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2023
グローバル・
マーケット・
アウトルック

長く不安定な影響 (Long and variable lags)

経済成長は底堅いものの、インフレの低下は緩やかであり、各中央銀行は金融引き締めを完了していません。一方、景気後退リスクは高まってきています。ラッセル・インベストメントではこのような状況は、国債投資には追い風となり、株式市場には不確実性をもたらすことになると考えています。

headshot of Andrew Pease, Global Head of Investment Strategy

アンドリュー・ピーズ(Andrew Pease)

投資戦略グローバル・ヘッド

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"米国では、今後12~18ヵ月間で景気後退期入りする可能性が高いとラッセル・インベストメントは考えています。"

- アンドリュー・ピーズ

はじめに

グローバル・マーケット・アウトルック 2023年 4-6月期:
長く不安定な影響 (Long and variable lags)

※当資料は、市場動向につきましてラッセル・インベストメントが2023年3月21日に発行した英文のレポートを抄訳したものです。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

経済学者ミルトン・フリードマンの有名な言葉として、「金融政策は、時間的な遅れを伴う不安定な影響を実態経済にもたらす (monetary actions affect economic conditions only after a lag that is both long and variable)」1 というものがあります。現在の景気サイクルはこの言葉通りの状況になっています。米連邦準備理事会(FRB)は1980年代前半以降で最も積極的な金融引き締め政策を採っていますが、今年1月と2月における非農業部門雇用者数の増加は平均40万7,000人で、個人消費の伸び率も過去のトレンドに近い状態です。

欧州と中国の経済成長も予想を上回っています。ロシア・ウクライナ戦争が引き起こしたエネルギー・ショックのために、冬にかけて欧州は景気後退に陥ると見られていましたが、まだプラス成長を維持しています。冬季の欧米は異常な程暖かく、米国と欧州の経済指標を押し上げましたが、ファンダメンタルズ要因が作用した面もあります。両地域の消費者は、エネルギー価格の下落、雇用の増加、実質所得の増加から恩恵を受けています。中国は新型コロナウイルス対策としてのロックダウンを緩和し、経済活動が再開しています。

しかし、グローバル経済の成長見通しについて警戒を解くのは賢明ではありません。時間的な遅れを伴い、かつ不安定な影響がまだ継続しているからです。過去を振り返ると、FRBが最初の利上げを実施してから、景気後退が始まるまでには約2年半の時間を要しています。今回の景気サイクルで初めて利上げが実施されたのは2022年の3月でした。

3 月中旬のシリコンバレー・バンク (SVB) の破綻は、中央銀行の積極的な利上げの危険性を浮き彫りにしました。SVBの主な問題は、債券利回りが 2022 年を通して上昇する過程で価格が下落した長期債を大量に保有していたことでした。しかし、2008年の世界金融危機で起きた投資銀行破綻との類似性はほとんどありません。当時のものは、不動産担保証券の損失が主な原因でした。FRBが新たに導入したバンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP) により、SVBの問題が他の銀行に波及する可能性は低いと思われますが、このエピソードは急速な金融引き締めによって生じる危険性を明確に示しています。

インフレと金融セクターの不安定化の脅威が相まって、中央銀行は難しい舵取りを余儀なくされています。高インフレは利上げの可能性が高くなることを意味しますが、金融の安定性に関する懸念は慎重な行動を求めています。また、銀行システムに起きたショックは、貸出基準の厳格化を通して、ある種の金融引き締めとして機能すると考えられます。ラッセル・インベストメントは、今後数ヵ月以内にFRBが0.25%の利上げをさらに1回か2回程度実施することを予想しています。

あらゆる景気サイクルは本来異なるものです。しかし、パンデミックがサプライチェーンを混乱させ、ロックダウン期間中に消費財需要を先送りしたという点で、今回の景気サイクルは異質なものです。労働市場は早期退職、長期疾患の増加、移民の減少などによって生じた労働者不足のため急速に逼迫しました。政府が大規模な財政支援を実施していたため、ロックダウン措置が2021年後半に緩和された時点で、米国消費者の貯蓄は2兆ドル以上増加していました。さらにロシア・ウクライナ戦争によるエネルギー・ショックも発生した結果、大方の予想を上回る、より大きく持続的なインフレ率の上昇が生じました。

米国はいつ景気後退期入りするのか?

