申請件数
出所:LSEGデータストリーム、2024年9月12日時点
2023年の景気後退に近い状況を乗り越えた欧州および英国では、経済見通しは明るくなりそうです。銀行貸出の伸びと所得の増加が欧州経済を牽引しています。しかし、現在欧州の経済成長の弱点となっているのはドイツです。ドイツの製造業は中国に大きく依存しているため難しい状況にあり、また、ドイツの自動車業界は電気自動車への転換に後れを取っています。欧州経済は全体的に見れば順調です。成長は加速する一方で、インフレ率が減速しているため、欧州中央銀行は利下げを実施することができます。
英国経済はコロナ禍におけるロックダウン終了以降低迷していましたが、ようやく回復の兆しが見えてきました。消費者および企業の信頼感が上昇していることに加え、インフレ率の低下を受けてイングランド銀行は金融緩和に動いています。
過去数年間の成長軌道の違いは、米国の経済サイクルが欧州や英国とは同期していないことを意味しています。したがって、米国でソフトランディングが実現した場合、欧州および英国では景気回復が持続する可能性が高いと考えられます。しかし、米国が景気後退期に入った場合、世界の貿易と信頼感を介して、その影響は米国以外の国・地域にも及ぶでしょう。日本の経済状況は依然まだら模様です。国内総生産(GDP)成長率は低迷し、家計支出は物価上昇に圧迫されていますが、企業の信頼感は改善しています。日本銀行については、世界の中央銀行のトレンドには逆行し、さらなる利上げに踏み切る決意がうかがわれます。2%の持続的なインフレという長期的な期待が定着する前に日銀が金融政策の引き締めに動いたことは、過去30年間に起きた政策上の過ちが繰り返されるリスクを高めています。
中国の見通しは、不動産市場の問題が未解決のままであり、信用の伸びが鈍化しており、消費者信頼感が過去最低に近い水準で低迷していることから、悪化しています。大規模な景気対策は未だ実施されておらず、政府が行動を決断しない限り十分な景気回復は難しいとみられます。
アラン・グリーンスパン元FRB議長は、1990年代に金融政策を巧妙に舵取りした手腕から「マエストロ」と称されました。投資家は、ジェイ・パウエルFRB議長の金利調整のタイミングも同様に巧みであることを(あるいは幸運に恵まれることを)望んでいます。経済データはソフトランディングの可能性を示唆していますが、これは、オアシスの1994年のデビューアルバムタイトルと同じく「Definitely Maybe」と言えるでしょう。
米国の選挙
米国では選挙イヤーの大詰めを迎え、大統領の座と議会の主導権を巡り、熾烈な競争が繰り広げられています。
米国の民主主義体制は、行政、立法、司法の各部門に渡るチェック・アンド・バランスを特徴としており、個人や政党が抜本的な変革を打ち出すことは困難です。そのため、過去数十年間政治が米国市場に及ぼす影響は限定的でした。例えば、どちらの政党が政権を勝ち取ろうと株式市場は上昇する傾向があります。また、60%を株、40%を債券に配分する60/40ポートフォリオは、大統領選挙の年の大半でプラスのリターンを確保しており、2024年も同様の結果となるとラッセル・インベストメントでは予想しています。長期投資家に対しては、シンプルに、各々の投資計画に忠実であることを推奨します。
米国大統領選挙が市場に与える影響
出所:米国大統領プロジェクト&モーニングスター・ダイレクト:60/40ポートフォリオ:米国株式60%/
債券40%。米国株式: イボットソン米国株式インデックス(1976年~1983年)、ラッセル3000インデックス1984年~現在)。債券 Ibbotson Intermediate Bond Index (1976-1985) は Bloomberg U.S. Aggregate Bond Index
(1986-現在)と連動。インデックスは資産運用管理の対象とはなりません。またインデックス自体は、直接投資の対象となるものではありません。上記において記載されている数値、データ等は過去の実績であり、
将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではありません。
