長期的戦略としてみた場合の
ダウンサイドプロテクション。

ご留意事項 必ずお読み下さい

2019年7月11日
本部 崇仁、ヘッド・オブ・インベストメント・ソリューションズ

市場が不透明になると注目を浴びる商品がある。それは、株価の暴落の影響を抑制するためのダウンサイド・プロテクション(以下、「DSP」という)だ。既に運用機関等から紹介され、一度は検討したことがある担当の方も少なくないだろう。DSPは株式に対する保険的な性格を持つため、経済環境が不透明になった時に注目される傾向が強い。このため、一般的に戦略的というより、環境に合わせて戦術的に利用されている。

ところで、DSPを戦略的、すなわち長期保有した場合の影響について深く考えたことはあるだろうか。理論的に見れば、DSPの長期保有はコストや効率性の問題で不利に働く可能性が高く、戦略的に利用するのはあまり得策ではないかもしれない。すなわち、「そんなにおいしいものが世の中にあるわけはない」ということだろう。しかし、これはあくまで理論的な話であり、実データを使った長期的な検証例はあまり見ない。そこで今回、1990年以降の過去データを用いてシミュレーションを行い、DSPの長期保有の可能性について確認してみたいと思う。なお、誤解を生まないために申し上げるが、限られたデータに基づく分析であり、普遍性や法則、そして将来を保証する分析ではないことに十分留意いただきたい。

シミュレーションの目的

まず、今回実施したシミュレーションの目的とその方法について整理する。目的は以下の3点である。

  1. DSPの長期保有の特徴をみつけること
  2. どのような条件を満たすと、どのような結果になるのか?
  3. 長期保有する意義は見いだせるか?

DSPのモデルとしては、予め下値フロアを設定した上で、相場環境に合わせて株式エクスポージャーを先物売買で調整する運用戦略(ダイナミック・ヘッジ)を想定した。なお、実際の運用商品では、より高いリターンを稼ぐために株価上昇に合わせて先物売買のルールを変更するラチェットアップなど様々な工夫が凝らされているが、個別の商品特性を再現することが難しいため、本シミュレーションではわかりやすさを重視し、シンプルな前提条件で考えた。

一般的にこのタイプの運用戦略の要諦は、予め定めたフロア水準を守り、かつ、アップサイドの原資産(株式)への追随率を結果として高めることに代表される。実際には、運用スキームと相場環境の関係でフロア水準を守れない場合も完全にないとは言えないが、シミュレーションでは、フロアを固定しつつ、原資産価格に対する追随率を変化させることで様々な運用商品の特徴を表現することとした。なお、追随率は相場環境によって大きく変動しうるため、予め運用目標やガイドラインに含めることはないようである(ラッセル・インベストメント調べ)。

具体的には、代表的なインデックス(国内株式としてTOPIX、外国株式としてMSCI Kokusai Index)の年率リターン(1月から12月で計算)を使い、下値フロア、運用報酬等を加味した上で、長期リターン等を以下の条件で比較検証した。

なお、インデックス・リターンがマイナスの場合にベータの補正を行わなかった理由は、商品の性格上、相場がもみ合うと上昇時の株式追随率(追随率)が低下するなど、リターンパターンによる影響を受けるが、簡易分析ではそのことが見込みにくいため、できるだけ保守的に条件を設定したかったからである。また、運用報酬は必ずしも平均的な運用報酬水準を意味してはいないが、限られたヒアリングに基づき原資産と保守的に対比できる水準とした。

超長期の分析で見ると

トップバッターの分析は、追随率を変えた1990年以降の平均リターンと累積リターンの比較だ。

 国内株式は、失われた20年の影響もあり、平均リターンは、年-0.91%と低調だった。結果として上昇トレンドが強くなかったこともあり、追随率があまり高くなくてもDSPありの方が良好だった。上昇トレンドが強くない場合、上昇の風をつかむより、マイナスの影響を抑制する方がより効果的であることが確認できる。