米国は、今後12~18ヵ月間で景気後退期入りする可能性が高いとラッセル・インベストメントは考えています。景気後退のリスクを最も明確に示す指標は逆イールドです。下図は10年国債と2年国債の利回り間格差(スプレッド)を表しています。マイナスのスプレッド(イールドカーブの逆転現象)は、FRBが非常に大幅な金融引き締めを実施しているために、金利が将来低下すると債券投資家が予想していることを意味しています。

家計と企業の財務は健全な状態にあるため、景気後退は軽度に留まると予想していますが、企業業績や経済指標が悪化することには変わりないことから、株式市場にとっては逆風になります。それは国債には好ましい環境であり、投資家にとっても分散投資の好機をもたらすと見ています。
 

米国の逆イールドと景気後退期

Inverted U.S. yield curve signals recession risk

出所:リフィニティブ データストリーム、2023年3月15日時点

米国の労働市場は過熱状態

過熱した労働市場は、米国経済における最も大きな不均衡です。賃金インフレは過去40年間で最高であり、失業者1人に対して2件の求人があるという過去に例のない状態です。

FRBは賃金インフレがどの程度低下することを望んでいるのか?

消費者物価上昇率を目標の2%に抑えられる程に賃金インフレが沈静化したと確信した場合にのみ、FRBは抑制的な金融政策を転換すると考えられます。賃金指標の大半は現在、年率約5~6%の伸び率となっています。しかし、FRBは賃金インフレが4%を下回ることを望んでいます。

2月の失業率は3.6%で、1960年代以降で最低水準でした。FRBが目標としている水準まで賃金の伸びを抑制するためには、失業率がここから最低1%上昇する必要があるとラッセル・インベストメントは考えています。しかし、失業率は一旦上昇し始めると、上昇し続ける傾向があります。家計は失業率の上昇に応じて消費を削減します。企業は設備投資を減らします。その結果生じる需要減のため、また失業率は上昇し、支出も減少します。第二次世界大戦後では、失業率の3ヵ月移動平均値が0.33%以上上昇した際に、米国経済は景気後退期入りしています。

FRBは、景気後退を生じさせることなく、賃金の伸びとインフレが沈静化するソフトランディングの実現を図るという困難な任務に直面しています。株式の投資家は、FRBが政策転換するのではないかという期待から、労働市場が沈静化する初期の兆候を歓迎するかもしれません。しかし、過去を振り返ると、ソフトランディングの実現は困難なことが分かります。

失業率は一旦上昇し始めると、上昇し続ける傾向がある

 

When unemployment begins rising, it usually continues rising

出所:リフィニティブ データストリーム、2023年2月23日時点

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“FRBは、景気後退を生じさせることなく、賃金の伸びとインフレが沈静化するソフトランディングの実現を図るという困難な任務に直面しています。”

- アンドリュー・ピーズ

企業の利益率に圧力

今年注意すべきもう一つの点は企業業績です。増益率は大半の地域で2022年初めにピークに達し、それ以降は低下傾向にあります。これは経済成長が減速し、売上高の伸びが鈍化したことも一因ですが、利益率の低下も影響しています。2021年から2022年初めにかけては、インフレ率の上昇により企業の最終的な価格決定力が改善する一方で、コストの上昇、特に人件費は依然として抑制されたままであったため利益率が押し上げられました。

利益成長率をどのように予想するか?

しかし、この1年間はそのようなプロセスが逆転しました。インフレ率の低下は企業が価格決定力を失うことを意味しますが、人件費の減少は緩慢です。下図は、インスティテューショナル・ブローカーズ・エスティメート・システム(IBES)の12ヵ月先利益予想コンセンサスを示しています。アナリストは来年の業績予想に関してより慎重になっていますが、景気後退期間中に通常発生する15~20%程度の一株当たり利益(EPS)の減少はまだ予想していません。

株価収益率(PER)は過去2年間、大幅に低下しています(S&P 500®のPERは23倍から17倍にまで低下しました)。したがって、投資家は既に企業業績の悪化をある程度織り込んでいます。足もとの米国経済は驚く程底堅いことから、今後数ヵ月間は企業の利益成長の予想値は横ばいで推移することが予想されます。しかしFRBが需要減少によるインフレ抑制という目標を達成する過程で利益予想はさらに引き下げられる可能性が高いと見ています。

企業の業績予想はより慎重になってきている(12ヵ月先利益予想コンセンサスの推移)

