パンデミック・ストレス状況下における投資スタンス:インフラ編

国内年金投資家(以下、企業年金)のインフラストラクチャー投資

インフラストラクチャー(以下、インフラ)投資はその言葉が示す通り「生活の基盤」となる資産に対する投資である。長引く低金利環境における安定的な利回り追求のニーズから企業年金の間で浸透してきた。

現在企業年金のインフラポートフォリオは地域やセクターの分散を志向した上で、コア/コアプラスの戦略で管理されていることが一般的と言えよう。オープンエンド型戦略は1戦略内で投資対象地域を先進国中心に分散している戦略が多い。クローズドエンド型を活用する場合、企業年金はゲートキーパーを用いて地域特化型戦略を組み合わせグローバル分散を図っているケースが多い。

市場変動の影響を受けづらいディフェンシブな資産との印象が強いインフラだが、セクターによっては今回の特殊なイベントからの影響を受けている。

各セクターに対する影響

一口にインフラと言っても投資対象となるセクターは幅広い。セクターによってリターンリスク水準が異なるが、これは運営する資産の収入/キャッシュフローの条件や契約形態の違いに起因する。

以下では各セクターについてあくまで大まかな、今回のイベントが及ぼす影響を簡単に述べる。無論投資案件ごとに内在するリスクの種類やその大きさは異なり、投資戦略を選定する際は運用機関のスキルを見極めることが重要である。

各インフラセクターに対する相対的な影響の大きさ

相対的な影響

セクター

PPP運営資産、社会的施設(学校、病院等)、 公益事業(上下水道、電力供給、地域熱供給)、 デジタルインフラ(通信塔、データセンター、ファイバー)
中立 発電(再生可能エネルギーを含む)、ミッドストリーム資産(貯蔵施設等)
輸送(有料道路、空港/港湾運営、鉄道)、商業電力

ラッセル・インベストメント作成

 

相対的な影響 小 PPP(官民パートナーシップ)は政府/自治体からの支払額が固定されるアベイラビリティベースが多く影響は小さい。日常生活において特に不可欠なサービスを提供する規制資産と呼ばれる分野(上下水道、電力供給等)も景気変動の影響を受けにくい。なおデジタルインフラはソーシャルディスタンシングに伴う在宅勤務等による利用増から影響を受けないか、データセンター、ファイバーではプラスに働く案件もあるという。

相対的な影響 中立 発電事業など取引相手との契約に基づき収入が決定されるセクターが該当する。優良顧客との長期契約が選好され、相対的な影響は大きくないとする運用機関が多いようだが、景気低迷が長期化する場合、取引相手のカウンターパーティリスクが意識される。原油価格の大幅下落もありエネルギー関連では特に取引相手のデフォルトリスク精査に動くところもあるようだ。

相対的な影響 大 今回のイベントで最も影響を受けると考えられるのが、収入が利用量によって変動するセクターである。特に有料道路や空港は渡航制限や外出規制に伴う利用量減の影響を直接的に受ける。ただこのセクターでも個別案件の事情により影響の大きさは一様ではない。例えば鉄道においては案件によっては人の移動の減少に対し貨物量はそれほど減少していないといった話や、有料道路ではマイカー通勤増で全体の利用者減が軽減されるといった話があり、各戦略が保有する案件の状況を深く理解する必要がある。英国では政府が空港をケースバイケースで支援することを発表しており、今後各国政府によるインフラ支援策もパフォーマンスに影響するファクターになりうるであろう。運用機関とのコミュニケーションでは特にこのセクターにおける案件の運営状況が焦点になろう。

またポートフォリオにおける配分は少ないものの、グリーンフィールド案件ではサプライチェーン機能低下によりプロジェクト進行の遅延に懸念が出ている案件もあるようだ。

長期投資家としてのスタンス

企業年金のインフラポートフォリオは分散が志向されているものの、今回のような実体経済の動きが停止するような特殊なイベント下ではやはり負の影響を受ける。 ただ長期投資家としての企業年金においてインフラそのものの投資意義が薄れたわけではないと考える。第一にインフラという生活基盤に対するニーズが低下するわけではなく、むしろこれらの資産に対するニーズは底堅いと想定される。長い目で見れば先進国の財政悪化を契機とした民間資金のニーズは高まろう。第二に企業年金のポートフォリオにおいてリスクの中心となっている株式に対し、インフラの相対的に安定的なキャッシュフローはポートフォリオ全体に対し引き続き分散効果をもたらすであろう。

ポートフォリオのボラティリティが高まる局面では、パフォーマンスの安定化に寄与することが期待されるオルタナティブ投資への注目度が高まる。その中でインフラ投資も1つの重要な収益源泉と考えられる。ポートフォリオ全体の安定化への寄与という観点に立てばインフラポートフォリオはこれまでの傾向同様、分散化されたコア中心のポートフォリオを構築することが検討の優先度合いの高い運営管理手法であろう。

2019年度、多くの企業年金はマイナスのパフォーマンスに陥った。各企業年金のポートフォリオの中でインフラはどのように寄与したか、それは期待に沿った動きであったか。今回のイベントは長期的なコミットメントが求められるインフラに対し、その役割を再確認する契機になる。またこういった市場環境の中で運用機関の間には、これまでより大きなパフォーマンス格差が発生することが想定される。低流動性という性質からインフラポートフォリオは短期間に変更できるものではない。しかし、運用機関に関する積極的な情報収集が今後のポートフォリオ改善のヒントにつながる可能性もあろう。

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