パンデミック・ストレス状況下における投資スタンス:不動産編

不動産取引は大幅に縮小か

リーマンショック以降の長期の景気拡大やグローバルな低金利を背景に、投資家の資金が不動産市場に流入し、昨年末まで不動産取引は高水準で推移していた。ところがこの度の新型コロナウイルスの影響で、取引の状況は一変したとみられている。実物不動産については、伝統的な上場株式や債券と比べると、様々なデータの開示が遅れることから、執筆時点で今年に入ってからの取引水準が明らかになっていない。それでも、マネジャーからは足元の不動産取引が大幅に縮小していると聞いている。こうした状況は都市封鎖が行われている国も存在することを勘案すると、想像に難くない。実物不動産の先行指標といった側面もある上場REITでみると、3月単月のリターンは上場株式に対して大きくアンダーパフォームしている(MSCI World ▲13.1%に対し、FTSE EPRA NAREIT Developed ▲22.6%、円ベース)。また、公募で取引されている、不動産を裏付けとした証券化商品(CMBS等)も同様に大きく下落した。

分散された不動産ポートフォリオ

改めて日本の年金スポンサーの不動産投資への取り組みについてふれる。海外では機関投資家の主要なアセットクラスとなっている不動産だが、日本では、良好な市場環境を背景にここ4~5年ぐらいで大きく拡大してきたと言える(弊社コンサルティング顧客の75%が不動産投資を実施、平均実績配分は4%、2019年3月末時点)。日本の企業年金は株式比率を減らす過程で、振り向け先の一つとして安定的なインカムリターンが期待でき、目に見えるボラティリティが低い私募不動産に注目した。国内では、安定稼働した物件に多数投資し、限定的ながらも流動性も具備しているオープンエンド型の私募REITの市場が急速に拡大したことも、不動産投資を後押しした。そして、海外に目を向けると、米国や欧州といった地域特化型のファンドだけでなく、グローバルに分散されたFoFも提供され始めた。投資可能な選択肢が増えてきたことから、年金スポンサーの不動産ポートフォリオのグローバル化が進んできた。戦略としては、リスク抑制志向が強いことから国内外問わずコアが中心であり、ポートフォリオは主としてオフィス、賃貸住宅、商業施設、物流施設といった伝統的セクターに分散されている。また、ここ数年で景気後退が懸念されてきた中では、ダウンサイドリスク抑制に着目し、エクイティだけでなくデット(投資対象はシニアローン中心)にも分散している年金スポンサーもみられる。

不動産セクターへの想定される影響

しかし、このような十分に分散された不動産ポートフォリオでも、今般の新型コロナウイルスによるネガティブな影響は避けられないだろう。なお、ファンドの状況は現在と大きく異なることを断っておくが、リーマンショック時の米国私募不動産(NFI-ODCE)の最大ドローダウンは▲37.8%(USDベース)であった。そして、速報値ではあるが、今年1-3月期の同リターンは0.97%となっている。今後、時間の経過ともに明らかになるが、ここではセクター別でリターンに影響を与える点について述べる。

まず、商業施設は主要テナントである小売店(日用品除く)や飲食店の売上が激減しており、ホテルは稼働率が極端に落ち込んでいることがわかっている。これらのセクターでは投資物件におけるテナントとの契約形態は重要となってくる。賃料が固定なのか売上歩合といった変動なのかで影響度合いは異なることとなり、当然ながら想定賃料収入に占める後者の割合が高いと影響が大きい。また、オフィスでは、足元影響は小さい模様であるが、経済活動の停滞が長引くと賃料負担に耐えられなくなったテナントの退去も想定され、結果として稼働率が低下したり、賃料が低下していく。一方、物流施設については、店舗ではなくオンラインで物品を購入するといった人々の消費行動の変化を背景に、物流倉庫への需要が高いことが見込まれることから、予てよりマネジャーの投資意欲が高くパフォーマンスは相対的に良好であった。今後も小売店の営業停止や巣ごもり等から、オンライン消費のニーズが一層高まればプラスに影響するが、景気後退から消費が減退するとマイナスの影響も出てくるだろう。そして賃貸住宅は相対的に底堅い実需が見込まれるセクターであり、一部のニッチなサブセクターを除くと今般のイベントの影響は足元では小さく、概して景気動向に大きく左右されにくい。

昨今の状況を受けて、商業施設等でテナントの賃料支払いを猶予する、あるいは減免するといった動きが報じられている。今後、こうした動きが投資物件に生じる可能性も否定できず、その場合、賃料収入、ひいてはインカムリターンが低下することとなる。一方、物件評価についてみると、将来の賃料収入がこれまでの想定より大きく低下することが見込まれる、あるいは周辺物件で投げ売り等により低い価格で成約する取引事例が発生すると、鑑定評価が下がることとなり、これはネガティブなキャピタルリターンにつながる。

マネジャーとのコミュニケーション強化が求められる

上記はあくまでも一般的なセクター動向であり、不動産の場合、投資している物件の個別性が強いため、特にポートフォリオへの影響度の大きい物件は状況をマネジャーに確認する必要があるだろう。賃料の支払猶予や減免が発生するのか、物件収支の予想とその前提やテナント信用力の把握が重要になる。そして、物件の開発が止まったり、マネジャー自身の出張禁止等から物件視察を含めたデューデリジェンスを行えず、キャピタルコール型のファンドでは投資の進捗が遅れることが見込まれる。また、オープンエンド型ファンドでは、機関投資家のリバランスための部分的な解約の動きもあるようだ。今後、リターン実績が明らかになる中で他の投資家の解約動向を確認し、自身が不利益を被る可能性がないのか注意を払う必要がある。

状況は刻々と変化している。マネジャーとのコミュニケーションをより密に行うことによって、ポートフォリオの状況を適宜アップデートしてもらいながら、どのような影響があるのか見極めていく必要があると考えられる。

長期投資家としてのスタンス維持と今後の投資機会

不動産は流動性を犠牲にしてそのプレミアムを享受する、長期で取り組むべきアセットクラスである。リーマンショック時と異なり、特に年金スポンサーが中核として投資しているコア戦略の不動産ファンドでは、レバレッジが低めに抑えられており、現時点では短期的に運営が行き詰まるといった極端な事体は想定しづらい。基本的には長期投資の枠組みの中で許容できるリスクに収まっているかを確認しながら、決められたアロケーションを維持していくことがプレミアムの獲得につながる。ただし同時に、新型コロナウイルスがいつ収束するか明確に見通せない状況であるため、ファンドのリスクシナリオにおけるダウンサイドリスクの大きさは別途、ヒアリングしておくことが良いだろう。

また、少なくとも昨年末までは、グローバルの主要都市の不動産市場は過熱し、優良な物件を適正な価格で購入することは難しかった。歴史的に低い水準であるキャップレートが今後しばらく低いままなのか、あるいは上昇に転じるのか、そのタイミングを正確に予測することは難しいものの、市場が調整されキャップレートが上昇する(不動産価格が下落する)局面では、新たに様々な投資機会が生まれてくる。そうした機会に備えながら、今後の推移を注意深く見守り、市場全体を俯瞰していくことが重要になってくる。今回のイベントは単なる景気後退による不動産市況の悪化とは異なり、各セクターの大きな転換点となる可能性も秘めているのではないだろうか。

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