「仮想通貨」と「暗号資産」―どちらが正しい認識か?

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2019年5月23日
喜多 幸之助、コンサルティング部長

 

「暗号資産」のレッテル

2018年3月、ブエノスアイレスで開催されたG20では、「仮想通貨」については、消費者および投資家保護、市場の健全性、脱税、マネー・ローンダリングなど様々な問題を抱えるとして、「通貨」の名には値せず「暗号資産」と呼ぶべきとされた。これを受けてわが国でも呼び方を変えようという動きがある。「通貨」がよくて「資産」が悪いという議論は、にわかには腑に落ちづらいかもしれないが、この改名の背景にはその特性が問題視されたということがある。

呼び名が定まらないのは以前から

「名は体を表す」という言葉があるが、こちらは逆に実態に合わせて名前が変遷してきた経緯を持つ。2016年初に書かれたIMFのレポート1では、デジタル通貨(Digital currencies)→仮想通貨(Virtual currencies)→暗号通貨(Crypto currencies)と、新たな特性が加わることにより呼び名が変わってきたことが示されている。すなわち、体をぴったりと表す名がなかなか見つけられなかったということである。しかし、ここまでは「資産」ではなく「通貨」という名がついている。海外での通称は「暗号通貨」なのだが、以下では日本語の通称である「仮想通貨」を用いて話を進める。

勝手に膨らんで弾けたバブル

広く知られている通り、仮想通貨市場は2017年から2018年にかけてバブルの生成と崩壊を経験した。仮想通貨全体の時価総額は、2017年1年間で177億ドルから5,600億ドル(2017年末時点、ピークは2018年1月8日の8,290億ドル)と32倍に膨れ上がったが、間もなく急落し、2018年末時点で1,310億ドルと4分の1になってしまったわけである2。サブプライムローン危機がグローバルな金融危機の引き金になったのとは異なり、仮想通貨バブルの崩壊は実体経済にあまり直接的な影響を及ぼさなかった。「億り人」という流行語を生んだ一方で自己破産者も出したが、多くの国民にとっては関係のないところで勝手にバブルが膨らんで弾けたと言えよう。

本来の目的は「価値の交換」

元来仮想通貨が期待されていたのは、国による信用力を背景としない仕組みで国籍関係なく、低コストで価値の交換を行えることであった。しかし、高いボラティリティを伴うと価値の交換には用いづらくなる。また、価格が上がると送金コストが既存手段対比で上昇するという問題もある3。ポイントは、資産価値の上昇が起きると送金コストが上がり、「価値の交換」という本来の目的を阻害するという構造であるにもかかわらず、市場参加者は資産価値の上昇を期待している点にある。「通貨」と呼ぶ価値がなく「資産」と呼ぶべき4というのは、ソブリン通貨としての主要な特性を欠いている、という意味が込められている。

ビットコイン型の仮想通貨には限界がある?

仮想通貨における課題は様々挙げられるが、主要なものとしては、①取引所の破綻・通貨の不正流出問題、②マネー・ローンダリングの温床、③通貨自身の信頼性への疑念、④ICO(仮想通貨による資金調達)にまつわる懸念等が挙げられる。世界の大国が規制強化の方針を出す中、日本では、金融庁が仮想通貨の法的位置付けを定義し、交換業者の法規制を整備してきた5。しかし、その後、2018年に2件の受託仮想通貨の大型外部流出事案が発生し6、再発防止を含め利用者保護への取組みは引き続き必要と考えられている7。上記に加え、市場構造の偏向という課題もある。未だ時価総額で不動の1位なのがビットコインだが、最大のこの市場でさえ3%の保有者が95%以上のコインを所有するという極めて偏向した状況となっている。

ビットコインの仕組みが生み出す偏向問題

ビットコインがよって立つブロックチェーンは、公開された取引台帳を参加者全員で維持している仕組みである。1取引を1ブロックとすると、取引認証がされるごとにそのブロックがつながっていく。中央管理者がいなくても、そのブロックが公開されているため改竄がほぼできないと言われている。取引認証をするマイナーという主体がブロックチェーンの維持に重要な役割を果たすわけだが、このマイナーに取引成立の報酬として新規発行されたコインが支払われる。この仕組みが、少数のマイナーにコインが集中するという市場の歪みにつながっている。しかも、巨大保有者同士が連絡を取れる関係にあるケースも多いと言われている。これでは後発の投資家はカモにならないようにするだけでも大変そうだ。

「価値の交換」へのニーズは消えていない

しかし、国際決済における送金手数料の低廉化と迅速化、という本来のニーズは全く消えていない。ビットコインとは異なり、中央管理者がいるタイプ8の仮想通貨もある。邦銀では三菱UFJ銀行のMUFGコインの実用化への試みが先行する中、みずほ銀行を中心に約60の金融機関がJコインというデジタル通貨を発行することとなった。さらに、楽天、アップル、グーグル、NTT、IBM、SBI等名だたる企業が仮想通貨事業への参入を表明9している。これら企業はバブル再生を望んでいるのではない。上記MUFGコインやJコインは原則1コイン=1円であり、値上がり益は狙わない仕組みである。日々莫大な決済が行われているが、その決済の効率化によって大きなメリットを生む余地があり、この分野には今後も投資機会があると期待されている。ただし、この「価値の交換」の役目を担うのは「暗号資産」のレッテルを貼られたこれまでの仮想通貨から出るのだろうか、それともこれから開発される仮想通貨から出るのだろうか。

