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Annual
グローバル・
マーケット・
アウトルック
2024年

The Twilight Zone(邦題:ミステリー・ゾーン)

2023年の過剰な悲観論は、2024年の過剰な楽観論に変わりました。景気後退リスクは高まっており、株式市場には逆風が吹いていますが、国債にとってはより良好な環境となっています。

CIOデスクより

2024年 グローバル・マーケット・アウトルックをお届けします。

マグニフィセント・セブンとして知られる超大型テクノロジー銘柄のおかげで、2023年のグローバル株式市場は予想を上回る上昇を見せました。 投資家心理は「景気後退が近づいている」から「ソフトランディングはすぐそこまで来ている」へと変化しています。 ラッセル・インベストメントのセンチメント指標は、市場のリターンが一部の銘柄に集中しているにもかかわらず、投資家の高い楽観主義を示しています。 楽観主義が強すぎると、市場の調整局面が訪れた際に過剰に反応する可能性があります。 2024 年の見通しは、抑制的な金融政策、成長鈍化、地政学的リスクの高まりから、より慎重になっています。

米連邦準備制度理事会(FRB)の「より長期的にわたる高金利」アプローチは、今後1年間より財政を圧迫し、借り手や借り換え先に影響を与える可能性が高いと考えます。 一方、欧州と英国は需要の低迷、高インフレ、製造業の低迷、ブレグジットとの闘いが続くと予想されます。 最後に、中国は安定しつつあるものの、債務や不動産市場、人口動態といった長期的な問題に引き続き取り組むでしょう。

こうした状況にもかかわらず、市場は 2024 年のスムーズな着陸をほぼ織り込んでいます。私たちはそれについてはそれほど自信を持っていませんが、ポートフォリオ全体の観点からは依然としてチャンスがあると考えています。 国債は利回りがインフレ率を上回っており、株式市場のボラティリティに対するヘッジとしてより魅力的になる可能性があります。ラッセル・インベストメントは、株式市場では相対的なバリュエーションとディフェンシブ性な特性から、クオリティ株式を選好しています。また、 不動産投資信託(REIT)やグローバル上場インフラも魅力的であり、長期にわたる人口動態やテクノロジーのトレンドから恩恵を受けるはずです。

さて、これは資産配分にとって何を意味するのでしょうか? ラッセル・インベストメントでは、分散とアクティブな管理がこれまで以上に重要であると考えています。 これは株式と債券にとどまらず、インフレ、成長、貿易などのより広範なマクロ要因に対応します。 実物資産やプライベートクレジットなどの次世代の分散手段は、マクロ要因の対応においても効果をもたらします。 金融政策が変化するにつれて、ポートフォリオのグロース資産の分散化がより重要になりますが、ボラティリティの上昇により、正しいものを選択することがより重要になります。ラッセル・インベストメントは、これはアクティブ・マネージャーにとって有利な環境であると見ていますが、市場が急速に変化する可能性があるため、適切な運用マネージャーを選択し、それらを適切に組み合わせるには、より多くのリサーチとスキルが必要になると考えています。

2024 年を迎えるにあたり、当社の投資戦略グローバル責任者であるアンドリュー・ピーズとそのチームは、投資家がこの困難なビジネスサイクルと今後 1 年の市場イベントを乗り切るのに役立つ洞察を提供します。


ケイト・エルヒロー(Kate El-Hillow)

プレジデント兼グローバルCIO

headshot of Andrew Pease, Global Head of Investment Strategy

アンドリュー・ピーズ(Andrew Pease)

投資戦略グローバル・ヘッド

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"景気減速、景気後退の可能性、そして景気回復というように何事も見かけ通りにはいかないトワイライト・ゾーンになると見ています。 "

- アンドリュー・ピーズ

The Twilight Zone(邦題:ミステリー・ゾーン)

架空の探偵シャーロック・ホームズ曰く、「明白な事実ほど欺瞞に満ちたものはない。」 1年前には、米国経済が景気後退の瀬戸際にあることは明らかだとの業界のコンセンサスがありました。フィラデルフィア連銀が実施した経済予測の専門家を対象とした調査では、景気後退の可能性が過去45年間で最も高い確率と予測されていました。米連邦準備制度理事会(FRB)は1980年代初頭のポール・ボルカー前FRB議長在任中以来、最も積極的な引き締めに乗り出し、イールドカーブは反転して典型的な景気後退の警告サインである逆イールドとなり、景気サイクル上重要な供給管理協会(ISM)製造業景況指数は縮小域に落ち込んでいました。

