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2023
グローバル・
マーケット・
アウトルック
2023年
10-12月期

秩序ある降下(Falling with style)

米国経済がソフトランディングし、景気後退が回避されるとの見方が強まっています。たしかにその可能性はありますが、ラッセル・インベストメントは穏やかな景気後退に陥る可能性の方が高いと考えています。株式は今後数ヶ月、ソフトランディング期待によって引続き支えられる可能性があります。一方国債は大半の中央銀行が利上げサイクルを完了しつつあることから魅力的な水準にあるとみています。

CIOデスクより

グローバル・マーケット・アウトルック 2023年10-12月期をお届けします。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、2023年内にあと一度利上げを行う可能性に言及したものの、インフレ抑制のための金融引き締めは完了に近いことを示しました。景気循環自体は経済の正常な流れではありますが、今回のパンデミックに起因する景気循環は正常なものではありませんでした。

労働市場とサプライチェーンの再編により、金融政策のみで物価を抑制することは非常に困難になっています。労働者不足と大規模な離職の影響が長引き、賃金は高水準にあり、失業率は低い水準にあります。 AI株は景気サイクルに逆らうかもしれませんが、景気後退懸念でバブルが崩壊すれば大きな下落に直面するでしょう。ラッセル・インベストメントでは2024年に米国経済が緩やかな景気後退に陥る可能性が高いと見ていますが、異常な市場環境を鑑みると、軟着陸(ソフトランディング)か景気後退(リセッション)かという議論が複雑になっていると理解しています。

他の地域も同様に、見通しはまちまちです。欧州株は堅調に推移していますが、欧州中央銀行が利上げを長期化させることで、景気減速へ向かっており、新たな課題に直面する可能性があります。英国経済は横ばい基調を続けており、大型の英国株は割安となっているものの、軟調なセクターからの逆風に直面しています。一方、中国の債務問題と不動産問題は悪化しており、政府が救済に乗り出す兆候はほとんど見られません。オーストラリアは見通しの明るい地域です。景気は減速していますが、オーストラリア準備銀行の金融政策が他の先進国と比べて抑制的でないことから、景気後退リスクは低いと思われます。

投資戦略のグローバル・ヘッドのアンドリュー・ピーズとチームでは、投資家がこの不確実な時期を乗り切れるよう明確な情報を提供しています。


ケイト・エルヒロー(Kate El-Hillow)

プレジデント兼グローバルCIO

headshot of Andrew Pease, Global Head of Investment Strategy

アンドリュー・ピーズ(Andrew Pease)

投資戦略グローバル・ヘッド

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"FRBが5%以上の金融引き締めを行った後に景気後退を回避した前例はありませんが、不可能ではないのです。"

- アンドリュー・ピーズ

はじめに

グローバル・マーケット・アウトルック:2023年10-12月期:
秩序ある降下(Falling with style)

2009年、サリー・サレンバーガー機長は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる不時着水に成功しました1 。しかし米連邦準備制度理事会(FRB)のジェイ・パウエル議長が試みる米経済の軟着陸は、より厳しいものになると思われます。今回のパンデミックに起因する景気サイクルは異例の事態を多くもたらしており、ソフトランディングする可能性は否定できません。しかし、過去のサイクルを見ると一度始まった景気減速を景気後退の手前で着地させることは難しいことを物語っています。FRBの積極的金融引き締め策を受けて米国経済が減速し始めると、大抵は着地点を超えて景気後退に陥るのです。

他の先進国経済もまた、積極的な金融引き締め策によるストレス下にあります。欧州は景気後退入りの瀬戸際にあると見られ、英国経済は停滞が続いています。日本はその例外で、緩和的な金融政策とトレンド以上の国内総生産(GDP)成長率が続いています。中国では、債務と不動産市場の問題が深刻化していますが、政府は積極的な景気刺激策を取ることをためらっている模様です。

しかし、市場は米国のソフトランディングの可能性に傾いています。産業界のコンセンサス予想では来年の企業収益は回復し、債券市場は中央銀行による金融緩和は僅かなもの留まることを織り込んでいます。