ただし、11月の選挙に向けて注視しているリスクがいくつかあります。第1は関税です。これは、多くの投資家が考えているほど大きな影響をもちません。貿易理論に関する功績によりノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は「国際貿易経済学における知られたくない秘密」として、関税税率が適度な場合には経済成長へ大きな影響は及ぼさないとしばしば述べています。米国の貿易相手国に一律10%の関税を課すことは、おそらく問題ないでしょう。米国は2018年以降、すでに限定的な貿易戦争状態にありますが、未だこれは市場にとってシステミックなイベントになっていません。しかし、中国からの輸入品すべてに60%の関税を課すとしたら、その影響は大きいでしょう。
第2は法人税です。民主党の大統領候補、カマラ・ハリス副大統領が法人税の21%から28%への引き上げを提案する一方で、共和党のドナルド・トランプ候補は15%に引き下げることを公約としています。これほど大幅に法人税を変更すれば、S&P 500®の一株当たり利益成長率に5~10パーセンテージポイントの影響が生じるでしょう。重要なのは、税法は議会の管轄下にあるため、11月の投票で一党が大統領選と議会選の両方を制する、「ウェーブ」が起こせるかどうかにかかっていることです。予測市場2 では、「ウェーブ」が発生する可能性と議会が膠着状態に陥る可能性とが同程度であると示唆されています。
第3は、米国の財政収支の行く末です。近年、2大政党の双方が持続不可能な巨額の財政赤字を生み出してきました。「ウェーブ」選挙の結果、この状況が継続するようであれば、米国債の利回りはさらに上昇する可能性があります。特に、放漫財政により米国経済の堅調さが維持されればなおのことでしょう。
第4は、FRBの独立性への挑戦です。アラン・グリーンスパン元FRB議長はかつて、金利低下を望まない大統領には会ったことがないと指摘しました。ジェイ・パウエルFRB議長の任期は2026年5月に満了します。中央銀行の独立性が疑問視されるような人事には、インフレ期待を浮上させ、米国債の利回り曲線をスティープ化するリスクがあります。これは中期的には重大なリスクシナリオですが、上院の承認手続きや、トランプ政権とバイデン政権がそれぞれ任命した優秀な候補者達が既に理事会にいることは、破壊的なFRB議長が任命される可能性を押し下げています。
円キャリートレードの巻き戻し
このところ日本円は非常に割安で売られ過ぎの状態にありました。この要因の1つは、キャリートレードの広がりです。キャリートレードとは、投資家が低金利の通貨で資金を借り入れ、その資金を利回りや期待リターンの高い通貨で運用することです。このトレードでは通常多大なレバレッジをかけるため、値動きが安定または下落基調にあり、ボラティリティの低い通貨を用います。
2024年7月下旬、このトレードは2つのきっかけによってボラティリティが急激に上昇しました。1つ目は、日銀が市場にとってサプライズとなる利上げを行ったことです。これにより、日本の国債の利回りが変化しました。2つ目は米国の7月の雇用統計で景気の軟化が示唆されたことです。これが米国債の利回り低下につながりました。
下図では、この推移を米国と日本の2年債の利回り差により示しています。金利差が縮小した結果、日本円が米ドルに対して大幅に上昇しました。日本の株式市場への影響は劇的で、8月第1週の3日間でTOPIXは20%下落しました。円高は国内の金融市場のタイト化を反映しており、輸出企業には逆風になります。
米ドル(USD)/日本円(JPY)イールド・スプレッド
出所:LSEGデータストリーム、2024年9月12日時点
ラッセル・インベストメントでは、米ドル/日本円キャリートレードの巻き戻しは現在概ね終息していると考えています。商品先物取引委員会(CFTC)が公表している先物とオプションのポジションの週次統計は、ショート・ポジションが完全に反転していることを示しています。直近の統計によると、トレーダーは全体として日本円をややロングしています。
日本円に対するネット・ポジショニング
出所:LSEGデータストリーム、2024年9月12日時点
7月初旬以降に日本円が米ドルに対して12%上昇したにもかかわらず、日本円はまだ割安です。しかし、もはや売られ過ぎではありません。7月の利上げ後のボラティリティの高まりや、現在進行中の世界的な中央銀行の緩和サイクルを考慮すると、日銀は利上げに対してより慎重になるとみられます。第4四半期初めの日本国債はバリュエーションが高く、G103 ユニバースの中でもっとも魅力に欠けます。
地域別の所見
米国
