企業型確定拠出年金(企業型DC)で“顧客本位”が守られ難い3つの理由

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2018年2月1日
喜多 幸之助、コンサルティング部長/エグゼクティブ コンサルタント 

 

「企業型DC 割高コストに批判」(日経ヴェリタス2017年4月9日~15日号)では、「金融機関が運営管理機関として機能」し、顧客に「グループ企業の運用会社が運用し、信託報酬が高いもの」を勧めていると報じられている。無論、あくまで一部の例に過ぎず、真摯に受託者責任を果たそうとしている運営管理機関も知っているし、それが大半だと信じている。しかし、報道にあるように、確定拠出年金法で規定される忠実義務の精神が軽んじられる例が実際に見られるのは残念なことである。

顧客本位と自社利益のトレードオフの問題は、多かれ少なかれどの業界でも見られる。神の見えざる手によって価格が適正水準に決まり、顧客も満足し企業も一定の利益を上げられるというのが理想的である。全ての参加者がフェアプレーをしてゲームでの勝利を目指すのが原則だが、現実は自由競争が働かず価格が高止まりする例もあるし、逆に過当競争で企業が無理をしなければならなくなる例もある。

たとえ苦しくなっても参加者にフェアプレーを守らせる為にあるのが「ゲームのルール」である。ちなみに、企業型DCについても金融庁の確定拠出年金運営管理機関関係の法令指針等において厳しい規制が定められている。しかし、ルールがあるにもかかわらず、前述の記事のようなケースが起きている。

ルールがあるのに何故このようなモラルハザードが起きてしまうのか。ここでは、ゲームの成り立ちそのものにおける問題について指摘したい。以下3つの問題が運営管理機関の「顧客本位」を阻む大きな理由と考えている。

  • 理由1 運用商品選定上の責任の曖昧さ

    企業型DC実施の主体は、制度実施企業である。確定拠出年金制度にかかる法令上、企業には規約周知義務や投資教育の提供義務と共に加入者に対する忠実義務が定められている。次に、運用商品の選定を含む運営管理業務は、運営管理機関に委託することが一般的となっている。多くのケースでは、運営管理機関が商品ラインアップを提示し、企業と相談しながらその中から従業員に提示する商品を絞り込むことになる。この際、企業がどれだけ強く絞込みに関与したとしても、確定拠出年金法上商品の選定責任は運営管理機関が負うこととなっている。

    こうなったのは、一般企業は金融商品の知識に疎い場合が多く、過度な負担がかからないよう行政が配慮したためと言われている。しかし、当該ルールは、企業の責任意識を希薄化し主体性を損なう副作用を持つとともに、責任を負う側の運営管理機関には責任範囲を限定するべく商品ラインアップをなるべく狭めようとするインセンティブを与えかねない。

  • 理由2 運用商品提供における情報の非対称性

    上述の通り、運営管理機関が制度実施企業に「①商品ラインアップ」を提示し、企業はその中から「②従業員に提示する商品」を選定し、従業員は絞り込まれた商品の中から投資する商品を選ぶ。従業員にとっては選ぶ前に2段階の絞込みがあるわけである。それぞれの過程で情報提供側が情報受領側より多くの情報を持ち、絞込みのプロセスが必ずしも示されるわけではない。すなわち、情報の非対称性があり、様々なインセンティブが働く可能性がある。
    例えば、①の段階では、運営管理機関ないしグループ企業にとって有利な商品が優遇されるインセンティブ、②の段階では、取引金融機関への配慮の上で商品が選好される等のインセンティブが考えられる。

  • 理由3 業界の収益性の問題

    企業型DCの規模は2015年度末で10.6兆円(厚生労働省調べ)と同時点の確定給付企業年金の2割弱に過ぎない。2000年の確定拠出年金法制定当時に見込まれていた資産規模は、この数倍だったと記憶している。すなわち、DCビジネスの規模は当初の期待値と比較して大分縮小したことになる。それに加え、大手顧客による値下げ要求が起こり、過当競争の様相も見受けられる。当ビジネスの収益性に対する更なる圧力が負の影響をもたらさないかが心配である。本来サービス提供者側の企業努力で解決するのが筋であるが、やはり適正な利益水準が確保されないとフェアプレーを続けるのは難しい面もある。

 

ちなみに、理由2・3はこの業界特有のものではなく、多くの分野で見られる現象であるといえるかもしれない。こういった問題に対しては、制度実施企業が企業型DC運営にコミットし、運営の質を高めることで大部分クリアできる。理由1で述べた問題については、企業が積極的に選定に関わりその過程を従業員に開示していくことで乗り越えることが出来る。2つ目は、企業が従業員の立場に立った上で自身で情報収集をしていけば、情報の非対称性を埋めていくことが出来よう。3つ目については、運営管理機関のビジネスを理解し適正なフィー水準の元にその専門性の発揮を促すことが肝要である。

6百万人以上が加入する企業型DCが国民資産形成における重要な柱であることは論を待たない。「顧客本位」と本格的に向き合い、業界関係者全員で健全化に向けた動きを加速していくことが急務と考える。

 

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