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2022
Global
Market
Outlook
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脱線には至らず(Dented, not derailed)

ロシアのウクライナ侵攻は、世界経済の成長に対する短期的なリスクを高め、インフレをより長期に亘って上昇させる可能性があります。不透明感は強いものの、株式市場は売られ過ぎ圏内にあると考えられ、今後数ヵ月間で緊張状態が緩和される場合には回復に向かうものと見ています。

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headshot of Andrew Pease, Global Head of Investment Strategy

アンドリュー・ピーズ

投資戦略グローバルヘッド

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"この侵攻によって欧州が最も大きな打撃を被る中、世界経済の成長率は低下し、インフレ率はさらに上昇するものと見ています。"

- アンドリュー・ピーズ

はじめに

当内容は、市場動向につきましてラッセル・インベストメントが2022年3月28日に発行した内容を抄訳したものです。内容は作成 時点 のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性がありま す。また、 当見解は将来の結果を保証するものではありません。

ロシアのウクライナ侵攻は、市場にとって短期的なリスクをもたらしましたが、長期的な展望においても暗い影を落としています。差し迫った脅威は、エネルギー価格の高騰、食料価格の上昇、サプライチェーンの混乱からきています。長期的な問題は、ロシア対西側諸国の新たな冷戦、各国軍事費の拡大とグローバリゼーションへのさらなる打撃です。この戦争は欧州にとっては正念場であり、過去数十年間のロシアに対するエネルギー依存を解消し、再生可能エネルギーへの転換加速や軍事力の再構築を図る必要性を生じさせています。

ウクライナ侵攻の前にも、市場には懸念材料が山積していました。米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めの開始、新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンによるサプライチェーンやインフレへの悪影響、中国における不動産セクターの信用不安やゼロ・コロナ政策に伴う景気回復の遅れ、テクノロジー企業に対する中国政府の規制強化などです。

ラッセル・インベストメントがウクライナ侵攻前に提唱していた2022年のテーマは「大いなる安定」でした。ラッセル・インベストメントでは、2022年は世界経済の成長がロックダウン後の2021年の高成長からは鈍化するものの、引き続きトレンド値を上回る水準で推移すると見ていました。しかし、この侵攻によって欧州が最も大きな打撃を被る中、世界経済の成長率は低下し、インフレ率はさらに上昇するものと見ています。それでも戦争状態が緩和され、エネルギー価格の高騰が落ち着けば、世界経済の成長は今年も過去のトレンドを上回る可能性があると考えています。そして経済成長率がトレンド値を上回る投資環境では、株式が債券やキャッシュに比べて有利となりますが、ウクライナにおける戦争によって大きな不確実性がもたらされ、市場のボラティリティが一段と高まりそうな状況も生じています。

景気サイクル見通し:依然として過去のトレンドを若干上回る

景気サイクル面において、ロシアのウクライナ侵攻がもたらす主なリスクは以下に挙げるものが考えられます。

  • エネルギー価格の高騰、そしてそれが世界経済とインフレに及ぼす影響
  • 食料価格の高騰(小麦・とうもろこしの主要輸出国としてのロシアとウクライナの重要性)
  • サプライチェーンの混乱(特に自動車部品および半導体の製造)

エネルギー・プライスチャネル1は最も重要であり、原油価格が1バレル130ドルを超えて維持されることになれば、世界経済がさらに悪化し、本格的な景気後退に陥る可能性があります。

経済的打撃が最小限で済むシナリオは、今年半ばまでに戦争状態が収束に向かい、ロシアによるエネルギー供給が維持され、原油価格が1バレル100ドル近辺で落ち着き、欧州の天然ガス価格が1メガワット・アワー(MWh)100ユーロ以下に戻るケースです。このシナリオが実現するには多くの要素が満たされる必要がありますが、侵攻開始当初に急騰した原油価格は反落しほぼ元の水準に戻っています。

