いかにしてESGをポートフォリオに組み込むか
以下は、2021年3月9日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
6歳の子どもと健康的な食べ物の組み合わせは、水と油を混ぜ合わせるようなことかもしれません。どちらも、一緒に組み合わせることが難しく、常にフラストレーションの原因となる可能性があります。とは言え、子どもの食習慣はある程度コントロールできるという点では違います。しかし、子どもに健康な食生活を送らせるための道のりにおいて苦労するのは、なぜ健康な食生活が重要なのか、あるいは「健康的な食べ物とは何かを」理解させることではなく、「健康的な食生活をいかに送ることができるか」を理解させることなのかもしれません。
同じことがESG投資を投資プログラムに組み込むことに関して言えます。多くの投資家は、ESG投資がなぜ重要なのか - 投資リターンに対するメリット、投資リスクの低減、ポートフォリオと組織のビジョンとの整合性の確保など - を認識しています。また、多くの投資家は、ネガティブ・エクスクルージョン、ポジティブ・スクリーニング、ESGファクター・インテグレーション、インパクト投資など、ESGを組み込むために一般的に用いられる手法についても理解しています。しかし、ESGをポートフォリオに組み込むにあたって本当に苦心するのは、いかにそれをはじめるのかという点です。
最初のステップは、ESGに関する自らの信念を明確にし、それに基づいて、どの程度、ESGを組み込むかを決めることです。これを決める際には、ESGに関する組織の信念と目標、また、さまざまなソリューションを執行するための能力を考慮しなければなりません。当社はESGを組み込むにあたって以下の手法にフォーカスしてきました(導入の容易さの順):
- 議決権行使を通したアクティブ・オーナーシップや企業とのエンゲージメント
- ESGインテグレーション:運用会社の選定・モニタリングにおける運用会社のESGへの取り組み実績の検討
- ネガティブESGエクスクルージョンまたはポジティブESGスクリーンの採用
- インパクトESG運用会社またはサステナブルESG運用会社の採用
当社はこれらの各手法を組み込むためのベストプラクティスを開発してきました。当然ながら、投資家はそれぞれ異なっており、これらの導入オプションは、それぞれの組織の具体的なニーズや状況に合わせてカスタマイズする必要があります。
議決権行使や企業とのエンゲージメントを通じたアクティブ・オーナーシップ
これを野菜入り全粒粉ピザとでも呼びましょう。最もヘルシーとまでは言わずとも、よりヘルシーなピザです。重要なことは、正しい方向に一歩踏み出せば、多くのピザショップがそれをつくってくれるという点です。同じように、アクティブ・オーナーシップも、議決権行使や企業とのエンゲージメントなどを通して、ESG関連リスクを軽減し、リターンを最大化し、社会や環境にプラスの影響を与える有効なメカニズムであると一般的に考えられています。幸いなことに、それは、ピザショップでの注文と同じように、比較的簡単に実行できます。
自社ポートフォリオの運用をアウトソーシングしている組織にとって、プロバイダーまたは運用会社と協議し、議決権行使や企業とのエンゲージメントについて確実に対応できるかどうかを評価することが重要です。議決権を行使する主な事項や企業とのエンゲージメントにおけるトピックについて、委員会で検討するのもよいでしょう。結局のところ、プロバイダーや運用会社は、議決権行使および企業とのエンゲージメントのプロセスとその実行に責任を負っています。
外部運用会社に個別運用を委託する、もしくはインハウス運用を行うことで、保有銘柄の一部または全てを直接管理できる立場にある人なら、議決権行使や企業とのエンゲージメントに徹底的に取り組むことが可能です。状況に応じて、議決権行使会社またはスチュワードシップ・サービス・プロバイダーを採用して、最も重要なESG項目にのみスタッフを集中させるか、議決権行使に関連するタスクを処理するスタッフを割り当てるのもよいでしょう。
運用会社の選定/モニタリングにおける運用会社のESGへの取り組み実績の検討
ヘルシーな食事とは、何かを完全に取り除くことではなく、可能な限り高品質でヘルシーな食材を取り入れるようにすることです。同様に、ESGに関して言えば、この手法は採用可能な運用会社のユニバースを制限するものではなく、他のファクターと並んでESGファクターもプロセスに適切に組み込むことのできる質の高い運用会社のみを採用することであると考えることができます。また運用コンサルタントまたはアウトソーシング・プロバイダーが、運用会社のプロセスにとってESGファクターがどれほど重要であるかを理解するための明確な手法をもっているかどうか、また、下記のように各運用会社のESG能力を評価する方法を持っているかどうかを確認する必要があります:
- 組織レベルでのESGへのコミットメント
- 投資プロセスにおけるESGの検討
- 実際のポートフォリオ決定へのESGのインテグレーション
- 投資対象企業に対するアクティブ・オーナーシップにより、有意義な変化を推進
