「#DeleteFacebook(フェイスブックのアカウントを削除しよう)」

データ・プライバシーへの懸念の波がソーシャル・メディアを襲う

ご留意事項 必ずお読み下さい

2018年6月4

クリス・ネルソン、ラッセル・インベストメント(米国) グローバル株式 シニア・リサーチ・アナリスト

今回は、ラッセル・インベストメント(米国)のグローバル株式の運用機関調査アナリストが、フェイスブックの個人情報の不正利用をきっかけとした一連の動きについて、リサーチャーの視点からコメントしたブログを和訳しました。運用機関を評価する立場のアナリストが、個別銘柄の事象をどのように捉えているのか、ご参考となれば幸いです。

※以下は、2018年4月にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載されました英文記事を抄訳したものです。

3月16日、イギリスの政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカが5千万人ものフェイスブック・ユーザーから不正に情報を入手したことが報じられた1。フェイスブックは現在、米選挙法違反の疑いでも非難を受け、同社のデータ保全・監査手続き・開示について厳しい調査を受けている。問題の発覚以降、株価は17%以上下落している(本記事を執筆した4月9日時点)2 。我々の見解では、株価の下落は、フェイスブックの成長と最終的な収益に対する3つの潜在的な脅威を反映したものと見ている。

  1. 同社への処分と規制の可能性
    米連邦議会委員会の求めに応じ、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は上下両院にて4月に議会証言を行った。一部の議員は、フェイスブックに対するさらなる開示を強制する法案を作成しており、欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)3」や過去の米国での判決などに基づき、フェイスブックは米国と欧州で1兆ドルを超える罰金に直面する可能性があると推測する記事もある4
  2. #DeleteFacebook運動を受けての、登録者とそのデータの減少
    これらはフェイスブックの人気や利用状況に対する脅威であり、最終的には同社の収益に影響を及ぼす。人々の心情を示す指標の1つとして、検索条件「フェイスブックの削除方法(how to delete facebook)」が3月15日以降、Googleトレンドのデータで300%上昇したことが挙げられる。



    出所: Google トレンド、2018年3月30日時点。
  3.  広告メディアに対する価格交渉力の低下リスク
    世界最大級の広告メディアの一部はボイコットに動き、譲歩を引き出し、デジタル広告予算を削減したと報じられている5

我々の立場

ラッセル・インベストメントは、マルチ・マネージャー・ポートフォリオにて採用する運用機関の投資判断を通してのフェイスブックの株主であるが、我々の株式ポートフォリオでは現在かなりアンダーウェイトのポジションとなっている。代表的なファンドの保有比率は、MSCIワールド株式指数における1.0%のウェイトの半分以下である6

採用する運用機関の考え方

アクティブ運用の運用機関は、この動きを一時的な調整なのか、重大な転換となるものなのかを慎重に見極めようとしており、我々としてはそのプロセスを積極的にモニターし、評価に生かす考えでいる。このような議論を呼ぶ状況は、アクティブ・マネージャーのスキルを確認・評価するための重要な手段・材料となる。フェイスブックの進展を見つつ、我々は同社の保有上位の運用機関にコメントを求めてきたが、今後の収益性に関する運用機関の見解は様々である。

見解の相違は、基本的に投資ホライズン(期間)やバリュエーションに対する感応度(短期か長期か)の違いにより整理できる。例えば、

  • リスクを認識しつつも、長期のファンダメンタルズについては前向きな見通しを維持する運用機関:政府の規制は既存企業には配慮する傾向、金銭的損害賠償は小さく象徴的なものにとどまる可能性が高い。• フェイスブックのビジネスは景気に左右されにくく持続可能な成長が見込み得る、よって16倍の予想P/E (株価収益率)は魅力的と判断。
  • 同社の成長性と圧倒的な支配力は魅力なるも、本年1月につけた過去最高の株価水準には慎重な運用機関:既に一部利益確定に動いていた運用機関も含め、株価の調整を受けての現在のバリュエーションが追加投資の機会を意味するかどうかを見極めようというスタンス。
  • 想定投資期間が短めの運用機関:規制や法律上の不透明感が解消されるまではフェイスブックへの投資を控える。