侵攻開始当初に急騰した原油と天然ガス価格は反落

Chart 1 Oil & natural gas prices: invasion price spikes largely reverse

欧州はロシアの天然ガスに依存しているため、エネルギー・プライスチャネルは特に重要です。欧州は、天然ガスの40%以上、原油の20%以上をロシアから賄っています。過去10年以上にわたり、天然ガス価格は平均20ユーロ/MWh程度で推移していましたが、ウクライナ侵攻後は250ユーロにまで高騰しました。引き続きリスクはあるものの、ロシアからの天然ガス供給はまだ途絶えておらず、天然ガス価格は現在100ユーロ近辺にまで下落してきています。欧州が他の産出国から供給を受ける体制に素早く転換するのは、容易ではありません。しかし幸いなことに、今回のエネルギー危機は冬の始まる10月頃ではなく、欧州北部も春を迎える3月になってから発生しています。エネルギー価格高騰によるショックが一時的なもので終わるとすれば、欧州経済は2022年後半には回復に向かうと見られます。新型コロナウイルス感染拡大による脅威が薄らぎ、パンデミック後の経済活動再開も進んでおり、欧州復興基金のおかげで財政政策も支援的なものとなっています。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、財政支出は若干増加すると見られます。ドイツ政府はまた、軍事支出を国内総生産(GDP)の2%以上とすることを公表しました。エマニュエル・マクロン仏大統領とマリオ・ドラギ伊首相はいずれも、欧州においてより制限の少ない財政ルールを要求しています。

2022年の世界経済は、トレンド値を上回る成長へと力強く向かっていました。侵攻開始前、市場のコンセンサスは米国の今年の経済成長率を3.5%程度、欧州は4.0%、英国は4.5%と予想していました。ウクライナ侵攻によって、米国の今年の経済成長率が0.5%以上の規模で押し下げられる可能性は低いものの、欧州の経済成長は1.5~2.0%程度低下すると考えられます。英国の経済成長への影響は、米国と欧州の中間程度になるとみられ、この結果、2022年のGDP成長率は、米国3.0%、欧州2.5%、英国3.5%と予想されます。

その他のリスク:サプライチェーンの混乱と食料価格の上昇

判断が難しいリスクは、ロシアとウクライナが世界的なサプライチェーンに組み込まれていること、そしてコモディティ市場における重要性に起因します。

ロシアは自動車の触媒式排気ガス浄化装置の製造に利用されているパラジウムの世界有数の供給国です。ウクライナは世界全体のネオンガスの約50%を供給しています。ネオンガスは半導体製造に使用されており、半導体も自動車生産には欠かせません。部品不足による自動車価格の高騰は、2021年の世界的なインフレ上昇の重要な要因のひとつでした。ウクライナ侵攻は、世界的な自動車生産の回復に遅れを生じさせ、価格の高止まりをもたらす可能性があります。ただし、パラジウムもネオンガスも在庫が十分にあることが自動車や半導体生産への影響をある程度緩和することになると見られます。

一方、食料価格の上昇は、深刻なリスクとなりかねません。ロシアとウクライナは、世界全体の小麦輸出の約4分の1を占めています。小麦価格は2022年初来で50%上昇しています。そして、これらの小麦供給の大部分は、中東やアフリカの新興国市場に向けられています。食料価格高騰はインフレにつながる問題ですが、多くの新興国にとっては政治的安定を脅かすリスクでもあります。

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"ウクライナ侵攻によって、米国の今年の経済成長率が0.5%以上の規模で押し下げられる可能性は低いものの、欧州の経済成長は1.5~2.0%程度低下すると考えられます。"

-アンドリュー・ピーズ

中央銀行の政策:インフレ上昇 vs. 成長鈍化

サプライサイド(供給側)主導のインフレ・ショックは、各国中央銀行にとって厄介なものです。各国中央銀行は、長期的な期待インフレ率を安定させるため、コモディティ価格上昇に伴う長期的インフレを懸念している姿勢を見せたいところですが、経済成長に影響を与えかねない利上げについては慎重に進めていく必要があります。