ラッセル・インベストメントは、2024年末までに米国が緩やかな景気後退に陥る可能性が最も高いと考えますが、パンデミックによる複雑な要因が予測を困難にしています。度重なるロックダウンと経済活動の再開はサプライチェーンの混乱を招き、インフレ率を急騰させ、製品とサービスの景気サイクルの同調性を狂わせました。製品需要はパンデミック時に前倒しされ、サービス消費は経済活動の再開時に回復しました。家計は政府からの支援金により、記録的な現金残高でロックダウンから抜け出し、企業はパンデミック後の利益急増時に多額の内部留保/現金を蓄えました。

今回の金融引き締めは家計も企業も負債や利払いの面で過大な負担を強いられていない時期に実施されたFRBによる初めての大幅な金融引き締めです。そのため、FRBの利上げと実態経済への影響のタイムラグが通常より長くなっていても不思議ではありません。FRBが利下げを始めるまでに十分なほど経済が冷え込むことで景気後退が避けられ、ソフトランディングする可能性もあります。また、インフレ率の低下で消費者の購買力が高まることや、在庫積み増しにより製造業が小幅に回復すれば、景気は一時的に再浮上するとも見ています。このノーランディング・シナリオは、FRBがさらなる金融引き締めを検討し、より深刻な景気後退期に陥るリスクがあると見ており、投資家にとっては最も懸念すべきことです。

ラッセル・インベストメントの景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、及びセンチメント(短期/投資家心理)(CVS)に基づく投資戦略策定のフレームワークは、S&P 500 指数の一年後の見通しに慎重な姿勢を取っています。景気後退リスクを勘案すると、株価のバリュエーションは割高、景気サイクルはネガティブと判断しています。ラッセル・インベストメント独自のセンチメント指標であるコンポジット・コントラリアン指標は株式市場が7月に買われ過ぎのシグナルを発していたものの、現在は中立水準に戻しています。足元では、センチメントが中立に近いため、株式市場がソフトランディングへの自信を深めれば、株価は上昇すると見ています。2024年後半に景気後退に陥るとしても、一時的に景気はソフトランディングする可能性があります。

4.3%近い米国債10年物利回りは、魅力的な水準で、景気後退リスクはサイクル面で追い風となります。ラッセル・インベストメントの昨年末の年次見通しでは、2023年を分散型ポートフォリオの年とし、株式60%、債券40%という通常のバランス型ポートフォリオが好調になる年としていましたが、これは実現しそうです。

2016年の映画、『Sully: Miracle on the Hudson(邦題:ハドソン川の奇跡)』で、サリー機長は「初めて起こるまでは、何事にも前例はない」と語ります。FRBが5%以上の金融引き締めを行った後に景気後退を回避した前例はありませんが、不可能ではないのです。ラッセル・インベストメントは景気後退を予想していますが、パウエル議長は「リバティ通りの奇跡」2が起きることに期待するでしょう。

長くなったものの、いつもと違いはない。

サーム・ルール(Sahm Rule)は3 失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月間の最低値から0.5ポイント上昇したときに景気後退入りしたとします。同ルールが持つ特性は失業率が上昇し始めると自己強化の力学が働くということです。失業率の上昇は企業が経営を緊縮していることを示唆しています。仕事を見つけるのが難しくなると、家計は慎重になります。これがさらなる緊縮財政と人員削減の引き金となり、家計の警戒感はさらに高まります。このプロセスは通常、FRBの引き締めによる影響が遅行して現れるところから始まります。同ルールは、FRBが金融政策を正確に調整することは難しく、政策による景気減速が景気後退に陥らないようにすることは困難であることを再認識させます。

米国の失業率は8月までの3ヵ月間で平均3.6%に過ぎず、1960年代後半以来の低水準にあります。常識からすれば、これは安定したインフレと整合する失業率を下回っています。インフレ率がFRBの目標である2%まで低下するには、恐らく失業率が4%以上に上昇する必要があると考えられます。

サーム・ルールはFRBがこの目標を達成するための道筋が狭いことを示唆

Global inflation rates have peaked in major economies

出所: LSEGデータストリーム、2023年8月15日時点。サーム・ルール(Sahm Rule)は3失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月間の最低値から0.5ポイント上昇したときに景気後退入りしたとします。

