あるべき商品ラインナップ—加入者全体の資産の実質価値増大のために

コンサルティング部 エグゼクティブ コンサルタント
荒川 光弘

現状の一般的な商品ラインナップ

日本の企業型確定拠出年金制度(以下 DC)上、運用商品数については3本から35本の範囲内と法令で定められています。2019年度決算の確定拠出年金実態調査結果(2021年2月26日企業年金連合会)によると、商品数は16本から20本のところが32.6%と最も多く(11本から25本の間が76.9%とその大半を占めており)、平均は18.9本となっています。また、商品構成におけるそれぞれの平均は、元本確保型が4.5本、投資信託の日本株式3.6本、日本債券1.5本、外国株式2.4本、外国債券1.9本、不動産1.6本、バランス型(配分固定型)4.1本、バランス型(ターゲット・イヤー型)3.3本、バランス型(リスク・コントロール型)2.4本、その他1.5本となっています。

このことから、多くの制度で商品選択の余地は広いことが伺われます。しかし、商品数が多いからと言って、加入者および運用指図者(以下、総称して加入者)が商品を選択するにあたり、必ずしも便利な商品ラインナップになっているとは限りません。法令で定められた要件を満たすようにリターン・リスク特性の異なる複数の商品が含まれていたとしても、採用している運用商品が多く、商品構成のバランスが崩れていたり、商品名だけでは商品特性がわかりにくく、類似商品が多かったりする場合などは、かえって加入者の商品選択をミスリードしかねません。現状、元本確保型商品のみで運用している加入者の割合が80%以上の企業は6.4% と多くはないものの、指定運用方法を元本確保型商品にしている企業が76%もあります。日本の投資教育は米国などと比べて決して盛んとは言い難く、加入者の資産運用に対する意識も相対的に高くないことを勘案すると、商品ラインナップや指定運用方法を検討するにあたっては、様々な視点での考慮が必要不可欠となるでしょう。

理想的な商品ラインナップとは

それでは、商品構成上、考慮すべき重要なポイントは何でしょうか?いくつかの視点から考えてみたいと思います。まず、制度加入者の投資スタンスの視点です。加入者には、どのように商品を選択したらよいかわからず、長期の運用をお任せできるような商品を望む人が多いと思います。このようなタイプの人(タイプ1)には少数精鋭のバランス型商品(ターゲット・イヤー型商品を含む)が適していると言えるでしょう。しかし、ある程度のサポート2を前提に自分で複数の商品選択を望む人(タイプ2)もいると思います。このようなタイプ2には商品選択の意思決定プロセスに沿ったわかりやすい商品構成を用意する必要があります。商品を選択する場合、大まかには次の流れで選択肢を検討すると思われます。①株式か債券か、②国内か海外か、③アクティブ運用かパッシブ運用か。タイプ2にはシンプルさを優先し、基本構成はパッシブ商品や複数のアクティブ運用を組み合わせた商品(以下、マルチ・マネージャー運用商品)とするのも一つでしょう。また、少数かも知れませんが、自分の考えで自由に商品選択をしたい人(タイプ3)もいるでしょう。このようなタイプ3には、リスク特性の異なる商品ラインナップ(株式や債券以外、同じ株式でも小型株や新興国株など)も用意することができれば理想的であり、運用手法としてはアクティブ商品が中心になることが考えられます。

商品の絞り込みにあたり、パッシブ商品は運用能力に差が出にくく、運用コストの比較で事足りるかもしれません。しかし、アクティブ商品は特性の異なる種々様々な商品が存在するため、絞り込みに苦労することが予想されます。選定のポイントとしては、運用能力が高いことは当然のこととして、広く市場を網羅しているパッシブ商品の特性を基準とし、過度なリスクを取らず、運用コストもリーズナブルな商品(いわゆる運用効率の高い商品)を探すこと、またマルチ・マネージャー運用商品を有効活用することが、最終的には商品数を抑えることにもつながると思われます。複数のニーズを満たそうとすると自ずと商品数は増えてしまいます。理想的な商品ラインナップ構築の鍵は、多くの人の商品選択ニーズもさることながら、様々な投資ニーズを持った人がスムーズに良質な商品選択をできるよう配慮することではないでしょうか。

指定運用方法の指定における注意点

最終的な受取資産額は商品選択の結果であり、投資および払出タイミングの影響にも左右されてしまいますが、商品構成(特に基本的な商品構成)においては、資産の保全というよりもむしろ、できるだけ多くの加入者が資産の実質価値増大を図れるよう工夫する心掛けも必要です。現状、指定運用方法の指定をしているDC制度は40.6%で、まだ過半以上のDC制度では運用指図を行わない人への対応が不十分と言えます。DC制度では、運用の結果は加入者の自己責任であること自体に変わりはありませんが、事業主は制度上の想定運用利回りをできるだけ多くの加入者が上回れるよう、とりわけ指定運用方法で指定する商品(以下、デフォルト商品)選定には他の商品選定以上に配慮が必要でしょう。前述の通り、現状デフォルト商品の76%が元本確保型商品になっています。資産運用が長期に亘ることを踏まえ、短期的視点(短期的に元本割れするリスクの回避)でのデフォルト商品設定を避けるのも、受託者責任の観点から重要と言えるでしょう。

商品評価・選定・入替

商品ラインナップの現状は、運営管理機関や事業主の取引先との関係も考慮されているのが実態ではないでしょうか。運用商品の採用運用会社数は平均7.5社(1社平均2.52本3)となっています。運用能力評価の結果というならまだしも、そうでない場合、採用運用会社数の増加は無駄な運用商品増加につながる可能性が高いため、とりわけ注意が必要です。長期運用を前提として考えると、アクティブ運用商品の採用において運用能力は極めて重要なポイントとなります。例えば、株式で年間1%の収益率格差が生じるとすると、40年の累積ではなんと49%もの差として表れます。程度の差こそあれ、収益率格差はパッシブ商品でも起こり得ます。想定運用利回りが2%前後だとすると、特に目に見えるコスト(運用コスト)の差は無視し得ません。採用する商品選定にあたっては、運用コストの高低にも十分配慮する必要があるでしょう。
商品ラインナップについては、見直しの予定がないところが74%1もあるようです。一旦、商品ラインナップに商品を並べてしまうと、パフォーマンスが長期に亘って低迷したとしても、その商品を選択している加入者もいるでしょうし、なかなか除外しにくいのが現実だと思います。商品選定においては、運用能力評価を含め、客観的な評価基準を用いて行われるべきことは言うまでもありません。ただ、客観的な評価基準と言っても、定性評価(運用体制、人材、投資プロセス、リスク管理体制等)を伴う場合にはかなり専門的知識も要求されます。社内リソースの他、必要に応じてコンサルタント等第3者評価を利用するのも有効ではないでしょうか。
商品を検討するにあたり、加入者の関心を引くような商品(ESGなどテーマ型)を取り入れることも考えられます。しかし、資産の実質価値増大が最大の目的であることから、短期的な流行に左右されることなく、長期的スタンスに立って比較優位な商品を選定し、モニタリングを続ける中で適宜入替の努力をしていくことが事業主に課された責務と言っても過言ではないでしょう。


 

12019年度決算 確定拠出年金実態調査結果(2021年2月26日企業年金連合会)

2人的サポートに限らず、商品選択を誘導するツールを含みます。
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提供商品は1社平均2.52本(=18.9本 / 7.5社):1の数値を使用。