マーケット・
アウトルック
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未来をつかみ取る瞬間(THE MECHAZILLA MOMENT)
2025年の市場を乗り切るには、米国のアウトパフォームや世界的な逆風に関する昔ながらの知恵に頼るだけでは足りません。
アンドリュー・ピーズ(Andrew Pease)
チーフ・インベストメント・ストラテジスト
未来をつかみ取る瞬間
強く記憶に残る2024年の出来事といえば、スペースXのブースターロケットが上空から降下し、それを「メカジラ」のロボットアームがキャッチする光景でしょう。「メカジラ」の成功はまさにこの一年を象徴するものでした。不可能と思われたことが実現しただけでなく、未来への期待も新たに塗り替えられたのです。
米連邦準備制度理事会(FRB)が2000年代初頭以来最も緊縮的な政策を取り、米国債のイールドカーブは大きく反転したにもかかわらず、米国経済は予想に反して好調となりました。GDP成長率は過去トレンドを上回り、雇用創出は堅調でした。S&P 500 指数は25%の上昇となり、企業業績は2桁成長を達成しました。
2025年については、米国株式市場の高バリュエーションや、メガキャップ銘柄の優位が続く一方で、トランプ次期大統領の政策をめぐる不透明感もあります。そのような背景の中で、2024年に引き続き、困難な状況に挑戦して限界を塗り替えていく一年になるとラッセル・インベストメントは考えています。最も重視しているのは、さまざまなシナリオに対応できる弾力的なポートフォリオを構築することです。
重要な経済見通し
ラッセル・インベストメントでは、2025年に米国経済がソフトランディングすると予想しています。その前提として、関税や移民政策に対する新政権の強硬姿勢が緩和に向かうことを想定しています。こうした動きを念頭に置きながら、2025年の重要な経済テーマを以下で紹介します。
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米国の経済成長と政策のトレードオフ
2025年の米国経済は、FRBによる金融引き締め政策の影響を受けて、過去トレンド並みである2.0%のGDP成長率になると予想されます。コア個人消費支出(PCE)インフレ率はFRBの目標値である2%に接近すると予測されていますが、FRBは金利を段階的に緩和しており、フェデラルファンド(FF)金利は年末までに3.25%に達して中立的な水準に一致することが見込まれます。
トランプ政権の政策に関しては、難しいバランスを取る必要があります。税制改革や規制緩和は、国内セクターや景気循環的セクターを中心に成長を刺激すると見込まれます。一方、関税引き上げや移民制限はスタグフレーションの引き金となる可能性があり、景気後退の中でFRBが利上げを検討する事態もありうるでしょう。
インフレリスクを生み出すような政策を新政権が積極的に推進することはない、というのが当社の作業仮説です。今回の選挙では、米国の有権者がバイデン政権下のインフレに不満を抱いていたことが明確になりました。関税引き上げや移民制限が実施される可能性は高いものの、インフレの見通しを受けて控えめな実施となるでしょう。全体として、新政権の各種政策は景況感を下支えするものとなり、資本市場の回復をもたらすとともに個人資産にも追い風になる可能性が高いと当社では考えています。
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世界的な逆風と各国政策の不一致
米国以外の地域では経済成長が引き続き停滞すると考えられます。貿易政策の不透明感や関税引き上げは、欧州各国にとっての悪材料となるでしょう。欧州中央銀行(ECB)は、関税引き上げの影響や長引くドイツ経済の停滞に対処するため、年末までに預金金利を1.5%に引き下げると考えられます。
英国では、労働党の新政権下において、生産性の伸び悩みや人手不足が問題となっているほか、増税によるインフレの影響も生じています。イングランド銀行(BoE)の金融緩和余力は限られており、基準金利は3.75%~4.0%へのわずかな低下にとどまると予想されます。
