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揺れる世界経済、秩序は保たれるのか(SHAKEN, NOT STIRRED)
関税の見直しから為替変動まで、環境は急速に変化しています。 回復力が見られる分野、リスクが残る分野、そして2025年後半に向けた当社のポジショニングについて解説します。
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最近の市場では、投資家の恐怖心理とファンダメンタルズが拮抗する動きがありましたが、今のところはグローバル経済の健全性と回復力が優勢となっているようです。
4月にトランプ大統領が追加関税やその他の政策変更を発表すると、市場は恐怖心理に支配されましたが、経済の回復基調が続く中で、恐怖心理はほぼ後退してきました。こうした展開は珍しいことではありません。行動ファイナンスの研究によれば、長期的な投資家はボラティリティが急上昇すると感情に支配されていったん判断力が鈍り、その後落ち着きを取り戻してファンダメンタルズに注目し直すという行動傾向があるそうです。このよくある展開からわかることは、2025年に関するラッセル・インベストメントの見通しが「大きく揺らいだが、本質的には変わっていない」ということです。
今年は政策の不確実性や地政学的リスクにより、さらなるボラティリティの高まりが想定されるものの、グローバル株式にとってはこうした楽観的な見方が好材料となり、6月中旬現在では過去最高値水準までの回復を見せています。一方、為替市場では米ドルをはじめとしてより持続的な変化のリスクが浮上しており、中期的にはポートフォリオ戦略に重大な影響を与えかねないとラッセル・インベストメントは考えています。
2025年を迎えた時点での我々の見通しは、米国の健全な経済成長と、トランプ新政権の経済アジェンダの4本柱(関税、移民政策、税制、規制緩和)をどのように優先するかに対する不透明感がかろうじて均衡するというものでした。株式のバリュエーションが高くで、政策リスクが上昇していることから、ラッセル・インベストメントのポートフォリオは今年に入ってわずかにディフェンシブなポジションを取り、資産クラスやグローバルな分散投資に重点を置いていました。
揺れる世界経済
トランプ大統領が「解放の日」に追加関税を発表したことにより、そうした繊細な均衡は大きく揺らぎ、市場は過去最大級の急落に見舞われました。関税問題の着地点はその時点で予測困難でしたが、トランプ大統領が各国との関税交渉へと姿勢を転じる可能性は予想できました。それ以上に重要な点は、ラッセル・インベストメントのセンチメント指標が、極端なリスク回避傾向が市場に存在することを示し始めたことです。これは株式やクレジットの将来リターンに対する強気のシグナルだといえます。我々はこれを重視し、4月前半の最安値付近で、ポートフォリオの市場への再参入を段階的に進めました。
秩序は保たれるのか
その後まもなく、米国政府は関税政策の推進を一時停止し、4月の発表以降実施してきた対抗措置を全て取り下げました。これは市場にとって決定的な動きであり、経済の最悪シナリオはほぼ姿を消し、投資家のセンチメントを回復させることになりました。ただ、株式市場やクレジット市場は2025年中盤にかけて回復に向かってきたものの、政策決定における不確実性や地政学的リスクは依然として経済環境や資産価格全体に波及しています。
ラッセル・インベストメントのグローバルな景気見通しは楽観と悲観が入り混じっているものの、やや楽観的のものとなっています。関税政策や貿易政策の不透明感により、マクロ経済の見通しには亀裂が生じています。いわゆるソフトデータ(消費者や企業の信頼感調査や指標など)は、通常なら景気の下降局面と判断される水準にまで低下しています。一方、ハードデータ(消費者や企業の実際の支出に関する指標)は6月上旬にかけて回復を見せています。こうした亀裂はマクロ環境の不透明感につながっていますが、以下の事項を背景に我々の見通しはそれより楽観的なものとなっています。
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健全なバランスシート
悲観的なセンチメントと堅調なファンダメンタルズという相反する状況の中から米国経済が力強い回復に向かうというシナリオは、直近では2022年にも出現しました。現在見られる米国経済の回復力は、家計や企業のバランスシートが全体として健全であるという状況に支えられていると我々は考えています。
