年金運営にブレイクスルーを!(第1回)

(効率的な運営を考える)

ご留意事項 必ずお読み下さい

2018年2月8日
本部 崇仁、ヘッド・オブ・インベストメント・ソリューションズ/エグゼクティブ・コンサルタント/年金数理人

世界的に確定給付年金制度(DB)から確定拠出年金制度(DC)への移行が進んでいる。この現象の主な要因は、制度提供者が資産運用リスクなどDBに纏わる様々なリスクに耐えられなくなったとからだと言ってよいだろう。幸い日本の多くのDBは、追加拠出や給付見直し等の運営の改善により、積立水準は良好で、運用目標も低いためサスティナビリティは高いといってよい。一方で、そのことを理解しつつも、制度運営に関する心配が尽きないのも事実だろう。そこで、今回より複数回に分けて、より進歩的な年金運営について少し視野を広げて考えてみたい。

過去の市場環境を俯瞰する

まず、仮想ポートフォリオ(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式にそれぞれ25%配分)を用いて過去の市場環境を俯瞰してみよう。年金運用は一般的に長期運用と言われ、3~5年の期間で評価される。下のグラフは60ヶ月のリターン・リスクの推移だが、2000年を境に状況が変化していることに気づく。2000年以前は、市場悪化時でも平均リターンがマイナスになることはなかったが、2000年以降は、市場悪化の期間が増え、しかも平均リターンがゼロ近傍やマイナスにまで落ち込むようになったのだ。近年、アベノミクス以降、好調が継続しているが、市場が悪化後にどのような推移を辿るかは、非常に興味深い。

なお、リスク(リターンの標準偏差)は、リーマンショックを含む時期は若干高めに推移したが、その後低下している。経済の不透明性などからリスク動向に目が行きがちだが、長期という視点でみた場合、過去と比べリスク水準が顕著に上昇しているとは必ずしもいえない。

資産運用改革の推移

このような環境下、DBは運用改革を進めてきた。特に日本株式を減らし、それ以外の資産を増やしてきたのだ。また、一部では先進的な投資手法(ヘッジファンド等)や投資対象を拡大するなど、分散投資も同時に加速させてきた。

飛躍のためにはブレイクスルーが必要

このように年金運営は日々改革の毎日を送ってきたのだ。改革に終わりはないのは事実だが、一方で限界が見えてきたのも本音ではないだろうか。特定の小さな市場の運用商品に資金が集中する傾向が高まっているのは、まさにその表れだろう。それでは、今後年金運用に大きな飛躍を期待することは困難なのだろうか。そうではないだろう。影響の大きいプロセスに焦点を当てブレイクスルーを起こせば、さらなる飛躍を期待できると考える。

現在の年金運用プロセス

ところで、馴染みのない人もいると思うので、年金運用プロセスを簡単に整理してみたい。年金運用プロセスは、

  1. 投資目標の設定
  2. 投資目標に応じた政策資産配分の検討
  3. 各資産内の運用戦略の検討
  4. 運用商品の組合せの検討
  5. モニタリング
  6. 運用商品の入替え

で構成され、概ね3~5年毎に見直される。なお、運用商品の状況などのモニタリングは月次や四半期毎に実施されるため、想定外の事態が起きた場合には運用商品の入替え等が適宜実施される。

影響の大きいプロセスはどこか

それでは、影響が大きいプロセスはどこだろうか。結論から言えば、政策資産配分の検討プロセスである。過去の実証研究によれば長期的に見て概ね運用パフォーマンスの9割近くが政策資産配分で説明可能と言われている。すなわち、政策資産配分の運営に焦点を当てて、ブレイクスルーを起こせば、さらなる飛躍が期待できる可能性が高いのだ。

実際に時間をかけているプロセスはどこか

しかし、現実的に時間を多く割いているプロセスは、運用商品の管理プロセスだ。必ずしも長期の運用パフォーマンスへの影響は大きくないと言われているが、非常に多くの時間が割かれている。低リターン環境下、様々な代替資産の運用が注目され分散投資が加速していることもあり、その傾向はより強まっている。一部の制度では、モニタリングの頻度を下げる、モニタリングタイミングをずらすなど、作業量の抑制、分散の工夫を行っているようだが、その分だけ影響の大きいプロセスに時間を割いているかは不明である。

効率的にリターンを獲得するために想定されるリソース投入時間と実際の比較

  効率的リターン獲得に向けた理想的な時間の割合(※1)  実際に使われた時間の割合(※2) 
 戦略的意思決定  60-80%  31%
 過去の運用実績レビューと運用機関選定  10-30%  50%
 目の前の課題解決  最大5%  14%
 投資とは関係ない課題解決  最大5%  5%

※1 弊社が考えるリソース配分割合
※2 "Investmtent Committee Decision-Maker Study "Vanguard Investment Counseling & Research(2009)サーベイ結果より(直近のサーベイ結果がなかったため、若干古いデータを使用)
 

サーベイの結果を見ると、現状は必ずしも影響の大きいプロセスに多くの時間が割かれているわけではないようだ。次回は、影響の大きいプロセスに焦点をあて、どのようにブレイクスルーを起こせばよいのか、そのヒントについて考えてみたい。

 

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