債券市場では、FRBが2022年中にさらに6回利上げを行うと見込んでいます。米国経済は世界で最も完全操業に近い状態にあり、ロシアのウクライナ侵攻から受ける影響も最も少なく済んでいます。FRBは中立金利とされている2.25%近傍に政策金利水準を戻すべく利上げを続けるものと見られます。FRBの政策を展望するうえでラッセル・インベストメントが注視している2つの指標は、引き続き相互に逆方向のシグナルを呈しています。アトランタ連銀の賃金トラッカーではロックダウン後の経済活動再開に伴う労働市場の逼迫が現れている一方、5年/5年ブレークイーブンインフレ率(投資家が予測する、5年先から向こう5年間の平均インフレ率)は依然として抑制された水準にあります。賃金が上昇していることから、年内にさらなる利上げが行われる可能性はありますが、長期の期待インフレ率が抑えられていることは、FRBが過度な引き締めを行う必要がなくなる可能性を意味していると考えられます。

アトランタ連銀の賃金トラッカーは急上昇

Chart 2 Atlanta Fed’s wage-growth tracker shows surge

米国の長期の期待インフレ率は抑制的

Chart 3 Longer-term U.S. inflation projection appears well-contained

ユーロ圏経済は米国ほど好調ではなく、ロシアのウクライナ侵攻から大きな経済的打撃に受けることになります。このことは、欧州中央銀行(ECB)がインフレよりも成長鈍化に対するリスクに焦点を当てるであろうことを意味します。市場では2022年中に2回の利上げ実施が見込まれていますが、エネルギー価格の上昇が経済成長を鈍化させるため、政策金利は据え置かれるか、1回のみの利上げになる可能性があると見ています。

英国における労働市場の状況は、ブレグジットも一因として欧州よりも逼迫しており、エネルギー価格上昇によってインフレ率は年末まで6%以上で推移する可能性が生じています。国民保険料が1.25%引上げられ、電気・ガス標準料金の上限価格も54%引き上げられる予定のため、4月の世帯あたり可処分所得額は低下すると見られます。市場はイングランド銀行が年内に5回利上げを行うと予想していますが、家計を大きく圧迫することになるため、2~3回に制限される可能性もあると考えられます。

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"賃金が上昇していることから、年内にさらなる利上げが行われる可能性はありますが、長期の期待インフレ率が抑えられていることは、FRBが過度な引き締めを行う必要がなくなる可能性を意味していると考えられます。"

- アンドリュー・ピーズ

侵攻による長期的な影響

  1. グローバリゼーションの後退 グローバリゼーションへの反動は、2008年の金融危機から始まりました。この傾向は、ドナルド・トランプ前大統領による貿易戦争と歩調を合わせ、新型コロナウイルスの感染拡大によりさらに強まりました。今回のウクライナ侵攻が世界的サプライチェーンに及ぼす影響によって、GDP比で示される世界の貿易量がさらに低下する可能性があります。グローバリゼーションの後退は、グローバルな競争の減少、生産性向上の停滞、インフレ圧力の上昇、世界経済の成長減速につながります。
  2. 地政学リスクの増大 今回の侵攻は、国際政治における分断を浮き彫りにしました。ロシアと中国が示した無制限のパートナーシップにより、今後の米中関係に焦点が当たることになります。ロシアに対する厳しい経済制裁は、中国が台湾に対してすぐに各種の要求を強行することを思い留まらせる可能性が高いと考えられますが、緊張する台湾情勢は今後も注視する必要があります。
  3. クリーン・エネルギーへの転換加速  ウクライナ侵攻の悲劇の中でポジティブな一面は、化石燃料依存からの脱却への追い風となる可能性です。EUは省エネ施策や風力・太陽光のさらなる活用により、2030年よりも大幅に前倒しで、ロシアの化石燃料依存からの脱却を計画しています。中国についても、安価なロシア産天然ガスを利用できるようになれば、石炭依存度の低下を図ることが可能になります。

地域別の所見

米国

労働市場の急速な回復と、賃金・物価の上昇圧力の広がりにより、FRBは当初予想されていたよりも速いペースで、金融政策を中立的なものとすることを余儀なくされています。景気や企業収益の改善以上に長期金利が上昇したため、1-3月期の株式市場、特にデュレーションの長い特性のある2グロース銘柄は打撃を受けました。良いニュースは、2022年内全てのFRB会合における利上げの実施が既に織り込まれており、市場においては周知のリスク要因となっていることです。