Industry earnings expectations have become more cautious

出所:リフィニティブ データストリーム、2023年3月7日時点。I/B/E/S = インスティテューショナル・ブローカーズ・エスティメート・システム(企業業績などの分析を行うアナリストによる個別企業の業績予測を集計する米国の機関投資家向け証券情報サービス)

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“足もとの米国経済は驚く程底堅いことから、今後数ヵ月間は企業の利益成長の予想値は横ばいで推移することが予想されます。”

- アンドリュー・ピーズ

地域別の所見

米国

米国経済はまちまちのメッセージを発しています。一部の先行指標は反転しています。しかし製造業セクターは縮小しており、銀行の貸出基準は厳格化、企業は臨時雇用と労働時間を削減し、利益率は縮小、米国債のイールドカーブは大きく逆イールド化しています。対照的に、重要な景気一致指標の多くは過去数ヵ月間、予想を上回っています。2023年初めには、個人消費支出、雇用の伸び、賃金インフレ、物価インフレはすべて予想を上回りました。

FRBは引き続き労働市場を沈静化し、インフレとの戦いに勝利することに重点を置いています。そのため、上記のような主要分野が強いことから、連邦公開市場委員会(FOMC)は銀行システムにかかるストレスにもかかわらず利上げを検討する圧力をかけられています。非常に引き締め的な金融政策スタンスや、失業率の大幅な上昇を招かずに労働市場を沈静化させることの難しさから、今後1年間で米国が景気後退に陥る可能性が高いとラッセル・インベストメントは考えています。

black and white map of United States

ユーロ圏

ユーロ圏経済の強さは予想を上回るもので、昨年後半には不可避と考えられていた景気後退を免れました。欧州は暖冬となったことで、需要の減少からエネルギー価格が下落し、一連の経済指標は予想よりも良好なものとなるポジティブ・サプライズをもたらしました。経済成長の回復にとって予想外の悪材料は、欧州中央銀行(ECB)が金融引き締めを強化したことです。ECBは直近、政策金利を0.5%引き上げて3.0%としており、今後さらに1回程度の追加利上げの可能性を残していると考えられます。エネルギー価格を除くインフレ率の上昇は続き、1月のコアインフレ率は前年同月比で+5.3%に達しています。労働需要は強く、賃金の伸びは上向いています。

ユーロ圏にとって中国は重要な輸出市場で、その経済活動の再開は特にドイツおよびスペイン経済をさらに押し上げると考えられます。しかし長期の見通しはそれ程明るくありません。金融政策がさらに引き締め的になる見通しであり、今冬には欧州がロシア産エネルギーへの依存からどの程度脱却できたかが再び問われることになりそうです。ユーロ圏はまた米国の景気後退の影響も受けることになります。

経済状況が予想を上回ったことやECBが依然としてタカ派的であることは、購買力平価ベースで割安圏にあると判断されるユーロにとってはプラス材料と見ています。ユーロ圏株式は過去6ヵ月間にわたって高パフォーマンスを見せています。今後さらに数ヵ月間上昇する可能性がありますが、金融引き締めや景気後退リスクという景気サイクル上の問題が次第に逆風になると見ています。

black and white map of Europe

英国

英国経済は、欧州諸国経済と同様に予想を上回るものとなり、短期的には景気後退は予想されていません。追い風は、暖冬、エネルギーコストの低下、エネルギー価格上昇への対応としての財政的支援、英国の最大の輸出市場である欧州経済の底堅さです。

しかし、金利上昇と労働市場の逼迫により賃金の伸びが過大となり、イングランド銀行(BoE)が目標としている2%にインフレを抑制できない点では、中期的な逆風が依然として吹いていると考えられます。

経済が冷え込み始めている兆しがあり、アンドリュー・ベイリーBoE総裁は最近、追加の利上げについて必ずしも積極的ではありません。市場は0.25%の利上げが1回行われ、英国の政策金利が4.25%になることを織り込んでいます。BOEは、FRBやECBに先駆けて利上げを停止する可能性が高いと見られます。