一方、日本は例外的な状況にあり、賃金と物価の好循環に支えられて予想インフレ率は2%近辺で推移する見込みです。日銀による金融政策正常化はさらに進行すると考えられ、金利は年末までに過去30年間の最高水準である0.75%へと上昇する可能性があります。
中国については、米国関税政策のほか、不動産市場の苦境やデフレ圧力が問題になると予想されます。政府の政策対応は後追いが続いており、高い貯蓄率や家計の消費低迷といった構造的問題には先行的に対処できていません。2025年のGDP(国内総生産)成長率はコンセンサス予想が4.5%となっていますが、これには下方リスクがあります。
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市場のセンチメントとバリュエーション
2025年の市場見通しについては、①S&P 500指数予想PER(株価収益率)の22倍という高水準、②ドル高がさらに進行する可能性、③米国10年国債利回りの方向性という3項目がポイントとなります。
米国市場では株式のバリュエーションが高止まりしており、ネガティブ・サプライズの影響を受けやすい状況となっています。また、ドル高の進行は新興国市場の環境悪化をもたらすでしょう。米国債利回りが4.5%を上回る水準が続けば、株式市場にも悪影響が生じる恐れがあります。株式益回りは2002年から債券を上回ってきましたが、株式の優位性が薄らぐことも考えられます。
重要なポートフォリオのテーマ
2025年におけるポートフォリオの論点
2025年には、政策変化と市況変化との相互作用が強まり、慎重なポートフォリオ構築が必要になります。今後のマクロ経済の変動要因としては、米国経済成長の底堅さ、貿易政策や移民政策に混乱が生じる可能性、AI主導の生産性上昇、プライベート・マーケットの成長などを挙げることができます。それらを背景に、ラッセル・インベストメントでは3項目の戦略的テーマを投資手法の指針としています。
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政策変化の中で米国経済成長のバランスを取る
2025年に向けても米国経済は底堅いものの、今後の展開は政策環境の変化に左右されるでしょう。プラスに働くと考えられる政策は減税と規制緩和です。これらは内需系セクターや景気循環セクターを中心に経済成長を大きく牽引する可能性があります。低いバリュエーションの低下やセンチメントの改善を考慮すると、米国小型株についてはここ数年よりも前向きに評価できると当社は考えています。ただし、大型株優勢の現状が小型株に有利な方向へと転じるには何らかのカタリストが必要でしょう。規制緩和や金利低下が実現すれば、それらがカタリストとなる可能性があります。生産性向上を目的としてAIを活用している企業(特に資本財や医療などのセクター)では、事業のファンダメンタルズが大幅に改善する可能性があると当社は考えています。
一方、マイナスの影響が予想されるのは貿易摩擦や移民制限であり、これらは労働市場やサプライチェーンの混乱をもたらし、経済成長にとってのリスクとなる可能性があります。プラスとマイナスが均衡するこうした状況は、市場全体でボラティリティの上昇をもたらしますが、当社が採用しているアクティブ運用機関にとっては投資機会の拡大につながるでしょう。
また、今後12か月間には、戦略的な資産配分を中心として、ポートフォリオ全体のリスクを戦術的に調整する機会が増加すると当社では予想しています。例えば、当社は2024年7月に株式のリスクを引き下げましたが、これは市場が買われ過ぎであり投資家のセンチメントが過剰に楽観的となっていることが当社の調査により判明したためです。8 月初旬に米国の成長減速への懸念から市場が調整すると、センチメントが変化し、ポートフォリオにリスクを再び追加する機会が生まれました。このような規律ある投資姿勢は、変化の大きさが予想される2025年の市場環境を乗り切るモデルとなるものです。
米国の政策変更がポートフォリオに与える影響は?