ソフトランディングは可能ですが、同ルールはFRBがこの目標を達成するための道筋が狭いことを示唆しています。

中国:GDPに占める投資と消費の割合

Global “core” inflation rates are proving stickier

出所: LSEGデータストリーム、2022年6月30日 時点。

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“インフレ率がFRBの目標である2%まで低下するには、恐らく失業率が4%以上に上昇する必要があると考えられます。”

- アンドリュー・ピーズ

 

中国の難しい選択

経済活動再開後の中国に対する楽観論は、すぐに悲観論に変わりました。問題の焦点は不動産市場と多額の負債を負う地方政府です。不動産開発の巨人である恒大が破産を申請し、住宅建設最大手の碧桂園が債務不履行の瀬戸際にあると考えられます。消費者と企業の信頼感は崩壊し、若年層の失業率は20%を超え、経済はデフレに瀕しています。中国政府はネガティブな傾向を示す多くの統計の公表を中止しました。2桁成長の時代は過去のものとなり、国際通貨基金(IMF)は今後数年間のGDP成長率は4%を下回ると見ています。

問題は中国の不均衡な成長モデルの結果だと弱気派は主張します。GDPに占める消費の割合はわずか37%に対して、投資の割合は42%です。先進経済圏では消費がGDPの60%以上を占める一方で、投資は20%以下です。重要な問題はGDPの45%を占める中国の貯蓄率で、これは他のどの主要経済国よりもはるかに高く過剰投資につながっていることです。中国の不均衡な国家主導経済により、リターンが借入コストを賄えないプロジェクトに結びついた過剰債務につながっているとの否定的な見方があります。

しかし、2008年のような金融危機に発展することはないと見ています。中国の主要銀行は政府所有であり、債務は大半が国内債務で海外からの借り入れはほとんどなく、資本規制によって資本逃避による危機の可能性が低いためです。一方で、より懸念されるのは、1980年代のバブル経済崩壊後、数十年にもわたって低成長とデフレ圧力が続いた日本との比較です。類似点としては、高齢化、過剰債務、不動産セクターへの過剰投資、不良債権問題への政策当局の消極性が挙げられます。

投資家は大幅な景気刺激策の発表を待ち望んできましたが、これまでのところ、一連の緩やかな利下げと住宅ローン規制の若干の緩和が行われたに留まります。日本シナリオのリスクを低減させる政策対応には、地方政府から中央政府への不動産関連の不良債権の移転と、消費拡大、インフレ率上昇、国民貯蓄削減のための協調的な財政・金融刺激策を要するでしょう。しかし、中国の習近平国家主席は、モラルハザードを懸念し、債務が増えれば金融不安のリスクが高まるとして、救済や大規模な景気刺激策には消極的と見られます。実効性のある景気刺激策が講じられるには、経済がさらに悪化する必要があると見ています。

MSCIチャイナ・インデックス(MSCI China Index)は、年初来、最低のリターンとなっている株式市場であり、同インデックスは2022年のピークから20%以上下落しています。予想株価収益率は10倍と割安であり、中国に対する投資家の悲観的な見方は、コントラリアン・センチメントの観点からは魅力的な市場になります。中国株式に対して強気の見方を持つのに不足しているのはサイクルに対する確信です。

短期的な景気見通しは不透明ですが、中国がより悲観的な中期的予測をアウトパフォームすることができると予想する根拠がいくつか挙げられます。中国の債務水準は、資本ストックを増やし、生産性を向上させるために多額の投資を必要とする発展途上国経済という観点からすれば、心配するほど高いものではありません。中国の都市化率は同じ発展段階にあった時期の韓国や日本を下回っているため、キャッチアップによる経済成長の可能性があります。。これにより、人口動態上の逆風を相殺することができると見ています。また、中国には教育における優位性もあります。2018年の最新の経済協力開発機構(OECD)外国人留学生の学習到達度調査(PISA)の結果では、中国は数学と科学で1位となりました。中国は目先の課題を抱えていますが、長期的な成長見通しについては過度に悲観的になる必要はありません。

