ミシェル・サイツ(Michelle Seitz)ラッセル・インベストメント会長兼CEOから皆さまへのメッセージ:A clarion call to action(行動への明確な呼びかけ)

※以下は、2020年5月28日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

行動への明確な呼びかけ

大規模な混乱に対する私の30年以上に亘る経験に照らしてこの4ヶ月間を振り返ると、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)は、過去の混乱時に見られた様々な側面を一つに集約しているものに見えます。1987年10月19日に発生した22.6%という米国株式の暴落は、私が資産運用の道へと進んだわずか1カ月後の出来事で、5年間続いた強気相場のまどろみから一変、私たちを覚醒させる大きな出来事でした。2001年9月11日の悲劇やその他にも世界で起きたテロ事件などにより、私たちの生命は脅かされることとなり、日常の行動も変わることになりました。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行は、パンデミックが壊滅的な影響を及ぼすことを今一度私たちに知らしめましたが、当時は一部の地域に封じ込められているものに留まっていました。2008 年の世界金融危機は、国境を超え複雑に繋がっている世界の暗部をさらけ出し、しかし中央銀行の市場介入が持つ力を見せつけました。現在、新型コロナウイルスの感染拡大による危機は、私たちの生命や暮らしにおける社会の不安を生み出し、世界中の経済活動を麻痺させ、日常生活を停止させ、市場に広範な不確実性をもたらしています。家と呼ぶ場所がどこにあろうとも、このパンデミックは人生のあらゆる側面に影響を与えたことと思います。

現時点で、新型コロナウイルスの流行は 200カ国以上に及び、35万人以上の人々が命を落としました。そして今、経済危機による犠牲ともいえる、失われた生活が深刻化しています。今回の危機により、私たちの社会的・経済的な未来、そして私たちの働き方は形を変えることになるでしょう。私たちは皆、人とのつながりや、シームレスなグローバリゼーションなど、かつて当たり前だったことへの喪失感に苛まれ始めています。他方、新しい環境に順応し、色々な意味で、改革することで成功することを学んでもいます。私たちはまた、北米や中東、欧州諸国から英国、アジアに至る地域まで、長時間のフライトや時差ぼけに苦しむこと無く、多くの方々と会うことが出来るようになりました。

過去84年間、ラッセル・インベストメントの目的は、お客様の皆様の財務基盤を強化することにありました。お客様の皆様とともに、1,250名のラッセル・インベストメントの全社員は、日々この使命を果たすための努力を継続しています。企業の倒産や高い失業率の裏には、自身の落ち度は無くとも職を失い、その打撃を和らげるだけの貯蓄に乏しい人々がいることも忘れてはなりません。全米金融教育寄贈基金(National Endowment for Financial Education)による直近のハリス調査では、米国民 10 人に 9 人が、個人資産に関して新型コロナウイルスによるストレスを感じていると回答しました。財務上の危機は過ぎ去ったかのようでしたが、退職時のギャップについては、既に主な先進国で平均するとGDP比147%iになっており、これは現在、最も切迫した問題の一つとなっています。

パンデミック発生以前にも、世界経済フォーラムは退職後貯蓄の不足額が70兆ドルに達しており、2050 年までに400兆ドルへと拡大すると試算していましたii。ラッセル・インベストメントが独自に行った調査では、30年間上昇を続けている株式市場のトレンドとは裏腹に、定年に近づいている米国の世帯(すなわち世帯主が55~65歳である世帯)の75%以上が、退職後に必要な収入を確保できる可能性がほとんどないことが分かりましたiii。つまり、この10年間の年齢層に該当し、退職後の生活に対する貯蓄がない米国民は、控えめに見積もっても3,500万人以上存在するということです。そしてそれは、悲惨なパンデミック前のもので、外出規制が実施されるようになり、米国全土が事業への戸を閉ざし、企業が一時解雇や休業を実施する前の状態における見積もりでした。

ラッセル・インベストメントは、人々の貯蓄を効果的な投資に回すために存在していると考えており、それは危機の際には特に重大な責務であると認識しています。そして今、この使命を認識するパートナーとして、お客様の皆様がこれまで以上に大きなニーズを抱えておられるということも理解しています。また、長期的な視野を持ち、事実に基づき、データを基にした意思決定を行うことが、不透明な時期の資産運用に必要不可欠だということも理解しています。