資産クラス別のポイント:
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株式: ラッセル・インベストメントは米国小型株に注目しています。米大統領選挙後の動向が有利に作用することに加え、業績改善や魅力的なバリュエーションにより絶好の投資機会が生じる可能性があります。また、グロース株運用機関は成長性の高いシクリカル銘柄(ソフトウェアなど)に注目し、バリュー株運用機関は金融セクターや医療セクターにM&Aの可能性を見出しています。コア運用機関は、シクリカル銘柄に対するエクスポージャーのバランスを取りつつ、金利敏感セクターのリスクに対処しています。
さらに、米国の外交政策により市場のボラティリティが上昇すれば、アクティブ運用機関は、ヘッドラインリスクによる一時的な影響を受けた優良銘柄への投資機会を得られるでしょう。
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債券: イールドカーブのスティープ化により短期債への投資機会が生じると予想しています。これは短期金利が長期金利より速く下落するためです。クレジット市場では、(米国のハイイールド債や投資適格債を中心とした)スプレッドは縮小しており、アップサイドが限定される可能性があります。この状況は、米ドル建て新興国市場債やプライベート・クレジットなど、リスクとリターンのトレードオフがより魅力的な分野に債券エクスポージャーを拡大する好機だといえます。
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通貨: 米ドルについては、関税引き上げ、米国経済の堅調さ、他の中央銀行ほどハト派的ではないFRBの姿勢といった要因により上昇圧力を受けると予想されます。ただし、米ドルのバリュエーションは依然として高く、新興国市場の通貨は既に悪影響を受けています。この点を考慮し、2025年に関してはポートフォリオにおける通貨のエクスポージャーを抑え、年内全体を通じて生じる投資機会やリスクに注意を払っていきます。
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プライベート・マーケット:新たな成長の原動力
資本の流れを取り巻く環境が変化する中で、プライベート・マーケットの重要性は引き続き増大しています。その背景には、パブリック・マーケットからの移行が加速し、IPO(新規株式公開)やレイターステージ企業の上場が減少しているという状況があります。こうした変動はAI分野の投資機会において特に顕著であり、同分野ではベンチャー・キャピタル投資が案件数の27%および資本調達額の41%を占めるに至っています。 ポートフォリオがプライベート・マーケットへと拡大することは投資家にとっての利益になりうると当社では考えています。今後の政策環境により、金利の安定、規制緩和およびM&Aの活発化が実現すれば、プライベート・マーケットにとってはさらに好都合となる可能性があります。ただし、米国プライベート・マーケットへの資金流入は、案件の発掘が困難となる状況につながっており、海外における投資機会の魅力が上昇しています。特に、欧州では細分化した産業における中堅企業の統合が魅力的な投資機会となっています。日本では企業の構造改革や資産処分が続いていることがプラスに働いています。また、ペルシャ湾岸諸国は、先進的な規制や大規模な開発の進展によりダイナミックな投資ハブとしての地位が高まっています。そのほか、インフラも重要な投資機会となっており、プライベート・マーケットとパブリック・マーケットを取り入れたハイブリッドな投資モデルが持続的な成長の可能性を開いています。
このような環境では、マルチ・マネージャー手法が非常に重要になると当社では考えています。投資家は、実物資産分野などのさまざまな専門的運用機関を用いて多様化を図ることにより、プライベート・マーケット投資とパブリック・マーケット投資を組み合わせた幅広い投資機会を獲得できる可能性があります。この戦略を用いれば強靭性の高いポートフォリオの構築が可能となり、データセンターや倉庫など、プライベート・マーケットとパブリック・マーケットのエクスポージャーを組み合わることでポートフォリオ全体の生産性が特に高まる投資が実現します。
市場別のポイント:
