エネルギー移行 パート1:クリーン・エネルギー移行に関する入門書

世界はクリーン・エネルギーという未来に移行しつつあります。しかし、世界経済を動かしているのは、依然として圧倒的に化石燃料です。

出所:World Resources Institute, BP、IMF、OECD、Angus Maddison。2022年。

生産活動による炭素排出量は、数十年前に比べはるかに減少していますが、効率性の改善は十分とは言えません。

炭素効率の改善だけで2050年までにネットゼロを達成するには、世界の実質国内総生産(GDP)成長率の今後37年間の平均を-1.5%にする必要があります。これは2009年の世界金融危機が37年間継続するのと同じことであり、生活水準の点で、また投資やイノベーションを進め、現在および将来の課題に対処していくという点では破壊的なシナリオです。

化石燃料からの移行は、地球という惑星の急速な温暖化を避けるためにおそらく必要なことです。しかし、この途方もない取り組みは、投資に対して疑う余地のない影響を及ぼすことでしょう。

では、投資家が期待できることは何でしょうか?

温室効果ガス

大気中の温室効果ガスは、地球の表面近くに熱を閉じ込めます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、炭素排出量が多いシナリオでは、地球の気温は2099年までに摂氏4.4度/華氏8度上昇する可能性があると推定しています。

気温の上昇は、数々の影響を及ぼす可能性があります。

  • 穀物の不作

気温、雨量、その他気候関連の要因は穀物の収穫量に確実に影響を及ぼし、それがコモディティ市場に波及します。例えば、気温が高過ぎるとトウモロコシの実の成長が妨げられ、収穫量が減少します。対照的に、小麦生産には、耕作可能地の拡大や大気中の二酸化炭素の濃度上昇による光合成と保水性の向上というメリットがあります。

出所:”Climate change signal in global agriculture emerges earlier in new generation of climate and crop models” (2021). Figure 1. Scenario SSP585

農業には、極端な気温や干ばつに対する抵抗力の向上や収穫量の増加を目的とする試験栽培など、環境に適応してきた長い歴史があります。このような人間の関与を通じて、気候変動の影響の一部を緩和できる可能性があります。

  • 海水面の上昇

地球温暖化は、陸氷の溶解や海水の熱膨張による海水面の上昇を引き起こします。このプロセスは、おそらく短期的にはゆっくりと進行するでしょうが、高潮による水害の深刻化などのリスクがあります。

出所:IPCC AR6、 Working Group 1、Chapter 9、Figure 27。2021年。

さらに将来に目を向けると、IPCCの深刻な温暖化シナリオでは、水位が2100年までに1メートル近く、2300年までに3.5メートル上昇する可能性があるとされています。水位がこの水準まで上昇すると、上海、大阪、香港などの多くの主要港湾都市が繰り返し浸水被害を受ける可能性があります。

海面上昇への適応は可能ですが、多大なコストを要します。より高い土地に移動するという方法も考えられますが、他の方法に比べてはるかに大きな混乱が生じるでしょう。

  • 生物多様性の低下

珊瑚礁や爬虫類など数多くの生物にとって、急速な温暖化への適応は困難になると考えられます。

生物多様性の喪失を経済的コストに換算することは困難です。この取り返しのつかない事態に対処するために、数々の取組みが行われてきました。中でもよく知られているのがミレニアムシードバンクです。

生物多様性の低下に起因するより重大な影響には、漁獲量の低下や花粉媒介者の減少などが考えられます。これにより、世界的な食糧安全保障リスクが深刻化する恐れがあります。

  • 嵐の激化

大気の温度が上昇すると、空気中の水蒸気の量が増加するため、極端な降雨が起きるリスクが高まり、熱帯低気圧の強大化につながります。ただし、発生回数は減少します。

嵐の激化は人々の活動を妨げ、事業コストを増大させるでしょう。その結果、保険へのアクセスや保険料、そして沿岸地域や他の危険な地域に不動産などを保有するコスト全般に影響が及ぶでしょう。

  • 海の酸性化と酸素欠乏

水に二酸化炭素を混ぜると、炭酸になります。したがって、海水は二酸化炭素を吸収することで、酸性化が進みます。炭酸は特にカキ、甲殻類、プランクトン、珊瑚などの海洋生物の殻を形成する炭酸カルシウムを分解するため、海水の酸性化は漁業への影響を通じて、食糧安全保障に対する脅威になるでしょう。

温暖化や農地の表面流出、その他の要因によって生じる海水の酸素欠乏も、海洋生物に有害な影響を及ぼす可能性があります。

  • 人間の健康への悪影響

極端な温暖化シナリオでは、最終的に私たち人間の種としての存続に対する脅威が生じる可能性があります。非常に高温の地域は居住不能になり、集団移住せざるを得なくなるかもしれません。

気温の上昇は、既存の循環器疾患の悪化や(食糧供給の悪化による)栄養失調につながり、熱帯病罹患の危険が高い地域を拡大させる恐れがあります。

発展途上国の所得水準向上や、高度な医療技術の利用可能性の増大を通じて、このような問題の多くが相殺されるかもしれません。しかし、一部の研究は、温暖化による人間の健康に対する悪影響は、農業への影響から生じる経済的コストを上回りかねないことを示唆しています。

  • インフラへの損害

気温の上昇は、電力需要がピークとなる夏季の送電線容量を2~6%減少させる可能性があります。コンクリートとアスファルトは、気温の大きな変動にさらされると、ひびが入ったり湾曲したりすることがあります。干ばつは、グリーン水力発電や、水を冷却システムで使用する熱電発電所(原子力、石炭、天然ガス、石油)の障害となり得ます。

生存のための介入

人類が気候変動に対処するにあたって、いくつかの方法があります。

緩和戦略 これには、温室効果ガス排出の減少により気候変動の進行を遅らせる、または逆転させるすべての介入行為が含まれます。緩和戦略には以下のようなものがあります。

  • エネルギー移行。これが本稿の焦点です。
  • 経済の減速。ただし、これに伴う損害の大きさを考えると、現実的ではないでしょう。
  • エネルギーの節約。先般のエネルギー危機の際、欧州ではこの戦略が取られました。
  • 炭素の捕集・貯留

緩和戦略は一般に、環境の観点からは最も安全な解決策だと考えられますが、経済的には最もコスト負担が大きくなります。

地球工学戦略 これは、世界的な温暖化への対処として地球を改変しようとする取り組みです。地球工学技術には以下のようなものがあります。

  • 二酸化炭素を大気から除去する直接空気回収技術(DAC)
  • 大気圏外に巨大な日除けを設置
  • 反射率を向上させるために地球の表面を広範囲に白く着色

地球工学戦略はエネルギー移行よりもコスト負担が少ない可能性がありますが、もし計算に誤りがあれば大災害をもたらすリスクがあります。また、地球工学戦略により問題のすべてに対処できるわけではありません。

適応戦略 これには、人類が地球の温暖化に対処し、繁栄するための戦略が含まれます。以下がその例です。

  • 空調管理
  • 気候が変動しても生存できるように穀物を品種改良
  • 堤防の設置

重要なのは、適応戦略では根本原因である環境問題を解決できないということです。単に私たちの生活や世界経済への影響が低減されるだけです。

次回は、化石燃料由来の電力からのエネルギー移行にあたり想定される課題を取り上げます。最後の記事では、温暖化シナリオとエネルギー移行シナリオを取り上げ、経済や市場への影響について考察します。