米国経済は2023年にトレンドを上回る成長率を達成する可能性が高く、グローバル株式は2桁のリターンを記録し、国債利回りは上昇しました。2023年の予想を大きく裏切る展開を受けて、コンセンサスは方向転換しました。バンク・オブ・アメリカによる最近の調査によると、ファンド・マネージャーの74%が2024年には景気後退のない「ソフトランディング」を予想しています。この楽観論は、S&P 500種構成企業の2024年の利益成長率が11%に達するというボトムアップの業界コンセンサス予想や、長期平均を下回るハイ・イールド社債のスプレッドに表れています。

米国の景気後退リスクはまだ高いのか?

ラッセル・インベストメントは、景気後退のリスクは払しょくされたと言えるほど確信を持っておりません。企業や家計は、パンデミック後にFRBの引き締めに対して強力な防御策を構築し、多額の現金準備を蓄え、30年物住宅ローンや長期社債を低金利で固定化しました。しかし、これらの防御策は崩れ始めています。家計はすぐに余剰貯蓄を使い果たし、大幅に上昇した金利が新規借り入れの制約となっているため、借り換えの問題が発生すると考えられます。FRBの積極的な景気引き締めは元来時間差をもって表面化するものですが、今回のビジネスサイクルは、それに影響されないというより影響までの時間差が長引くというケースになると考えています。2024年の景気後退は避けられるかもしれませんが、リスクは高まっています。

雇用の伸びの鈍化とインフレ率の低下は、経済が冷え込み始めた兆候です。良いニュースは、FRBがおそらく利上げを終え、2024年前半に利下げを検討する可能性があるということです。しかし、これは同時に、投資家が景気後退を回避できるかどうかを議論する中で、不確実性が高まる時期に入ったことも意味しています。米国経済は一時的にソフトランディングを達成したように見えるかもしれませんが、これは2024年後半に穏やかな景気後退に向かう通過点となる可能性があります。

英国は景気後退のリスクが高まっているのか? 欧州はどうなのか?

他の先進国経済もまた、積極的な金融引き締め策によるストレス下にあります。欧州は、世界的な製造業の低迷と中国からの需要減退によって大きな打撃を受けています。英国経済は、他国よりも大きなインフレ・ショックを受けており、ブレグジットの影響ともまだ闘っています。欧州も英国も2024年の経済成長率は米国を下回る可能性が高いと見ています。

日本はその例外で、緩和的な金融政策とトレンド以上の国内総生産(GDP)成長率が続いています。これは2024年も続く見通しで、日銀は徐々にイールドカーブ・コントロール政策を修正することが可能であると考えています。

中国経済は、断片的な景気刺激策によって安定しているように見えます。債務と不動産市場の問題は引き続き逆風となり、成長は引き続き精彩を欠く可能性があります。

2024年の株式見通しは? 債券は?

経済成長の鈍化と景気後退の脅威により、株式市場の状況には注視が必要です。S&P 500 指数は、2023年11月時点の予想株価収益率(PER)が18倍と割高で、2桁台の利益成長期待に基づくソフトランディングの見方を織り込んでいます。「非対称」という表現が、この先の見通しを説明するのに最適のように思えます。経済と業績の両方が今の楽観的な予想を上回った場合にのみ、大幅な上振れが期待できます。ラッセル・インベストメントは、景気後退リスクの高まりに対する懸念から、下振れの可能性を懸念しています。しかし、景気後退懸念に直面してFRBが急速な緩和を行う可能性は高く、市場の下落幅は抑えられ、最終的な反発のきっかけとなると考えられます。

米国債10年物利回りは4.5%前後とバリュエーションは良好で、景気後退リスクはサイクルの観点から債券リターンを下支えすると見ています。

2024年は、コンセンサスが元々2023年がそうであったと予想していた変化の年になると見ています。2023年の過剰な悲観論は、2024年の過剰な楽観論に変わりました。景気減速、景気後退の可能性、そして景気回復というように何事も見かけ通りにはいかないトワイライト・ゾーンになると見ています。
 