英ポンドは米ドル対比で割安感が認識されますが、BoEがタカ派姿勢を後退させていることから、短期的にさらに英ポンドが上昇することは困難な可能性があります。英国大型株は割安感があり、ヘルスケア、金融、生活必需品セクターの比率が高く、他方、テクノロジー関連セクターの比率が低いことが有利に働いています。こうした状況は短期的には逆風となる可能性もありますが、英国株式は長期的には魅力的であると考えています。

black and white map of United Kingdom

日本

日本については、国内及びグローバルともに需要は弱いものの、地理的に近い中国の経済再開によってある程度相殺されることから、今年は緩やかな経済成長が見込まれます。今年の日本経済の成長率は、賃金の上昇とインフレが日本銀行の目標である2%に持続的に達するかどうかに依存すると見ています。

日銀は2016年9月以降実施してきたイールドカーブ・コントロール政策の修正に再び動くことになるとラッセル・インベストメントは考えています。昨年12月、日銀は10年国債利回りの許容変動幅を0.25%から0.5%に拡大しました。今年はさらに拡大される可能性があると考えていますが、政策金利の引き上げの可能性は低いと見ています。このような状況も考慮し、ラッセル・インベストメントでは10年国債利回りの適正水準は1%近傍と推計しており、現在の日本の債券利回りは未だ魅力的と捉えていません。

円は購買力平価ベースでは割安圏にあると判断されるため、世界の利上げサイクルが一巡すれば良好なパフォーマンスを示すと考えています。また、米国の景気後退局面では一定の分散投資効果も提供すると考えられます。

black and white map of Japan

中国

中国では、新型コロナウイルス対策として数年間に及んだロックダウンを脱し、経済活動が再開しつつあります。中国政府は、国内総生産(GDP)の成長率目標を約5%と発表しました。これはラッセル・インベストメントの予想に近い成長率です。グローバル経済は減速しており、中国政府も不動産開発の積極的な拡大を許可しない方針であることを考慮すると、今年の成長は消費動向次第になると考えられます。

中国の消費者は貯蓄超過の状態ですが、中国政府はロックダウン期間中に財政的な支援をしなかったため、先進国よりは大幅に低い水準となっています。消費者心理が回復するには、不動産市場における底打ちの兆しが必要です。しかし、これまでのところ一時的な改善の兆しが見られるに留まっています。

地政学的緊張は高いままであり、最も注目すべき動きは米国政府が高性能半導体の中国への輸出を禁止したことです。高性能半導体は、中国経済の戦略的な目標にとって重要なものです。

中国の財政政策は、昨年程には経済成長に寄与しないと見ています。中国政府は、中央政府および地方政府の財政赤字の拡大幅が今年はやや縮小する見通しを発表しました。しかし、インフレ率は低いままであり、緩和的な金融政策が維持される見通しです。

中国株式のバリュエーションは割安感が認識される水準ですが、ラッセル・インベストメントはまだ慎重な姿勢を採っています。センチメント(短期/投資家心理)が、景気サイクルやバリュエーションよりも警戒的なシグナルを発しています。テクニカル指標は、市場が短期的に買われ過ぎを示唆する水準にオーバーシュートしていることを示しています。また、アナリストが中国経済についての予想を頻繁に引き上げており、過信を示唆する兆しが見受けられます。

black and white map of China

カナダ

カナダ経済は、輸出と内需に牽引されて予想を上回る成長率となっています。米国経済の底堅さがカナダの貿易にプラスに働いており、暖冬も手伝い個人消費も押し上げられました。一見楽観視できる状況ですが、カナダ中銀(BoC)は成長見通しについて慎重な姿勢に転じ、条件付きながら先進国の中央銀行の中で初めて利上げを停止しました。金融政策の効果が現れるまでには時間的なラグがあります。また、BoCは、需要を減速させてインフレを抑えるのに十分な水準にまで金利を引き上げたと考えています。さらに、移民の急速な増加が、逼迫した労働市場の緩和に寄与すると予想されています。

確かにインフレ率は目標の2%を上回ったままです。また、BoCは、経済・物価情勢が予想を上回った場合に利上げを再開する用意があることを公表しています。しかし、景気はむしろ減速する可能性が高そうです。家計や企業の破綻が増加し、家計の延滞率も上昇していることは経済的なストレスが高まっていることを示しています。BoCとFRBの金融政策が異なる方向に向かうと予想されることにも注意が必要です。市場はFRBがBoCよりもタカ派的であることを織り込み、カナダドルには下方圧力がかかったことで、(通貨安に伴う)輸入価格の上昇を通してインフレを上昇させる水準近くにまでカナダドルは下落しています。カナダは今後12ヵ月以内に軽度の景気後退に陥る可能性が高いと考えられることから、追加の金融引き締めの可能性は低下していくと見ています。

