プライベート・マーケットにおけるファンド・オブ・ファンズ運用の力
以下は、2023年7月21日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
概要:
- プライベート・マーケットに資産配分するにあたっては運用機関の選択が極めて重要になります。なぜなら、上場資産と比べた場合に、プライベート・ファンドはパフォーマンス上位四分位のファンドと下位四分位のファンド間のリターン格差が非常に大きいという顕著な特徴を持つからです。そのため、高いリターンを生み出す力を持つ、実績のある運用機関を見つけることが必須です。
- 経験豊富で評判の良いプライベート・マーケット・ファンドの投資家(LP)はトップクラスのプライベート・エクイティのGPや彼らのファンドにアクセスすることが可能です。ファンド・オブ・ファンズアプローチは、投資家が本来ならアクセスできない人気の高いファンドを上記の様なリレーションを通じてアクセスする直接的なメリット享受できます。
- 個々のお客様の状況や目的は異なるかもしれませんが、ラッセル・インベストメントは、プライベート・マーケット投資の基礎となるポートフォリオを構築するには、戦略、投資する地域、ビンテージイヤー(運用開始年)を幅広く分散することから始める必要があると考えています。また、投資家、特に投資プログラムを始めて間もない投資家については、セカンダリー投資や共同投資への有意義なエクスポージャーをとることが賢明でしょう。
プライベート・マーケットに固有の投資テーマの魅力が高まっていますが、伝統的な株式や債券投資に比べて、プライベート・マーケットには意識して適切に検討すべき複雑な要因があることを知る必要があります。では、プライベート資産を導入するにあたり重要になる要因をいくつか見ていきましょう。
プライベート資産:複雑さの管理
投資活動
今日では、プライベート資産は世界中で11.7兆ドルに達しています1。また、過去20年超にわたる業界の成長と合わせて、プライベート・マーケット運用機関が設立したファンドの数も指数関数的に増加しています。ハミルトン・レーンのデータ2によると、設立されたファンドの数は過去20年超で700%を超える驚異的な増加となっています。
図表1は、設立されたファンドの数が1,551から現在12,500超まで増加していることを示しています。
図表1:設立されたファンド数の増加
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出所:ラッセル・インベストメント 23年前の2000年11月時点で過去10年間のビンテージイヤーに設立されたファンド数および2023年3月時点で過去10年のビンテージイヤーに設立されたファンド数
このように設立されるファンド数が大幅に増加した結果、投資家は、グローバル・プライベート・マーケットにおいてトップクラスの投資機会を効果的に特定、評価、選択するための最低限の規模、専門知識、グローバルな組織を必要とするようになりました。
また、運用機関の選択がパフォーマンスにとって極めて重要です。リターンのばらつきが少ない伝統的な株式や債券運用機関とは異なり、プライベート資産の運用機関ではパフォーマンスが劇的に異なることがあります。図表24で示すとおり、パフォーマンス上位四分位のファンドと下位四分位のファンドの間では大きなリターン格差が存在します。実際、内部収益率(IRR)の格差は25.24%もありました。そのため適切な運用機関を選択することが最重要事項になります。なぜなら、市場に関する見通しが完全でポートフォリオが慎重に構築されていたとしても、運用機関選択の失敗から生じるマイナスのアルファが、目標とする結果の達成に大きな悪影響を及ぼす可能性があるからです。したがって、高いリターンを生み出すポートフォリオを構築する力を持つ、実績のある運用機関を見つけることが必須になります。
図表2:ビンテージ別のIRR4
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出所:Cambridge Associates「All Private Equity, Venture Capital, Growth Equity and Buyouts, Mezzanine and Distressed, years from 1981 - 2020」。示されているリターンはファンドの報酬および経費控除後のものです。リターンは2020年までのファンドが対象です。初期段階のファンドはまだ投資中であり、そのIRR(内部収益率)はファンドのパフォーマンスを正確に反映していません。比較的新しいファンドは、上記のリターンよりも低く、IRRがマイナスとなっている場合も多数あります。上記は説明のみを目的とするものです。上記のリターンは、第三者運用機関によって運用されたオルタナティブ投資商品に対応しています。これらのリターンは、特定のファンドや、ラッセル・インベストメントまたはその顧客の実際の投資結果を反映したものではありません。過去の業績は必ずしも将来の結果を暗示するものではありません。
投資の方法
自身で投資する、またはFoFにアウトソース とか外部リソースの活用とか?
