プライベート・インフラ投資に関する 最新のトレンドと洞察

以下は、2024年1月26日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら

概要:

  • インフラ投資を模索する機関投資家が増えています。狙いは分散効果、利益、安定的な潜在リターン、インフレ対策です。
  • 投資家が注目するのは従来のセグメントだけでなく、新しいデジタルセクターや再生可能エネルギーです。

ウェビナーの録画(英語版)はこちら(登録が必要):

2023年11月15日、Pensions&Investments誌のカスタムコンテンツ副編集長のハワード・ムーア氏が司会を務めるオンライン討論会が開催され、資産クラスとしてのインフラ投資について、またマルチアセット・ポートフォリオにインフラを組み入れることの有効性について議論されました。

パネリストはラッセル・インベストメントのプライベート・マーケット担当ディレクターとしてロンドンを拠点とするマイケル・スタインゴールド(CFA)と、モリソン&カンパニーのパートナー兼最高投資責任者としてニューヨークを拠点とするウィリアム・スメイルズ氏でした。

スタインゴールドはラッセル・インベストメントの非上場インフラ戦略のリサーチを主導し、ラッセル・インベストメント・グローバル・アンリステッド・インフラストラクチャー・ファンドのポートフォリオ・マネージャーを務めます。またインフラ、不動産、プライベート・デットに投資する、厳選した顧客向けポートフォリオ・マネージャーを務めるほか、政府・産業別年金や企業年金の大口顧客向けプライベート・マーケットのコンサルティングにも従事してきました。同ウェビナーでスタインゴールドは、インフラ業界を左右するマクロ動向と投資機会への影響を解説しました。

スメイルズ氏は、デジタルセクター投資、世界の再生可能エネルギー、再生可能エネルギー発電以外の投資機会について専門知識、洞察、貴重な視点を提供しました。

1時間に及んだ対談のうち、とくに重要な点を以下にまとめました。動画内の時刻とスライド表示に関する説明が付されます。

ムーア:投資家はインフラ投資をどのように定義したらよいですか? インフラ投資はどのようなポートフォリオ目標の実現に貢献しますか? <2:04>

スタインゴールドはまず、ラッセル・インベストメントが6つのセクターのインフラに注目していることを説明しました。これには再生可能エネルギーやデジタル、社会インフラという成長分野だけでなく、公益事業や運輸、エネルギーといった従来の分野も含まれます。

「インフラ資産を評価するには、地域社会や企業に対して必要不可欠なサービスを提供することで安定収益を生む事業基盤に注目します。これらの事業の経常収益は高い傾向にあり、契約/規制上または寡占的市場構造上の要因でインフレ連動性も高い傾向にあります」と述べました。

また、「こうした資産特性のおかげで、当社のお客様は、インフラ投資で達成が望まれるリスク/リターン・プロファイルおよびインフレ連動の特性を実現する可能性が高くなっているのです」と付け加えました。

アセットオーナーはこれまでポートフォリオ全体でインフラをアンダーウェイトする傾向にありました。近年、この傾向に変化が見られますか? 見られるとしたら、なぜですか? <5:20>

インフラという資産クラスはごく最近まで最大規模の機関投資家にしか手が届かなかったとスタインゴールドは説明しました。理由として、最低投資金額が高かった上、クローズドエンド型ファンドの長期的にわたる低流動性を挙げました。

「米国で投資可能なインフラ・ユニバースがこれまで他の地域よりも少なかったこともあり、インフラにおいてグローバル投資ができたのは非常に大きな機関投資家だけでした。米国で投資可能なインフラは比較的に限られていて、それは米国のインフラの資金調達メカニズムたる地方債市場の効率性の問題と関係していました。実のところ、投資可能な案件のほとんどがエネルギーセクターだったのです。」

しかし、昨今、商品開発におけるイノベーションと地域社会や企業によるインフラ需要の増加に伴ってインフラという資産クラスに投資しやすくなってきたと説明し、次のように述べました。「インフラへの投資配分を増やしたり、投資配分先として新設したりする動きがあらゆる規模の機関投資家の間で見られています。

ここ数年は、債券からインフラへの配分変更が見られます。金利が非常に低かった時期、安定的な利益を求めて債券からインフラへ配分先を変更する動きがありました。現在は、不動産から配分先を変更するケースのほうが多くなっています」

アセットオーナーがインフラをマルチアセット・ポートフォリオのサテライトではなくコアの一部とする動きが広がっているようです。この動きをどのように見ていますか? <9:04>