これらの運用機関の判断が正しいか間違っているかを語ることは、当社の役割ではない。むしろ、各アクティブ運用の運用機関が行うデュー・デリジェンスと最終的な意思決定が、彼らの哲学とプロセスから我々が理解し期待していることを反映したものであるかを、判断することとなる。

ESGの視点

一部の運用機関は本件にESG視点を取り入れる動きも見られる。ラッセル・インベストメントは、独自のリサーチに基づき、「環境(E)、社会(S)及びガバナンス(G)のESGファクターは株価に影響を及ぼし得る」と考えており、本件は正に該当するケースと見ている。

デジタル・セキュリティの問題は企業の社会(S)とガバナンス(G)の問題につながる悩みの種で、投資家の一部はフェイスブックのESGスコアにレッドカードを出している。例えば、ノルデア銀行は、責任投資関連のファンドのポートフォリオ・マネージャーがフェイスブック株に投資することを少なくとも3カ月間禁じた7。また、株主の懸念が払拭されなければ、フェイスブックは今後、リスク監視委員会の設置や、情報コンテンツに関する規定や管理方法に関する厳しいディスクローズを株主から求められる、等も予想され得る8

独立した評価機関も、それぞれの立場から意見を示している。本件を受け、サステナリティックス(ESG評価機関の一社)はフェイスブックについて、ESGスコアとは別の定性基軸(「ESG論点」レーティング)を引き下げた9

一方で本件は、多くの運用マネージャーや評価機関等に、改めて見解が求められるきっかけとなった。なぜなら、ESG評価機関のスコアは、投資タイミングや将来の株価の予見性に対しては付加価値がほとんどないことが示されたとも言えるからである。フェイスブックのデータ・プライバシー・リスクについては何年も前から指摘されていたことであり10、にもかかわらず同社の株価は2014年1月から本年年初までに223%も上昇していたのだ11。最近のESG評価機関による格下げは、プライバシー侵害を受けた後付けの対応に我々には見える。

つまるところ、ラッセル・インベストメントとしては、ESGファクターがどのように株価にインパクトを与えるかについての深い理解が、付加価値を提供するスキルの高い投資プロセスの鍵となる、と考える。よって、本ケースでは運用機関のESGアプローチの有効性の確認には有用だと感じている。

なぜなのか? ラッセル・インベストメントは、関心の高い運用機関群に対しては、定期/不定期にアンケート調査を実施し、その結果は定性評価と合わせて参照するが、加えて本件のような事象も活用する。例えば、なぜフェイスブックに投資していたのか/していなかったのか? その投資判断に至るにあたり、リスクとして認識していたものは何だったのか? こうした視点を通じ、それぞれのアプローチにおけるニュアンスの違いが理解できるのである。

全般的な傾向として、多くの運用機関が第三者のデータ機関を採用し、国連の「責任投資原則」(UNPRI)署名者であることを宣言するなど、ESGに配慮していることを表明する傾向が加速している。これらは少なからず、グリーンウォッシング(表面的な環境への配慮)のために形式を整えているように我々には見えなくもない。このため、我々の運用機関調査プロセスは定性的かつ総体的な評価に重点を置いており、それにより運用機関がESGを意識するとともにESG効果を期待できるものであるかを判断することができる、と考えており、そこに違いがある。

今後のウォッチポイント

フェイスブックはこの種の論争に巻き込まれた最初の企業というわけではなく、大規模なデータの不適切な利用は残念ながら新しいものではない。エクイファックス、ターゲット、ヤフーも同様のセキュリティ上の過失に苦しみ、その後市場評価と消費者の信用が失墜した。一側面での比較にすぎないが、フェイスブックの17%の株価調整は相対的には抑えめな反応である。エクイファックスの株価は、2017年9月のプライバシー侵害の報道を受け、2週間の間に35%下落した12。市場は、少なくとも今のところ、フェイスブックの見通しについては一時的に下落しているだけだというシグナルを送っているようだ。