外国株式の平均リターンは年7.36%で、長期で見て非常に良好だった。DSPの平均リターンは、追随率で異なるが2.73%~5.30%でプラスとなった。平均リターンで見た差異は数%だが、長期の累積で見ると、複利効果があるため差異は小さくない。なお、ダウンサイドを抑制しつつ追随率を高めればDSPありも原資産(DSPなし)に近づくことができる。そして、スペースの関係で記載していないが追随率が約80%あれば原資産と同水準になった。

これらの結果は、ある意味理論的に想像されていることを裏付ける結果と言ってよいだろう。ここまでの分析で終了すれば一般的な分析と変わらない。今回は、より多面的に考察を進めていきたい。

リターンが年-10%以下になる頻度やマイナスの“質”はどうか

DSPを長期保有すべきかどうかを実践的に検証するためには、実際の市場で-10%が発生する頻度やマイナスの“質”を知る必要がある。例えば、発生頻度が極端に低ければやる意味がないからだ。

1990年以降の実績をまとめた図が下の通りである。リターンが年-10%以下になる頻度は、29年間のうち、国内株式は10回、外国株式は4回であった。国内株式は、実に34%の割合でリターンが年-10%以下になり、とても頻度が高かったと言えよう。

次にマイナスの“質”について考えてみる。マイナスの“質”とは、例えば、市場がマイナスリターンになった場合にどの程度の頻度で年-10%以下になってしまうのか、そしてその場合の傷の深さなどが挙げられる。

1990年以降(29年間)、リターンがマイナスだった年数は、国内株式、外国株式それぞれ、13年、10年だった。そのうち年-10%以下だった割合は、国内株式、外国株式それぞれ77%、40%となった。

国内株式と外国株式を比べた場合、国内株式はマイナスになる頻度が若干高い。なによりも特徴的なのは-10%以下になる頻度である。国内株式は一度マイナスになると、実に8割近くが年-10%以下に落ち込んでしまったのだ。なお、傷の深さも、国内株式の方が若干深かったものの、外国株式との差はそれほど大きくはなかった。国内株式は、傷つきやすく、一度傷がつくと中々出血が止まらない傾向にあった。

長期に原資産と同程度のリターンになるための追随率とは?

下方リスクが抑制されていることから、基本的に原資産への追随率が高い程リターン効率は高まる。次は、原資産と同程度のリターンになるためのDSPの追随率について確認したいと思う。

分析結果は、以下の表のとおりだ。縦軸に投資開始年度、横軸に投資期間で交点に原資産と累積リターンが同率となる追随率を表示した。なお、見方を簡単に説明すると、例えば国内株式、1993年(上から4段目)、10年(一番右)の交点のマスは30%になっている。これは、DSPの追随率が30%であればDSP有無で累積リターンが変わらなかったことを意味する。なお、追随率ゼロとは、原資産のマイナスが大きいため、ダウンサイド・リスクだけ抑えることができれば追随率がゼロでも問題なかったことを表す。

分析結果を眺めると短期では、相場の影響を強く受けるため当該追随率にバラツキが存在するものの、長期になると落ち着いてくることがわかる。例えば投資期間10年(一番右の列、サンプル数20個)の平均を算出すると、国内株式は追随率42%、外国株式は追随率65%で、原資産と同程度の累積リターンになった。この追随率が、原資産と同程度のリターンをターゲットにする場合の期待したい追随率と言ってもよいだろう。なお、繰り返しになるが、追随率は相場環境によって大きく変動しうるため、予め運用目標やガイドラインに含めることは難しい。

リターン水準で見てみると

次に、投資開始年度(1990年以降)ごとに投資期間別リターンを算出し、それを平均したものを比較してみよう。狙いは、投資期間別で見た場合の傾向を知ることだ。これにより、DSPの効果的な投資期間についてのヒントが得られるかもしれない。なお、DSPの条件は追随率を50%、運用報酬0.35%にてシミュレーションしている。なお、表の「マイナスの平均」とは、仮にリターンがマイナスになった場合における、それらのデータ群の平均である。「マイナス確率」とは、リターンがマイナスになった確率を示す。