プライベート・マーケット・ポートフォリオは、以下の2つの方法のうちいずれかで構築することができます。一つ目は、投資プログラムを構築するために必要な投資プロセスを実行する自社の社員を採用することです。これは一部の投資家にとっては魅力的な選択肢かもしれませんが、専門家の雇用、運用機関選択にあたってのデューデリジェンス、内部でのモニタリング、レポーティング・システムの運用、法務に関する経費などに伴うコストが発生します。もう一つの運用手法はFoFを通してエクスポージャーをとることです。FoFは、専門的に運用される合同または分別された投資ビークルで、すべての投資機能(運用機関の選択、ポートフォリオの構築、継続的なモニタリング)と非投資機能(ODD、法的レビュー、レポーティング)が当該FoFに外注されます。その場合、投資家はプライベート資産プログラムを構築・維持する負担から解放され、比較的少額の投資であっても分散されたポートフォリオを利用することができます。
プライベート・マーケットへの投資手段
プライベート・マーケットへの主な投資手段は、以下のとおり3つあります 。
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プライベート・マーケットの投資ユニバースは過去20年間にわたって進化しており、セカンダリーや共同投資の重要性が高まっています。しかしながら、セカンダリーや共同投資の機会を特定し、それを精査した上で、取引を成立させるためのストラクチャリングを行うために必要な専門知識やリソースの水準は、最大級かつ最も経験豊富な投資家でなくては手に負えるものではありません。したがって、FoFを利用することで、投資家は上記3つの投資手法すべてに対するエクスポージャーをとることができます。
ポートフォリオ構築
プライベート・マーケット・ソリューションは、投資家のトップダウンの戦略目標と既存のポートフォリオ・エクスポージャー全体を考慮した上で設計されます。ポートフォリオ構築プロセスにおいて考慮される項目には、リスクおよびリターン目標、流動性、特定の投資テーマ・セクター・地域などがあります。
個々のお客様の状況や目的は異なるかもしれませんが、ラッセル・インベストメントは、プライベート資産への基本となるポートフォリオを構築するには、戦略、投資する地域、ビンテージを幅広く分散することから始める必要があると考えています。
特にプライベート資産投資プログラムを始めたばかりの投資家は、セカンダリー投資や共同投資への有意義なエクスポージャーをとることが賢明でしょう。
プライベート・マーケット内でのFoFの優位性
FoFはなぜ投資家にとって魅力的か?
リターンのパターンがより平準化
下記の図表3で示すとおり、どのビンテージ・イヤーにおいてもプライベート・マーケット戦略のリターンには大きなばらつきがあります。2007年から2020年までパフォーマンス最上位の戦略と最下位の戦略間の平均格差は27.7%でした。しかし、異なる戦略を組み込むFoF運用を利用することで、投資家にとってのリターンパターンはより平準化されます。.
図表3:ビンテージ別プライベート・マーケット戦略のIRR
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出所:Pitchbook「Quantitative Perspectives, U.S. Market Insights, Q1 2023」
ポートフォリオ分散を介した下方リスクの管理
規律あるポートフォリオ構築プロセスを採用するFoFを利用することにより、下方リスクを効果的に管理することができます。下記の図表46が示すとおり、パフォーマンス最下位10%のFoFでさえも損失を出さず、他の戦略タイプの最下位10%運用機関と比べて高いリターンを実現しています。
図表4:戦略別プライベート・クローズド・エンド・ファンドのネットIRR(ビンテージ・イヤー:2002~16年)
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出所:Pitchbook「Quantitative Perspectives, U.S. Market Insights, Q1 2023」
トップクラスのプライベート・マーケット・ファンドへの投資権を確保:
業界で評判が高く、トップクラスの運用機関にアクセスすることができる経験豊富なプライベート・マーケットFoF運用会社を活用し、本来なら利用できない人気の高いファンドを利用することができます。
キャッシュフロー管理:
プライベート・マーケットのポートフォリオではキャピタルコールや分配が頻繁に行われますが、FoFは、基本的なキャッシュフローを管理する投資家の負担を軽減することができます。
複雑さを軽減:
FoFの重要なメリットは、より大きな投資機会へのアクセスや公開市場よりも高いリターンなど、最終投資家がプライベート資産に投資するメリットを享受することを可能にしつつ、プライベート・マーケット投資に追加的に発生する複雑さの負担から最終投資家を解放することです。
専門に特化した運用機関へのアクセス:
特定のセクター(産業、テクノロジー、消費関連)や市場セグメント(中小企業買収など)に特化したマネージャーは、ゼネラリストである運用機関と比べて明確な専門性を持っている可能性が高いでしょう。
結論
上場資産よりも高いリターンを生み出す可能性や、より多くの投資機会を利用できることから、投資家がその投資パフォーマンスを向上させるためにプライベート・マーケットにますます目を向けるようになっていることは驚きではありません。しかしながら、高パフォーマンスのプライベート・マーケット・ポートフォリオを構築・維持するためには、専門的な調査、ポートフォリオ管理、オペレーショナル・デューデリジェンス、法務のための組織など自社組織では賄いにくいリソースが必要です。まとめると、FoF運用は、大部分の投資家にプライベート・マーケットのメリットを提供することができると考えています。ラッセル・インベストメントは、これまで50年以上、投資家の皆様がプライベート・マーケットを投資プログラムにうまく組み込めるように支援してきました。この経験から、プライベート・マーケット・プログラム導入を成功へと導く「助け舟」を提供することができるのです。
1McKinsey & Company「McKinsey Global Private Markets Review 2023: Private Markets Turn Down the Volume, March 2023」
2Hamilton Lane「2023 Market Overview」2023年3月