仮想通貨を決済においてより活躍させるには

価値の交換目的で使用されるには、まずボラティリティが小さいことが必須条件となる。そのためには主要通貨に対するペッグ制を採ることが必要になり、そうなると必然的に中央管理者がいるタイプの仮想通貨が該当する。これは反面教師の例と言えるかもしれないが、既存仮想通貨の中にもドルペッグ制を採る「テザー」という通貨がある。2015年3月の発行以来1テザー=ほぼ1ドル近辺で推移しており、大きく振れた時でも0.91から1.06ドルの枠内に収まっている。使いやすさが好感され、時価総額で見て10位という規模にまで成長している10。一方、このテザーには運営の信頼性への疑念がしばしば提起されており、総称して「テザー問題」といわれる11が、運営にあたってはこのような疑念を持たれてはならない訳である。すなわち、ペッグ制を運営するには同額の裏付資産が必要とされるため、中央管理者には取引量に対応した資本力が必要になる。また、仕組みが維持されるような運営の透明性確保は必至である。テザー問題を逆に読むと、資金力と信頼性のある金融機関や会社が中央管理者となって発行する通貨は、一定の期待ができるとも言えよう。

新しい投資機会

信用ある金融機関やネット企業が発行するデジタル通貨であったとしても、限定されたネットワーク内で流通するような、いわゆる電子マネーと同じ仕組みでは限界がある。電子マネーは、マネー・ローンダリング対策から送金の上限が100万円に制限され、大口送金には使えないという難点がある。「仮想通貨」として定義付けされ、取引所で他の通貨と交換できる方が、より幅広く用いられる余地が出てくる。三菱UFJ銀行は、世界最大級の仮想通貨取引所であるコインベースに出資・提携している。ちなみにシンガポールベースの政府系投資ファンド(SWF)であるGICも、ファンドを通じてコインベースに対して本年2月に出資したと報じられた。仮想通貨取引所には問題を起こしたケースもあるが、投資機会があると見られるケースもあるわけだ。他にも、ベンチャーキャピタルを通じて海外公的年金が取引所やブロックチェーン技術に投資したという例が報じられている12。ブロックチェーン技術による決済・取引の効率化は、投資テーマの一つと言えそうだ。

終わりに

「暗号資産」のレッテルを貼られた「これまでの仮想通貨」には、明るい未来は見えづらい。一方、ブロックチェーン技術には引き続き大きな期待が集まっている。すなわち、より効率的な価値の交換手段としての「将来の仮想通貨」には十分な活躍余地が考えられ、関連ビジネスには投資機会があると考えられる。もちろん、銀行や大企業の発行する仮想通貨であれ、ペッグ制の維持、巨額取引への対応、透明性確保など課題はあり、結果として成功しない(流通範囲がさほど広まらない)可能性もある。投資機会を探るには、将来の「価値の交換」の役割を担う主体の行方を見定めることが重要である。なお、取引所への投資について言及したが、仮想通貨取引所も従来のボラティリティに依存したビジネスモデルから、決済サービスの対応へと舵を切らなければ生き残れないと考えられる。この業界でも大きな変化の波は不可避なことが窺い知れる。

投資家としては、「暗号資産」のレッテルに囚われず、今後も「仮想通貨」というキーワードでこの業界を注視していけば十分な投資機会があると考えられる。

 

ご参考として弊社の季刊紙「コミュニケ(日本版)」2017年冬号「仮想通貨:金魚鉢の中のバブル」も、この機会に是非ご一読ください。

1Virtual Currencies and Beyond: Initial Considerations IMF Staff Discussion Note 2016/1
2Coinmarketcap.comのデータに基づく。
3 例えば、取引所の一つであるビットフライヤーの場合、送金手数料が0.0004BTC(BTCはビットコインの通貨単位)である。2017年12月末の価格(1BTC=約150.2万円)で送金手数料を計算すると約600円となり、銀行の通常の手数料(100~400円)を上回ることとなる。
4法定通貨以外のものに「通貨」という呼称を用いることが、国がお墨付きを与えたと誤解させるという指摘もある。
5改正資金決済法等の施行(2017年4月)
6 1月にコインチェックで580億円相当、9月にZaifで67億円相当の不正流出事件が発生。
7金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書 2018年12月21日
8ビットコインが寄って立つブロックチェーンをパブリック型、中央管理者がいるタイプをコンソーシアム型と呼ぶ。
9仮想通貨に関連した業務は、トークンの発行、取引・交換、決済、マイニング、ICOからブロックチェーンを活用したプラットフォーム提供など様々で、各社の参入方法もまちまちである。
10Coinmarketcap.comのデータによる、2019年4月8日時点
111)発行量に相当するドルがあるのかという疑念、2)取引所Bitfinexとの関係性、3)市場操作疑惑、4)監査忌避疑惑等が挙げられるが、状況改善やテザー側の反論もあり、あくまで疑いの域を出ていない。
12韓国公的年金NPSがベンチャーキャピタルを通じて国内の4つの取引所に投資した例、米公務員年金制度がベンチャーキャピタルの立ち上げたブロックチェーン技術に投資するファンドに投資した例等が報道されている。

 

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