パンデミック・ストレス状況下における投資スタンス:ダイレクトレンディング編

回収能力が試される局面へ

この度のパンデミック・ストレスは様々な資産に大きな影響を与えており、ダイレクトレンディング戦略もその例外ではない。当該戦略が融資対象とする企業は、企業規模が小さく、また借入水準が高い、信用力の低い企業であることが一般的であるため、現在のようなストレス下では特に大きな影響を受けることが予想される。

融資時の案件精査等によってデフォルトに代表される財務上の問題を回避できれば良いのだが、こうした環境下では各戦略の回収能力に焦点が当たる。ダイレクトレンディング戦略は世界金融危機以降の規制強化を背景に拡大してきたが、これまで安定した経済環境が続いてきたため、どちらかというと案件発掘や精査に焦点が当たってきた。平常時のモニタリングや回収業務は行われていたが、デフォルト発生後の回収業務が現在のダイレクトレンディング戦略において行われることは極めて稀であった 1

今回の危機では、ダイレクトレンディング戦略の実際の回収能力が試されることになるだろう。本稿ではダイレクトレンディング戦略が融資先企業に問題が発生した際にどのように対処するのかを確認した上で、当該戦略の現状や今後の投資機会について述べたい。

問題発生時の回収プロセス

財務的な問題が発生している融資先企業に対するモニタリングやその後の回収は、概ね以下のような経路をたどる。

まず、モニタリングを通じて早い段階で融資先企業の問題を察知し、改善を求める。融資にあたって事前に定められた条件(コベナンツと呼ばれる)はもちろんのこと、その他の経営指標を定期的に確認する他、今回のような危機時には随時、経営状況の確認を行っている。昨今では貸出条件を緩和した融資案件が増えていることからモニタリングの重要性は増しており、また融資先企業との関係性次第であるが、問題を察知した時点で融資先企業の経営に関与することもある2

こうしたモニタリングや働きかけにも関わらず問題が深刻化した場合は、融資条件の変更等を融資先企業と協議する。ここでは融資条件の変更と同時に、経営陣や主要株主に追加出資を依頼する等、関係者間の利害調整が必要となる。多くのダイレクトレンディング戦略にとってPEファンドは融資案件の主な仕入れ元でもあり、PEファンドとの関係性には留意して運営されてきたが、ここでは丁々発止の交渉が必要となる。

さらに問題が悪化した場合は、最終手段として債権を株式に転換する等して、融資先企業の経営権や主導権を取り、事業再編や資産売却、または会社清算を通じて債権回収を図ることになる。この段階や融資条件の変更を検討する段階で、ディストレス戦略等の第三者に債権を売却することも、選択肢になるだろう。

既存のダイレクトレンディング戦略を採用している委託者の立場では、こうした回収プロセスを念頭に運用機関と対話を行うことで、問題発生時にダイレクトレンディング戦略が受託者責任を果たすことができたのかを確認できると考えている。

各戦略の対応と今後の投資機会

現在、多くのダイレクトレンディング戦略ではパンデミック・ストレス下での融資先企業の経営状況を確認している。エネルギー・レジャー・旅行・小売りといった業界は特に強い影響を受けているが、テクノロジー・ソフトウェア・ヘルスケア業界の影響は相対的に軽微であるようだ。そして、融資にあたって財務状況を精査し、景気変動の影響を受けにくい業種を選好する等の運営を行ってきた3ものの、今後は融資条件の変更等を迫られる事例が増加するものと思われる。

融資条件の変更やその後の事業再編等には、平常時とは異なる多大な作業が発生する。幅広いセクターで同時かつ急速に状況が悪化するという今回の危機の特徴によって、限られた人員でこうした作業に対応することの難しさが増幅されることも懸念される。このため運用機関によっては、回収業務の増加を見据えた対応が必要となる先もあるだろう。回収業務に特化したチームを抱えている運用機関では当該チームの増強が必要かもしれないし、融資時の案件精査担当者がその後の回収業務も行っている運用機関では新規の案件精査にかける時間を減らす必要があるかもしれない。

一方、多くの企業が手元資金の確保に取り組んでいる現状は、ダイレクトレンディング戦略側に優位な条件で融資を行う好機でもあり、実際に複数の運用機関が新規資金の募集を行っている。こうした運用機関では、既存融資案件の回収業務を行いながら新規融資案件の精査を行う必要があるため、業務量の増加への対策がより一層求められる。

世界経済がこの度の危機をどのように克服するのか、また危機がどのくらいの期間続くのか、現時点でたしかな見通しを立てることは難しい。また、ダイレクトレンディング戦略に特有の事情として、業界拡大後に訪れた初の大型危機という事情もある。先行きに対する不透明感は強いが、本稿で紹介したようなリスク管理の一端を確認しつつ、また一方で過度に委縮することなく、モニタリングや新規検討に臨んでいただきたい。

 

1 運用チームとしてのデフォルト・回収経験はなくても、運用者の中に前職務で回収業務を経験した人物が含まれていることが一般的である

2 一般的に会社経営への関与度合いは資本を提供する株主の方が高い。特にPEファンドが大株主である場合、経営はPEファンドに一任されることが多い

3 このため、エネルギー業界への融資は行わないとした戦略も散見された

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