- プライベート・エクイティ: ラッセル・インベストメントでは、欧州中堅企業の統合におけるプライベート・エクイティの投資機会を重視しています。また、日本やペルシャ湾岸諸国における継続的な成長にも注目しています。セクター固有の専門能力を有する運用機関はジェネラリスト型の運用機関をアウトパフォームしており、そうしたトレンドはポートフォリオの利益につながる可能性があるとラッセル・インベストメントは考えています。
- AIとテクノロジー: AI分野のベンチャー企業、中でも新技術をさまざまな業界に拡大することに努めている企業は、長期的な経済成長を牽引する重要な役割をこれからも担っていくと考えられます。ラッセル・インベストメントでは、生産性向上や産業再構成につながるAI主導型企業に関して、投資機会を積極的に模索しています。
- プライベート・クレジット: プライベート・クレジットは、特に現在のような高金利環境においては強靱性の高い資産クラスであると考えています。アセット・ベースト・レンディングや欧州ダイレクト・レンディングのレラティブ・バリューが魅力的となっている中で、ラッセル・インベストメントは債券エクスポージャーをそれらの分野に拡大し、高利回りの獲得と分散化の推進に努めています。
- インフラ: ラッセル・インベストメントでは、長期的な成長基盤およびインフレヘッジ手段としてインフラを高く評価しています。資産クラスとしてのインフラは、ボラティリティの高い近年の市場でも強靱性を発揮しており、エネルギー移行、再生可能エネルギー、デジタル化といったトレンドの恩恵も受けています。持続可能インフラやデジタルインフラに対する需要は拡大が続き、大きな資金流入をもたらしています。また、プライベート・マーケットとパブリック・マーケットのエクスポージャーを組み合わせたハイブリッド・モデルが、新しい成長の可能性を開いています。
- ベンチャー・キャピタル: ラッセル・インベストメントは、AI主導型のベンチャー・キャピタルに注目し、産業を再構成する可能性を秘めたアーリーステージ企業に特に大きな投資機会を見出しています。VC市場が安定化する中で、ファンダメンタルズが堅固でイノベーションの実績もあり、効率的に拡大できる企業に注力しています。
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市場における主役銘柄の拡大
ここ数年はメガキャップAI銘柄が市場リターンを牽引してきましたが、現在ではAIを活用して現実世界の効率化を実現する企業が主役になりつつあります。米国の新政権は規制緩和や関税政策に重点を置くと予想されますが、国内志向の比較的小規模な企業はその恩恵を受ける可能性があります。アップルのような海外収益の比率が大きいメガキャップ銘柄と比べて、小規模企業は国際貿易の混乱による影響を受けにくいためです。
このような変化により市場の集中度が緩和され、アルファ獲得の機会が生まれることになると予想しています。アクティブ運用機関は、AIを活用して生産性の向上と競争力の強化を図っている注目度の低い企業の発掘に重要な役割を果たすと考えられます。コストの低下に伴ってAIの導入が加速する中で、AI分野の新技術を活用している企業は、生産性の向上と競争力の上昇から恩恵を受けると当社では予想しています。また、不動産やインフラなどの実物資産は、金利の安定とバリュエーションの改善により魅力が一段と向上しており、不透明な政策環境において、グロースや安定的なインカムを実現し、あるいはインフレ保護の機能を果たしています。
市場別のポイント:
- 株式: 株式のアクティブ運用機関は、市場の集中度が近年大きく進んだことにより困難な状況に陥っています。そうした集中は、政策の変化あるいはメガキャップ銘柄の利益成長やバリュエーションに対する市場心理の変化により緩和される可能性があります。ラッセル・インベストメントの調査によれば、集中度が横ばいになるだけでも、アクティブ運用機関のアウトパフォーマンスにとって大きな支えとなります。ラッセル・インベストメントおよび当社が採用しているアクティブ運用機関は、AI導入が加速しているセクター(資本財、医療、消費財など)に重点を置いています。生産性向上を目的としてAIを活用している企業は、持続的な競争力を獲得し優れた業績を実現する可能性を秘めているとラッセル・インベストメントは考えています。熟練したアクティブ運用機関はそうした企業を見出す能力を有しており、特にあまり注目されていない市場セグメントでの発掘が得意です。
