国内プライベート・エクイティ(PE)の魅力について
トランプ米大統領が就任して1か月近くが経過している。就任早々から関税をかけると宣言し、株式市場に資金が流入するシナリオと、リスク回避が強まるシナリオの両方に悩まされているように見える。今後も市場ボラティリティが高まることが予想され、運用担当者の悩みが尽きない日々が続くだろう。ただし、ここでいうボラティリティは企業の本源的価値とは乖離した価格変動のことであり、PEは投資先の本源的価値が大きく毀損しない限り、ボラティリティから避難できる資産クラスと言えるだろう。
日本PE市場の変化
前回ブログ記事「国内株式投資の論点 -海外市場との比較を中心に-」では、国内のコーポレートガバナンス改善への期待感、海外と遜色ない利益成長率から国内株式への魅力を再発見する内容であった。実は上場株式と同様に、国内PE業界でも日本に対する期待は高まっている状況である。国内のマネージャーはもちろんのこと、グローバルマネージャーが日本市場に寄せる期待も大きい。例えば、2024年に日本企業が関わったM&A(合併・買収)は件数ベースで過去最多となった1 【データの出所】。後継者不在を理由にファンドに売却する事業承継案件は以前から多かったが、ここにきてMBOを通じて上場廃止を選択する企業も顕著に目立ってきている。目新しい話題としては国内ソフトウェア企業に対して大手バイアウトファンドがTOB合戦を繰り広げていたことが挙げられよう。国内でTOBが盛んになったのは、経済産業省が2023年に発表した「企業買収における行動指針」と大きく関係している。この指針は「企業価値の向上と株主の利益の確保」を通じてM&A市場を活性化させることを企図している。例えば、経営陣が受け取った買収提案を取締役会にかけずに拒否するといった行動はできなくなり、「企業価値の向上と株主の利益の確保」に資する提案かを吟味して判断を下すことが求められる。
また、アクティビスト(物言う株主)の存在も株式の非公開化の一因であると言われている。彼らは投資先企業に対してガバナンス改革、資本効率改善、ESG対応など、多岐にわたる提案を行うが、近年、その影響力が強くなっていることを実感している。その中でも筆者が個人的に注目しているのは親子上場の廃止である。これは日本特有の上場形態と言われており、以前からアクティビストが問題視していたが、最近になって東京証券取引所2 も同調している。そのため、今後も親子上場は解消されていくことが予想されており、その受け皿としてバイアウトファンドが活躍することになるだろう。
国内PEの過去実績
さて、大きな変革の時期を迎えている国内PE業界であるが、PEファンドの投資機会が増加することで、将来のパフォーマンス向上が期待される。それでは、過去の実績はどうだったのであろうか?
一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会は、国内PEファンドのパフォーマンス・データベースの構築とその開示を行っている3 。それによると2010~2019年の間に開始されたファンドの2022年末時点までの開始来IRRは12.9%であった。また、2022年末基準の過去5年、過去10年の期間別IRRは各々13.7%、20.8%となっている。同期間のTOPIXのリターン実績が3.2%と10.6%であったことから、国内PEファンドは上場株式を大きく上回る実績を残してきている。期間別のIRRはその時の投資環境で変動する傾向があるため参考値に留めておく方が良いだろうが、長期で2桁のIRR実績は決して海外に引けを取るものではない。もちろん、海外のデータベースに比べてまだまだユニバース数に限りがある点は留意する必要はあるが、それでもこのサーベイに参加している会社数は30を超えており、投資ユニバースとしては不足が無いものと考える。
もちろん、このスナップショットのデータだけで国内PEの優位性を語るものではない。個別ファンドレベルでは上位下位で格差があるだろうし、また、同一ファンドであってビンテージ年によって良い年と悪い年があるかもしれない。ただし、平均的にはTOPIXを上回っているとすれば、良いファンドを選定できれば十分なアルファが期待できる可能性を秘めており、投資対象として一考すべき資産クラスであると考えても良いだろう。
年金基金への示唆
国内PE業界は盛り上がりつつあるが、その熱気が企業年金の世界に浸透してきているかというと甚だ疑問である。公的年金はプライベートアセット(PE、インフラ、不動産)に満遍なく投資を行っており、国内のPE投資にも着手しているという状況であり、年金業界における主要プレイヤーになりつつあるというのが現状だ。一方、企業年金の世界ではプライベートアセットへの投資では不動産、インフラ、プライベートデットといった安定したCFを獲得できる資産クラスの人気が高い。特にPEについてはポートフォリオのリスク抑制のため株式比率を引き下げてきたことから、PEの増額余地が乏しかったと言える。弊社顧客ポートフォリオの分布状況を見てもPE投資に積極的な一握りの顧客がいる一方、全く投資していない顧客も多く、幅広く浸透しているとは言い難い。
ここでPEがプライベートであることを理由にオルタナティブ枠で管理する妥当性を再考してみたい。冒頭の通り、ファンドに組み入れられている企業はそれまで上場していた企業が含まれることもある(ただし、ファンドの戦略による)。あるいは上場による有形・無形のコストを考えると敢えて上場を避けてファンドと共に成長した方が良いと考えている企業もあるだろう。従って、上場株式投資とPE投資は、一方が伝統資産、一方がオルタナティブという整理以上に、本来的には、両方とも株式(=企業)投資であるということに目を向ける必要がある。さらにPE投資は、その運用手法から上場株式とは異なった超過収益源泉を持ち、TOPIXを上回る実績を残してきた。そうすると、上場株式枠の中で高い超過リターンを狙う戦略としてPE投資を行うという発想があっても良いのではないか。PE、実物資産、プライベートデット、HFは各々全く異なるリターン源泉を持ちながら、これらを伝統資産ではないことを理由に一つの籠、つまりオルタナティブ枠に入れてしまうよりも、より近い特性をもつ上場株式とPEを合算して管理する方が理に適っていると筆者は考える。
これまでPE投資と言えばまずは歴史の長い欧米であった。しかし、変革期を迎えつつある国内PE投資を検討する時期に来ているのではないだろうか。
1(出所)レコフデータ調べ
2 https://www.jpx.co.jp/news/1020/20250204-01.html
3 https://jpea.group/2024/03/11/private-equity-performance-6/