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貿易政策の軟化
4月上旬時点では、関税問題により米国経済が失速に近づくことが確実視されており、不透明感の増幅や金融市場の急落によりリスクが拡大していました。4月および5月に関税政策の動きが止まると、それらの逆風も鎮静化しました。関税政策については今後さらに変化が生じるリスクがあるものの、政策の凍結は交渉の余地があることを示す重要なシグナルであることに変わりありません。
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好調な支出
市場の急回復は経済の追い風となっています。株価の上昇は、米国全体の需要の約半分に相当する高所得層の消費を支える可能性があります。
地政学的リスクの高まりや不安定な原油市場も、景気見通しに対する追加的なリスクとなっています。とはいえ、1970年代と比べて、米国経済は現在、エネルギー・ショックに対する脆弱性が低下しています。現在の米国経済に実質的な打撃を与えるには、相当長期に渡って原油価格が高止まりする必要があるとラッセル・インベストメントでは考えています。
全体的に見ると、今年後半には、ソフトランディングのシナリオを反映する形で、緩やかながらプラスの成長が続くことが予想されます。ただし、マクロ経済の不透明感は今後も高止まりすると我々は引き続き考えており、景気後退の可能性を排除することができません。また、欧州では、米国の政策が逆説的に経済を活性化する方向に作用する可能性があります。ドイツの総選挙およびその後の景気対策は、2026年および2027年において経済成長率の倍増をもたらすと予想されており、経済見通しの修正を迫る要因となることも考えられます。
一方、中国に関する見通しはここ数カ月間、非常に不安定でしたが、米国が禁輸措置レベルの関税を5月中旬に撤回したことで落ち着きを見せています。中国の政策当局は、2025年の経済成長率目標である約5%を達成できるように、十分な財政支援策を講じると我々は予想しています。
例外主義の低下
「米国の例外主義は終わったのか?」という質問をよく受けます。ラッセル・インベストメントは米国市場の優位性が一時的に停滞する可能性があると予想していますが、米国の戦略的な優位性は揺らがないであろうと考えています。米国の優位性としては、西欧諸国より優位な人口動態、AI技術の最先端を主導し続けている主要テクノロジー企業、堅調な新規事業設立が米国の生産性マージンを今後も支えると考えられることなどが挙げられます。
ただし、リスクの均衡状態は、中期的な米ドル安の方向に動いていくと我々は見ています。米ドルは過去最高値圏にあり、米ドルのリターンのパターンは変化の兆候を示しており、グローバル投資家が米ドル建て資産に対するエクスポージャーをヘッジしようとしている動きが見られます。
ラッセル・インベストメントは、4月上旬の市場ボラティリティの急上昇は和らいだものの、資産クラスの選好は慎重になっています。ただし、今後については、米ドル安の見通しに基づいて、戦略的にグローバルに分散されたポートフォリオを運用する重要性が増していくと考えています。実際に、我々が採用する運用機関は、上場市場とプライベート市場のいずれについても、米国以外に魅力的な投資機会を見出しています。
資産クラスの選好
地域別の所見
米国
貿易政策の問題が鎮静化し、企業業績や消費者支出あるいは労働市場が力強く推移していることから、米国経済は現在の不安定な状況を乗り越え、今後1年間緩やかながらプラスの成長を続けると予想しています。米連邦準備理事会(FRB)による利下げは後ずれしていますが、関税政策により停滞しているわけではなく、年内に1回か2回の利下げがあると予想されます。米国債の価格は割安となっていますが、財政見通しにはリスクがあるため、投資を検討するにはもう一段の利回り上昇が必要であると考えており、10年物国債については4.9%でデュレーションを長期化することを検討しています。クレジット・スプレッドは異例にタイトとなっており、政策要因により今後ボラティリティが上昇することを考えると魅力的とはいえません。
カナダ
