投資戦略の見通し
OUTLOOK

米中貿易戦争の再燃を受け、米国債のイールドカーブは3月に逆イールドとなりました。世界各国の中央銀行は、これを機にハト派に転じ、中国では景気刺激策が実施されています。しかしながら、景気後退リスクを鑑み、ラッセル・インベストメントは、貿易戦争の影響が明確になるまでは、引き続き警戒を要すると考えています。

チャイナ・シンドローム

世界の金融市場は、ドナルド・トランプ米大統領の Twitterアカウントを追い続けています。トランプ大統領が5月5日のツイートで中国からの輸入品に対する関税引き上げを発表したことを受け、12月24日の安値から 5月3日までに25%回復していたS&P500® 指数は翌月にかけて7%下落しました。それ以降、株式市場は回復してきているものの、長期債の利回りは低下、米国債のイールドカーブは逆イールド化し、世界貿易は減速傾向を示し、世界の製造業調査は軟化するなど、引き続きトランプ大統領発言の影響から脱していない状況となっています。

貿易戦争の先行き不透明感から、企業の景況感と世界の貿易高は低迷しており、市場には警戒感が広がっています。さらに懸念されることは、こうした事態が企業収益の伸びの世界的鈍化と時期を一にして起きていることです。JPモルガンの世界企業設備投資トラッカーは、2018 年の大半を通じて健全に伸びていた企業の設備投資が、2019年4-6月期にマイナス圏に落ち込んだことを示しています。足元のリスクとして、企業が雇用を減らし、それが個人消費の減退を通じて自己増強型の景気後退をもたらす点が挙げられます。

貿易戦争がもたらすリスクは、世界のサプライチェーンにも影響を及ぼしています。現代の貿易は、中間財の交換が主流で、世界の貿易の約半分を占めています1。貿易戦争の深刻化による波及効果は予想がつかず、大規模なものになる可能性も秘めています。

一方で、中国の景気刺激策や世界の中央銀行の量的緩和、米中貿易戦争の落ち着きなどから、年末に向けて世界経済が反発する可能性も出てきています。中央銀行の多くが金融の緩和に動くかハト派的な発表を行っており、米連邦準備制度理事会(FRB)も、企業の景況感低下がもたらす景気後退を回避しようと、向こう数カ月間に少なくとも 1 回の利下げを実施する可能性が高まっています。

さらにより前向きな見通しを得るためには、トランプ大統領が貿易戦争の攻撃を緩め、2020年の大統領選再選キャンペーンに集中することが必要です。大統領の再選は中西部からの支持次第となる可能性があり、米国中西部は関税引き上げによる経済的な苦痛を最も受けると見られることから、再選のために貿易戦争の手綱を緩めることは理にかなった選択と考えられます。

しかしながら、トランプ大統領のこれまでの行動から推察すると、対中姿勢を緩めると考えることは賢明ではありません。5 月以降の米中貿易戦争の再びの深刻化、メキシコに対して発動した追加的な脅威、さらには自動車関税をかける可能性 (日本とドイツに損害を与える) 等は、トランプ大統領が今後も「最大限の圧力」をかける意図があることを示唆しています。こういったトランプ大統領の対中姿勢を巡る不透明感及び米国債イールドカーブの逆イールド化、そして企業景況感の低下等を鑑み、ラッセル・インベストメントは、世界の金融市場に対し、当面慎重な見通しを継続します。

逆イールド – 今回は状況が異なる?

最も懸念される指標は、米国債イールドカーブの逆イールドです。逆イールドは過去 50 年間、1 度の誤認警報を除き米国における全ての景気後退を予測してきました。具体的には、アジア経済危機中の1998年の逆イールド、ロシア国債デフォルト、ロングタームキャピタルマネジメント社の破たんなどが該当します。

10年物国債の利回りが短期債の利回りを下回る逆イールドは、経済がFRBの利下げが必要なほど弱まると債券市場が考えていることを示唆しているため、強力な先行指標となっています。

ただし、今回の逆イールド化は、債券市場が貿易戦争の激化懸念と世界の製造業および貿易データに対して過剰に反応した可能性が考えられます。米国経済に対する脅威が過大評価され、FRBによる小幅な利下げをきっかけにさらに 2 年半の経済成長と市場の上昇が実現した1998年に似た状況となることも考えられます。

FRBの利下げ、中国の景気刺激策、貿易協議での妥協が出揃えば、足元の逆イールドからの景気後退シグナルは誤りとなる可能性があります。ここまでの逆イールドは比較的短命で終わりました。今後2、3ヶ月間継続すれば、真剣に受け止めますが、今のところは、慎重な見方を継続する懸念材料の 1 つと考えています。

資産クラスの選好

ラッセル・インベストメントのサイクル、バリュエーション、センチメント(CVS)の3要素から成る投資戦略決定プロセスは、2019 年半ば時点で、世界株式について概ねニュートラルからややアンダーウェイトの見方を示しています。

  • 米国株については、割高なバリュエーション、貿易戦争の激化をとりまくサイクル懸念、景気刺激効果の後退と逆イールド等を鑑み、アンダーウェイトを選好します。米国を除く先進国株式については、概ねニュートラルと見ています。日本のバリュエーションは若干ポジティブ、欧州はニュートラルと、いずれも中国の景気刺激策による輸出需要押し上げ効果を享受すると見ています。
  • 新興国株式の割安感を好感しています。各国の中央銀行は金融政策を緩和しており、新興国市場は中国の刺激策による恩恵を享受すると見られます。しかしながら、足元では、貿易戦争の激化と世界のサプライチェーンの混乱リスクがあるため、慎重な見方を継続します。
  • ハイイールド債は、割高で景気サイクルからの恩恵もネガティブとなっています。これは、収益の伸びが鈍化しデフォルト懸念が高まるサイクル終盤によく見られる現象です。
  • 国債は全般に割高ですが、米国債は日独英の国債に比べ適正価格近傍にあると見ています。世界における貿易戦争の激化と製造業の減退は、サイクルの逆風が若干緩和されたことを意味しています。
  • 実物資産:不動産投資信託 (REIT) およびグローバル上場インフラストラクチャー (GLI) は年初来 2 桁台の高水準のリターンを確保してきました。しかしながら、国債利回りの低下による恩恵が持続するとは考え難いこと、世界経済の鈍化懸念が収益にもたらしていたプラス効果がなくなるリスクがあること、等から、ラッセル・インベストメントは投資スタンスを再びニュートラルに戻します。コモディティには貿易戦争のリスクがあるものの、中国の刺激策からの恩恵を享受すると見られ、現時点でニュートラルを維持します。
  • 通貨は日本円を選好します。日本円は足元で過小評価されており、貿易戦争が深刻化すれば安全な避難先としての魅力が高まると見られます。米ドルは、FRBが利下げを行えば下落する可能性があります。新興国通貨はその恩恵を主に享受すると見ています。ユーロと英ポンドは過小評価されていると考えます。英ポンドは、ユーロ対比上昇ポテンシャルがあり、当面は EU 離脱を取り巻く不透明感から弱含みとなるものの、英国の次期首相が欧州との取引を確保するか、二度目の国民投票が実施される運びとなれば、反発が見込めると考えています。

1出所:『国連貿易開発会議 (UNCTAD) Key Statistics and Trends in International Trade 2018』。中間財とは最終財または最終製品の製造に用いられた財またはサービスを指します。

※ 上記の正式原本は以下英語版のものであり、翻訳文は原本を理解する上での参考資料です。原本と翻訳に矛盾が有る場合は、原本が優先します。

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