ロシアのウクライナ侵攻によって、今後の見通しに不確実性が増しました。しかし、米国はエネルギー自給率が高く、コモディティ消費額のGDPに対する比率も低いことから、ウクライナ侵攻に対して世界で最も耐性のある経済圏のひとつであると考えられます。そして、景気サイクルは急速に成熟しています。労働市場は逼迫しており、FRBは金融政策をより引き締める方向へと歩みを進めています。これは、景気後退リスクが、ラッセル・インベストメントが景気回復の初期段階で予測していた最低水準からは、徐々に上昇していることを意味しています。それでも2022年は、家計や企業の健全なバランスシートに下支えされ、景気は今のところ堅調であることから、引き続きトレンド値を上回る成長を示す年になると考えています。

black and white map of United States

ユーロ圏

ロシアのウクライナ侵攻により、ユーロ圏が米国市場よりも力強い経済成長に向かって順調に推移するとの見通しは覆されました。インフレ圧力は米国よりも低く、新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンも緩和され、企業収益の伸びも株式市場の回復を下支えしていました。欧州は天然ガスと原油をロシアに大きく依存しているため、ウクライナ侵攻によって、エネルギー価格の高騰を主要なリスクとする大きな不確実性が生じています。ロシアが欧州に対するエネルギーの輸出を禁止する決定を行う、あるいは、欧州各国政府がロシア産エネルギーをボイコットするようなことになれば、景気後退を引き起こす可能性があります。ラッセル・インベストメントでは、ロシア側の原油や天然ガス輸出による収入維持の必要性や、欧州におけるロシアへのエネルギー依存度を勘案すれば、このような事態が起きる可能性は低いものと見ていますが、一方でそれは排除できるリスクでもないと考えています。

エネルギー価格の高騰に伴うショックが一時的なものとすれば、欧州経済は2022年後半には回復に向かうものと見られます。その場合、欧州株式を示すMSCI EMU指数も回復することになると見ています。欧州株式は、金融セクターに加えて、資本財・素材・エネルギーなどの景気敏感セクターの比率が高く、テクノロジー関連株の比率は相対的に低いため、欧州域内の経済活動が活発化し、地政学的リスクが後退するような状況になれば、欧州市場にとっての追い風になることが予想されます。

black and white map of Europe

英国

英国経済は今年、強い回復モメンタムの中で始まりましたが、イングランド銀行(BoE)の金融引き締め策、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰、事実上の増税措置である、国民医療保健サービス(NHS)に対する財政的支援のための国民保険料の引き上げ計画などにより減速する見通しです。政府が財政政策を緩和する、あるいはエネルギー価格の高騰を理由に増税を遅らせることも考えられますが、景気減速は避けられそうにありません。BoEは政策金利を3回引き上げ0.75%としました。債券市場は、年内さらに4~5回の利上げを予測しており、その場合には政策金利は2.0%近辺まで上昇します。住宅ローン金利の多くは政策金利にリンクしているため、家計にとっては打撃となります。

このような経済的な懸念があるにも関わらず、FTSE 100指数は今年、相対的に良好な推移を示した株式市場のひとつになっています。FTSE 100指数を構成するほとんどの企業が、英国国外で収益を上げています。同指数は、金利上昇から恩恵を受ける金融株やコモディティのエクスポージャーが高い一方で、下方圧力を受けるハイテク株がほとんど含まれていません。同指数は主要な先進国株式市場の中で最も割安感が認識され、2022年3月時点で3.75%の配当利回りを提供しています。

black and white map of United Kingdom

日本

2022年の日本経済は、これまでところ期待を裏切る結果となっています。引き続き過去トレンド値を上回る成長率を予測していますが、ウクライナ侵攻と中国における最近の都市封鎖政策が新たな逆風となっています。エネルギー製品や食料の輸入国として、今回の紛争により物価上昇圧力にさらされています。日本にとって、中国は米国に次ぐ世界第2位の輸出市場です。中国の経済活動が減速すれば、日本経済も影響を免れません。日本のインフレ率は1%を下回っており、日銀が利上げに踏み切ることは当面ないと考えられます。日本円は明らかに割安な水準と思われますが、日本株式は欧州や英国などその他の非米国株式に比べてバリュエーション上の魅力がやや乏しく映る水準です。