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“中国がより悲観的な中期的予測をアウトパフォームすることができると予想する根拠がいくつか挙げられます。”

- アンドリュー・ピーズ

地域別の所見

米国

もし、実質GDP成長率が1%前後、非農業部門雇用者数の増加が月10万人程度といった安定した米国経済の減速、すなわちよく耳にするソフトランディングの状態をFRBのパウエル議長が実現できたとしたら大いに驚くでしょう。歴史を見れば、その実現性は乏しく、2024年に景気後退入りする可能性の方が高いと見ています。

来年の景気後退入りするか否かの議論がどうなるにせよ、市場のファンダメンタルズをめぐる不確実性は非常に高くなっています。それとは対照的に、市場は真っ向からソフトランディング・シナリオ支持に動き、株式は企業収益の急速な回復を、クレジットは延滞やデフォルトの増加をほとんど懸念せず、債券は中立的な金融政策スタンスへの緩やかな引き下げをそれぞれに織り込んでいます。ラッセル・インベストメントの景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、センチメント(短期/投資家心理)プロセスは米国市場に対してやや慎重なアプローチを選好しており、クオリティ・ファクター、短期国債、カーブ・スティープナー4 、エージェンシー・モーゲージ担保証券に投資機会があると見ています。

 
black and white map of United States

ユーロ圏

ユーロ圏経済には圧力がかかっており、ドイツ、フランス、イタリア、スペインはいずれも景気後退入りの危機に瀕しています。欧州中央銀行(ECB)の金融引き締めによる影響を反映して、銀行貸出とマネーサプライは減少しています。製造業の指標は低下傾向にあり、中国の景気後退は輸出需要の低迷という形で欧州にも波及しています。

ECBは9月に預金金利を4%に引き上げ、利上げを終了する可能性を示唆しましたが、「十分に長い期間」金利を高水準に据え置く意向です。市場はECBの政策金利の長期的な据え置き観測に異議を唱え、2024年後半にかけて0.75%近い緩和を織り込んでいます。ラッセル・インベストメントは主要指標が弱含みであること、食品・エネルギー価格が下落傾向にあることから、市場は正しい判断をする可能性が高いと予想しています。

ユーロは過小評価されており、ECBのタカ派的発言で上昇する可能性があります。しかし、ECBが金融政策を誤れば、中期的にユーロへ下方圧力を与える可能性もあると考えられます。年初来のユーロ圏株式のパフォーマンスは堅調ですが、今後、金融引き締めと景気後退リスクという景気サイクル上の課題に直面することが予想されます。

black and white map of Europe

英国

英国経済は横ばい基調が続いています。2022年に入ってからほとんど成長していない英国経済は、パンデミック前のピークであった2019年と比べてまだ0.2%ほど縮小しています。イングランド銀行(BOE)は政策金利を5.25%と明らかに抑制的な水準に引き上げ、景気が腰折れし始めている兆候が見られます。失業率は上昇し、求人数は減少しています。住宅価格は2008年の金融危機以来初めて下落に転じています。

コアインフレ率は7%近くで高止まりしているが、賃金の伸びが鈍化し始めれば低下し始めると見ています。市場は、BoEは2024年後半まで金利を据え置くことを予想していますが、ラッセル・インベストメントは経済が低迷すれば、BoEが2024年前半に方針を転換する可能性もあると見ています。

BoEのタカ派的スタンスは引続き英ポンドを下支えすると見られます。英国大型株には割安感が認識されますが、ヘルスケア、金融、生活必需品セクターの比率が高い一方で、テクノロジー関連セクターの比率が低いため、逆風にさらされる可能性があると見ています。英国債10年物の利回りは4.4%で投資妙味がある水準と考えられます。

black and white map of United Kingdom

日本

日本ではサービスセクターの消費がパンデミック前の水準に戻り、インバウンド観光も復調するなど、ロックダウン解除後の回復が経済を活気づけています。こうしたトレンドは継続する見通しです。しかし、鉱工業生産は中国経済の低迷を受け軟化しており、在庫は積み上がり、生産の下振れリスクを示唆しています。