商品の販売を行うのではなく、お客様に良いサービスをご提供することこそがラッセル・インベストメントの最優先事項です。先駆者であり続けようとしてきた過去 84 年間の歴史の中で常にそうしてきたように、私たちは業界の変化を促し、改革を歓迎しています。そして何より重要なことは、引き続き社員を守り、装備を整えることで、お客様の皆様に対する受託者責任をしっかりと果たしていくことと考えています。

5年前、私たちはテクノロジー・インフラストラクチャーの強化に取り組み始めました。このことにより、ラッセル・インベストメントではリモートでの業務遂行が可能となり、お客様のニーズにオンライン上で応えられる環境を整えることが出来ました。現在では、世界32拠点が1,250を超えるホームオフィスへとシームレスに変貌し、迅速性と決断力、そして絶え間ない協働体制を構築しています。私たちはこれからも、スマートな質問を行い、注意深く耳を傾け、迅速な対応を心がけてその実践を続けていきます。私たちの目標は、お客様がその存在に気づかれる前に問題を認識し解決することで、お客様のご期待を超えることです。

この4カ月間、世界的な大手企業から財務アドバイザーの方々に至るまで、多くのお客様とラッセル・インベストメントのシニアチームがお話をさせていただき、私たちは、今何をご提供することが最も重要であるかということにも気づかされました。以下に挙げるものです。

  • 柔軟性と客観性。ラッセル・インベストメントはお客様に信頼される、エンドツーエンドの投資ソリューションを提供するパートナーであることを目標として全力で取り組んでいます。受託者として私たちの掲げる唯一の目標は、徹底的にお客様の目標を追求することです。アクティブおよびパッシブ運用、流動性資産と非流動性資産、そして直接運用やサブアドバイザー戦略を含む一連のインプリメンテーション(執行)ソリューションを引き続き活用していきます。
  • 独創性とイノベーション。低リターンの市場環境は、目標リターン実現の支障となり債務を増大させています。世界の債券利回りの30%はマイナス圏にあります。高齢化と歴史的な低金利による資産価格の下落と債務の膨張は、最近の記憶の中でも最も深刻な積立不足へと繋がりました。20年前、年金基金の目標リターンの80%が米国10年国債を源泉としていました。しかし現在ではそれは30%にしか及びませんiv。このリターンを達成するためには、目的に合わせたオーダーメイドのポートフォリオ構築、ポートフォリオ全体の適切なリスク配分、そしてあらゆる資産クラスにおける世界最高レベルの投資専門へのアクセルが必要になると考えています。私たちは、ベータ、ファクター、および固有のリスクをどのように用いれば、望ましい結果に向かって進むことができるのか、常に検討を重ねています。
  • オーダーメイドのソリューションと質の高いサービス。お客様の潜在的な力を最大限引き出し、専門知識を高めることに貢献するものが、ラッセル・インベストメントのサービスであると考えています。多くにお客様の皆様がラッセル・インベストメントの社員を実質的な同僚と見なしている、とのコメントもいただいています。米国内のOCIOプロバイダーの中で、クライアント・サービスに対して私たちに与えていただいた最高位の評価を補強するものだと考えていますv。多くの方々が、私たちのオーバーレイ サービスが、平時であれば内部機能の拡張であるものの、現在のような危機的状況においては、非常に大きなライフセーバーであると話されました。

感情は、富の崩壊へとつながる最大の要因のひとつです。そしてそのことこそ、ラッセル・インベストメントの文化的なDNAが、徹底的に経験に基づいた判断と、データや知的客観性を根拠とする理由です。新型コロナウイルスにより変化を遂げた世界では、感情、すなわち、事実に基づかない、データに依らない、科学的洞察を伴わない意思決定が深刻な社会の亀裂を生み出すリスクをもたらします。経済活動再開のスピードに関する世の論争が激化するにつれ、事実に基づいた指針は、二極化する感情的な霧の中で失われつつあります。何かのせいにすることは、構造的に複雑で相互につながっている根本的な問題を認識し、解決することよりも簡単です。何かを非難し始めている時は、概して思考が止まっている時である、と思い出すことは意味のあることではないでしょうか。

