コーポレートガバナンス・コード改訂による
企業年金のスチュワードシップ活動への影響

ご留意事項 必ずお読み下さい

2018年8月16日
西村 研一郎、コンサルティング部、シニア テクニカル アナリスト

2018年3月26日、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」で「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」と題する提言が公表された。当会議は池尾和人 慶應義塾大学経済学部教授を座長とし、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする有識者会議である(以下、有識者会議)。当該改訂版は、パブリックコメントの募集を経て、6月1日に施行された。

そこで、本稿では、その趣旨を解説するとともに年金基金の実務への影響を考察する。

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンス・コードとは、株主から経営を付託された責任を果たす(会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る)ために、上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針である。(詳細は以下のHPを参照されたい)

「改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」(日本取引所グループHP)

上場企業に対して、コーポレートガバナンス・コードの原則を尊重してガバナンスの充実に取り組むよう努力することを義務付けている。ただし、各原則の遵守については「コンプライ・オア・エクスプレイン」として各企業に委ねられている。この「コンプライ・オア・エクスプレイン」という考え方は、各原則を順守しない場合、その理由をステークホルダーに説明するというものだ。

コーポレートガバナンス・コードの改訂案

今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂で、企業年金に直接的な影響があると考えられる点は、原則2-6の「企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」である。ここでは母体企業が企業年金に対して人事・運営面の積極的な取り組みを求めている。

上述の原則が施行された背景は、企業年金によるスチュワードシップ・コードの受け入れ表明が進まないことにある。2018年7月3日時点でスチュワードシップ・コードを受け入れている国内の企業年金は12基金にとどまる。有識者会議では、スチュワードシップ活動を含めた運用に携わる人材が質的・量的に不足していることを理由として指摘している。基金型企業年金は、加入者等に必要な給付を行うために、母体企業とは異なる法人で運営されており、したがって、母体企業が運用方針に関する事項へ直接的に関与することは望ましくない。それゆえ、当該原則ではあくまで人事面・運営面での取り組みのみに言及している。

企業年金によるスチュワードシップ・コードの受け入れ表明が進まない理由

スチュワードシップ・コードは投資する側(機関投資家)、コーポレートガバナンス・コードは投資される側(企業)を対象とする規範である。その両輪が、企業価値の向上、企業の持続的成長ならびに投資家の投資リターン拡大という好循環を生み出していくことを目的としている。しかし、コーポレートガバナンス・コードが上場企業に対してその遵守を求めている一方で、スチュワードシップ・コードは企業年金にとっては努力義務の側面が強く、結果的に運用機関主体での受け入れ表明が中心となっている。

ここでは企業年金の受け入れ表明が進まない理由と思われるものを2つ列挙する。

  1. 作業負担やコストの増加に対する懸念
    特に議決権行使について、適切に行われているかをチェック(モニタリング)した上で、ステークホルダーに対して個別の議案毎の行使結果を整理・公表することは、組織規模の小さい企業年金にとっては大きな負担となり得、実際にそのような声は平素のお客様とのミーティングの場においても言及されることが多かった。
  2. 母体企業との関係性
    スチュワードシップ・コードの受け入れ表明は、スポンサーである母体企業に対する議決権の行使に影響を与える。そのため、企業年金は母体企業の意向を尊重し、積極的には取り組まない傾向が強かった。母体企業としても、企業年金のスチュワードシップ・コードへの取り組みについて影響を及ぼすことは、企業年金の独立性と利益相反にかかわる問題と捉え、明確な方針を指示する立場にはないとの判断があったことが想定される。

このような背景を踏まえ、今回の改訂では母体企業側から年金基金のスチュワードシップ・コードへの取り組みに対する支援を促すメッセージが込められたとも言えるであろう。

企業年金によるスチュワードシップ活動の今後

コーポレートガバナンス・コードの改訂を受けて、今後の企業年金の活動に影響が出ると想定される2つのポイントを挙げる。

  1. スチュワードシップ・コードの受け入れ表明の広がり
    母体企業が企業年金のスチュワードシップ活動に対して支援的な姿勢を示し、その後押しを受けてスチュワードシップ・コードの受け入れ表明を検討する企業年金が徐々に増えていくものと考えられる。実際に当社に対するお客様からの問い合わせも、少しずつではあるが、増えてきている。
  2. 運用機関選定時における非財務情報評価への関心の高まり
    スチュワードシップ・コードでは、機関投資家はESG項目のような非財務面の情報も把握すべきとされている。したがって、運用機関がスチュワードシップ・コードを受け入れる場合、ESG情報をどのような形で把握し、企業評価項目の一部に活用しているかが問われるようになると考えられる。アセットオーナーの立場である企業年金は、運用機関選定時にESGのような非財務情報に対する取り組みも評価項目の一つとして認識していくことになろう。

企業年金がスチュワードシップ・コードの受け入れ表明を行う場合、多くは自家運用を行っていないアセットオーナーとしての立場であることから、運用受託機関に対してスチュワードシップ・コードに沿った活動を求めることとなる。理想論から言えば、運用受託機関の策定した対応方針や行動が適切かどうかを、委託者としても判断できる実力を備えていることが望まれる。スチュワードシップ・コードの受け入れ表明が形骸化しないためにも、今後は母体企業の支援に基づく体制整備とともに、受け入れ表明に足る真の実力を備えるための地道な努力が肝要となろう。

 

 

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