black and white map of Japan

中国

中国政府は最近、2022年の目標GDP成長率について市場予想を上回る5.5%とすることを公表しました。しかし、同国経済は引き続き下方圧力を受けており、この目標成長率を達成するためには、さらに強力な景気刺激策が必要になると予想されます。また、政府がゼロ・コロナ政策を継続していることから、新型コロナウイルスは依然として同国経済にとっての重石となっています。最近になって深圳と上海の一部地域で感染拡大に伴うロックダウンが行われました。どちらも経済的に重要な都市です。深圳にはiPhoneの主要生産拠点もあることから、このことは電子機器のサプライチェーンに短期的な問題をもたらします。不動産セクターは依然として不安定な状況にあり、販売量は減少し、不動産開発業者の信用状況にも不安の兆しが見えます。年末に行われる全国人民代表大会に向けて経済的な安定が重視される中で、インフラ支出という形での追加的な財政支出や利下げを含む中国人民銀行による緩和政策が発動されるものと予想しています。

black and white map of China

カナダ

カナダ経済はコモディティ価格、特にエネルギー価格の上昇から恩恵を受けるものと見ています。ラッセル・インベストメントでは、同国経済の2022年GDP成長率の予想値を3.8%に据え置いていますが、商品インフレの加速はこの見通しに不確実性を加えています。カナダ銀行(BoC)は金融政策の正常化に動き始め、3月にはオーバーナイト・ターゲット・レートを0.25%引き上げ0.50%としました。さらに、今後追加的な利上げを行うことも示唆しています。市場は2022年中にさらに6~7回の利上げを織り込んでいます。インフレ率がBoCによる目標レンジ(1~3%)の上限値の2倍に近づきつつある現状を勘案すれば、これは妥当なものと映るかもしれません。しかし、家計の債務は、新型コロナウイルス感染拡大が始まってから増加しており、積極的な利上げの影響を受けやすくなっています。このため、BoCのアプローチはより慎重なものとなり、今年はさらにあと3~4回程度の利上げを行うに留まるのではないかと見ています。

black and white map of Canada

オーストラリア/ニュージーランド

オーストラリアは現在、経済活動再開の初期段階にあり、パンデミック防止策としてのほとんどの制限措置を解除しているところです。エネルギー価格の上昇により、家計消費が僅かに減少する可能性がありますが、同国は天然ガス、石炭、小麦の大規模な輸出国であり、コモディティ価格の上昇によって恩恵を受けています。過去3か月間で労働市場が逼迫してきましたが、賃金上昇率は依然として抑制されています。このためオーストラリア準備銀行(RBA)は、他国の中央銀行に比べてより忍耐強い政策を採ることができると考えられます。ラッセル・インベストメントでは、市場が織り込んでいるRBAの利上げ見通しは過大なものと見ていますが、それでもRBAは最低でも年内に1回の利上げを行うと見ています。オーストラリアの総選挙は2022年5月21日迄に実施される予定であり、現職のモリソン政権が世論調査で明らかとなった劣勢を挽回しようと家計に向けた財政刺激策を拡大する可能性があると見ています。

ニュージーランド経済も同様に、2021年後半の新型コロナウイルス対策に伴う混乱からの回復途上にあります。ワクチン接種済み渡航者に対してはまもなく国境が開く予定であり、観光業に依存している同国経済のサービス部門を後押しする見通しです。一方、ニュージーランドはエネルギーの純輸入国でもあるため、コモディティ価格が上昇すると、オーストラリアよりも大きな打撃を受ける可能性があります。住宅市場は、住宅ローン金利の上昇の影響から、2022年を通して弱含むと見られます。ニュージーランド準備銀行は引き続き、世界で最も金融引き締めに積極的なスタンスを採る中央銀行のひとつになると予想しています。

black and white map of Australia/New Zealand
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"日本円は明らかに割安な水準と思われますが、日本株式は欧州や英国などその他の非米国株式に比べてバリュエーション上の魅力がやや乏しく映る水準です。"