とはいえ、運用機関には状況を注視し続け、進展や市場の変化に応じて自身の投資判断を継続的に検証することを我々は期待している。これらのデータやプライバシーに関する規制上、社会的、ビジネス上の課題は、アップル、ツイッター、グーグルなどの巨大企業だけでなく、データを基盤としたビジネスモデルの企業であればどこにも当てはまる。フェイスブックの場合、ユーザー登録数の変化だけが全てを物語るわけではない。ユーザーの一部は登録を維持しつつも、アクセス条件を厳しく設定しなおし、そのデータ収集や共有に制限をかけるケースもあるだろう。このことは、デジタル広告支出や消費者心理動向についての特定のインディケーター(指標となるもの、前述のGoogleトレンドの チャートよりも洗練されたもの等)をモニタリングし、分析に生かしている運用チームが、優位な立場となり得ることを意味する。

つまるところ、この不祥事の容易な解決は期待していない。いずれにせよ、消費者とデジタル上の閲覧履歴を手に入れたい企業との間には、テクノロジーをめぐる利益を競う関係にあり、その関係は進化を続けることとなる。したがって、業界の動向、市場のファンダメンタルズ、そして急速に進展するリスクがもたらし得る潜在的な影響は、フェイスブックの投資家にとって多次元的なパズルを生み出し、それらに付随するリスクを注意深く考慮するアクティブ運用機関は、投資機会を捉える優位性を発揮することができるのかもしれない。

 

1 この推計値はその後増加し、2018年4月4日付、ロイターのIngram, David氏の記事が、“フェイスブックはデータの漏洩が8千7百万ユーザー分に上るといっており、プライバシー・スキャンダルは拡大”と報じました。
https://www.reuters.com/article/us-facebook-privacy/facebook-says-data-leak-hits-87-million-users-widening-privacy-scandal-idUSKCN1HB2CM
2 出所: https://finance.yahoo.com/quote/FB/history/、2018年4月9日時点。
3 出所: https://www.eugdpr.org/
4 2018年3月26日付、マーケット・ウォッチのBarry, Emily氏の記事が、“フェイスブックは連邦取引委員会(FTC)の調査により、巨額の罰金に直面する可能性がある” と報じました。
https://www.marketwatch.com/story/facebook-could-face-huge-fines-in-ftc-investigation-2018-03-26
5 2018年3月26日付、ウォール・ストリート・ジャーナル、Vranica, Suzanne氏の記事が、“FacebookとGoogleは勢いづいた敵対者、大手広告業者に直面している” と報じました。
https://www.wsj.com/articles/facebook-and-google-face-emboldened-antagonists-big-advertisers-1521998394
6 出所: MSCI World Index、 2018年3月30日時点。
7 出所: https://www.nordea.com/en/press-and-news/news-and-press-releases/press-releases2/2018-03-21-nordea-puts-investments-in-facebook-on-hold-for-stars-funds.html
8 2018年3月26日付、バロンズ、Norton, Leslie氏の記事が、“Facebookの株主がデータ・プライバシーに関して議決権行使を迫る” と報じました。
https://www.barrons.com/articles/facebook-shareholders-force-data-privacy-vote-1521852511
9 本件を受け、サステナリティックス(ESG評価機関の一社)は「フェイスブックのユーザーのデータ管理について、並びに、〝重大なプライバシーへのコミットメント″と〝ビジネス・ニーズからの期待″とのバランスを取ることができるのか、についての深刻な疑問」を理由に、フェイスブックの「ESG論点」のレーティング(controversy rating、ESGスコアとは別の定性評価の軸)を引き下げました。出所: Sustainalytics、2018年3月26日時点。
10 2014年3月22日付、ニューヨーク・タイムズ、 Goel, Vindu氏の記事が、“プライバシーへの配慮は? フェイスブックはプレッシャー受け、メッセージを理解している” と報じました。
https://www.nytimes.com/2014/05/23/technology/facebook-offers-privacy-checkup-to-all-1-28-billion-users.html
11 出所: https://finance.yahoo.com/quote/FB/history/、2018年4月9日時点。
12 出所: https://finance.yahoo.com/quote/EFX/history

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