ESGが運用会社のプロセスにとっていかに重要であるかを理解し、これらのESGファクターを運用会社の選択・モニタリングプロセスに織り込むことで、より多くのESG要素を投資計画に組み込むことが可能となり、これにより、リターンを増やし、リスクを減らすことができます。
ネガティブESGエクスクルージョンまたはポジティブESGスクリーニングの採用
キャンディを隠し、新鮮なフルーツを見せること。これは、子どものデザートから除外すべきものと、それに含めるべきものを表しています。一部の組織では、ポートフォリオ・パフォーマンスを改善し、ESGの観点から組織の見解との整合性をとる方法に関する信念を持っており、ESGを理由として特定の株式を除外したり組み入れたりすることがあります。一般的に除外の対象となるものとしては、環境活動(動物実験または化石燃料など)、ガバナンス慣行(腐敗レベルなど)、および社会問題(ギャンブルまたはタバコなど)などがあります。
一方で、ポジティブESGスクリーン、すなわち投資家がより多くのエクスポージャーを得たいと考えるかもしれないファクターの典型としては、再生可能エネルギーへの移行から利益を受けると予想される企業の株式や、従業員の満足度スコアが高い企業の株式を挙げることができます。これらのエクスクルージョンまたはポジティブESGスクリーニングを組み込む方法として、以下の3つがあります。
- 合同運用ファンドの採用を考慮する際は、希望に合致する除外項目やポジティブESGスクリーニングを組み込んでいる運用会社を選択します。しかし、ESGへの意識の高い運用会社であっても、どの株式を選択すべきか、またはどのスクリーニングを使用すべきかに関しては若干見解の違いがあるため、すべての運用会社に対して統一されたエクスクルージョンやスクリーニング基準を適用するのは難しい場合があります。
- 個別運用を委託する場合は大抵、運用会社と連携してネガティブ・エクスクルージョンやポジティブESGスクリーニングを組み込むことが可能です。ただし、すべての運用会社がそうした能力を有しているわけではありません。その場合には、別のオーバーレイマネジャーを利用して、これらのエクスクルージョンまたはスクリーニングを組み込むのもよいでしょう。
- OCIO マンデートの場合は、プロバイダーが ESG エクスクルージョンまたはスクリーニングを組み込めるかどうかを確認してください。OCIOプロバイダーは、これらのエクスクルージョンまたはスクリーニングによるオーバーレイを外部運用会社のポートフォリオに重ねたり、これらのエクスクルージョンまたはスクリーニングを組み込んだ運用会社を選択できる可能性があります。
ここで重要な点は、運用会社/OCIOプロバイダー/オーバーレイマネジャーが、特定のESGエクスクルージョンの影響を効果的に理解し、必要なESGエクスクルージョンやスクリーニングを執行できる能力を有していることを確認することです。たとえば、二酸化炭素排出量によるエクスクルージョンは、エネルギー移行において大きな進歩を遂げている企業をアンダーウェイトするという意図しない結果をもたらす可能性があり、これでは、ESGを組み込むことから得られる利益そのものを損なうことになってしまいます。
インパクト投資またはサステナブル投資の採用
私たちの家族は月曜日には肉を食べません。月曜日には肉ではなく果物や野菜を食べることに重点を置いています。最初は大変でしたが、時間が経つにつれ、息子は野菜の価値を理解するようになりました。同様に、インパクト投資やサステナブル投資の採用も、ESGの組み込みを強化する方法としては最も困難な選択肢の1つとなるかもしれませんが、投資計画においてESGにアプローチするうえでも、良い手段となるはずです。インパクト投資やサステナブル投資を採用するにあたり、投資家は次のことを行うべきだと思われます。
- 組織の信念(グリーンエネルギー、医療へのアクセス、低炭素など)との整合性をとりつつ、どのようなテーマをターゲットにしたいかを決める
- 利用したいファンドの種類を決定する(上場株式のサステナブル投資ファンド、プライベート・エクイティ・ファンド、インパクト投資ファンドなど)
- ステップ1と2で説明したテーマとファンド構造を満たすベスト・イン・クラスの運用会社を見つけ採用する
言うまでもなく、これは大変な作業になるでしょう。豊富な情報と経験を持ち、これらの検討過程を導く能力を備えた運用コンサルタントまたはアウトソーシング・プロバイダーと連携することが、極めて重要となります。
結論
いかにESGを投資プログラムに組み込むかという問題に関する一般的なベストプラクティスは、当然のことながら、投資家の具体的な信念、状況、報告能力に合わせてカスタマイズする必要があります。しかし、いかにESGをより多く取り入れるかという問題に関して懸念があるからといって、投資家はESGをより多く取り入れることで得られる恩恵を手にすることに躊躇すべきではありません。外部の運用会社、運用コンサルタント、およびアウトソーシング・プロバイダーと連携して、お客様のニーズを満たす最適な道筋を見つけることが重要と私たちは考えています。