AIはファンドマネージャーを不要にするのか

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2018年1月19日
鹿子木 亨紀、運用部 シニア クライアント ポートフォリオ マネージャー

 

「AI(人工知能)」はすっかりバズワードとなり、新聞でもAIの文字を見ない日はなくなった。すっかりブームとなった今、AIという言葉は意味が不明瞭なまま使われ、これが本当にAIと言えるのか?と首をかしげる事例も少なくない。ガートナー・ジャパンが発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2017年」でも「人工知能は、まさに『過度な期待』のピークに差し掛かっている」と指摘している。

https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20171003-01.html

投資の世界においても「データ分析では人間はAIに勝てない。人間のファンドマネージャーがいなくなるのも時間の問題」等々、AIがすべてを変えるかのような議論がされることもある。果たして本当にAIはすべてを変えて、ファンドマネージャーは絶滅してしまうのだろうか?

なぜいまAIが注目されているのか

AIという分野が確立されたのは1950年代と言われており、以来半世紀以上にわたりさまざまな分野で研究がされてきた。この一分野に、大量の学習データを解析して規則性や関係性を見つけ出す機械学習(Machine Learning)分野がある。機械学習においても、長年かけて少しずつ技術開発がすすめられてきた。

ここ数年のAIブームは、機械学習の一技術であるディープラーニング(深層学習)におけるブレイクスルーが引き起こしたと言えるだろう。インターネットやIoT(Internet of Things、「モノのインターネット」とも呼ばれる)によって大量のデータが利用可能となったこと、GPU(Graphics Processing Unit、グラフィックス プロセッシング ユニット)の利用などで計算能力が飛躍的に向上したことがこのブレイクスルーをもたらしたと言われている。ディープラーニングは、特に画像分析や自然言語処理のタスクにおいてそれまでの機械学習アルゴリズムの性能を大幅に上回る結果を叩き出しており、自動車の自動運転や機械翻訳などの分野で飛躍的な進歩が期待され、あるいはすでに実現している。

クオンツ運用の進化 ~ビッグデータの活用

さて投資の世界では、従来からクオンツ運用という手法がある。これはデータを定量分析することにより運用モデルを開発し、モデルに従って人手の介入を最小限にして投資を行うという手法である。クオンツ運用のアルゴリズムは、最適化計算や主成分分析、時系列分析などの機械学習の技術を取り入れて進化を重ねてきた。では投資の世界において、近年の機械学習技術の進歩がもたらすインパクトは何であろうか?

伝統的にクオンツ運用に用いられてきた株価収益率(PER)や自己資本利益率(ROE)や株価モーメンタムといった企業財務情報や過去の株価等のデータとは異なる、「非構造データ」、あるいは「ビッグデータ」と呼ばれる新しいデータが注目されている。これまで分析するのが難しかった非構造データについて機械学習技術を活用して分析し、投資判断モデルを向上させる動きがみられる。新しいデータを活用する主な例を3つ挙げる。

  • 自然言語分析:ニュースフローやアナリストレポート、決算発表などを自動的に分析することにより、マクロの市場センチメントやミクロの企業業績等をいち早く予測する。

  • トランザクション分析:販売時点情報管理(POS)やクレジットカードの取引データ、Webトラフィック等を分析して売買活動の動向を把握し、個別企業や特定業種の収益動向を予測する。

  • 画像解析:ディープラーニングによる画像分析で、小売店の駐車場の衛星写真から混雑度合いを検出し、そのトレンドから小売業チェーンの売上動向を予測する。また、石油パイプラインの衛星写真から稼働率を推定する試みも見られる。

ラッセル・インベストメントが高く評価しているクオンツ運用機関においても、ビッグデータ分析に積極的な会社では、データサイエンティストや機械学習エンジニアといった新たなスキルを持った人材を採用してリサーチチームを拡充し、ビッグデータを運用モデルに組み入れている。財務データや過去の株価といった伝統的なデータに非構造的なビッグデータを組み合わせ、運用モデルを常に向上させようとしている。

新しいデータを用いた投資モデルを開発しても、他社が同じ情報に基づいて投資しはじめるとモデルとしての有効性はすぐに失われるため、クオンツ各社は有効性が失われたモデルはすぐに除外し、まだ誰も見ていない新しいデータの開拓にしのぎを削っている。伝統的な定性判断に基づく運用手法に比べ、むしろビッグデータを活用するクオンツ運用のほうが人海戦術の勝負になっている傾向が見られる。

ファンドマネージャーは要らなくなるのか

さて、このようなAIを用いたビッグデータ分析が進化していくと、ファンドマネージャーは要らなくなるのだろうか?現時点での筆者の考えはNoである。

上述したように、AIによるビッグデータ分析は運用モデルの進化をもたらしている。しかし永久に有効な投資モデルというものは存在せず、どのようなビッグデータが投資に有効かを判断し、リサーチアジェンダを決めるのは人間の役目である。また、過去データおよび現在利用可能なデータに基づく予想には限界がある。想定外の市場環境の変化には対応できないし、政治や規制による環境変化はモデル化しづらいものの典型である。

AIやクオンツ運用には、人間の感情に左右されない投資判断を、より数多く、一貫性を持って、より早く下すことが可能となるというメリットがある。AIが人間を置き換えるのではなく、AIを使いこなしたファンドマネージャーが高いパフォーマンスをあげる。そういう時代が来るのではないかと考える。

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