新型コロナウイルスと市場の下落:世界的な株安を受けた投資環境の評価

以下は、2020年3月13日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

 

昨夜、米トランプ大統領の大統領執務室からの演説は、国民と投資家を落ち着かせる目的で行われました。しかし投資家の期待値に届かなかったようです。

なぜでしょうか? 30日間の欧州と米国間の新たな渡航制限の発表は、航空会社や関連する旅行業界のファンダメンタルズをさらに悪化させる可能性が高いものとみられます。また、中小企業への融資など、発表された景気刺激策は、市場参加者を満足させるための具体性や規模を欠いたとみなされ、失望を表す反応は迅速なものでした。

強気相場が終了し、世界的な売り圧力が継続

(3月12日の)米国株式市場は、開始早々7%下落し、レベル1のサーキットブレーカーが発動し15分間の取引停止を引き起こしました。株式を売却する動きは世界的なものとなっています。本日午前時点(米国西海岸標準時間で3月12日)で、同日に欧州株式の一部は10%下落していますが、S&P 500で測る米国株式は2月19日の高値から約25%下落しています。このことにより、歴史的な11年間に亘る強気相場が終焉を迎えたようにみえます。

しかしここで逆境における希望の光を見出すとすれば、それは金融市場への打撃が最終的により迅速でより強力な政策対応を強いることができるのではないかということです。読者の中には、2008年の米国緊急経済安定化法(不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program:TARP)」を含む危機対応パッケージ)を思い出す方もおられるかもしれません。この法案は当初、2008年9月29日に米下院を通過しませんでした。市場はそれに反応して大きく下落したため、議会はわずか4日後の10月3日までに法案を通すのみならず規模をさらに拡大して制定しました。

「サイクル(中期)」、「バリュエーション(長期)」、「センチメント(短期)」のフレームワークによる市場の評価

※ラッセル・インベストメントでは、サイクル、バリュエーション、センチメント(CVS)の3つの視点から投資戦略を策定しています。

今回局面においても、一歩下がって、市場で何が起こったのか、そしてそれが今後のポジショニングにどのように影響するのかを考える姿勢を保つことは有益と考えています。ここでは、3つの重要な問いが浮上します。

  1. バリュエーション:市場の急落によりリスク資産の潜在的リターンの歪みが改善したか?
  2. センチメント:リスクプレミアムが魅力的な水準になったことを示唆する底打ちまたはパニックの証左があるか?
  3. サイクル:新型コロナウイルスによる経済と企業収益への打撃に関する独自の見通しが策定可能か?

バリュエーション

ラッセル・インベストメントの株式バリュエーションの評価は、中期から長期にかけて大幅に変化しました。今回の急落は、米国の株式市場が割高圏にあるとの私たちの認識の中で生起しました。

現在の株価水準、金利水準、企業収益の見通しに基づき、足もとの米国株式市場は、適正水準と判断されるレンジで取引されるに至ったと考えています。グローバルな観点からも、世界の株式市場は総じて割安圏に位置しているとみており、特に英国株式市場は大きく通常では見られないディスカウントが織り込まれていると考えられる水準で取引されています。

同様に、2月中旬には非常にタイトで魅力的ではなかったブルームバーグバークレイズインデックスで測定されたハイイールド債券のクレジットスプレッドは、昨日の終値で660ベーシスポイントに急拡大しています(長期的な標準値をやや上回る水準)。一方、安全資産価格は通常より割高圏に位置しているように見えます。現在78ベーシスポイントで取引されている米国10年国債利回りは、米国連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をゼロに引き下げ、長期にわたって維持するという見通しを事実上織り込んでいます。今後その見通しが正しかったことが証明されるのかもしれませんが、いずれウイルス関連の影響がピークアウトし、市場参加者の投資行動がリスク回避的なものから正常化していくことを仮定すれば、リスク対比の利回り水準が下限近くに位置しているとみなされることは、米国債利回りが低下するよりも上昇する可能性がやや高いことを示唆しているとラッセル・インベストメントでは考えています。

センチメント

私たちは、市場のセンチメントを、価格モメンタムや投資家の集団心理がパニックや多幸感の極端な状態に追い込まれているかどうかなどを分析しながら評価しています。リスク資産の価格モメンタムは悪化していますが、多くのテクニカル指標、またポジショニングやサーベイベースの諸指標は、本日の市場がパニック的な極端な状況のひとつに非常に近いことを示唆していると見ています。金融の世界において、確実に保証されることなどはありませんが、歴史的に見れば、これらの事象は、多くの投資家が恐れている場合において、長期的な投資家をして追加的なリスクプレミアムを獲得することができる機会を提供していると考えられます。そして、総じてこのような局面において、戦略的方針に則り運用を継続することによって投資家が報われる傾向があります。

サイクル

最後に、ビジネスサイクルについてです。私たちは、新型コロナウイルスの今後の影響に対する独自の洞察力があるとは主張しません。それは、私たちの専門知識の多くが経済学と金融の分野にあるという認識に一部よるものです。しかし、私たちはこの問題について医療専門家とも話しましたが、ウイルス流行の範囲を予測し、拡大や収束のタイミングを計ることは事実上不可能だと聞き及んでいます。

工場は閉鎖され、移動も制限されているため、今後数か月間、世界経済や企業収益の成長に深刻な混乱が生じる可能性があると考えられます。しかし、ウイルス影響の別の側面を見てみると、積極的な金融及び財政政策の追い風に後押しされ、抑制された需要が解き放たれる状況が将来的に示現する可能性も十分にあると考えています。

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