日本のDB年金における資産運用の課題と展望

2024年8月には「アセットオーナー・プリンシプル」が公表され、2025年1月には受託者責任ガイドラインの改訂が行われました。これらの動きは、DB年金に対して受益者利益の重視とガバナンスの高度化を求めるものです。企業年金におけるアセットオーナー・プリンシプルへの対応方針や運用課題を把握するため、ラッセル・インベストメントではオルインWebと共同で2024年10月~11月にDB年金向けアンケート調査を実施しました。

本調査によると、90%以上の回答者がアセットオーナー・プリンシプルを認識し、その対応を検討していることが明らかになりました。特に大規模なDB年金では、これらの原則の導入が進んでおり、より体系的で説明責任のある運用管理への移行が進んでいることが示されました。

本調査の結果は、今後の年金資産運用の方向性を考える上で重要な示唆を与えています。

年金運営における主要課題

DB年金は、より高度な資産運用を実現するために多くの課題に直面しています。本調査では、以下の3つが特に重要な課題として挙げられました。

  • スチュワードシップ活動(50%)
    投資先企業との対話、スチュワードシップ・コードの遵守、長期的な価値創造を重視した投資の実践が求められています。
  • モニタリングとリスク管理(39%)
    運用ポートフォリオの複雑化が進む中で、投資全体の監視、リスク管理、パフォーマンス評価を効果的に行うことが課題となっています。
  • ステークホルダー・コミュニケーション(38%)
    受益者や規制当局への透明性の高い情報開示が求められており、政府の取り組みもこれを後押ししています。

また、「分散投資」は全体として主要課題には挙がらなかったものの、1,000億円以上の大規模DB年金では特に関心が高く、オルタナティブ投資や流動性の低い資産に関する課題が指摘されました。

外部リソースの活用とその動向

資産運用に関する課題にどのように対応するかについても調査を行いました。回答結果を見ると、運用課題への対応を「内部リソースのみで行う」とした割合は22%にとどまり、大多数の64%が外部リソースを活用する方針を示しました。

特に、外部リソースとして最も活用が見込まれるのは、総幹事(79%)、業界団体(57%)、運用コンサルティング会社(59%)でした。また、従来はあまり利用されてこなかった「OCIO(外部委託型CIO)」や「運用機関への運用委託」といった選択肢も一部で見られ、新たな運用形態の導入に向けた関心が高まりつつあることが分かりました。

この傾向を資産規模別に見ると、特に1,000億円超の大規模DB年金では運用コンサルティング会社の活用が約8割に達しており、オルタナティブ投資の導入やポートフォリオ構築の高度化を志向する動きが見られます。一方で、500億円以下の中小規模DB年金では、OCIOや運用委託の活用に対する一定の関心があることも分かりました。これは、人的リソースの制約を補完する手段として、外部の専門家や運用機関との連携を模索する動きが広がっていることを示唆しています。

将来を見据えた戦略的変革

今後、日本のDB年金が持続可能な運営を実現するためには、以下の2つの分野に注力することが重要です。

  • ガバナンスと意思決定プロセスの強化
    投資先企業との対話、スチュワードシップ・コードの遵守、長期的な価値創造を重視した投資の実践が求められています。
  • 投資執行の最適化
    年金運営に関与する受託者や委員会メンバーの投資知識を向上させることが不可欠です。投資プロセスの明確な文書化、主要人材の継承計画、外部専門家との協力を強化することで、ガバナンスの継続性を確保できます。

結論:今後の展望

日本のDB年金は、規制強化と投資環境の複雑化が進む中、戦略的な適応が不可欠な時代を迎えています。ガバナンス体制の強化、外部専門家の活用、投資執行戦略の精緻化を進めることで、より強靭で持続可能な年金運営が可能になるでしょう。本調査の結果は、アセット・オーナーがグローバルのベストプラクティスと整合しつつ、日本市場の特性に適応するための指針を提供しています。

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