日銀は今後6~12ヵ月の間にイールドカーブ・コントロール政策をさらに緩和することが予想されますが、政策金利の引き上げには、インフレ率が日銀の目標に達し、持続することを示す、より多くの証拠が必要になると考えられます。

日本株は今年、最も好調なパフォーマンスを示したひとつです。その背景には景気循環の追い風と東京証券取引所が簿価以下で取引されている企業に対して実施したいくつかの取り組みがあります。どちらの追い風も続く可能性があります。しかし、日本株は現在、十分に織り込み済みであり、世界的な景気減速や円高の影響を受けやすいとラッセル・インベストメントは見ています。

black and white map of Japan

中国

不動産市場の苦戦と政策対応の欠如により、中国経済はさらに減速しました。消費者信頼感指数と消費支出は軟調で、労働市場も軟化の兆しを見せています。幾つかの政策対応が行われてきましたが、(特に上級都市における)住宅需要の改善を目的とするものと利下げにとどまっています。しかし、ラッセル・インベストメントではさらに財政支出が必要であると考えており、経済がさらに弱含めば実施されると見ています。この財政支出では、減税、補助金、あるいは何らかの形の消費券を通じて消費者を支援することに重点を置くことになると考えられます。

金融政策は緩和的な姿勢を維持すると見ており、さらなる利下げの可能性もあります。MSCIチャイナ・インデックスは、予想株価収益倍率が10倍と、割安なバリュエーションで取引されています。中国株に対するセンチメント(短期/投資家心理)の評価はは、市場が売られ過ぎ圏にあるものの、逆張りシグナルの強い買い材料となるようなパニック状態にはまだ至ってないと見るものです。

black and white map of China

カナダ

カナダ経済は下降線をたどっています。月間雇用者数は過去4ヶ月のうち2ヶ月で減少し、求人倍率の低下に伴い、従業員の積極的な転職が減少したため、、労働市場の流動性は低下しました。移民の急増が労働市場の逼迫を緩和したと考えられます。

カナダ銀行(BoC)による積極的な利上げの結果、カナダの債務返済コストは上昇し、家計は緊縮を余儀なくされています。クレジットカード残高や家計破綻の増加は、ストレスの蓄積を示唆しています。4-6月期のGDPは予想の1.2%増に対し0.2%減となりました。山火事や港湾ストライキといった特殊性を考慮に入れても、結果は期待外れでした。一人当たりのGDPはこれにより3四半期連続で前年同期を下回りました。

BoCは、「過剰需要が緩和し」労働市場が緩慢になっていることを理由に、利上げ休止が適切であると9月に明らかにしました。それでも、コアインフレ率と賃金上昇率は目標をはるかに上回っているため、BoCは状況が許せば追加利上げを行う用意があると述べました。追加利上げの可能性は否定できませんが、カナダ経済が下降線をたどるなか、BoCの利上げサイクルは終了間近と考えられます。それでもなお、インフレ率が目標である2%に実質的に近づいているとBoCが確信するまでは、政策金利は抑制的な水準で推移すると予想されます。

black and white map of Canada

オーストラリア/ニュージーランド

オーストラリア経済は減速していますが、景気後退のリスクは北半球諸国より低いと見ています。オーストラリア準備銀行(RBA)の金融政策は他地域の中央銀行ほど抑制的ではなく、RBAによる金融引き締めは恐らく終了したと考えられます。過去3ヶ月間に多くの固定金利型ローンが期限を迎えたため、約70%の世帯が政策金利の上昇にさらされています。移民による人口増加はオーストラリア経済に健全なゆとりを持たせ続け、今後1年間でも2%近い人口増加が見込まれています。豪ドルはやや割安で、対米金利差の縮小から恩恵を受けることから、いくらか上値余地を探る展開になると予想しています。豪州株はグローバル株式より割安な水準で取引されており、中国で効果的な景気刺激策が実施されればさらに恩恵を受けると見ています。

