ニッチな投資商品の発掘

(損害保険戦略)

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2018年3月7日
荒川 光弘、コンサルティング部 エグゼクティブ コンサルタント

個人投資家の方にはあまり馴染みがないかもしれないが、年金基金など機関投資家の間では以下の観点から高めの利息を受け取ることができる代わりに、大規模な自然災害などが生じた場合には、投資家に対する利息の支払いや払戻元本が減価する債券であるCatastrophe Bond(CATボンド:大災害債券)などを組入れて運用を行なう保険戦略投資がここ数年広がりを見せていた。

  • 分散効果の観点(保険取引は金融市場の動きとは関連性が低い)
  • 安定収益の観点(大災害が起きなければ債券のようなクーポン収入が得られる)

しかし、2017年夏に複数の巨大ハリケーンが米国大陸に上陸したことから、保険戦略投資は軒並み大きな損失を計上し、保険取引が本来負っているテールリスクが顕在化してしまった。ここでは、改めて損害保険戦略の持っている特徴と今回の損失の内情を紐解いてみたい。

 保険戦略(損害保険取引)とは

人は家を所有すると、火災や自然災害(台風、洪水や地震など)の被害に備えて、その補填のために保険契約者として保険会社と保険契約を締結し保険料を支払うことが多い。保険戦略が行う損害保険取引も考え方は同様で、保険会社が保険契約者から一旦引き受けたリスク(損害が発生したときに保険金を支払うリスク)の一部(例えば上位部分:損失が一定額以上になった時のその上回った部分)を再保険として保険会社から引き受け、その対価として保険料を受け取るものである。

CATボンドは、このような保険リスクを市場で取引出来るように債券の形態に組成されたものとも言え、引き受けるリスクのレイヤー(階層)が最上位になっている(相対的にリスクが小さい)ものも多いことから、保険市場への参加を比較的容易にしたとされる。

その半面、市場規模が小さいため債券価格は需給の影響を受けやすく、昨今の需要の拡大(低金利環境下、一般の債券と比べてリターンが魅力的なことが主因)に伴い、リスク対比も含めてリターンは低下傾向にあった。

一部の保険戦略の運用機関は、ファンド全体のリスクをコントロールしつつ、安定的なリターン獲得のための工夫を凝らし、保険会社と相対で(市場を通さず)様々な保険取引を行なった。これらは2017年夏に複数の巨大ハリケーンが米国大陸等に上陸するまでは、リターンの安定化にある程度寄与していたと言えよう。

ハリケーンの上陸件数は例年並み

昨年は米国本土へのハリケーン上陸が多発したわけでもなく、「偶々運悪く」と言った方が実態に近いのかもしれない。今まで巨大といわれるハリケーン(カテゴリー4以上)が過去25回(166年間で)米国本土に上陸したが、1年で複数回上陸することはなかった。

それが昨年は2つが米国本土に上陸(ハービーがテキサス州、イルマがフロリダ州)、さらにカテゴリー5(最大)のマリアが米国准州プエルトリコと米領・英領バージン諸島に上陸した。この過去に例のない事象により、2017年累積の保険損失額は過去最大規模になると推測されており、保険戦略投資は少なからず、損失計上を余儀なくされている。

商品特性により損失額はまちまち

3つのハリケーン発生当初は、CATボンド中心(上位のレイヤーリスクの引受けが多い)のファンドといえども、保険損失額の不透明さからCATボンドが市場で売り込まれた影響を受け、2桁近いマイナスを計上した。しかし、それぞれのハリケーンの最大保険損失見込みが引き下げられるに伴い、それらのファンドは幾分値を戻しつつある。

一方、相対での保険取引が中心のファンドは、想定以上に損失を計上しているものが多い。その理由としては、引受けレイヤーに起因することの他、累積損失型保険取引が多かったことによる。ハリケーンによる損失が2回、3回と累積されていく中で、相対の保険取引は大きな損失を被り(保険取引のテールリスクが顕在化し)、単月で20%近い損失を計上するファンドも散見された。

複数の巨大ハリケーン上陸の前例がなかったため、ある意味、今回の損失計上は致し方ないものとも捕らえられるかも知れない。しかし、今般、テールリスクが顕在化してしまった以上、今後はこのような事象も想定の範囲内としたファンド運営が望まれよう。

保険戦略は絶好の投資機会なのか?

昨今、地球温暖化が叫ばれており、気候変動の激化に繋がるとの観点から「今後は大規模自然災害が多発する」と予測する人も多いだろう。しかし、ここ数年で見ても保険取引に直決する大規模自然災害が多発しているという事象は確認できていない。保険の引受けリスクに対する保険料/プレミアム(投資家にとってはリスクに見合ったリターン原資)は毎年行われる保険契約の更新時に見直されるので、昨年の災害状況を踏まえた今後の水準動向が注目されるところであるが、需給の関係も大きく影響する。過去の事象を振り返ると、大規模災害により多額の保険損失を計上した翌年は、保険料/プレミアムが上昇している。

保険戦略の運用機関が2017年の経験を活かせると考えれば、足元、相対での保険取引にチャンスが到来しているとも捉えられる。しかし過去最大規模の保険損失計上が見込まれるからと言って、翌年のプレミアム自体を適切に予測することは困難だ。少なくとも損害の発生した地域ではリターン/リスク効率の良い投資機会が出現しそうな予感を持つこともできようが、昨年の損失計上後も当該戦略への資金流入が継続しているなど、需給関係からリターンが期待ほどには上がらないのではとの見方もある。この機会をどう捉えるかは投資家の考え次第だ。

 

 

 

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