- 実物資産: 不動産およびインフラについては、魅力的な投資機会が得られると考えています。特に、長期金利の安定化や、他の成長資産より有利な相対的バリュエーションの恩恵を受けられる分野が有望です。データセンターや医療施設などの不動産におけるAI活用が、重要な成長分野として浮上しています。また、米国新政権がLNG(液化天然ガス)の生産拡大を重視していることなどにより、エネルギー関連公益事業やパイプライン企業によるインフラ投資が活発化しています。
ファット・テールと代替シナリオ
トランプ氏の再選により2025年の見通しは一段と複雑さを増しており、要するに不透明感が高まっているといえます。景気サイクルに伴う通常のリスクが存在するだけでなく、新政権の政策ではどれが重視されどのような順序で実施されるかという点も不明です。トランプ次期大統領が、徹底的な関税引き上げ、移民制限および強制送還といった選挙公約をどの程度強硬に実施するかはわかりません。減税や規制緩和が早期に実施されれば株式投資家は歓迎すると思われますが、大きな政策変更が関税や移民制限から始まるならば、投資家のセンチメントは減退する可能性があります。
景気サイクルについては、FRBによる金融引き締め政策の効果が遅れて表れるにつれて、米国の経済成長率がトレンド並みのペースまで減速すると当社では予想しています。労働市場の低迷が消費者の買い控えを誘発することにより、緩やかな景気後退が生じるというリスクは残っています。当社では失業保険申請件数を注意深くモニタリングしています。申請が各週26万件を上回れば、痛みの大きい調整が生じるシグナルとなりますが、それを下回る水準であれば、緊縮的な金融政策にもかかわらず景気が底固いことを示していると考えられます。
重要指標:米国新規失業保険申請件数(週次)
当社がモニタリングしているもう一つのシナリオは、米国のインフレリスクおよび欧州と中国におけるポジティブ・サプライズの可能性です。
米国のインフレリスクは、減税と規制緩和による景気の加熱から生じる可能性があり、その場合は、予想以上に強い需要が持続してFRBの金融緩和余地が限定されることもありえます。また、関税の引き上げや移民制限により、労働市場の逼迫やサプライチェーンの混乱が生じ、コストの上昇を招く可能性もあります。そうした圧力によりインフレの進行が持続すれば、FRBは金融緩和ではなく金利引き上げに動くことも考えられ、その場合は米国債利回りが4.5%を上回るでしょう。S&P 500の株式益回りは2002年から常に10年物米国債利回りを上回ってきましたが、米国債利回りが4.5%を上回る状況となれば株式市場にも悪影響が生じる恐れがあります。このような反転状況が続いた場合は、株式のバリュエーションが頭打ちとなることも考えられます。
欧州と中国については悲観的なコンセンサスとなっていますが、どちらの地域でもポジティブ・サプライズが生じる可能性があります。欧州株式のバリュエーションは魅力的であり、予想株価収益率は米国に対して45%のディスカウントとなっています。ECBによる積極的な金融緩和は、アウトパフォーマンスの可能性を示す重要指標である銀行融資の改善につながり、ユーロ圏の需要を回復させる可能性があります。
中国では、政策転換やコーポレート・ガバナンスの向上により、予想外の上昇が実現する可能性があります。長年続いてきた企業価値の希薄化は自社株買いによって解消に向かいつつあり、経済が低迷する中でも、2024年1月から11月までの一株当たり利益(EPS)の成長率は11%に達しました。MSCIチャイナ・インデックスについては、予想株価収益率が10倍と低いことから、EPSの2桁成長が今年も続けば大きなリターンが生じる可能性があります。
結論:不可能を可能にするには規律と戦略が必要
2025年の市場を乗り切るには、米国のアウトパフォームや世界的な逆風に関する昔ながらの知恵に頼るだけでは足りません。当社のコンポジット・コントラリアン・センチメント指標 は、投資家心理が楽観的であることを示しているものの、重要な調整基準を依然として下回っています。これは規律ある投資家にとって戦術的な間隙となります。
投資を成功させるには、厳密な分析と堅固な投資規律に基づいて、パブリック・マーケットとプライベート・マーケットにまたがる機動的な配分を行うことが必要だと当社では考えています。米国経済が予想どおりにソフトランディングし、貿易政策や移民政策が穏健な形で実施されれば、態勢の整っているポートフォリオにとっては個々に機会が開かれることとなるでしょう。