ニュージーランド準備銀行の非常に抑制的なスタンスを考えると、ニュージーランド経済に対して楽観的になることはできません。労働市場は弱含みに転じ、求人広告1件あたりの応募者数はパンデミックのピークを超え、悪化が続く可能性が高いことを示唆しています。10月に予定されている総選挙では、両政党とも財政スタンスの変更を示唆しておらず、景気見通しが変わる可能性は低いと見ています。 ニュージーランド株式はグローバル株式と比べてやや割高と判断される一方で、ニュージーランド国債は景気後退リスクの高まりという循環的背景を考慮すると投資妙味がある水準と考えられます。

black and white map of Australia/New Zealand
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“景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、センチメント(短期/投資家心理)プロセスは米国市場に対してやや慎重なアプローチを選好しています。”

- アンドリュー・ピーズ

資産クラスの選好

ラッセル・インベストメントの景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、及びセンチメント(短期/投資家心理)(CVS)に基づく投資戦略策定のフレームワークは、S&P 500の一年後の見通しに慎重なシグナルを発しています。株価のバリュエーションは割高、2024年中の景気後退入りのメインシナリオを背景に景気サイクルはネガティブと判断しています。センチメントの評価は7月に買われ過ぎ(1標準偏差)をつけたものの、足元ではほぼ中立の水準に戻しています。しかし、市場は投資家がソフトランディングの可能性を信じ始めれば、今後数ヵ月で劇的な価格上昇に転じる(メルトアップする )可能性があります。

人工知能(AI)関連銘柄への熱狂はここ数ヵ月で冷めてきました。それでも、S&P 500の年初来リターン17.3%(9月15日現在)のうち、主要ハイテク7銘柄の寄与が13%に達しています。AIへの熱狂を予測するのは難しいものです。AI関連銘柄への投資家の関心の高まりは、景気サイクルの逆風を相殺する可能性がある一方で、景気後退懸念がAIに対する過大な期待を凌駕すれば、より大きな下振れリスクを招く可能性もあります。

CVSに基づく投資戦略策定フレームワークを通じて、ラッセル・インベストメントは米国債にポジティブな評価をしています。10年物国債の4.3%近い利回り水準は、魅力的な水準であり、景気後退リスクはサイクル面で追い風となります。債券に対するセンチメントはまちまちですが、全体的には逆張り的な見方をある程度支持しています。経済データのサプライズ指数はピークに近い水準にあり、間もなくデータが失望し債券への強気の見方を下支えする可能性を示唆しています。米国商品先物取引委員会(CFTC)のデータは、投機的投資家が利回りのさらなる上昇を期待していることを引続き示しています。

コンポジット・コントラリアン指数:投資家心理は7月の買われ過ぎから中立に推移

Composite contrarian indicator: Investor sentiment appears directionally overbought, but not yet euphoric

出所:ラッセル・インベストメント、2023年9月11日時点で標準偏差-0.35。コンポジット・コントラリアン指標は市場参加者の多くがどの程度悲観的または楽観的であるかを指数化したものです。

2023年10-12月期の初めにおいて、ラッセル・インベストメントは各資産クラスを以下のように評価しています。

  • 景気後退のリスクがある中で、株式の上値余地は限定的と見ています。非米国先進国株式は米国株式より相対的に割安と判断されますが、ラッセル・インベストメントはFRBがタカ派色を後退させて米ドル安が大きく進展するまでは、ニュートラルな評価を維持します。

  • 株式の中では、負債比率が低く収益成長の安定しているクオリティ・ファクター特性を有する銘柄を選好します。これらの銘柄群は一般的に経済成長の減速期に相対的に良好なパフォーマンスを示します。また、他の株式と比較してクオリティ・ファクター特性を有する銘柄群は相対的に割安と考えられる水準で推移しています。

  • 新興国市場株式は、年初来で先進国市場をアンダーパフォームしています。中国経済への懸念が逆風となっており、それが直ぐに払拭される可能性も低いと考えられます。現時点では、ニュートラルな評価が妥当と判断しています。新興国市場は通常、米ドルが下落している時に強いリターンをもたらします。力強いリターンは、投資家がFRBの利下げを予想し始め、それに呼応してドルが下落する2024年までずれ込む可能性があります。