2024年の主な資産クラスに対する見通し:

  • 国債利回りは期待インフレ率をはるかに上回る水準で取引されており、魅力的なバリュエーションを提供しています。景気後退リスクが迫っているため、国債利回りは低下すると予想しており、2024年末の米国10年物国債利回りは3.5%程度になると見ています。
  • 株式は割高なバリュエーションと景気後退リスクを背景に、上昇余地は限定的であると見ています。
  • 株式においては、クオリティファクターをラッセル・インベストメントでは選好しています。
  • 年明け早々にはソフトランディングへの期待からドル安が進む可能性がありますが、年後半に景気後退懸念が強まればドル高に進むことも考えられます。
  • ハイ・イールド債と投資適格債のスプレッドは、景気の不透明感が高まる環境にあっては違和感を覚えるほど縮小しているため、ラッセル・インベストメントは社債への戦略的オーバーウェイトを抑制しています。
  • 新興国市場については、相対的に割安である一方でセンチメントがネガティブであるため、ニュートラルな姿勢をとっています。中国経済が直面している構造的な変化は、戦略的にオーバーウェイトするには極端な売られ過ぎが生じていることを確認する必要があることを意味しています。

分散型(60/40)の復活

ここ数年、分散型ポートフォリオを保持する投資家にとって厳しい状況が続いています。株式60%、債券40%という古典的なポートフォリオ・モデルは2022年には最悪の年のひとつとなり、2023年には控えめな回復に留まりました。株式と債券のリターンは正の相関関係になり、これは株式市場の下落が国債の上昇で相殺されなかったことを意味します。

金利の「再正常化」が要因の一つとして挙げられます。米国債10年物の利回りは2022年初めの1.5%から2023年末には4.5%近くまで上昇しました。その結果、債券は株式市場が不安定な時期にポートフォリオのリターンを安定させるのに役に立たず、全体的なリターンの足を引っ張ってきました。加えて、債券の分散投資の価値が低下したことも、長期利回りの上昇につながったと思われます。

図表1:株式と債券の相関、3年のローリング・ウィンドウ

Global inflation rates have peaked in major economies

出所:LSEGデータストリーム、 Ibbotson Associates。2023年10月時点の月次リターン、米ドル。 株式:S&P500指数、債券: ブルームバーグ長期米国債指数 左記は過去の実績であり、将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではなく、またその結果の確実性を表明するものではありません。インデックスは資産運用管理の対象とはなりません。また、インデックス自体は直接的に投資の対象となるものではありません。インデックスには運用報酬がかかりません。

2024年に株式と債券が負の相関関係になる可能性は?

株式と債券の相関関係は、インフレ率が予想外に急上昇したときに正相関になる傾向があります。割引率(すなわち国債利回り)が、それに見合った利益予測の上昇なしに大きく上昇した場合、株式と債券の両方のバリュエーションは低下します。これは、インフレ期待が抑えらされていない場合や、1973年、1980年、2021年のように供給サイドのショックに見舞われた場合に最も起こりやすくなります。今後は、サプライチェーンの回復、FRBによるインフレ率を目標に戻す取り組みへのコミットメント、そして景気後退の可能性が相まって、株式と債券の相関関係が2000年代の大半を占めていた負の相関に戻るというのがラッセル・インベストメントのベースラインです。

要するに、国債はマルチアセット・ポートフォリオの効果的な分散化要素としての役割を再び確立する可能性が高く、その結果、株式60%、債券40%のポートフォリオの有効性が復活することになると見ています。

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"国債はマルチアセット・ポートフォリオの効果的な分散化要素としての役割を再び確立する可能性が高い。"

- ポール・アイテルマン

 

緩和的財政政策の終焉

ビル・クリントン元米大統領の最高顧問、ジェームズ・カーヴィル氏は1994年、債券市場として生まれ変わりたいとの考えにふけりました。それは、債券市場が皆を威圧することができたからです。30年の沈黙を破り、債券市場は威圧的な存在感を取り戻しました。