2024年には、ロボットアームがまるで箸のように宇宙船をキャッチできたように、2025年には政策の不透明感がある中でも、市場が回復力を維持できる可能性はあります。投資家が成果を上げるためには、規律ある手法による総合的なポートフォリオ構築が重要となるでしょう。
コンポジット・コントラリアン指標
地域別の所見
米国
米国は年末にかけて他国と異なる例外的な動きとなっており、失業率の低下と企業業績の改善がソフトランディングを支えています。選挙の結果として関税や移民政策に関する不透明感が生じ、減税や規制緩和など市場にプラスとなる政策も浮上していますが、当社ではバランスの取れたアプローチになると予想しています。選挙後に景況感が改善していることは好材料です。FRBは段階的に利下げを実施し、ニューノーマルとして市場が織り込みつつある3.25%まで金利を引き下げる可能性があります。当社の米国株式戦略では、小型株の景気循環銘柄を中心に、分散と銘柄選択を重視しています。米国債券およびマルチ・アセット戦略では、最近の利回り上昇の大半が政策とファンダメンタルズ環境の変化により説明できると予想して、金利感応度を引き下げています。
カナダ
2024年のカナダ経済は米国に出遅れましたが、景気後退は回避できました。インフレは減速しており、カナダ銀行は2025年も利下げを継続すると予想されます。その一方でカナダは、今後の選挙動向、人口増加の停滞、および貿易政策の不透明感といった逆風に直面しています。来年についても見通しは不安定であると当社では予想しています。
ユーロ圏
ユーロ圏では厳しい状況が続いています。経済が停滞するドイツは、生産性の低下やエネルギーコストの上昇に苦しんでおり、中国を中心とした輸出需要の低迷も重荷となっています。フランスでは、財政の抵抗により債券利回りが上昇する苦境に陥っています。2025年に関税引き上げが実施されれば、企業が雇用を手控えることで経済成長が阻害される可能性があります。ユーロ安、GDP成長率の低迷、および周辺国スプレッドの拡大が基本的な見通しとなります。株式の低バリュエーションや、国内経済活動の支援を目的としたECBの積極的金融緩和に投資機会があります。
英国
英国は、生産性の伸び悩みや人手不足、および労働党新政権による増税を原因とするインフレ圧力に直面しています。米国による関税引き上げの影響はユーロ圏より小さいものの、貿易政策の不透明さは依然として問題となっています。インフレの膠着によりイングランド銀行の金融緩和余力は限られており、当社では、来年にかけて3~4回の利下げにより基準金利が3.75~4.0%へと低下するにとどまると予測しています。
中国
中国ではデフレや消費者信頼感の悪化に苦慮する状況が続き、米国による関税引き上げ見通しにも苦慮しています。景気刺激策は依然として期待を下回っています。来年は政策発表と消費者行動が焦点になると考えられます。そうした問題にもかかわらず中国株式は割安であり、自己資本利益率(ROE)も改善しています。中国人民元は2025年に若干下落すると当社では予想しています。
日本
日本のインフレ率は日銀の目標水準である2%近辺で推移し、画期的な経済状況になると考えられます。2025年の日本経済は日本基準では好調となり、日銀は政策の正常化を漸次進めると予想されます。日本株式は堅調なファンダメンタルズに下支えされるものの、バリュエーションはやや割高となります。日本債券の魅力は低下していますが、円安は続き、円価格は金利差の縮小により恩恵を受けると考えられます。
オーストラリアおよびニュージーランド
オーストラリア準備銀行(RBA)は2025年に段階的な利下げを開始し、それが緩やかな経済成長を下支えすると予想されます。次期総選挙は2025年5月と予想されており、政権交代が実現すれば財政出動が行われる可能性があります。他国と比較したオーストラリア株式の割安度は縮小しており、オーストラリア国債の米国債に対するスプレッドは堅調に推移しています。豪ドル価格は関税リスクからボラティリティが上昇する可能性があり、特に中国に対するエクスポージャーが問題となります。
ニュージーランドでは金融緩和政策により見通しが改善しています。リスクとしては中国関連のエクスポージャーや貿易黒字などが考えられますが、ニュージーランド準備銀行はRBAより積極的に利下げを実施すると当社では予想しています。