国内株式においてDSPの平均リターンは、原資産と比較した場合に短期的(6年以下)には振るわなかったが、長期的(7年以降)には逆転した。ただし、原資産に対する勝率は、投資期間4年以降で50%を超えている。当然ではあるが、マイナスリターン環境ではDSPありの結果は良好であった。そして、マイナスになる確率が低下し、その傷も浅くなっている。

なお、短期的にDSPの結果が振るわなかった理由は、マイナスのリスクは抑制されたが、追随率50%ではプラスの反転メリットを十分に取り込めなかったことによるものと言える。恐らくこの結果は、反転局面でリターンを十分に享受できずもどかしさを感じた運用担当者の印象と近いものと思われる。

外国株式は、上昇率が高いこともあり、いずれの投資期間もDSP追随率50%では、DSPの平均リターンは原資産に対し劣後した。勝率もあまりよくない。

興味深いところは、DSPのマイナス確率が中長期にゼロに収束している点だ。限られた期間の分析とは言え、1990年以降で見た場合に長期でマイナスになる確率がゼロになる特徴があったことは、特筆すべきと言えるだろう。一般的にひとつのアセットクラスへの投資は10年、20年と超長期になる。中長期的にマイナスになる確率がきわめて抑制され、かつ一定の投資リターンがあるのであれば、DSPを株式の一部としてではなく、異なる資産クラスとして継続的に投資することも一つの選択肢になるかもしれないからだ。

まとめ

最後に今回の分析結果をまとめ、簡単な考察を加えてみたい。

《分析結果のまとめ》

  1. 資産種類や環境によって異なるが、一定レベルの原資産への追随率が見込めれば、長期で見てDSPが原資産に対してリターンが劣後しているとは言えなかった。
  2. 原資産と同程度の長期リターンを獲得するために必要な追随率は相場環境等によって差異があった。また、国内株式の方が低い傾向が確認された。
  3. 仮に原資産と同程度のリターンが獲得できないとしても、中長期でマイナスリターンの水準やその確率が抑制された。

一般的にDSPは原資産の枠組みの中で短期的、戦術的に利用が検討されることが多いだろう。しかし、外国株式の投資期間1–2年のDSPの勝率は10%前後しかなかった。短期で成功するためには、ある意味、10%の確率を当てる相場観が要求されると言ってもよい。これを容易とみるか困難とみるかをここでは論じないが、原資産との比較ではなく、DSPそのものの長期パフォーマンスに焦点を当てると別の面が見えてくる。それは、過去実績に基づくシミュレーションという前提ではあるが、一つの資産として見ても魅力があるということだ。これはすなわち、DSPを株式の内枠として見るのではなく、異なる資産とみなし、腰を据えて投資する対象としての可能性を示唆しているともいえよう。多くの年金制度が成熟化していく中で、大きなマイナスリターンは制度運営上もっとも避けるべき事態の一つのはずだ。③のポイントにより光を当て長期的視点で戦略的にDSPの活用を検討してみてもよいかもしれない。

 

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※市場の変動パターンによっては、市場上昇時の追随率が大きく変動することがあります。例えば、市場の変動の結果、組入れファンドと同額まで先物の売建てを行った場合などは、その後の市場上昇時のベータを享受することが出来ません。

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  • 先物市場の取引停止または先物市場における先物取引の制限もしくは流動性急減により、モデル上必要なトレードが執行できないケース

などが考えられますが、フロア以上の損失が発生するのはこれらに限定されるものではありません。また、運用商品の運用スキームによって影響の大きさは異なります。

※DSPは、その成功が、使用されるモデルの有効性に依存する戦略です。モデルは通常過去の市場データから導き出された仮定を取り入れています。こうした仮定の一部 または全ては、時の経過とともに不正確であることが判明することがあります。例えば、モデルにおいて利用する過去の市場データにかかる取引市場の停止のような事象は、モデルにおいて予定されておらず、モデルの不正確性の要因となります。後になって正確でないことが判明したモデルを使用し、ポジションが僅かなリスクしか有していないと判断していた市場参加者が結果的に莫大な損失をこうむることは過去に何度も発生しています。

 

  
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