米国の債務残高対GDP比は上昇傾向

問題はパンデミックを受けて政府債務が急増したこと、そして高齢化によって財政赤字の削減が難しくなったことです。国際通貨基金(IMF)は、現在の財政赤字予測に基づくと、米国の債務残高対GDP(国内総生産)比は、現在の123%から2028年には137%に上昇すると予測しています。2001年当時、債務残高はGDP比53%を占めるに過ぎませんでした。

債券利回りの上昇は、利払い費用が財政赤字に占める割合が大きくなることを意味します。IMFは、2028年までに国債の利払い費用はGDP比4%近くに達すると見ています。

政府債務の持続可能性は、政府債務の支払金利と経済成長率の差にかかっています。金利がGDP成長率を上回るということは、政府が債務残高対GDP比の上昇を防ぐために、基礎的財政収支(金利コストを除く)を黒字にする必要があることを意味します。下のグラフは、過去10年間は国債利回りが一貫して経済成長率を下回り、いかに異例の期間であったかを示しています。名目GDP成長率が最近のトレンドである4%近くに戻り、債券利回りが現在の水準付近で推移すれば、このギャップはマイナスに転じる可能性があります。

図表2:米国の名目GDP成長率と10年物利回り

Global inflation rates have peaked in major economies

出所:LSEGデータストリームのデータを元にラッセル・インベストメント作成。2023年9月末時点。

米国の基礎的財政赤字は現在GDP比約5.5%です。最後の黒字は2001年で、過去10年間の赤字は平均してGDP比4%でした。米議会予算局は、今後10年間の基礎的財政赤字は平均2.9%になると予測しています。これ以上、債務残高対GDP比を上昇させないためには、国債利回りが2%を下回る必要があります。問題は、赤字が続くことで国債利回りに上昇圧力がかかり続けることです。

財政赤字を削減するために、政府はどのような手段を講じることができるのか?

政府には2つの選択肢しかありません。ひとつは、政治的に痛みを伴う歳出削減と増税を行うことです。もうひとつは、インフレ率を高めて名目GDP成長率を押し上げ、実質債務を減らすことです。

短命に終わった英国のリズ・トラス前首相が率いた英国政府は、財源不足の減税で景気浮揚を図った昨年、債券市場の威圧力を思い知ることになりました。債券投資家は、財政赤字を削減し、インフレを抑制する計画がないと見ていました。英国10年物国債の利回りは3日間で100ベーシスポイント以上上昇し、英国通貨ポンドは急落、トラス首相は辞任に追い込まれました。

米国や他の主要先進国経済で財政危機が発生する可能性は、すぐにはなさそうです(改善が見られたイタリアは別として)。英国のこの例は他の政治家への有益な教訓となるものです。ラッセル・インベストメントの主な結論は、大規模な財政支出の時代は終わり、政治家は債務負担と金利コストの制約を受けるようになるということです。次の景気後退時に財政支援で対応する能力は低下するでしょう。中央銀行が目標を上回るインフレに対応せざるを得なくなるリスクはありますが、2023年に学んだように、インフレは有権者に好まれません。強気な債券市場が復活します。

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"大規模な財政支出の時代は終わり、政治家は債務負担と金利コストの制約を受けるようになる。"

- アンドリュー・ピーズ

地域別の所見

米国

米国経済は2023年第3四半期に予想を上回る回復力を見せました。しかし、重要な逆風が残っています。米国債の大幅な逆イールドカーブからも明らかなように、金融政策は抑制的です。インフレのオーバーシュートを抑えるためには、労働市場がさらに軟化する必要があります。一方、好調な第3四半期の原動力となった消費者は、余剰貯蓄を使い果たし、延滞率が上昇し、生活必需品やディスカウント・ブランドへの支出のミックス・シフトによって予算を繰り越しています。

