2022年ESG運用機関アンケート調査:ESG追求の動きが加速

ラッセル・インベストメントは、世界各国の株式、債券、リアルアセット、プライベート・エクイティの運用機関を対象に、2022年ESG運用機関アンケート調査を実施した。このアンケートの目的は、運用機関の責任投資への取り組みと投資プロセスにおけるESGインテグレーションの状況を評価することである。

主なサーベイ結果 

当社のESG運用機関アンケート調査は今年で8回目を迎える。2015年の調査開始以来、この年次アンケート調査は年々進化し、トレンドや責任投資への取り組みについての考察を深めてきた。

本稿では、2022年ESG運用機関アンケート調査のサマリーとして以下を取り上げた。

  • 最大のESGテーマ:顧客が最も注目するのは気候変動リスク
  • 最も成長しているESG商品セクター:ESGインテグレーション
  • 運用機関がESGを考慮する上での最大の課題:顧客のESGに対する多様なニーズ
  • ESGデータへの懸念:ESGデータやその開示方法には、依然として課題が多い

顧客にとって最大のESG課題は主に気候リスク 

ESG戦略提供の状況について理解を深めるために、運用機関が現在提供している商品の種類を、ネガティブ・スクリーニング、ESGインテグレーション、ベスト・イン・クラス/ポジティブ・ティルト、インパクト投資/テーマ投資に分類するよう依頼した。資産クラス全体で見ると、今まで提供されている戦略の中では、ESGインテグレーションの割合が最も高い。さらに、過去12カ月間で顧客の関心が最も高く、運用資産額の伸びが大きい運用戦略について尋ねた。その結果、ESGインテグレーション戦略に対するニーズが比較的強いことが明らかとなった。ESGインテグレーション戦略は、MSCI EAFE IndexやBloomberg Barclays Global Aggregate Indexなどの伝統的なインデックスをベンチマークとする戦略であることが多い。

最終的に、投資家が望んでいるのは、環境や社会にとって有益な目的に貢献する投資と、インパクト投資やテーマ投資の戦略が一致することであり、そうした望みが、すべての資産クラスにおいてこれらの戦略商品の増加として表れたものと考えられる。

ESG商品の増加―牽引役はESGインテグレーション 

ESGファクターには多岐にわたるトピックが含まれるため、本調査では、運用機関に対して顧客からの言及が多く、最も重要なESG課題となっているものを、単一回答で尋ねる質問項目を設けた。気候危機への意識の高まりを反映するように、気候リスクを選択した回答機関は45%にのぼった(前年は39%)。また、環境問題全般を選択した機関は23%であった(2021年度は21%)。気候リスクが自社の顧客にとって最大のESG課題であると回答したのは、カナダ、英国、オーストラリアおよびニュージーランドの各国に所在する運用機関であった。気候リスクと環境問題一般を合計し、環境関連として1つにまとめた場合、これを重視する顧客の比率が最も高いのは、大陸欧州、オーストラリア、カナダであった

運用機関にとって、ESGを組み入れる際の最大の困難は顧客ニーズの多様性 

ESGインテグレーションは、いまや資産運用業界では広く認知されているが、運用機関がESG要素をどう扱うかについては、依然さまざまな見方が存在する。こうした多様な見方への理解を深めるため、本調査では回答機関に対して、ESGに関連する情報をポートフォリオ構築に組み入れる際に生じる最も難しい課題を、単一回答で尋ねる質問項目を設けた。

回答した資産運用機関の18%が挙げたのが、クライアントのさまざまなニーズに対応するという課題であった。ESGで特に重視する内容はクライアントによって異なるため、この回答を理解するのは難しくない。たとえば、あるクライアントは気候リスクに対応する銘柄を中心としたポートフォリオ構築を希望するのに対して、別のクライアントは社会的課題に対応する銘柄を希望するといった状況もあり得る。また、回答機関の16%が挙げた、ESG要素が価格に与える影響が不透明であるという課題も、同じく重要である。さらに、「その他」を選択した機関が35%にのぼることも注目に値する。このうち過半数が、データの透明性と一貫性にも大きな問題があるとしている。これは、データをめぐる困難について本レポートで取り上げた内容とも一致している。

ESGに関するレポーティング―標準化が徐々に進みつつある 

TCFDフレームワークなどのESG関連の報告ガイダンスへの注目は高まる一方だが、報告内容には依然として大きなばらつきがある。本調査によれば、報告項目として現在最も普及しているのは炭素排出量である。

今回の調査結果で、若干の変化が見られたのが、ESGプロファイルのレポーティングの元になるデータの出所である。昨年の調査では、ESG特性データやESG評価指標については、第三者のESGデータ・プロバイダーの提供するデータではなく、社内で算定したデータを用いる運用機関が増加傾向にあるという結果が出た。しかし、今年の調査では、第三者評価機関によるESGデータを使用しているとする場合と、独自に算定しているとする場合がちょうど半々に分かれた。この結果は、当社の観察とも一致する。運用機関に聞き取り調査を行うと、第三者のESGデータ・プロバイダーから提供されるデータには問題が多く、社内で独自にESG分析を行なって補完しなければならないという声を耳にすることが少なくない。とはいえ、より多くの運用機関が、レポーティングには独自算定のESGデータと外部提供のESGデータを併用していると回答している。ここから推測されるのは、投資家が主要なESG評価指標について開示方法の標準化を求めているということ、また運用機関がその要求に応えつつあるということである。

概要 

ラッセル・インベストメントによる2022年ESG運用機関アンケート調査で示された結論は、ESGを追求する動きは明らかに加速しており、いまだ道半ばであるということである。現在の状況は、全世界の規制当局が続々と参入し、投資業界の側も加速する変化のスピードに合わせて、新しいアイデアや手法を消化し、取り入れているという段階である。

運用機関がESGファクターを投資プロセスに統合しようとしている主たる理由は、顧客からの要請とリスクの低減である。投資家は、主要なESG評価指標について開示方法の標準化を求めており、運用機関は、そうした要求に応えようとしている。炭素排出量のデータについては、本文中でも示したとおり、将来に向けてエネルギー転換の状況を評価する方法を確立しようとする動きが加速している。

また、気候リスクを管理しようとする取り組みは急速に拡大しており、これを反映して、リソースの確保、レポーティングの標準化、エンゲージメントの活発化などの影響が生じている。現段階では、運用機関の約半数が、ESGに関連するリスクは資産価格にほぼ反映されていないと感じているが、数年以内に変化が起こるという見方が大勢を占めている。

ラッセル・インベストメントではつねに、ポートフォリオの構築と運用に包括的アプローチを採用している。目標は、ESGの重要性を効果的に捉えるため、ベスト・プラクティスのESGインテグレーションを達成することである。ESGをプロセスに組み込むことで、ESG課題を理解することができ、包括的な管理が可能になる。このアプローチは、ラッセル・インベストメントの顧客のみならず、社会や環境にとっての最良の結果をもたらすと当社は考えている。