スタインゴールドは「マルチアセット・ポートフォリオにおける非上場インフラ(Unlisted infrastructure in multi-asset portfolios)」というスライドを用いて説明しました。この説明によると、マルチアセット・ポートフォリオにおけるインフラという資産クラスのプロファイルはとても有用で、株式・債券やプライベート不動産・上場インフラなどのオルタナティブ資産を補完します。

「非上場インフラ、特に再生可能エネルギー、デジタル、社会インフラなどの成長テーマへの投資で得られるエクスポージャーと同じものは上場市場に存在しないことは明らかです。また、インフラという資産クラスはインフレ対策としても頼れる存在です。インフラ投資はインフレからの保護になるといった通説があるくらいです。最近の高インフレは、この通説の正しさをわかりやすい形で示すいい機会になりました。実際にインフラはインフレにしっかりと連動したのです。他のあらゆる資産クラスとは好対照を成しました。このようなインフレ連動性を備えた金融資産はほとんど存在しません。インフレからの保護をポートフォリオに付与したい投資家の間でインフラという資産クラスの人気が広がっています。インフレ連動型の負債を持つ機関投資家や購買力の保全を期すファミリーオフィス、プライベート・マーケットへの初参入を目指す富裕層向けチャネルなどです」と語りました。

リターンの話を続けましょう。他の資産クラスと比較した、またマクロ経済環境全体の中で見たインフラ投資のここ数年の相対的パフォーマンスについてお話しください。<12:50>

スタインゴールドは、スライド「マルチアセット・ポートフォリオにおける非上場インフラ(Unlisted infrastructure in multi-asset portfolios)」を見せながら、「リスクの側から見ても、他資産対比のパフォーマンスは非常に良好でした」と答えました。

続けて、「ローリング・ボラティリティや最大ドローダウンなどの指標でも他の資産クラスより優れています。一歩下がって、非上場資産のバリュエーションは動きが遅いという性質を勘案したとしても、同様でした。 リスク量が抑制されるのは、キャッシュフローのインフレ感応度が割引率の上昇を相殺することで、原資産や事業のダウンサイド・プロテクション(投資先が適切に選定されていることが前提)とバリュエーションの低金利デュレーションの両方が組み合わさる結果であると考えます。投資家にとって直観に反することかもしれませんが、インフラ投資の大きな魅力です」と言いました。

インフラ投資に好機が到来しているのでしょうか。考えを教えてください。<32:11>

スタインゴールドは「インフラ投資の可能性を示す長期トレンド(Secular trends underpinning the infrastructure opportunity)」というスライドを見せて、次のように述べました。

「過去18か月間のパフォーマンスはインフラ投資の利点を証明しています。同時に、割引率の上昇で投資タイミングとして魅力度が増しています。また、政策環境が改善しています。そして、分母効果などの理由で多くの投資家がプライベート資産投資を一時停止せざるを得ないため投資しやすくなっています。投資配分先を検討している投資家にとって、この投資テーマに資金を投入するのに今は絶好の時機です」

社会インフラに話を戻しましょう。社会インフラとは何を指すのか、そこから説明してもらえますか? 投資家に具体的にどのような機会を提供する分野なのですか? <44:05>

社会インフラとは、裁判所、消防署、警察署、学校などの公共施設や、大学、病院などの設備を指すとスタインゴールドは説明しました。

「社会セクターに投資する際、資金と専門知識を組み合わせて前述の施設を建てたり、改築・修繕したりするソリューションを提供します。現在、地方自治体や機関はこのソリューションをこれまでになく必要としています。こうした施設の建設は費用がかさみます。工事費と金利の高騰だけでなく、技術的要件や持続可能性へのニーズにより建物が複雑化しているためです。

この点、ネットゼロ目標を掲げる機関向けに脱炭素化ソリューションを提供する大きな機会が開かれています。例えば、病院の物理的設備をアップグレードしたり、エネルギー効率の高い備品を設置したり、大学のキャンパスにマイクログリッドを建設したりします。これらの投資は10%台前半の資本コストを稼ぎ、優れた信用プロファイルとすばらしいESG成果が期待できます」

非上場インフラへの投資戦略に話を移しましょう。ラッセル・インベストメントでは、上場インフラと非上場インフラ両方への投資を提供していますか? <49:03>

「はい、提供しています」とスタインゴールドは答えました。「上場インフラと非上場インフラは投資家が管理するポートフォリオの中で相互補完性が高いと考えています」

さらに「非上場インフラは成長戦略への入口(Unlisted infrastructure is an access point to growth strategies)」というスライドを見せながら説明を続けました。「上場インフラ投資では、各セクターで資本コスト優位性を確立した大手インフラ企業への投資機会を低コストで得ることができます。同時に、これらの大手インフラ企業はインフラ・ユニバースの中で低成長分野に属する傾向にあり、スーパーコア/コア・リスク・プロファイルを持ちます。規制対象の公益事業、第1種鉄道などの事業のほか、通信塔やパイプラインなどの利回り重視のポートフォリオです」