米国経済はリスクの伴うディスインフレの過程を通して底堅さを見せ、ソフトランディングに向かうための最初のテストに合格しました。インフレは現在著しく抑制されているため、FRBは利下げに転じ、減速する労働市場を下支えすることに軸足を移せるようなりました。最後のテストは、FRBが経済を安定化させつつ、正常な水準まで利下げを実施できるかどうかです。雇用成長は鈍化しており、大学卒業生や移民といった新規労働力の参入が益々困難になっています。ここで重要となるのが、失業率は上昇していますが、景気後退期に伴って通常発生するレイオフが今回は発生していないことです。
企業セクターのファンダメンタルズが堅調であることは、当面はレイオフを低水準にとどめる要因になるはずです。第2四半期には米国全体で企業収益は改善しました。そして、第3四半期の利益成長に関する業界のコンセンサスは、メガキャップ(超大型)株の利益成長拡大期待とそれに伴う堅調な状況の継続性を示唆しています。この状況は、通常はレイオフのサイクルを加速させる企業動向とは異なりますが、新規失業保険申請件数などの景気後退への転換の兆候には注意を集中させる必要があります。国債の利回りはここ数ヵ月で急激に低下しており、現在、ラッセル・インベストメントのフェアバリュー予測の最上位に位置しています。ラッセル・インベストメントでは、多くのポートフォリオ戦略においてここ数ヵ月間でデュレーションの戦術的オーバーウェイトを解消し、利益を確定しました。株式市場はソフトランディングを織り込んだプライシングであり、もし予想よりも激しい着地となった場合には、相当のドローダウンが生じるリスクがあります。ラッセル・インベストメントは、引き続き米国ポートフォリオでの分散を強く推奨します。
ユーロ圏
銀行貸出の緩やかな回復と家計所得の増加はユーロ圏経済に対する追い風となっています。成長率改善を牽引しているのは、スペイン、イタリア、フランスです。ドイツは中国との貿易への依存のため、また、重要性の高い自動車業界が世界的な電気自動車への転換に遅れをとっているために、引き続き困難な状況にあります。
インフレが減速しているため、欧州中央銀行(ECB)は6月以降2度にわたり利下げを実施しており、今年の年末までに少なくともさらに1度、25ベーシスポイント(bps)の利下げを実施するとみられます。ユーロ圏の経済成長に対する主なリスクは、米国経済が予想以上に落ち込むことです。この懸念を除外すれば、回復は2025年も続くと見込まれます。
欧州株式は魅力的なバリュエーションであり、経済の回復に伴って収益が回復すれば株価も堅調に推移するでしょう。米ドルに対するユーロの為替レートは、購買力平価に基づく評価と比較すると極めて割安であり、予想通りにFRBがECBよりも大幅な利下げを実施すれば、ユーロは上昇する可能性もあります。
英国
英国経済は消費者および企業の信頼感が上昇し、住宅価格も回復し始めていることから、改善がより持続的になってきています。インフレ率はユーロ圏と米国に歩調を合わせて減速していますが、イングランド銀行の慎重な姿勢は他の中銀よりも緩やかなペースで利下げが実施される可能性を示唆しています。
最近選挙に勝利した、キア・スターマー首相が率いる労働党政権は、10月末に最初の主要な財政計画を公表する予定です。新政権は任期の初期のうちに、政治的に不人気な税や財政支出に関する決断を行ってしまいたいと考えているでしょう。これにより、2025年には財政が引き締められるリスクが生じます。
英国株式のFTSE 100指数は、今後12ヵ月の株価収益率が11.5倍、配当利回りが3.7%と、比較的魅力的です。英国債10年物の利回り3.75%も投資妙味がある水準だと考えられます。金利差が拡大する可能性を考慮すると、英国ポンドは対米ドルで上昇する余地があります。
中国
中国経済は、不動産市場と消費者信頼感の低迷に依然として苦しんでいます。7月に開催された三中全会4 後の政府の精彩を欠く政策対応を受けて、GDP成長率予測のコンセンサスは引き下げられています。実質的な政策措置については、現時点では積極的な政策手段というよりも、経済データの悪化に対応する消極的なものになると考えられます。中国株式は魅力的な価格で取引されており、こうした軟調な背景がある一方、収益成長の見通しは妥当であると思われます。この数ヵ月、中国の債券市場には強いプラスのモメンタムがみられましたが、ラッセル・インベストメントでは、債券利回りの底打ちは近いと予想しています。人民元は、当局が上下どちらの方向に対してもボラティリティの回避に力を注いでいることから、横ばいで推移する可能性が高いと考えられます。
日本
