新興国市場:転落か?単なる低迷か?

ご留意事項 必ずお読み下さい 

2018年8月24日
グラハム・ハーマン、ラッセル・インベストメント(豪州) シニア・インベストメント・ストラテジスト

※ 以下は、2018年8月16日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。

新興国市場は、それぞれ異なる経済圏として世界に幅広く点在しており、形態や規模、政治体制、交易・財政状況は極めて多様である。この中には、中国やインド、ブラジルなど、規模としてはフランスやイタリアに匹敵するような世界最大級の経済市場もあれば1、チリ、ハンガリー、チェコ共和国のように、たとえば経済力ではニュージーランドよりは大きいものの、米国の約1%の規模にすぎない小さな国々も含まれる2

世界の主要な新興国市場の株式指数と債券指数は、構成国が多少異なるものの、ともに約20カ国を対象としている。通貨市場における投資機会はさらに幅広く存在する。多様性に富む多くの人口を抱えながらも、大抵は小規模な市場であることを踏まえると、新興国市場の経済圏は、サクセスストーリーや投資家の嘆き、眉をひそめるようなヘッドラインニューズがないまぜになった万華鏡のようなものだ。

混迷した現在の新興国市場を深掘りする前に、新興国市場への投資を支持する理由として従来から挙げられていたポイントを、改めて見直してみよう。主な要点は以下の通りである:

  • 熟成中の経済にふさわしい高い成長率実績。世界の新興国市場における実質的な国内総生産(GDP)の成長率は、2018年に4.5%に達している3
  • 先進国と好対照をなす、若くダイナミックな人口構成。中米、アフリカ、インド、東南アジアの就業年齢人口の年間成長率は1%から2%である一方、西側の先進国では-1%である4
  • 歴史的に魅力的なバリュエーション。株価収益率および株価純資産倍率に基づくと、現在の新興国市場の株式は、先進国と比較して、15%から20%のディスカウントで売買されている5。同様に、新興国市場の債券指数は、先進国と比較して4%のプレミアムが乗った利回りで取引されている6

ならば、今の新興国市場は何がいけないのか?

まず、すべての新興国市場が上記にあてはまる訳ではない。例えば、ブラジルの実質GDP成長率は、ここ数年、プラスの領域に食い込めずにいる。一方、中国では人口構成が問題となっている。30年以上続いた一人っ子政策のために、今後数年間で労働力の縮小が始まる可能性が高いと我々は確信している。また、インドの株式市場は一段高いバリュエーション指標に基づき取引されていると見ている。

次に、新興国市場は妥当な株価水準に比してより大きな成長性があるという見方について、いくつかの間違いがあると我々は考えている。まず、多くの新興国には、賢明な政策立案を確実にするためのチェック機能やバランス機能がほとんど存在せず、ガバナンスに疑問が残ると思われる。さらに、程度の差こそあれ多大な債務を抱えており、中には債務がハードカレンシー(自国通貨ではなく先進国主要通貨)建ての国もある。

債務国の中には、貿易収支が赤字を計上しており、資金調達源を投資家の信頼に依存している国もある。一般的に、より脆弱とされる国として、トルコ、アルゼンチン、ハンガリー、インドネシア、インド、ブラジル、フィリピンなどが挙げられる。さらに、一部の新興経済国は、わずかに1つか2つの輸出産業に依存しているため、世界のコモディティ市場の変動に大きく翻弄される。また生産性や収益性も問題になる可能性がある。多くの新興国では、総資産利益率(ROA)が妥当な水準になかなか達せず、自己資本利益率(ROE)は財務レバレッジによってのみ支えられている場合が多い。結局のところ、経済を取り巻くさまざまな環境が数多くあり、新興国市場それ自体と同じように、採用ないし却下すべき投資案件が多数存在するのである。

トルコの通貨危機:炭鉱のカナリアか?

トルコ、アルゼンチン、南アフリカ、インドネシアなどの新興国市場における近年の問題に、投資家は迅速に対応しているが、これは各国の困難を、その国独自のものであるとみなしていることになる。つまり、全体としては小さく、自らが招いた問題であるというわけだ。確かにそうかもしれないが、カウンターパーティーリスクをチェックする価値があると我々は考えている。たとえば、トルコの通貨危機を中心に見ていくと、スペインとフランスの銀行はトルコ向けの貸出から生じる損失の影響を大きく受けるということを、我々は認識している。しかし、銀行資本の1%や2%程度のエクスポージャーしかないほとんどの債権国にとって7、現段階では管理可能な状況だと考える。実際、主要中央銀行の政策立案者が金融政策の引き締め姿勢を緩め得る限り、現在の新興国市場の調整が、そうならなかった場合に比較してより効果的な刺激策を引き出す可能性が高い。

しかし、現在の悲惨な状況はまだそれほど深刻ではないものの、新興国市場の投資家のみならず、あらゆる投資家は、2018年の新興国市場の危機が、より深刻で、より体系的な地球規模の問題の兆候である可能性に注意する必要がある。 これが、「トルコは炭鉱のカナリア」論だ。そして、過去9カ月の点と点を結び物語を構成するのは、そう難しいことではない。このような見方をするに当たって影響力の大きかった出来事は、米国連邦準備理事会(FRB)が10年間も金融緩和を続けた後、2017年になって量的緩和から量的引き締めへと軸を移すことに踏み切ったことだろう。その後、2018年2月初めには米国株式が急落し、その月の後半にはアルゼンチンが通貨暴落に見舞われた。つぎにFRBが過去3年で6回目となる利上げを3月に実施すると、4月にはロシアルーブルが下落、5月には金相場が調整、6月には南アフリカ・ランドが暴落した。6月にFRBが再び利上げを実施し、トルコは8月に本格的な危機的モードに入った。一方、米ドルは、同じ期間に堅調さを維持している。

偶然だろうか?

偶然だろうか?
おそらくそうかもしれない。しかし、状況は新興国の市場・資産と同様に、先進国にとっても潜在的に重要であり、今後も注視が必要であると考えている。

ただし、少なくとも今後6カ月から12カ月の間は、このような世紀末論は考えられないことから、相対的に良質な新興国市場への選択的投資を、現時点では検討する価値が十分あると、我々は考えている。 多くの新興国市場では、依然として高い成長と有利な人口構成が存在するだけでなく、多くの場合で、良好な投資機会が存在し、資産価格の割安感が強まっていると我々は見ている。証券市場だけでなく、通貨市場においても、投資家が「新興国市場」のラベルが貼られたあらゆる資産を無差別に売却しているため、同様の状況であると考えられる。

結局のところ、一時的な理由により一時的に投資家から敬遠されている良質な資産を購入することこそが、投資機会を利することに繋がるのではないだろうか。

原文はこちら

 

1出所:https://www.weforum.org/agenda/2018/04/the-worlds-biggest-economies-in-2018/
2出所:http://www.imf.org/external/datamapper/NGDPD@WEO/OEMDC/ADVEC/WEO/JPN/FRA
3出所:http://www.imf.org/external/datamapper/NGDP_RPCH@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD
4出所:http://futurehrtrends.eiu.com/report-2015/profile-of-the-global-workforce-present-and-future/(United Nations Population Division)2012年時点における2010年~2030年の見通し。
5出所:トムソン・ロイター データストリーム。2018年8月15日現在。
6出所:トムソン・ロイター データストリーム。2018年8月15日現在。
7出所:国際決済銀行(BIS)。スペインは例外で、この尺度におけるエクスポージャーはかなり高い。

 

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