カナダ経済は依然として困難な局面にあります。5月の失業率は7%に達し、2023年の最低水準から2%ポイント上昇しています。一方、インフレは4月に再び加速し、カナダ銀行(BoC)は難しい立場に置かれています。関税により物価が短期的に上昇することもありえますが、経済成長が低迷する可能性の方が高いでしょう。カナダ銀行は、市場が現在織り込んでいる水準以上の利下げを実施すると我々は予想しています。 株式については、景気循環的なリスクが高い一方で割安なバリュエーションがそれを相殺しているため、ニュートラルな姿勢を維持しています。一方、カナダ国債はディフェンシブな投資対象としての重要性があると考えられます。
ユーロ圏
ユーロ圏は緩やかな成長に向かうと予想されます。その要因としては、銀行融資の回復、エネルギーコストの低下、ドイツの財政刺激策、防衛支出の増加、金融政策の緩和などを挙げることができます。ただし、課題はなお山積しています。ユーロ圏は輸出依存度の高さにより貿易戦争のリスクに影響されやすく、それに対してテクノロジー投資の低迷により生産性は上昇の気配がありません。また、ユーロ圏の金融は銀行融資が中心で資本市場の層が薄く、その一方でフランスなどの国では公的財政が問題化しています。全体として、ユーロ圏については慎重ながら楽観的な見方ができるものの、現在の新しい環境で経済の強度を高めるには一層の構造改革が必要となるでしょう。
英国
2025年初頭の英国経済には予想外に力強いモメンタムが生じ、1–3月期のGDPは0.7%の上昇となりましたが、法人税率の高さと関税に関する不透明感により、そうした成長は今後数カ月で鈍化すると予想しています。インフレ率は現在3%から3.5%近辺で推移していますが、エネルギー価格や物価上限の影響により本年中盤にはピークを迎え、その後は2%の目標水準に向かって徐々に低下していくと予想されます。賃金上昇圧力が鎮静化し、政策の不透明感も増大していることから、イングランド銀行は慎重に政策運営を進めると考えられ、2025年後半には利下げを実施する可能性があります。企業の信頼感が低迷していることや地政学的な悪材料があることも、経済見通しに影響を与えています。
中国
貿易摩擦の低減は中国にとってプラスになりますが、中国経済の基調は依然として脆弱です。不動産市場は回復の兆候を示しており、それに伴って消費支出が拡大する可能性があります。中国株式は他の新興国市場より割安であり、自己資本利益率(ROE)の上昇が続いている点も好材料と言えます。中国国債の利回りは引き続き歴史的な低水準で推移していますが、人民元相場は狭いレンジで推移すると予想しています。
日本
期待インフレ率は再び日銀の目標水準に戻りつつあり、現在の債券市場は5年期待インフレ率が2%をわずかに上回ることを織り込みつつあります。国内経済は改善していますが、今後の見通しは貿易問題の方向性次第であるという状況が続いています。貿易政策の不透明感や世界的な金融緩和の流れなどを背景として、日銀は今後12カ月にわたり金利を据え置くと予想しています。企業業績は引き続き改善が続いてるが、株式市場のバリュエーションは適性な水準にあります。一方、国債価格は直近の下落にもかかわらず依然として割高となっています。
オーストラリア
オーストラリア経済の見通しについては、オーストラリア準備銀行が直近で利下げを実施したことや、労働市場が堅調であることから、来年にかけて若干改善すると見込まれます。財政政策による追い風は、歳出削減計画の実施に伴って弱まり始めています。オーストラリア株式については、企業業績の見通しがそれほど強くないこともあり、適正に評価されていると見ています。オーストラリア国債はグローバル債券と比較すると魅力的であり、豪ドル相場は、今後12カ月についてラッセル・インベストメントの予想適正価値である0.70米ドル近辺で推移すると考えられます。
ニュージーランド
ニュージーランドの経済成長は、2026年中盤にかけてトレンドを下回る動きが続くと考えられます。ニュージーランド準備銀行では、今後の見通しが非常に不透明であることを当局者が最近述べていますが、おそらく今後12カ月以内に1回以上の利下げを実施すると見込まれます。ニュージーランド株式の見通しはオーストラリア株式と同様であり、利益成長は緩やかな水準にとどまることが予想されます。一方、ニュージーランド国債は魅力的なバリュエーションとなっています。
まとめ
市場は4月上旬の急落から反発し堅調に回復しており、この上昇は年後半に入っても続く可能性があります。ただし、投資家は、最終的な目標にかかわらず、今後の不透明な展開に備えてポートフォリオを強化することを検討する必要があるでしょう。この4月の乱高下はその重要性を示す教訓だと考えた方が良いかもしれません。