日本は着実な足取りを示しており、成長とインフレ率は目標値に戻りつつあります。7月の予想外の利上げを受けて金融政策の方向性に対する信頼感は低下したものの、日本銀行は辛抱強く、政策を抑制的なスタンスに変更することはないと思われます。日本国債は若干割高な水準にあるようにみえる一方で、円は引き続き非常に割安であるとみなされています。日本の株式は、フェアバリューから若干割高な水準の間で取引されています。コーポレート・ガバナンス改革と株主還元改善の取り組みによる追い風は続くとみられます。
カナダ
カナダの平均的生活水準は低下している可能性があります。これは、2022年第2四半期以降、ヘッドラインGDPは2.2%増加しているにもかかわらず、1人当たりGDPが約3.5%低下していることからもうかがえます。生活水準の低下と2023年以降失業率が1.6%上昇したことを受け、カナダ中銀(BoC)は3度連続して理事会で政策金利の25bps引き下げを決定し、目下の景気サイクルにおいて G75 の中で利下げに動いた最初の中央銀行となりました。BoCの金融緩和は始まったばかりであり、成長見通しのさらなる悪化や失業率の上昇が生じれば、BoCは現在の慎重なペースよりも積極的に金融緩和を進めざるを得なくなるとラッセル・インベストメントは考えています。ビジネス・サイクルの見通しは良好とは言えないため、引き続き国債がインカム収入の源泉になり得ます。また重大な点として、業界のコンセンサス以上に景気が減速した場合には、カナダ国債がポートフォリオの重要な分散投資先になる可能性があります。一方、カナダ株式には米国株式と比較すると依然として割安感がありますが、マクロ経済的な懸念もあり、カナダの経済状況がさらに悪化する場合には慎重な姿勢を取る必要があります
オーストラリア/ニュージーランド
オーストラリア経済の減速は続くとみられます。消費者は金利上昇の圧力にさらされ、鉱業セクターは中国の景気減速によるコモディティ価格の下落に直面しています。しかし、ラッセル・インベストメントは、オーストラリアは景気後退の回避に至る「隘路」をたどれると考えています。オーストラリア準備銀行の利下げ開始時期は現在の市場予想より遅い2025年第1四半期になるとみています。オーストラリアの株式相場には数多くの好材料が織り込まれており、見通しに何らかの非対称性が含まれている可能性を示唆しています。オーストラリアドルは金利差の縮小と中国の景気見通しの悪化という相反する力に直面していますが、今後は緩やかに上昇すると予想しています。
ニュージーランドでは、2022年9月以降実質ゼロ成長が続いていましたが、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)が利下げサイクルを開始したため低迷に歯止めがかかりそうです。ただし、金融政策は2025年下半期までは緩和スタンスにはならないでしょう。RBNZの理事会メンバーは経済に対する下方リスクを指摘し、必要であれば50ベーシスポイントの利下げの可能性もあると示唆してきました。ラッセル・インベストメントでは、そこまでの利下げは必要ではないと考えており、25ベーシスポイントずつ着実に実施されると予想しています。ニュージーランド国債はフェアバリューに近い水準にあると考えられ、景気見通しがさらに悪化すればリターンの上振れがいくらか期待できるでしょう。RBNZはFRBと歩調を合わせて利下げを進め、金利差は安定的に推移すると予想されることから、ラッセル・インベストメントはニュージーランドドルについてはニュートラルです。
資産クラスの選好
2024年下半期、グローバル株式は一息付きました。我々は、グロース株からバリュー株へのローテーションを目にしています。今年上半期は極めて好調に推移した米国のメガキャップ・テック銘柄の大半は、ファンダメンタルズが引き続き堅調であるにもかかわらず6月末以降失速しています。米国の小型株は、米国経済のソフトランディングと金利低下に対する期待が高まる中、直近3ヵ月はアウトパフォームしました。
インフレは影を潜め、経済成長の先行きに関心が移るにつれて、債券市場は楽観的になりつつあります。ソブリン債の利回りは年初来最低水準で推移し、米国10年国債利回りは6月以降で0.7%低下しました。市場が中央銀行の利下げに対する確信を深める中、短期国債の利回りはそれ以上に低下しました。クレジットスプレッドは不安定ではあるもののタイトな状態が続いています。
資産クラス別の年初来パフォーマンス
出所:LSEGデータストリーム、2024年9月12日時点
株式市場、債券市場の見通しは?