将来に備えて、いくつかの見解を共有させていただきたいと思います。

  • 生物学(Biology)が経済を牽引するでしょう。経済活動を完全に再開することは、効果的な治療法を生み出し、最終的にはワクチンの開発をするための科学的な努力にかかっています。その間、経済回復への安定した道筋を提供するためには、検査や個人用保護具の利用、および接触経路の追跡などが必要となります。数十億人という人々にワクチンが行き届くまでには 2021 年末までかかるという見通しが一部にある一方で、良い知らせは、これらの努力の背後には、第二次世界大戦後の過去 80 年間のいかなる時よりも強力な科学的力があるということです。この間には、血漿輸血、ペニシリンの大量生産、マイクロ波レーダー、そしてジェットエンジン付きの航空機viなど、最も重要で画期的な成果のいくつかが生み出されました。
  • したがって、回復への道のりは平坦なものではないでしょう。市場には、材料を織り込むメカニズムがあるとすれば、第3四半期に始まるプラスの経済成長率と2021年末までの完全な経済回復を現時点では織り込まれているということです。各国の中央銀行や政府が世界のGDP比17%に相当する合計15兆米ドルという巨額の流動性供給を行っていることを考慮すると、市場の動きは正しいということかもしれません。しかし、景気回復への過程では引き続きボラティリティの増大を伴うことが予想されます。生物学は、これらの前例のない時における人々の行動と同様に、私たちの予定や期待通りには機能しないということになるのかもしれません。世界中の経済が完全な再開を目指すうえで安全で最も効果的な方法を見出すまでには、失敗や後戻り、経路変更などもあるでしょう。
  • 持続可能で包摂的な回復のためには、官民および個人の連携が不可欠です。ラッセル・インベストメントの本社所在地であり、また、世界で最もダイナミックで革新的な企業が多く本拠を構える米国シアトル市が新型コロナウイルスの流行抑制に取り組み、経済活動を再開するための最良の方法を評価するために科学主導の共同的なアプローチで米国を牽引したことは偶然ではないと考えられます。ラッセル・インベストメントのCEOとして、私はチャレンジ・シアトル(Challenge Seattle)のメンバーを務めています。チャレンジ・シアトルは、時代を先導する思想家を含む 19 名の最高経営者からなり、前ワシントン州知事のグレゴワール氏が率いる同州における主要な民間企業の経営職階者グループであるワシントン・ラウンドテーブルとの同盟組織です。私たちは、現在の状況を成功裏に切り抜け、新しい未来を築くためのアイデアやベストプラクティスを積極的に共有しています。
  • パンデミックは、対応が必要とされている厳しい不平等をあらわにし、加速させています。過去数年間、私は他のビジネスリーダーと共に、より包括的な資本主義のあり方や経済システムの持つ機会や恩恵を拡充し、より体系的に社会に浸透させる必要があるという点について議論を重ねてきました。貯蓄格差や個人の生活保障は今、世界的に緊急性を要する課題となっています。現在のパンデミックは、行動を呼び掛ける明確な役割を果たすはずです。

私たちは、過去に世界大戦や自然災害、そして先の大恐慌などを切り抜けてきたように、この危機的状況からも、より強く賢くなっていずれ脱することになると考えています。しかしその際、一旦立ち止まり質問を投げ掛けるべきではないでしょうか。どうすれば、社会のすべての人々が経済活動に参加することを可能とし、財務基盤を強化させることができるのか、また、資源配分と社会の生産性のための最良のシステムであると証明されているものを、どのように活用し、守り、そして強化できるのかと。これらの質問は、次なるブラックスワンに直面する際、世界経済をより安定的で回復力があり、一体化されたものとすることに資するものと考えています。

i 出所:ラッセル・インベストメント、2019 年 10 月時点
ii 出所:世界経済フォーラム、2019 年 6 月 時点
iii 出所:ラッセル・インベストメント、2019 年 10 月時点
iv 出所:モルガン・スタンレー リサーチ、 「Still Early Days for Private Markets」、2019 年 9 月 17 日時点
v 2019 年実施のChatham Partnersによる調査にて、ラッセル・インベストメントは複数あるクライアント・サービスの指標で他社よりも優れた成績を収めた
vi サフィ・バーコール、『ルーンショット』