2024年も景気後退リスクとマクロ経済の不確実性は高止まりすると予想しています。対照的に、市場はソフトランディングのシナリオを織り込んでいます。これは、投資家にとってより魅力的な債券市場のリスク・リターン環境を示唆します。例えば、景気後退が現実のものとなった場合、FRBは市場が織り込んでいるよりもはるかに積極的な利下げを行うと予想されるからです。

black and white map of United States

ユーロ圏

ユーロ圏は2024年も景気後退リスクの高止まりとトレンドを下回る成長を見込んでいます。金融引き締め政策、中国の緩慢な成長、世界貿易の低迷が逆風となるでしょう。ポジティブな点は、堅調な賃金上昇とインフレ率の低下によって消費者の購買力が高まっていることです。また、欧州は他の先進国経済よりも製造業への依存が高いことから、世界的に低水準にある在庫が再構築される局面では、製造業活動が少なくとも一時的に回復する可能性もあります。

この1年、ユーロ圏は景気後退の瀬戸際におり、米国が景気後退に陥れば、それを回避することは難しいでしょう。もう1つのリスクは、欧州中央銀行(ECB)がインフレリスクを測るにあたり、賃金の伸び率など後ろ向きの指標を重視するあまり、利下げに踏み切るのが遅れることです。

ユーロ圏のインフレ率は急ピッチで低下しており、10月には2.9%まで低下しました。債券市場は、2024年のECBの利下げをわずか100ベーシスポイントと織り込んでいます。インフレ率の低下と低成長により、市場が織り込む幅よりも緩和が進むと見ています。ユーロ圏の株式は2023年には好調なパフォーマンスとなりましたが、2024年には抑制的な金融政策と景気後退リスクと闘うことになるでしょう。

black and white map of Europe

英国

英国は主要国の中で最も厳しい見通しであり、2024年に景気後退に陥るリスクが最も高いと考えています。インフレ率の低下は他の地域よりも緩やかで、イングランド銀行(英中銀)の緩和開始は他の中央銀行よりも遅れることになると見ています。

景気は減速の兆しを見せており、求人数は減少し、失業率は上昇しています。住宅価格は下落しており、2年から5年固定金利の住宅ローン金利の大幅上昇の影響はまだ完全に現れていません。

2024年には総選挙が行われる可能性が高く、現在の英国の世論調査では、キア・スターマー氏率いる野党・労働党が大幅にリードしています。現保守党政権は、世論調査の評価を高めるために減税を行いましたが、これは金融政策とは逆の方向への推進であるため、主な影響は英中銀による緩和開始時期の後ずれになると見ています。
債券市場では、2024年に英中銀が75ベーシスポイントの利下げを実施すると織り込んでいるものの、経済の弱さを考えると過小評価と思われます。英国債10年物の利回りは4.25%で投資妙味がある水準と考えられます。

black and white map of United Kingdom

日本

日本では経済活動再開の恩恵が薄れていくことから、2024年の経済成長は鈍化することが予想されます。日本銀行(日銀)の主な焦点は、賃金の伸びがさらに改善されるかどうかです。日銀は、より漸進的な金融引き締めを進め、2024年中にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を終了させるものと予想されます。しかし、欧米が景気後退に陥る前に、日銀が政策金利を引き上げるチャンスはないかもしれません。

日本株は、東京証券取引所がコーポレート・ガバナンスと株主資本利益率(ROE)を重視していることが追い風となっています。今年は自社株買いという比較的手を付けやすい果実は摘み取られ、これからは持続可能な企業改革が焦点となります。

日本円は、ラッセル・インベストメントが選好する通貨の一つで非常に割安であると考えていますが、米国の金利が低下し始めるまでは大幅な円高が進む可能性は低いと考えています。

black and white map of Japan

中国

中国政府が、景気下支えのための新たな政策を漸進的に続けているため、財政政策が2024年を通じては支配的な要因となる可能性が高いと見ています。2024年の成長率は4.5%前後と予想され、政府支出と消費者動向の一部改善が下支えとなるでしょう。不動産市場は引き続き注視すべき点であり、世界的な景気後退の可能性は潜在的に輸出の重荷となると見ています。インフレ率は年間を通じて上昇する可能性が高いものの、目標の3%を下回る水準に留まると見ています。

中国株はほとんどの指標で割安に見えますが、不動産市場の債務問題を解決し、景気を有意義に押し上げる政策措置へのコミットメントのより明確な兆候を探り、当面は慎重な姿勢を維持します。

black and white map of China

カナダ

カナダ経済が薄氷の上を滑っていることは、2023年第2四半期までの1年間で、国民1人当たりのGDPが1.6%縮小したことからも明らかです。公式な景気後退が回避されたのは、移民が支出と成長を支えたからにほかなりません。しかし、1人当たりのGDP減少は、主に住宅所有にかかる費用の高騰により、消費習慣が悪化していることを示しています。

