パンデミック・ストレス状況下における投資スタンス:株式・債券編

荒川 光弘、コンサルティング部 エグゼクティブ コンサルタント

市場の混乱

新型コロナウイルスの影響で2020年第1四半期はリーマンショック以来の市場下落に見舞われた。年初来の高値から3月中旬にかけて、株式は世界各地で▲30%超とリーマンショックに迫る勢いの下落を示し、米国クレジットスプレッドもインベストメントグレードで300bps超、ハイイールドで1000bps超と急速に拡大した。そして、今まで堅調であった不動産市場にもこの影響は及び、流動性が高く株式との連動性が高い世界のREIT市場も軒並み総崩れとなった。特にJREITの下落率は激しく、一時、株式を上回る▲50%にまで及んだ。最終的には米国をはじめとする先進各国から矢継ぎ早に出された大規模経済対策や金融当局による流動性供給策のインパクト効果もあり、若干の揺り戻しが進む中2019年度末の着地を迎えた。企業年金の2019年度パフォーマンスは、概ね4年ぶりのマイナスに沈んだとはいえ、最悪の事態は避けられたとの思いを持たれる方も多いであろう。

現在の市場環境に対する認識-パンデミックに収束の目処が立たず

今回の市場下落(まだ終わったわけではないが)はリーマンショック級とも言われているが、その下落を引き起こした原因はリーマンショックとは全く異なっている。リーマンショックにおいては、サブプライムロ-ンに端を発したリーマンブラザーズの破綻など、証券化商品と金融機関の過大なレバレッジ経営の行き詰まりによる金融不安が主因であり、それが実体経済にも影響を及ぼしていった。その対策としては、まず初めに金融システムの不安を取り除き(金融安定化対策)、落ち込んだ実体経済に刺激を与える財政政策を講じればよかった。しかし、今回は新型コロナウイルスという未知の疫病が主因であり、グローバライズされた世界経済の動き(物や人の動き)そのものをストップさせ、ありとあらゆる分野に影響を及ぼしているといっても過言ではない。

新型コロナウイルス問題の収束の目処が立たず長期化すればするほど、世界経済や人々の生活へのインパクトは計り知れないものになっていく。感染拡大を止めるべく、都市封鎖など人の移動制限を行い、世界各国が大規模な緊急経済対策を講じたとしても、未だ新型コロナウイルスに対する効果的な対応策が打ち出されていない以上、それで事足りるかはわからないのが現実であろう(それゆえ、市場もボラティリティが高く、下値が見えない状況が続いている)。いずれにせよ、ウイルスへの対策(新薬の開発など)が講じられ、ウイルス拡大の収束に目処がつくことを願うばかりである。

株式の投資魅力度-下落しても全体的に高いとは言い難い

とはいえ、このような市場の下落局面で将来予測が難しい時こそ(市場が不透明であるほど)、投資という観点ではチャンスが生じ得る。まず、株式市場を見てみてみよう。米国S&P500は市場高値から一時34%下落したが、その後の揺り戻しもあり、2019年度としては11%の下落に留まった。2020年3月末時点の株式バリュエーションはPERで15.5倍(過去平均15倍)、PBRで2.8倍と従前よりは下がっているものの、数値上での割安感は見られない。また、他の市場でも株価の下落とともにバリュエーション指標は改善したものの、過去平均と比べると思ったほど割安感が出ていないのが現状である(欧州(MSCI Europe)ではPERが13.0倍(過去平均13倍)、PBRで1.4倍、新興国(MSCI EM)ではPERが11.2倍(過去平均11倍)、PBRで1.3倍。裏を返せば今までそれほど割高だったということかもしれない)。当然、投資期間、投資尺度や将来的な経済回復度合いの見方により見解は異なるだろうが、当分の間、景気後退による企業業績悪化が見込まれることを踏まえると、個別銘柄ベースは別として、株式市場全体では、未だ投資魅力度が高いとは言い難い。

債券の投資魅力度-国債は魅力薄、クレジットは投資妙味を検討

次に債券であるが、日本を始め欧州の多くの国でマイナス金利の状態が続いていた中、今般、米国が金利引き下げに動き出した。世界は再び量的金融緩和拡大に逆戻りしている状況で、国債は引き続き有望な投資対象とはなり得ない。しかし、クレジット債券においては、今回のマーケットの混乱を受け、投資妙味のあるスプレッド水準になっているものも散見される。

クレジット債券に対する投資魅力を考える際、スプレッド水準とデフォルト率との関係を考えるとわかりやすい。たとえば、国債に対するクレジット債券のスプレッドが700bps、デフォルトした時の回収率が70%と仮定すると、市場はその債券に対して10%(=7%/70%)のデフォルト率を見込んでいることになる。3/末時点の米国投資適格社債のスプレッドは272bps(Bloomberg Barclays U.S. Corporate Investment Grade Index)だが、バンクローンのスプレッドは1,076bps(S&P/LSTA Leveraged Loan Index)、ハイイールド債券のスプレッドは877bps(ICE BofAML US High Yield Index)、新興国債券のスプレッドも626bps(J.P. Morgan Emerging Markets Bond Index)となっている。

ここでスプレッドの最も拡大しているバンクローンについて検証してみたい。米国バンクローンのデフォルトした時の回収率を過去平均を踏まえて60%と見積もると、市場は18%(=10.76%/60%)のデフォルトを見込んでいることになる。この状況が5年間続くとすると、累積で63%もの企業がデフォルトすることを意味し、極めて悲観的な価格付けがなされていると言えよう。リーマンショック後のピークでもデフォルト率が15%を超えていないことを勘案すると、このスプレッド水準は売られすぎの感は否めない(当然、この先スプレッドがさらに拡大していく可能性もある。今回のストレスは疫病という今までにない事象であり、専門家と言えどもその予測は極めて困難と言える)。

デフォルトした場合の回収率は債券種別により異なるだけでなく、その時の経済状況によっても変化する。実際の投資に当たっては様々な角度から投資魅力度を慎重に判断すべきことは言うまでもない。ただ、過去のストレス局面と比較しても魅力的な水準と考えられるクレジット債券に対しては、投資妙味を感じる人がいてもおかしくないであろう。

長期投資家としての投資スタンス

株式には本源的価値という概念があるものの、実際の株価は必ずしもその適正価格を常に表しているとは限らず(大きく上振れも下振れも生じ得る)、株式の適正価格を予測することは難しい。しかし、株式市場は長い目で見れば上昇傾向にあることは疑いのない事実である(世界全体でみれば下落したとしても必ず過去の高値を更新している)。それゆえ、株式投資においては購入タイミングを計るというよりは、むしろ長期的スタンスで臨むべき資産(長期的成長の果実を獲得する資産)と考えた方が望ましいと言えよう。

しかし、債券においては若干状況は異なってくる。債券そのものには投資期間があり、デフォルトさえしなければ一定期間後に額面価格が戻ってくる。当然、ベストな投資タイミングを狙ったり、デフォルトするかどうかを正確に予測することは不可能だが、(投資期間を短くすればするほど)株式と比べると、債券の方が投資判断を行いやすいと言えよう。

低金利が常態化し、クレジットスプレッドも縮小していたことから、債券に対する投資魅力を感じず、プライベート資産へのシフトが加速していた感も否めない。しかし、今般の市場変動を受け、クレジット債券の市場環境は変わりつつある。プライベート資産は経済状況が購入価格に織り込まれるのに時間を要する。それゆえ、いち早く市場変動を織り込んだクレジット債券が再び脚光を浴びる日も近いのかもしれない。

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