black and white map of Canada

オーストラリアおよびニュージーランド

オーストラリアについては、景気後退のリスクは北半球の先進国経済よりも低いと考えていますが、2023年を通して経済成長は減速を続ける見通しです。住宅ローン金利の多くは4月に変更される予定で、住宅ローン返済額の増加が家計消費の重しになると見込まれます。しかし、重要な点として、多くの家計は多額のホームエクイティ(評価額から住宅ローンの残高を引いた金額)を有しており、それが住宅ローンの焦げ付きの可能性を低下させています。また、労働市場は非常に逼迫していますが、需要が次第に弱まり、移民の受け入れが再開することで供給も増加するため、2023年を通して緩和される可能性が高いと考えられます。このため、賃金にかかる上昇圧力が比較的抑えられています。オーストラリア準備銀行(RBA)は最近、金融引き締めサイクルが終了に近づいていることを示唆しました。ラッセル・インベストメントは、オーストラリア国債のバリュエーションは魅力的と考えています。豪ドルは、米国とオーストラリアの金融政策が異なる方向にあることから売り圧力を受けてきましたが、現在は魅力的な水準にまで下落しているように見えます。

段階的に高水準となった家計債務やニュージーランド準備銀行(RBNZ)によるタカ派的な金融政策のため、ニュージーランドの景気後退リスクは高いままです。RBNZさえも今年同国が景気後退期入りすると予想しており、景気の山から谷に循環する局面においてGDPは約1%減少することが見込まれています。アーダーン前首相の辞任後に就任したクリス・ヒプキンス新首相が財政政策を大幅に変更することをラッセル・インベストメントは予想していませんが、10月に予定されている総選挙には注目しています。世論調査では6年間野党であったニュージーランド国民党がリードしており、景気後退期入りする場合には、さらに支持を集めることが予想されます。

black and white map of Australia/New Zealand
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“中国株式のバリュエーションは割安感が認識される水準ですが、ラッセル・インベストメントはまだ慎重な姿勢を採っています。”

- アンドリュー・ピーズ

資産クラスの選好

景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、センチメント(短期/投資家心理)(CVS)から成るラッセル・インベストメントの投資戦略決定プロセスは、株式市場の見通しが不透明であることを示しており、国債の見通しはより支援的なものと評価しています。

景気サイクルは株式にとって逆風か?

景気後退期入りの可能性が高いことを考慮すると、景気サイクルの評価は株式市場にとって逆風となります。しかしこの逆風はFRBが金融引き締め政策を終了したことが判明すれば改善に向かう可能性があります。利下げが視野に入ってくる時期が転換点になると見ています。

足もとの株式市場のバリュエーション評価は難解です。S&P500指数の1年後の予想株価収益率(PER)は、2022年年初の22倍から2023年3月半ばには17.5倍まで低下しています。しかし、過去のPERの水準から見ればまだ高い水準です。ラッセル・インベストメントは、米国株式のバリュエーションは割高と判断しています。一方、非米国株式は適正水準に近づいていると見ています。

センチメント指標であるラッセル・インベストメントのコンポジット・コントラリアン指標は、3月中旬現在、株式市場が僅かながら売られ過ぎ圏に位置していることを示唆しています。株式は今年初めに一旦上昇し、僅かに買われ過ぎと判断される状態となっていましたが、シリコンバレー・バンクの破綻が引き起こした市場のボラティリティ増大により反転しました。ラッセル・インベストメントは、現時点でセンチメントは株式にニュートラルと判断しています。

CVSに基づく投資戦略決定プロセスを通じて、ラッセル・インベストメントは、グローバル株式を、景気サイクル上(中期)はネガティブ、バリュエーション上(長期)は適正からやや割高、センチメント(短期)はニュートラル、とそれぞれ評価しています。

コンポジット・コントラリアン指数(僅かに売られ過ぎを示唆)

Composite contrarian indicator signals slightly oversold investor sentiment

出所:ラッセル・インベストメント、2023年3月15日時点で標準偏差+1.42。コンポジット・コントラリアン指標は市場参加者の多くがどの程度悲観的または楽観的であるかを指数化したものです。

CVSに基づく投資戦略決定プロセスを通じて、ラッセル・インベストメントは、グローバル株式を、景気サイクル上(中期)はネガティブ、バリュエーション上(長期)は適正からやや割高、センチメント(短期)はニュートラル、とそれぞれ評価しています。

国債利回りは魅力的か?