- アンドリュー・ピーズ

資産クラスの選好

景気サイクル(中期/景気循環)、バリュエーション(長期/割高・割安)、センチメント(短期/投資家心理)(CVS)から成るラッセル・インベストメントの投資戦略決定プロセスでは、米国株式のバリュエーションは引き続き割高と評価しています。英国および新興国市場の株式はほぼ適正水準にあり、欧州株式は最近の株価下落を受けて、僅かに割高な状態にあると判断されます。評価が難しい日本株式も僅かに割高圏にあると見ています。

ロシアのウクライナ侵攻は、景気サイクルの見通しにリスクと不確実性をもたらしましたが、現時点ではまだ世界株式にとっては引き続き支援的で、一方国債にとっては逆風をもたらすものと予想しています。前四半期に刊行したラッセル・インベストメントの「2022年グローバル・マーケット・アウトルック」では、トレンド値を上回る成長と長期金利の上昇は、テクノロジー株やグロース株よりも景気敏感株やバリュー株に対して有利に働く見通しを提示しました。米国株式市場はテクノロジー株の比率が高いものの、非米国市場、特に欧州株式市場では、景気敏感特性のあるバリュー株が高い比率を占めています。しかし、今回の侵攻により、欧州市場の見通しの引き下げを余儀なくされ、また、コモディティ価格が上昇したこともこの見方をより複雑なものにしました。それでも今年はこれまでのところ、景気敏感株/バリュー株がアウトパフォームしています。さらなるアウトパフォーマンスの可能性は低下したと見られますが、年後半にも戦争状態が収束し、欧州における成長見通しが改善すれば、今後も上昇の可能性があると考えられます。

ロシアのウクライナ侵攻は、新興国市場が抱えている問題をさらに深刻化させることになりました。中国経済は既に、不動産市場の低迷や貸出の伸び悩みから既に下方圧力にさらされていました。この状況は、同国政府のゼロ・コロナ政策による主要都市の封鎖によってさらに悪化しました。エネルギー価格やコモディティ価格の上昇も追い打ちをかけています。MSCI中国指数は、テクノロジー関連企業に対する政府規制の強化がまだ終わっていないとの懸念から下落しています。新興国市場全体では、FRBによる金融引き締め策、米ドルの上昇、食料価格の上昇、エネルギー価格の高騰といった困難に直面しています。それでも新興国市場の投資環境は、中国が大規模な景気刺激策を採り、ウクライナにおける戦争状態の収束によってコモディティ価格が落ち着けば好転する可能性があります。しかし、現在はまだ中立的な姿勢が必要な局面と考えられます。

米ドルは今年、FRBのタカ派的スタンスや世界的な紛争に伴う安全逃避先としての魅力から上昇しています。ユーロや円は、長期的な観点ではかなりの割安感が認識されます。今後の見通しには大きな不透明感が付随しますが、ロシアがウクライナから撤退し、インフレ圧力が低下することでFRBのタカ派色が後退する場合、米ドルは年後半にかけて弱含む可能性があると考えられます。米ドル安は、米国以外の株式市場のパフォーマンスを下支えし、新興国市場が直面する逆風の一部を緩和することになるでしょう。

株式市場の「センチメント(短期/投資家心理)」は売られ過ぎ圏にあることを示唆していますが、2018年後半や2020年前半に見られたような「パニック」のレベルにはまだ達していないと判断されます。景気サイクル面の不確実性は、リスク・オンのスタンスを推奨するためには、市場がパニック状態にあるより明確なシグナルを見出す必要性を示していると考えています。

コンポジットコントラリアン指標:株式市場の「センチメント」は「パニック」のレベルにはまだ達していない

Chart 4 Composite contrarian indicator: Sentiment for equity markets still below panic level