  • ハイイールド債はソフトランディング期待から上昇し、国債とのスプレッドは長期平均を下回っています。投資適格債の同スプレッドは長期平均により近い水準です。米国が景気後退期入りする確率が高まり、デフォルト率上昇の懸念が生じるネガティブな景気サイクル見通しが問題になります。

  • 国債はバリュエーション面で投資妙味があると見ています。米国債、英国債、ドイツ国債のバリュエーションは妥当な水準です。中央銀行による金融引き締めが終了し、インフレがピークを付け、経済が減速していることを投資家が確信するようになれば、大幅に上昇する可能性があります。米国のイールドカーブは、今後数ヵ月でスティープ化する可能性が高いと見ています。2年物国債の利回りが10年物国債の利回りを上回る「逆イールド」が極端とも言える水準にまで進行しています。イールドカーブは、FRBが利上げを完了し、市場が金融緩和を視野に入れ始めた時にスティープ化する傾向があります。日本は依然として例外で、10年債利回りは0.70%前後となお割高です。

  • 実物資産:不動産投資信託(REIT)およびインフラストラクチャーはグローバル株式と比較して魅力的なバリュエーション水準と考えられます。オフィスセクターが課題に直面しているとはいえ、それはREIT市場全体の僅か一部に過ぎません。FRBの利上げ終了は、株式よりもREITに有利に働くと見ています。原油はOPEC+の供給削減の恩恵を受け、1バレル当たり100ドルに向かう勢いです。しかし、中国経済が低迷していることを考慮すると、上値は限定的と考えられます。これは農産物価格やベースメタルにも重石になると見ています。先進経済圏の景気後退リスクはさらなる逆風となります。

  • 米国の景気がソフトランディングし、利下げ先送りされる可能性を織り込み、米ドル(USD)はここ数ヵ月、強含みで推移しています。米ドルは貿易量で加重平均した実効為替レートで見ると割高であることから、市場がこのシナリオに対する信頼を失えば、下押し圧力にさらされることになります。日本円は、景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)の点から魅力度が高いと考えています。1米ドル147円の為替相場は、購買力平価に基づく適正水準92円に比べて著しく割安です。日本におけるインフレ圧力の台頭を受けて、日銀は現在のイールドカーブ・コントロール政策を修正する過程にあると考えられます。1ユーロ1.07米ドルの為替相場は、購買力平価に基づく適正水準1.36米ドルに比べて著しく割安です。しかし、市場が景気後退とECBの利下げを回避できると予想した場合に限って上昇すると見ています。

2023年初からの資産別のパフォーマンス

Asset performance since the beginning of 2023

出所: LSEGデータストリーム、2023年9月14日時点。 EMU= European Economic & Monetary Union.(L)は現地通貨。

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“経済データのサプライズ指数はピークに近い水準にあり、データが間もなく期待外れとなり債券への強気の見方を下支えする可能性を示唆しています。”

- アンドリュー・ピーズ

Prior issues of the Global Market Outlook

1 「ハドソン川の奇跡」とは、2009年にニューヨークのラガーディア空港を離陸した直後に鳥の群れに衝突し、エンジン出力を失ったUSエアウェイズのフライトのことです。機長らは飛行機をハドソン川に滑空状態で着水させ、乗客乗員155名全員が近くのボートで救助されました。国家運輸安全委員会の関係者は、この事故を「航空史上最も成功した不時着水」と表現しました。

2 ニューヨーク市のニューヨーク連邦準備銀行ビルは、リバティ通り33(33 Liberty Street)としても知られています

3 サーム・ルールは、いつ景気後退入りしたかを判断する指標でもあります。同ルールは元FRBのエコノミスト、クラウディア・サーム(Claudia Sahm)が考案したものです。

4 カーブ・スティープナー取引とは、満期の異なる2つの国債間のイールドカーブの上昇によって生じる利回り差の拡大から利益を得るためにデリバティブを利用する戦略です。

5 メルトアップとは、ある資産や資産クラスの投資パフォーマンスが持続的に、しばしば予想外に向上することで、経済の根本的な改善ではなく、その上昇を見逃したくない投資家が殺到することで引き起こされます。