中小企業の景況感は悪化しており、需要不足が重大な懸念事項として挙げられています。インフレ率が大幅に低下し、景気の先行きに対する不透明感が高まるなか、カナダ中銀(BoC)はさらなる引き締めを実施するまでには至らないと見ています。景気後退リスクが強まる中、2024年に利下げが実施される可能性が高いと見ています。

カナダ株は景気循環特性があるため、慎重な見方を続けています。一方で、市場が織り込む政策金利見通しは、経済の根本的な脆弱性を十分に反映していないため、コア債券は魅力的と考えます。

black and white map of Canada

オーストラリア/ニュージーランド

オーストラリア経済は2024年に減速すると予想しますが、2つの重要な要因により景気後退は避けられると見ています。第一に、人口増加が引き続き堅調で、総需要に対するバッファーとなります。第二に、オーストラリア準備銀行(RBA)は他の地域ほど抑制的な政策をとっていません。豪州株はグローバル株に比べて魅力的なバリュエーションにあり、中国の景気刺激策から恩恵を受けると考えられます。RBAは利上げサイクルの終盤に差し掛かっており、豪州国債は投資妙味があると評価しています。

ニュージーランドの見通しは、より複雑な様相を呈しています。金融政策は抑制的で、しばらくはこの状態が続きそうです。一方で、総需要は、2024年まで顕著な人口増加によって支えられると考えられます。10月の選挙結果による最近の政権交代は、2024年後半にかけて財政政策が支援的でなくなる可能性は高いものの、国民党とACTの連立政党が過半数を取らなかったことから、まだ不確実性が残っています。ニュージーランド国債は若干割安と見ています。

black and white map of Australia/New Zealand
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"ユーロ圏は2024年には抑制的な金融政策と景気後退リスクと闘うことになるでしょう。"

- アンドリュー・ピーズ

資産クラスの選好

ラッセル・インベストメントの景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、センチメント(短期/投資家心理)(CVS)の意思決定プロセスでは、2024年について、やや慎重な見通しを立てています。株式評価マルチプルは割高で、クレジット・スプレッドは縮小しているため、リスク資産の上昇余地は限られています。一方、国債は魅力的な価格で取引されており、米国債利回りは予想インフレ率を2~3%上回っています。債券はマルチアセット・ポートフォリオにとって競争力のある期待リターンを提供するため、投資家には真の選択肢(TARA1)になります。

投資家心理はより楽観的なレベルへとシフトしているのか?

先進国市場経済が抑制的な金融政策による厳しい試練に直面し、中国が構造的な課題に取り組んでいるため、世界の景気サイクルをめぐる不確実性は高まっています。一方、市場は2桁の利益成長、記録的な配当支払い、そして中央銀行による緩やかな利下げペース(金利は何年も制限的な水準に留まるだろう)に特徴づけられる2024年には世界経済がソフトランディングすると予測しているようです。このような楽観的な市場の織り込みは、リスク市場に下方非対称性をもたらします。つまり、景気減速から景気後退に転じた場合の株式の下振れリスクは、景気後退が回避された場合の上振れリスクよりも大きいと見ています。

ラッセル・インベストメント独自のセンチメント指標においても、11月中旬時点で投資家はより楽観的な見通しへ変わっています。現在のセンチメント指標は、市場の下方非対称性を示すものですが、センチメントはポートフォリオの大幅なリスクオフ姿勢を正当化するような持続不可能な極端な動きには至っていません。

図表3:コンポジット・コントラリアン指数:投資家心理は まだ陶酔しているわけではないが、やや買われすぎている。

Composite contrarian indicator: Investor sentiment appears directionally overbought, but not yet euphoric

出所:ラッセル・インベストメント、2023年11月20日時点で標準偏差-0.8。コンポジット・コントラリアン指標は市場参加者の多くがどの程度悲観的または楽観的であるかを指数化したものです。