ラッセル・インベストメントでは、景気サイクル、バリュエーション、およびセンチメント(CVS)に基づくフレームワークを投資判断の指針としています。米国のソフトランディングを基本シナリオとしていますが、金融政策の影響の遅効性に対する懸念を踏まえると、景気後退のリスクは依然として高いままです。株式市場とクレジット市場のバリュエーションはやや割高であり、収益期待は市場がソフトランディングを完全に織り込んでいることを示唆しています。ラッセル・インベストメントのセンチメント指標によると、市場心理は、2ヵ月前の極めて楽観的な状態からよりバランスの取れた状態になっています。これらの要因を総合してラッセル・インベストメントのCVSフレームワークは、株式市場と債券市場にネガティブな非対称性6 が生じていることを指摘しており、また、マルチアセット・ポートフォリオの分散における国債の重要性を明らかにしています。
コンポジット・コントラリアン指標:株式市場のセンチメントはニュートラル
出所:ラッセル・インベストメント。最終観測値は-0.10標準偏差、2024年9月9日現時点。投資家心理のコンポジット
・コントラリアン指標は、中立水準を上回るか下回るかの標準偏差で測定されます。
正の値は投資家の悲観主義の兆候に対応し、負の値は投資家の楽観主義の兆候に対応します。
この図では、市場は買われすぎているとの心理を示していますが、まだ陶酔的な極端さには達していません。
2024年第4四半期初頭に選好する資産クラスは以下の通りです:
- 株式の地域、セクター、あるいはスタイルに基づく戦術的な投資機会には、めぼしいものは見当たらないと考えています。グローバル株式全体を見ると、バリューとモメンタムファクターは比較的割安に見えますが、それぞれ経済への高い感応度と、劣悪なセンチメントを伴っています。ラッセル・インベストメントは、バランスの取れたエクスポージャーを維持し、個別銘柄選択をポートフォリオのパフォーマンス向上のカギとすることを選好します。
- 国債のバリュエーションは妥当な水準であり、経済成長がさらに減速すればプラスの非対称性が生じると考えられます。ただし、戦術的な機会の一部は直近のラリーで既に消失しています。イールドカーブは今後スティープ化すると予想されることから、2年物国債と10年物国債の利回り格差は拡大すると考えられます。クレジットスプレッドに織り込まれている景気後退のリスクは、ラッセル・インベストメントの想定よりも大幅に低く、投資妙味に欠けると見ています。
- 上場不動産と上場インフラは共に、株式全般に比較して魅力的な価格水準になっていますが、バリュエーション・ギャップは縮小しています。各国の中央銀行が利下げを開始したことを受け、上場不動産は第3四半期 7に15%以上上昇しました。不動産とインフラは重要な分散投資先となることを期待しています。中国の経済成長減速懸念が再燃したことにより、原油価格は下落しました。地政学的緊張のために原油価格が時折高騰する可能性はあるものの、需要は弱く、世界経済の重荷になる水準にまで価格が上昇することはないとみられます。通常、利下げ実施の見込みは金にとって吉兆ですが、バリュエーションが実質金利に比較して割高であるため、短期的な見通しは不透明です。
- ラッセル・インベストメントでは、大部分の主要通貨について中立の姿勢ですが、米ドルは割高な水準にあり、日本円は中期的に見て特に購買力平価ベースで割安な水準にあると考えています。
- 米ドルは依然として割高に見え、ソフトランディングの局面では下落する可能性が高いと予想しています。円キャリートレードのアンワインドにより、8月以降日本円の売られ過ぎの状態は解消されています。
- 利下げサイクルが商業用不動産価格の底打ちの一助となり、M&Aの機会増加につながるでしょう。とは言え、利下げペースは緩やかであると予想されるため、借入コストは2024年末には高止まりしているとみられます。経営陣は事業において付加価値の創出に注力する必要があるでしょう。また、プライベート市場のユニバースにおいては、目下のマクロ経済上の不確実性が一因となり、パフォーマンスのばらつきが拡大すると予想しています。そのため、良好なパフォーマンスを達成するには、マネージャーの選択が極めて重要になるでしょう。
Prior issues of the Global Market Outlook
2 予測市場とは独特な形態の先物取引市場であり、あらゆる種類の一般的な事象の結果についての推測を促進します。
3 10ヵ国蔵相会議(G10)は、先進国11ヵ国で構成され、年に1度以上会合を開き、国際金融について協議、議論、協力しています。加盟国は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、スウェーデン、スイス、英国、米国です。
4 中国の支配政党である共産党は、7月15日、「三中全会」を開始しました。これは、概ね5年に1度開催される重要会議で、長期的な社会・経済政策の総合方針を決定するものです。
5 主要7ヵ国(G7)とは、世界の主要先進国により構成される国際組織です。加盟国は、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国、カナダです。
6 ネガティブな非対称性とは、下方リスクが上振れの可能性を上回るシナリオを指します。
7 FTSE EPRA NAREIT Global Developed Indexに基づき、2024年9月10日までの期間について算出しました。