  • ロシアのウクライナ侵攻にも関わらず、米国株式対比で非米国の先進国株式を僅かながら選好しています。戦争状態が終息すれば、トレンド値を上回る世界的な経済成長は、相対的に割安な非米国市場に有利に働くものと見られます。
  • 新興国市場株式は、中国経済の減速、エネルギーおよび食料価格の高騰、インフレ圧力を抑え込むための各国中央銀行による金融引き締め政策により、逆風に直面しています。中国において大規模な景気刺激策が今年の早い段階で実施され、FRBが金融引き締めのペースを減速させ、エネルギー価格が落ち着き、米ドルが弱含むことになれば、新興国市場株式市場は回復する可能性があります。現在はまだ中立的な姿勢が必要な局面と考えられます。
  • ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ハイイールド債と投資適格債のクレジット・スプレッドが拡大しました。投資適格債のスプレッドは長期的な平均水準に戻りましたが、ハイイールド債のスプレッドは過去実績に照らして依然として低い状態です。ハイイールド債のスプレッドはロシアのウクライナ侵攻がエスカレートすれば拡大するリスクがありますが、戦争状態が収束し、サイクル面での見通しが改善すれば堅調に推移すると考えられます。このような不確実性を考慮し、クレジット市場の見通しについてはニュートラルとしています。
  • 直近の売却一巡後の各国国債のバリュエーションはまちまちで、米国債は適正水準ながら、日本国債、ドイツ国債、英国債は依然として割高圏にあると判断されます。国債利回りは引き続きインフレ圧力と各国中央銀行のタカ派的スタンスを受けて上昇圧力を受けると考えられます。ポジティブな要因としては、市場が多くの中央銀行による金融引き締めについて織り込み済みとみられることから、さらなる売却圧力は限定的と考えられることがあります。
  • 実物資産:グローバル・リステッド・インフラストラクチャー(GLI)は、エネルギー部門へのエクスポージャーが高いことから、年初来で相対的に高いパフォーマンスを示している資産クラスのひとつです。一方で、不動産投資信託(REIT)のリターンはマイナスとなっています。戦闘が鎮静化し、新型コロナウイルス後の回復が再開し、インフレ懸念が継続する場合、両者ともに追い風を受けることになりますが、GLIはエネルギー・インフラストラクチャーから得たリターンの一部を失うことになると考えられます。コモディティは、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーと農産物価格の高騰を受け、これまでのところ最もリターンの高い資産クラスです。戦争状態が収束すれば、上昇分の一部は反落することになりますが、旺盛な世界の需要と供給側のボトルネックにより、価格は下支えされることが予想されます。多くのコモディティは、先物価格が現物価格を下回るバックワーデーションと呼ばれる状態にあります。このような状態は長年見られなかったものです。バックワーデーションの状態においてコモディティ市場は、コモディティ・ファンドの投資家に金利と同程度のリターンを提供する傾向があります。コモディティ市場のリスクのひとつとしては、中国における景気刺激策が小さ過ぎてさらなる減速を防ぐことができないことが挙げられますが、総じてコモディティに対するエクスポージャーについては、依然としてポジティブに評価しています。
  • 米ドルは今年、FRBのタカ派的スタンスやロシアのウクライナ侵攻を受けた安全逃避先としての魅力から上昇しています。戦闘が沈静化し、年後半にインフレ率が低下していくことでFRBによる金融引き締めが市場で予想されているものよりも弱いものとなれば、米ドルは下落に転じると見ています。このシナリオで最も追い風を受けることになりそうなのは、現在さらに割安感が認識されるユーロ、及び、コモディティ価格の高騰と中国経済の減速懸念により弱含んでいる日本円です。また、英ポンドおよび景気敏感特性のある資源国通貨豪ドルニュージーランドドルカナダドルなど)にはさらなる上昇余地があると考えています。

2022年初来の資産パフォーマンス

Chart 5 Asset-class performance since the beginning of 2022

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"株式市場の「センチメント(短期/投資家心理)」は売られ過ぎ圏にあることを示唆していますが、2018年後半や2020年前半に見られたような「パニック」のレベルにはまだ達していないと判断されます。"

- アンドリュー・ピーズ

1 プライスチャネルは、証券価格が需給の力関係で上下するような事態になった際に形成される。需給の力関係が証券価格に影響を及ぼし、需給いずれか一方の力が他方を圧倒したときに、プライスチャネルの方向性が決定される。

2 デュレーションが長い特性のある企業とは、長期的なキャッシュフローが見込まれる企業のことで、一般的にはハイテク企業や将来の収益において高成長が期待できる企業を指す。

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