2024年に向けては資産クラスごとに魅力的な機会を選別し、全体としてやや慎重なスタンスでポートフォリオを構築することが重要と考えます。

  • 景気後退のリスクが高まっているため、株式のバリュエーションは割高であり上昇余地は限定的です。株式の中ではクオリティファクターを選好します。市場に対して妥当な相対評価であり、強力なバランスシートを持つ収益性の高い企業を重視するスタイルは、景気が減速し金利が低下する環境で有効な防衛策となります。
  • ラッセル・インベストメントでは、主要な株式地域にわたってニュートラルのスタンスをとっています。非米国先進国株式は米国株式より大幅に割安ですが、サイクルの観点からの支援が不足しています。特に、景気後退の危機に瀕し、最近の四半期では収益傾向が弱くなっている欧州では顕著にサイクルの下支えが不足しています。
  • 中国株は2023年にはS&P 500 指数を大幅に下回り、30%近くも出遅れています。中国経済が直面している構造的な課題を考えると、この地域をオーバーウェイトする前に、市場が極端に売られすぎているという証拠が必要です。ラッセル・インベストメントのセンチメント指標は悲観的な見方を示していますが、パニックを起こすほどの極端なものではないことから、中国とより広範な新興市場全体についてはニュートラルとしています。
  • 国債は、期待インフレ率を大幅に上回る利回りとなっており、魅力的な投資機会を提供しています。先進国経済が景気後退に陥った場合、中央銀行は現在フォワード・カーブに織り込まれているよりも積極的に金利を引き下げると見ています。米国債はオーバーウェイトのエクスポージャーとして選好しています。ラッセル・インベストメントの債券戦略チームは、イールドカーブの5年物セグメントに特に妙味があり、2024年と2025年にさらに積極的な利下げが実施されれば、イールドカーブが再びスティープ化する可能性があると見ています。
    国債については、カナダ、ドイツ、オーストラリア、英国等、ほとんどの主要国の国債にわたって見通しは良好と見ています。唯一の特筆すべき例外は日本で、利回りは低迷し、世界の他の国々と同期していません。
  • ハイ・イールド債投資適格債のスプレッドは、経済の不確実性が高まる環境下で違和感があるほど縮小しているため、ラッセル・インベストメントは通常の社債への戦略的オーバーウェイトを抑制しています。
  • 不動産投資信託(REITs)とグローバル上場インフラストラクチャーは、グローバル株式と比較して魅力的なバリュエーション水準と考えられます。REITは相対的に上場インフラより金利感応度が高く、今後1年間は利回り低下の恩恵を受ける可能性があるため、景気サイクルの見通しでは、REITがインフラよりポジティブとみています。2024年の原油については、OPECプラスのさらなる供給削減の可能性、中東の地政学的リスク、世界需要の鈍化を考えると、ボラティリティが高まる可能性が高いと見ています。工業用金属は、中国の建設、インフラ、設備投資の増加から恩恵を受けると考えられます。
  • 米ドルは購買力平価ベースでは割高であり、中期的な米ドル安の可能性を示唆しています。しかし、2024年に世界的な景気が後退し、投資家が相対的に安全な米国資産に向かう可能性があるため、米ドルは短期的にさらに上昇する可能性があります。こうした両面のリスクは、中立な姿勢を正当化するものです。

図表4:2023年初来の資産パフォーマンス

Asset performance since the beginning of 2023

出所: LSEGデータストリーム、2023年11月23日時点。 EMU= European Economic & Monetary Union.(L)は現地通貨。

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"景気減速から景気後退に転じた場合の株式の下振れリスクは、景気後退が回避された場合の上振れリスクよりも大きいと見ています。 "

- ポール・アイテルマン

Prior issues of the Global Market Outlook

1 TARA(There Are Reasonable Alternatives)とは、世界市場の現状を表す言葉で、株式などの伝統的な投資オプションに代わる、より魅力的な選択肢があることを示唆しています。例えば、投資家は、より高い貯蓄金利やある程度のインフレ保護を提供する代替投資を利用することができます。

2 主要産油国で構成される石油輸出国機構(OPEC)は、世界の石油市場に影響を与えるために1960年に結成されました。OPECプラスは2016年に加盟した追加加盟国を指します。