株式アクティブ運用の意義を整理する:アルファとベータの関係

2025年も上半期が終わり、今年も残すところあと半分以下となった。例年、株式市場は年末に向けて上値を試す傾向が色濃いが、上半期の株式市場を大きく動かしたテーマは依然としてカタリスト足り得るままである。米トランプ政権の関税政策はいくつかの国との合意を経ながらも、貿易を始めとしたグローバル経済の行く末は未だ混迷を極めている。2022年のロシアによるウクライナへの侵攻に端を発した二国間の戦争に加え、2023年にはイスラエルを中心とした中東地域における戦争が勃発。2025年には遂に、限定的な対象とはいえ米国による軍事攻撃がイラン本土に対して行われたことは記憶に新しく、地政学的な緊張は未だ最も高い水準にあると言ってよいだろう。こうした政治、戦争、イデオロギー等のテーマは経済合理性に基づいた予測が殆ど意味をなさず、金融市場参加者はこれらを背景とした不確実性の高さと付き合いながら運用を行わざるを得ない。

株式はリスクの大きな資産クラスである。上述の様な時事テーマに鋭敏に反応し、ここ数年の間にも大きな下落を幾度も経験してきた。とりわけ、2024年8月の日本株の暴落や2025年4月の“Liberation Day”の米国株の下落が昨年以降の印象的な株価変動であろう。この時、リターンの安定化を企図して、市場リターンを取るインデックス運用に切り替えようとする事は適切と言えるだろうか。本稿では、過去のアクティブ運用のアルファ(α:超過リターン)とベータ(β:市場リターン)との関係を定量的に分析し、アクティブ運用の意義を整理する事を目的とする。

アクティブ運用におけるアルファの存在

アクティブ運用に対しては、当然ながら市場リターンを上回るアルファ(α:超過リターン)を期待して投資を行うが、過去実績を見た時に実際にアルファは存在するのだろうか。 結論は、国内株式・外国株式ともにアクティブ運用には長期的に見てアルファが存在している。

ラッセル・インベストメントがモニタリング対象としている弊社ユニバースのうち月次リターンデータの取得が可能な国内株式アクティブファンド(データ数:105)と外国株式アクティブファンド(データ数:185)のそれぞれを対象に、各ベンチマーク対比の超過リターンを計算、月次で集計した中位値の推移を2000年1月~2025年3月に渡って示したものが図表1-2である。国内株式アクティブファンドについては全期間の平均値が+0.13%であり、これは年率換算で+1.56%に相当する。外国株式については同様に全期間平均値が+0.09%であり、年率+1.06%の超過リターンが得られている。更に、前述の2024年8月の日本株暴落時の国内株式アクティブファンドのアルファの平均値は+0.36%(年率+4.38%)である事に加え、2025年4月の米国株下落時における外国株式アクティブファンドの同平均値は+0.38%(年率+4.63%)と双方有意にプラスのアルファを確保している。25年を超える長期の平均値であり、過去データは将来のリターンを約束するものではないものの、アクティブ運用に投資する意義があると言えよう。

図表1: 国内株式アクティブファンドの月次超過リターンの中位値(対TOPIX)

Japan market heat map
出所 ラッセル・インベストメント

図表2: 外国株式アクティブファンドの月次超過リターンの中位値(対MSCI World)

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出所 ラッセル・インベストメント

アルファとベータの相関:高アクティブ・リスク群における逆相関関係

国内外株式市場において、アクティブ運用には平均的にプラスのアルファ(α:超過リターン)が存在する事を確認した上で、ベータ(β:市場リターン)との関係を定量的に分析したい。言い換えれば、どのような市場環境下でアクティブ運用は期待される成果を挙げる事が出来るのかを確認する。この時、アクティブファンドのアクティブ度合いによってリターン特性には差が出る事が予想される為、アクティブ・リスクの水準毎に5分位に分けて結果を確認した。アクティブ・リスクの指標にはトラッキング・エラー(TE)を用いるが、TEが小さいほどパッシブ運用等の市場インデックスに近い運用となる。

図3-4は前節と同様のユニバースを分析対象として、TEで5分位に分けた時の国内株式・外国株式それぞれのアルファとベータの相関係数および各分位のアルファの平均値を図示したものである。

国内株式については、TEが高くなるにつれてアルファとベータの相関係数がマイナスとなりその値も大きくなる傾向が見て取れ、アクティブ・リスクを取るほど市場リターンとの逆相関が強まる事が分かる。また、アルファの平均値についても、概ね高TE群ほど高い傾向が示されている。

外国株式については、第3分位の相関係数が概ねゼロに近いものの、全体的に相関係数が大きくマイナスとなっている。また、第1-2分位あたり(上位40%以内)の高TE群における相関係数のマイナス値が最も大きく、かつアルファの平均値が最も高い水準にある点は国内株式と同様である。参考までに過去3年の外国株式アクティブ運用の不振が目立つ期間に限定すると、高TE群ほどアルファのマイナスが大きくなり、かつアルファとベータとの相関係数は値がプラス方向に大きくなっていく。この期間の相場環境はマグニフィセントセブンを始めとする一部超大型銘柄が主導する形でベータが上昇しており、こうした局所集中が見られる相場においては全体の傾向は指数に連動する(相関が高まる)一方で、超大型銘柄を必然的にアンダーウェイトせざるをえない結果、パフォーマンスが劣後したと考えられる。

