2019年ESG運用機関アンケート調査

 

※以下は、2019年9月5日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。

 

概要

投資判断における「環境、社会、ガバナンス(ESG)」要因の重要性は飛躍的に高まり、今や熟達した投資プロセスにはESGの理解が欠かせない、と思われるまでになった。ラッセル・インベストメントは、投資管理において、この重要かつ進化し続ける点を顧客が上手く舵取りできるよう努めている。こうした観点から、弊社は株式、債券およびプライベート市場などで活動する運用機関300社1を対象として、いかにESG課題を投資プロセスに組み込んでいるのかを理解するためのアンケート調査をグローバルに実施した。本レポートでは、以下のカテゴリーにおける結果を報告する。

  • 責任投資方針の形式化
  • ESG関連調査の専任スタッフ
  • 定量的なESGデータの使用
  • 投資先企業へのエンゲージメント

ESGの方針と専門家という面での企業の取り組み

所属する組織が企業全体で責任投資の方針を策定してきたかを尋ねたところ、驚くことに回答のあった運用機関の82%が方針を整備している。これは2018年の調査結果から26%増であり、わずか1年間で大幅に上昇したことになる。図表1の通り、前年比で割合が最も増加したのは比較的小規模な運用機関(すなわち、運用資産残高(AUM)が100億ドル未満および100–300億ドル)であった。これは、2018年時点で既に導入が確立されていた大規模な運用機関ほどのリソースが無くても、小規模な運用機関におけるESG課題への取り組みが高まっていることを示唆している。

 

さらに、ESG課題専任の人材を配しているかについても尋ねた。運用資産残高が500億ドルを超える運用機関の約80%では、ESG特有の課題に業務時間の90%以上を費やす専任のプロフェッショナルがいる。対照的に、運用資産残高が500億ドル未満の運用機関でESG専任のプロフェッショナルがいるのはわずか20%に過ぎない。比較的規模の小さい運用機関は、責任投資の方針を通じてESGインテグレーションへの取り組みを示してきたが、これらの努力を支えるための人材配備については未だ大幅な進歩は見られない。

投資判断を下すためのデータ活用

定量的なESGデータを投資プロセスに活用する運用機関が一段と増えている。回答のあった運用機関の73%は定性的・定量的データの組み合わせにより、ESG特有の洞察を得ている。2018年の調査結果と同様、今年の回答機関も、社内で作成されたものと社外から提供されたESGデータを組み合わせて使用している。最も多く利用されている外部のESGデータのプロバイダーはMSCI、Bloomberg、SustainalyticsおよびISS/oekemである。一方で、定性的データのみに基づきESG洞察を得ていると回答した運用機関は21%と、2018年の44%から減少し、情報源には直接的なエンゲージメント、会社報告、規定文書および外部のベンダーなどが挙げられる。

エンゲージメント

運用機関の86%が、ガバナンスは引き続き最も重要なESGの構成要素であると回答した。経営陣との定例会議で常にESG項目を取り入れると回答した運用機関の数は、2018年に比べ48%増加した。投資先企業とのエンゲージメントが重要であるという認識が高まり、努力がされているということは大きな進歩である。図表2では、運用資産残高が5,000億ドルを超える運用機関の100%が経営陣との会合で、常にまたは時折ESGに関する話し合いを行っており、運用資産残高が100億ドル未満の運用機関の79%も同様であることを示している。

ESGが意思決定に影響

投資決定においてESGファクターの影響が高まっている。回答した運用機関の55%が、重要なESG課題が投資決定を促すとしている。回答した運用機関の36%(2018年実績は28%)が、ESG課題を投資プロセスに統合することでリスク調整後のリターンをより優れたものにすることが当初の動機であった。

地域格差

2018年の調査結果と同様、ESGの統合については地域ごとに明確な格差があることが観測できる。大陸欧州、英国、日本、オーストラリアおよびニュージーランドは図表3のように米国やカナダの同業他社に比べ、UNPRI(国連責任投資原則)の署名の点で優位にある。

2018年に既に企業との定期的なエンゲージメントで強みを発揮していた地域は引き続きその傾向が強まっている。図表4に見られるように、2018年の時点でエンゲージメントという点で世界的に先行していた地域は、2019年もそのポジションを維持している。調査対象となった全地域の中で、米国は経営陣との会合で常にESGに関する議論を含めるという点で大きく後れをとっている。

1ESG調査の出所:ラッセル・インベストメント リサーチ