401(k)はZ世代の働き方に合っていない
以下は、2025年6月23日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
今の大学を卒業したばかりの若い世代は、キャリアの中で10回以上も転職を繰り返すと言われています。副業を掛け持ちしたり、自分でビジネスを立ち上げたり、伝統的な仕事に就いたり離れたりと、さまざまな働き方を行き来するでしょう。Z世代が社会に出る直前のコロナ禍以前から、労働市場の流動性はすでに高まっていましたが、柔軟な働き方を重視し、デジタルに慣れ親しんだ彼らの特徴によって、この流れは一段と加速しています。
しかし、この世代が引き継ぐ401(k)制度は、同じ会社に長く勤めることを前提に作られています。1978年に設計されたこの制度は、年金制度が主流だった時代のもので、その頃は多くの人が一つの会社でキャリアを築くのが普通でした。企業が退職後の資金を積み立て、運用し、生涯にわたって給付する年金制度は、社員の長期的な勤務を促し、それに対して報いる仕組みだったのです。
現在は労働者の流動性が格段に高くなっています。その背景には、年金制度から401(k)への移行があります。401(k)制度は、企業が負う長期的なリスクを減らすために導入されました。特に2008~09年の金融危機の際、多くの企業が年金の未積立問題で財務的な圧迫を受けていたことが影響しています。しかし、この変更によって、社員が企業に長く留まるインセンティブが大きく減ってしまいました。
こうした変化はさまざまな影響をもたらしています。確かに転職が増えた一方で、多くの労働者が退職後の資産形成で不安定な状況に陥っています。というのも、転職するたびに、退職金用の口座を放置してしまうことが多いからです。ロールオーバー(資産の移管)には手続きが必要で、権利確定のスケジュールがリセットされ、拠出額が減ってしまうこともあります。こうしたことが重なり、転職のたびに資産形成の「空白」が生まれてしまいます。人はキャリアアップや収入アップのために転職しますが、退職資産がそれに追いつかないと、結果的に将来の備えが遅れてしまうのです。しかも、働き方が今後さらに多様化・流動化することを考えると、この空白はどんどん大きくなっていくでしょう。試算では、キャリアの中で頻繁に転職すると、退職後の資産で最大30万ドルも損失する可能性があると言われています。特に早くから頻繁に転職を繰り返すZ世代にとっては、この損失が将来の経済的な安全性を大きく左右するかもしれません。
401(k)制度が始まってから40年以上が経過しましたが、大きな制度改革はこれまでほとんど行われていません。最近成立した「SECURE 2.0法」では、国が管理する「退職口座の紛失物センター」の創設や、小口残高の自動ロールオーバーの拡大が盛り込まれました。また、長年の努力と支持を受けて、自動加入制度が標準化されたのも大きな進歩です。
自動加入は、本人があまり意識しなくても貯蓄を進められる仕組みとして期待されました。しかし、その効果も、拠出制度の「持ち運びやすさ(ポータビリティ)」が不足していることで相殺されてしまっています。2020年の「大辞職」時には、転職した多くの労働者が退職口座を現金化してしまったり、新しい職場での拠出やマッチング拠出が減ったりする事態が起こりました。
今後は、ポータビリティを制度の基本設計に組み込むことが不可欠です。401(k)の口座は企業のものではなく、個人のものです。転職時には、口座が自動的に本人に追随しなければなりません。そのためには、口座管理機関によるデジタル転送の標準化、口座移動時の優遇手数料の維持、移管手数料の回避や複雑なプランへの変更を避けることが必要です。さらに、口座の残高だけでなく、拠出率も引き継がれるべきです。自動加入と自動昇給の仕組みも、複数のプランをまたいで継続できるようにし、理想は最大15%まで引き上げられることです。
こうした仕組みは、Z世代だけでなく、起業家、中小企業の経営者、パートタイム労働者、育児などで職場を離れていた人にも役立ちます。複数の仕事を持つパートタイムワーカーは複数口座の資産をまとめやすくなりますし、育児休業後に復職する親も、貯蓄や拠出を一からやり直す必要がなくなります。ポータブルで自動的に資産形成が続けられる制度は、働き方が変わっても退職準備を着実に進める手助けになるのです。
アメリカでは、国民の長期的な経済的安定にはより強固な制度の基盤が必要だという機運が高まっています。今週発表された上院の税制案には、生まれた子どもに1,000ドルの投資口座を用意し、家族が毎年最大5,000ドルまで非課税で拠出できる制度が盛り込まれています。この法案が成立すれば、より多くの家庭が経済の成長に直接関わることが可能になります。この考え方は、私が最近Barron’s誌で提案した、若者に1,000ドルのシンプルで低コストな口座を設ける案と非常に近いものです。私の構想では、これらの口座が時間をかけて拡大し、全国民を対象にした退職制度に発展していくことを目指しています。
個人の投資口座は、生涯にわたって持ち運び、育て、頼りにできる長期的な資産です。また、労働者の流動性はアメリカ経済の強みでもあります。将来の世代が自由に最良のチャンスを求めて動けるようにするには、退職制度もその動きに合わせて柔軟に対応し、動きの妨げにならない仕組みであるべきです。
※この記事の内容は執筆者の見解であり、ラッセル・インベストメントやその関連会社の公式な見解を必ずしも反映するものではありません。市場や経済の状況により、予告なく変更されることがあります。