「非上場インフラ投資では、このユニバースを拡張して、コアプラスやバリューアッドなどの高成長戦略も取り込みます。優れたリスク特性を持つインフラ資産に投資できると同時に、プラットフォームの拡張、変革をもたらす設備投資、厳選した建設リスクなどからの長期成長を提供する資産にもアクセスできます」

「再生可能エネルギー、デジタル、社会インフラなどの有望セクターへのアクセスは非上場市場のほうが優れていると考えます。これらのセクターは上場市場にも存在しますが、非上場市場のほうが好みのビジネスモデルへのきめ細かなエクスポージャーを得やすいと考えます。上場/非上場市場両方でのエクスポージャーを組み合わせるのが最善のインフラ投資だと考えます」

スメイルズ氏もまた、非上場インフラ投資に触れました。

「モリソンでは3つのグローバル投資戦略を提供しています。コア/コア+、バリューアッド、上場インフラです。グローバル視点で調整したワンチーム・モデルで3戦略を執行しています。当社は長期テーマ投資家であり、これらの投資テーマは本質的にグローバルであり、3戦略は一貫した性質を持っています」

投資家はどのような取引構造を理解しておくべきだと考えますか? <55:22>

スタインゴールドは次のように答えました。「ファンドによるポートフォリオとしては、流動性と分散に配慮することが大切です。歴史的に、インフラに投資できたのは何十年にも及ぶ非流動性に耐え得る最大規模の機関投資家だけでした。近年、オープンエンド型ファンドの登場など商品開発におけるイノベーションを背景として、上場ポートフォリオよりいくらか流動性に劣る資産として非上場インフラを取り扱えるようになっています。」

「新しいファンドを利用して市場にアクセスする投資家は、通常の市場環境では3~6か月間で資金を流動化することもできます。15年間を超えるクローズドエンド型ファンドでの極度の非流動性とは大きく異なります。一部の投資家、例えば、リスクの引き下げまたはバイアウトを視野に入れる年金基金やプライベート・マーケット投資への初参入を目指す富裕層向けチャネルにとっては特に有用です。」

「もう1つ大切なことは分散です。インフラ資産は普通、大規模で、それぞれ固有の特性を持ちます。予測が難しい政治的なリスクを抱えることも多いです。投資家はこの種のリスクを分散するため、広範なセクター、サブセクター、テクノロジー、規制当局などにまたがるポートフォリオを構築しなければなりません。適切に分散したグローバル・ポートフォリオには約100の資産を組み入れる必要があると考えます。厄介なことに、大半のインフラ・ファンドは10~12の資産しか組み入れていません。ですから、ポートフォリオに複数のファンドを組み入れるか、マルチ・マネージャー戦略を採用する必要が出てきます。しかし、特別な努力を払う価値があります。投資を十分に分散して個別の投資案件に伴うリスクを軽減すれば、インフラ投資から利益を得られる可能性が高くなると考えます。」

討論はここまでとし、2024年における重要な点をパネリストに尋ねました。<57:55>

スメイルズ氏はこう言いました。「人間社会はいつも不確実な世界情勢に直面します。だからこそ、あらゆるシナリオで社会がきちんと機能するのに必要不可欠なインフラ資産への投資には大きな魅力があるのです。短期的に市場が混乱したり、インフレや金利をめぐる懸念が高まったりすると、低流動性資産に資金配分して、魅力的な価格で希少資産を取得できる投資家にはチャンスが到来します」

スタインゴールドはこう結びました。「最近の高インフレ・高金利環境下でインフラ投資が優れたパフォーマンスを発揮したことで、マルチアセット・ポートフォリオにおいてインフラが価値の高い資産クラスであることが再確認されました。同時に、エネルギー移行やデジタル・トランスフォーメーション、社会インフラの更新需要を背景とする成長機会は、一定の流動性を提供する新しい商品構造のおかげでこれまでになく多くのタイプの投資家に手の届く対象になっています。2024年は、好ましい環境で、機関投資家は戦略的配分を増やし、富裕層向けチャネルはインフラ投資を顧客に紹介する機会に恵まれるでしょう。」