国債はCVSの観点から見て魅力的な水準と見ています。インフレがピークアウトし、中央銀行は今後数ヵ月内に利上げを停止する可能性があることから、景気サイクルは債券投資に支援的な状況へと変化してきています。昨年の売りを経て、国債のバリュエーションはポジティブなものに転じています。センチメントについても、大半の投資家が売り持ちを保有している(つまり利回りの上昇を予想している)ことが米国商品先物取引委員会(CFTC)のデータで認識されることから、コントラリアン的観点からセンチメントは(短期)はポジティブ、とそれぞれ評価しています。

2023年4-6月期の初めにおいて、各資産クラスを以下の通り評価しています。

  • 株式全般:

    景気後退のリスクがある中で、株式の上値は限定的と見ています。非米国先進国株式は米国株式より相対的に割安と判断されますが、FRBがタカ派色を後退させ米ドル安が進むまでは、ニュートラルな評価を維持します。


  • 新興国株式:

    米ドルのパフォーマンスに応じた値動きとなっています。FRBが金融引き締めを停止し、米ドルが下落に転じる場合に回復すると見込まれます。中国の経済活動の再開は中国株式の反発に寄与していますが、不動産市場における逆風を考えると、長期の見通しについては疑問が残ります。現時点では、ニュートラルな評価が妥当と判断しています。

  • ハイイールド債および投資適格債:

    シリコンバレー銀行の破綻 がもたらした混乱により、クレジット・スプレッドは拡大し、長期平均値を上回っています。米国が景気後退期入りする確率が高まり、デフォルト率上昇の懸念が生じる場合、クレジット・スプレッドには拡大圧力がかかると見ています。クレジット市場の評価はニュートラルとしています。

  • 各国国債:

    バリュエーションは、2022年の利回り上昇を受けて改善しています。米国債、英国債、ドイツ国債のバリュエーションは妥当な水準です。日本国債については、日銀が長期金利の上限を0.5%に維持しているため、まだ割高圏にあると見ています。ラッセル・インベストメントでは10年国債利回りの適正水準は1%近傍と推計しています。しかし国債が大きく売り込まれるリスクは、インフレ率がピークに近いと考えられ、市場は既に各国中央銀行のタカ派姿勢を織り込んでいることから限定的と見ています。

  • 実物資産:

    不動産投資信託(REIT)はインフラストラクチャーやグローバル株式と比較して魅力的なバリュエーション水準と考えられますが、その差は縮小しています。不動産のファンダメンタルズは総じてまだ健全と考えられることから、金利が低下する場合、REITは底堅く推移することが予想されます。コモディティは中国の経済活動の再開から恩恵を受けると考えられます。しかし、2023年にはインフラや建設投資が従前程には経済成長を牽引しないと予想されることから、景気押し上げ効果はこれまでのものに比較すると小さくなりそうです。エネルギーについては、景気後退により原油需要は減少している一方で、ロシア産原油に対する制裁で供給も制限されていることから、見通しは非常に不透明となっています。金については、実質金利との関係性やインフレのピークアウトを考慮すると、適正水準にあるように見えます。

  • 米ドル:

    FRBのタカ派姿勢の継続を受けて米ドルは今年緩やかに上昇しています。インフレ率が低下し始め、FRBのタカ派姿勢を転換すれば、米ドルが下落する可能性があります。米ドル安の恩恵を受けるのは、主にユーロ日本円になると見ています。また、植田和男日銀新総裁が現在のイールドカーブ・コントロールの修正に動けば、円高が急激に進行する可能性もあると考えています。

年初来から3月14日までの資産別パフォーマンス

Asset performance since the beginning of 2023

出所:リフィニティブ データストリーム、2023年3月14日時点

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“CVSに基づく投資戦略決定プロセスを通じて、ラッセル・インベストメントは、グローバル株式を、景気サイクル上(中期)はネガティブ、バリュエーション上(長期)は適正からやや割高、センチメント(短期)はニュートラル、とそれぞれ評価しています。”

- アンドリュー・ピーズ

 

Prior issues of the Global Market Outlook

1「Journal of Political Economy」第69巻5号、1961年10月