高ヘッジコスト期における、効率的な為替ヘッジ手法 ~為替ヘッジコスト低減、為替リスク低減、分散効果を目的として~
現在、約10%の為替リスクを抑制(ヘッジ)するためには、約5%の為替ヘッジコストが必要である(対米ドルの場合)。
通常、特にグローバル債券運用においては、フルヘッジが“当たり前”となっているが、為替リスクの低減幅に対して、ヘッジコストによるリターンの低下幅が大きい現在、本当にフルヘッジのみが正解なのであろうか?
本稿では、高ヘッジコスト期における、為替ヘッジコスト低減、為替リスク低減、分散効果を目的とした場合の、効率的な為替ヘッジ手法について考えてみたい。
為替ヘッジコストの推移(2022年12月末)
出所:Bloombergのデータをもとにラッセル・インベストメント作成
グローバル債券運用への影響を再認識
なぜヘッジコストの高まりが重要な課題となるのか?債券運用の基礎に戻って確認したい。 下図は、米国投資適格社債のトータル・リターンを、インカム・リターン(クーポン)とプライス・リターンに要因分解したものである。
これより、債券の長期累積リターンは、概ねインカム・リターンで決定され、プライス・リターンはゼロに回帰する傾向があることが分かる。100で発行され、デフォルトが無ければ100で償還される証券であるため、当然のことではある。
これが示唆することは、債券運用において、長期的な収益源泉であるインカム・リターンをなるべく高めて、短期的な変動要因であるプライス・リターンの変動をなるべく低減することが、適切な効率化策であるということである。
このため、インカム・リターンの低下要因となるヘッジコストの高まりについては、対応策の構築余地があり、それが運用を効率化するうえで重要であると言えるだろう。
米国投資適格社債の長期リターン要因分解
出所:Bloombergのデータをもとにラッセル・インベストメント作成
サイクル(景気・金融政策)局面で異なる望ましい為替ヘッジ比率
為替リスクは、「見返りの無い(または少ない)リスク」と言われることが多い。つまり、為替リスクを負うことへの対価(リスク・プレミアム)が無い(または少ない)ということである。配当や成長を伴う株式や、利息を伴う債券と比べて、交換レートである為替には、収益源泉というものが見出しにくい。
下図より、利上げ期には債券リターン低下・通貨リターン上昇の傾向が、利下げ期には株式リターン低下・債券リターン上昇の傾向が見られる。実際に利上げ期には債券と通貨の逆相関性が強まり、分散効果が期待できる。一方で利下げ期には債券と株式の逆相関性が強まり、分散効果が期待できるのである。
サイクル局面における株式・債券・為替のリスク・リターン
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※MSCI Kokusaiは株式リターン、FTSE WGBIは除く日本
出所:Bloombergのデータをもとにラッセル・インベストメント作成
このようにサイクル局面に応じて、分散効果が重要となる資産の組み合わせが異なる。利上げ期には、金利上昇による債券安を通貨高によって分散させたいため、為替リスクの部分的な活用が望ましい。一方で利下げ期には、金利低下による債券高で株式安を分散させたいため、債券の性質を高めるために(株式と同方向で下落する)為替はヘッジすることが望ましい。つまり、望ましい為替ヘッジ比率が異なるのである。
加えて、利上げ後期~利下げ前期のようなヘッジコストが高い局面においては、ヘッジコスト低減(利回り向上)の観点からヘッジ比率を低めたい。一方でヘッジコストが低い局面では、見返りの無い(または少ない)為替リスクはヘッジしたい。
サイクル局面における望ましい為替ヘッジ比率の変化
為替ヘッジ比率の動的管理の余地
しかし、サイクル局面に応じて為替ヘッジ比率を変更するとなると、その具現化は実際には難しい。意思決定の判断材料が、相場観となってしまう懸念があるし、自らが判断する場合には、ガバナンスの観点から合理的な根拠が求められる。つまり機関決定には困難を伴うし、不向きなのかも知れない。
ここで提案したいのが、為替ヘッジ比率の動的管理戦略である。
動的管理戦略として、主に「為替ダイナミックヘッジ」と「為替ロングショート」が存在する。これらの戦略は、為替フォワード(先渡取引)の売建て(ヘッジ比率の上昇)と買建て(ヘッジ比率の低下)を局面に応じて使い分けることにより、ヘッジ比率の変更を可能にするものである。為替デリバティブを利用するため、保有する外国債券全般に対して、運用商品横断的にヘッジ比率の変更が可能になることも特徴である(このような手法を為替オーバーレイと呼ぶ)。
動的管理戦略の主な種類
このように動的管理戦略を導入することにより、自らで市場環境に応じたヘッジ比率の変更を都度行う必要が無くなり、戦略が自動的にヘッジ比率を変更してくれることになる。ただし、各動的管理戦略にも長所と短所が存在することは、事前に把握しておきたい。
なお今回は為替ヘッジ比率の動的管理の検討余地と、その方法の紹介に留めるが、具体的な戦略内容やその特性、長所短所等にご興味をお持ちの方は、お気軽に弊社の担当にお問い合わせ頂きたい。
最後に
債券投資の主な目的は、①インカムの享受(リターン向上効果)と②株式との分散(リスク低減効果)であろう。一方で、為替ヘッジコストの高まりや株式ボラティリティの高まりは、足元から今後の運用課題となる。このため、インカム享受の効率化と株式との分散効果の効率化を考えると、実は為替ヘッジ手法の効率化に、一部その解があると考えられる。
このため、高い為替ヘッジ比率を基本方針としながらも、サイクル局面に応じた為替ヘッジ比率の動的管理について、検討する余地があると考えられる。