まとめると、国内株式・外国株式双方に共通して、アクティブ・リスクが一定程度高いファンドにおいては、長期的にベータとの逆相関関係を持ちながらプラスのアルファを挙げている事から、市場リターンが下落した際の下値抑制効果を持つ可能性が予想される。では実際に、市場局面毎にアルファの示現の仕方に特徴があったかを次節で検証したい。

図表3: 国内株式アクティブファンドにおけるTE分位別のアルファとベータの相関係数

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注 TE分位毎に各月の超過リターンを集計し、中位値を抽出して相関係数を算出
出所 ラッセル・インベストメント

図表4: 外国株式アクティブファンドにおけるTE分位別のアルファとベータの相関係数

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注 TE分位毎に各月の超過リターンを集計し、中位値を抽出して相関係数を算出
出所 ラッセル・インベストメント

市場局面毎のアルファとベータの相互補完関係:相場下落時の下値抑制効果

前節では、国内株式・外国株式双方におけるアルファ(α:超過リターン)とベータ(β:市場リターン)には概ね逆相関関係がある事を確認し、特に高トラッキング・エラー(TE)群においてはその傾向がより強い事を確認した。

最後に、高TE群における市場局面毎のアルファとベータの関係を整理し、相場下落時における下値抑制効果がアクティブファンドに期待でき得るかを確認したい。 図表5-6では前節と同様のユニバースのうちTE第一分位(上位20%)を分析対象として、2000年1月~2025年3月の期間に渡って月次のアルファとベータをプロットし、全サンプルにおける回帰直線および市場局面毎(ベータの正負毎)のアルファの平均値を示した。

国内株式については、回帰分析におけるt値が-3.327と有意であり(t値の絶対値が概ね2より大きい場合、その分析結果の確からしさが高いとされる)、統計的に意味のある水準でアルファとベータの逆相関関係が示されている。直線の傾きで示される回帰係数の絶対値に加え、相場下落時(ベータマイナス域)におけるアルファの平均値も+0.27%(年率+3.29%)とそれ程大きくない。相場環境による市場リターンの正負とアルファとの関係性が低いという事を意味し、強い下値抑制効果というよりはむしろ、薄く広くアルファとベータの逆相関が働きながらアルファを獲得している傾向にある。

一方、外国株式については、回帰分析におけるt値が-5.387とこちらも有意水準にあり、傾きで示されるその感応度も含めて国内株式以上にアルファとベータの逆相関関係が強い結果となった。また、相場下落時におけるアルファの平均値も+0.58%(年率+7.14%)と大きく、外国株式については強い下値抑制効果を期待でき得ると言えよう。こちらも過去3年間のアクティブ運用が不振であった期間に限定すると回帰直線の傾きで示される感応度はゼロに近い値となる。ただし、t値が1.269と有意水準にはないため、この結果は統計的には意味があるとは言えない点には注意すべきだろう。 高アクティブ・リスク群のファンドでは、アルファとベータの逆相関関係が国内株式・外国株式双方に見て取れたが、これらのファンドではトータルリターン指向が強い戦略である事が背景として挙げられる。すなわち、過度にベンチマークを意識する事はなく、適切なリスク管理の中であくまで銘柄選択によるアルファを享受する形により、特に下落局面においてベンチマークに対する超過収益が下値抑制として効果を発揮することが示唆される。

図表5: 国内株式:TE上位20%群のアルファとベータの相関

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注 被説明変数(y):アルファ(超過リターン)、説明変数(x):ベータ(市場リターン)
出所 ラッセル・インベストメント

図表6: 外国株式:TE上位20%群のアルファとベータの相関

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注 被説明変数(y):アルファ(超過リターン)、説明変数(x):ベータ(市場リターン)
出所 ラッセル・インベストメント

まとめ

ここまでの分析結果を総括すると、アクティブ運用には長期的に見てアルファ(α:超過リターン)が存在し、かつ高アクティブ・リスク群においてはアルファとベータ(β:市場リターン)に逆相関関係が見られる。加えて、特に外国株式については相場下落時における下値抑制効果が期待でき得る、との結果である。

2020年のコロナ禍以降、マグニフィセントセブンを始めとする超大型ハイテク企業が主導する強い市場インデックスに対して、アクティブ運用は苦境に立たされてきた。実際に、この期間を抽出すれば平均して超過リターンがマイナスとなる事もまた事実である。適宜アクティブファンドの入替を検討する事は適切である一方で、高アクティブ・リスクのアクティブ運用は単にポートフォリオのリスクを高めるのではなく、むしろ一定の下値抑制効果が期待でき得るとの今回の分析結果を踏まえると、アクティブ運用からインデックス運用(アクティブ・リスク0)に切り替える事は意図と反し相場下落に対して無防備になるとの見方も可能であろう。

更に重要な点として、ベータがあまりにも強い局面においては市場過熱への加担およびその後の下値リスクへの対応の観点で、必ずしもアルファを追及する事が正しいとは限らないだろう。より具体的に言えば、予定利率の達成を目指す年金資金運用や金融法人、学校法人等のトータルリターン指向の投資家については、ベータが強い時にさらに上値を狙う事よりも、ベータが弱い時にそれを支える事の方がトータルリターンの観点では適切である事から、アルファにはベータの符号(プラスリターン時のアルファかマイナスリターン時のアルファか)によって、非対称な意味合いが与えられる事は認識しておかねばならない。

あくまで過去のデータは将来のリターンを予測するものではなく、この分析結果も同様ではあるが、予見不可能であるからこそ直近の過去データに過度に振らされずにスタイルや戦略等の分散を行いながら、長期的に見てアルファを期待できると考えるアクティブファンドの選定に注力すべきではないだろうか。