あなたの組織の運用継承計画は万全ですか?

以下は、2025年2月19日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

エグゼクティブサマリー:

  • 組織における変化は避けられないため、投資資産を適切に管理するには、運用継承計画が不可欠です。
  • 少人数の投資チームは、大きな継承リスクを抱える可能性がありますが、そのリスクを担当者だけで負う必要はありません。
  • 熟練したOCIOプロバイダーと連携すれば、変化が訪れた際もスムーズに移行できるだけでなく、より広範なリソースを活用し、リスクを軽減することが可能です。

どのような組織であっても、いずれは直面する避けられない課題です。――確定給付型(DB)や確定拠出型(DC)年金プランのスポンサーであれ、大学基金や財団であれ、どのような組織でもいずれは直面する問題です。組織の運用資産を管理する責任者は、いずれ退職や転職、あるいは個人的な事情の変化によって、組織を離れることになります。では、その時どうするのでしょうか?

従業員の退職後の資産や組織の運用資産の成長を守るのは誰か? そして、その責任を担う人は、受託者責任を果たしながら、適切な投資判断を下せるだけの専門知識を備えているのか?

一つ確かなのは、従業員の経済的安定や組織の財務健全性がかかっている以上、事前に明確な計画を持っておくべきだということです。そのため、この話題が多少耳の痛いものであったとしても、まだ対策を講じていない組織は、運用の継承計画について早急に検討することが不可欠だと私たちは考えます。すでにこの課題に取り組んでいる組織の皆様も、本稿をお読みいただき、計画の見直しが必要かどうか再考してみることをお勧めします。

専門知識を維持する重要性

機関投資家の世界は極めて複雑です。組織の資産運用を成功させるためには、深い専門性、特化した知識、そして業界での長年の実務経験が求められます。リターンの向上、リスクの低減、コスト管理といった要素に精通していることが、投資目標を達成する上で不可欠です。私(筆者)は、大手エネルギー企業で約20年間最高投資責任者(CIO)を務めた経験から、その重要性を実感しています。

こうした理由から、私の同業者の多くは、引退が近づく年齢になっても依然として自社の資産運用を率いています。長年にわたり積み重ねた知識は、一朝一夕で習得できるものではなく、容易に引き継ぐこともできないからです。

しかし、こうした「キーマン・リスク」に依存する必要は本当にあるのでしょうか?

もし、資産運用を統括する責任者が退任を発表した際に、慌てて後任を探すのではなく、すでに信頼できるアウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー(OCIO)パートナーが控えていたとしたらどうでしょうか? そのOCIOパートナーが、単に組織の資産運用の知見を維持するだけでなく、より高度な戦略を取り入れ、投資成果の向上に貢献できるとしたら?

運用継承計画の選択肢としてOCIOが合理的な理由

私たちは、運用の継承計画においてOCIOを活用することには多くの利点があると考えています。その最大の理由は、優れたOCIOプロバイダーにとって資産運用のアウトソース(外部委託)が本業であるという点です。これらのプロバイダーにとって、OCIOは副業的に手がけるものではなく、ビジネスモデルの中核を成すものです。グローバルな機関投資家向けに複雑な運用資産を管理し、カスタマイズされたポートフォリオ・ソリューションを提供することこそが、彼らの日々の業務なのです。そのため、運用の継承計画にOCIOを組み込むべきか検討する際には、次のように自問してみてください。「この分野を専門とし、実績を持つ企業と提携しない理由はあるのか?」

OCIOを導入するもう一つの大きな利点は、組織の資産運用に関する知見が失われるリスクを大幅に低減できることです。その理由は明白です。OCIOを採用することで、組織は個人ではなくチームを雇うことになります。そのため、資産運用に関する知識が特定の個人に依存することがなくなり、仮にキーマンが退任しても知見が失われるリスクを抑えられます。強固な運用体制を持つOCIOプロバイダーは、継続性を確保するため、あらかじめ予備の体制を整え、事業リスク管理や事業継続計画を徹底しています。また、サイバーセキュリティなどの関連リスクについても、高度な管理体制を整えています。

現在の私の職場(ラッセル・インベストメント)では、数百名の専門家がDBやDCプランの運用、あるいは基金の成長を通じて、個人や組織の財務の安定を支えています。仮に私が退職したとしても、残る専門家が私と同じように適切なサポートを提供できます。つまり、私だけでなく、私のお客様も、はるかに幅広い専門知識とリソースを活用できる環境にあるのです。

少人数の運用チームは大きな継承リスクを抱える

現実問題として、運用チームの規模が小さい組織ほど、投資に関する知識が失われるリスクは高まります。特に、非営利団体、基金、財団では、運用チームの人員が少ないケースが一般的です。確定給付(DB)年金プランを持つ企業でも同様の傾向が見られます。年金制度運営も兼務している場合もあるため、運用管理に十分なリソースを割ける企業が少ないためです。率直に言うと、運用チームが3名程度しかいない場合、そのうちの誰かが突然運用業務を引き継げる状態にある可能性は非常に低いでしょう。少人数のチームで、しかも会社の中核業務ではない運用業務に精通した人物を社内から探すのは難しいのが現実です。

さらに、多くの組織では運用委員会自体のメンバー交代も課題となります。委員会によっては、運用機関を選定する場合もあれば、キャッシュフローの承認を行う場合、投資方針書の承認とスタッフへの権限委譲のレビューに限定される場合もあります。いずれの場合でも、委員会のメンバー自身が継承計画を持つ必要があります。受託者責任を担う立場の者は、自身の後任計画だけでなく、権限を委譲された各業務の継承計画についても検討しなければなりません。こうしたプロセスが煩雑で負担に感じるのも無理はありません。

そこで、経験豊富なOCIOプロバイダーの活用が有効な選択肢となります。彼らは、このような課題を整理し、適切な継承計画の策定を支援することができます。

運用チームが充実している場合でも、なぜOCIOを継承戦略の一環として検討すべきなのか?

この記事を読んでいる方の中には、「小規模な運用チームを持つ組織にとっては、OCIOが継承戦略の選択肢として有効であることは理解できる。しかし、大規模な基金や高度な資産運用プログラムを有する一部の大企業のように、運用チームが充実している組織にとっても同じことが言えるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。確かに、大規模な運用チームを持つ組織では、チーム全員が一度に退任するリスクは低いかもしれません。しかし、もう一つ重要な視点として、「現在の高度な資産運用体制を、常に最高水準で維持し続けることができるかどうか」を考える必要があります。

たとえ優秀な人材が揃い、リーダーが退任した際に後任がスムーズに引き継げる体制が整っていたとしても、それでもなお、十分な専門知識を持つ人材を確保しておくことに越したことはありません。それを怠るのは、あまりにもリスクが大きいからです。

その「専門家の厚み」を補完する一つの方法が、OCIOプロバイダーとのパートナーシップです。OCIOは、必要な時に即座に組織の一員として機能し、万が一の事態においても資産運用の継続性を確保する役割を果たします。組織の資産運用が一時的に難局を迎えた際、OCIOがスタッフの延長線上で支援できる体制を整えておくことは、将来の安定性を確保する上で極めて有効な戦略と言えるでしょう。

継承戦略としてのOCIOのさらなる3つの特徴

OCIOプロバイダーを活用することで得られる専門的な投資知識や豊富なリソースに加えて、OCIOを継承戦略の選択肢として検討すべき理由は他にもあります。ここでは、特に重要な3つの特徴を紹介します。

  1. スケールメリットの活用

    OCIOは単に継承リスクを軽減するだけでなく、運用資産規模の拡大によるコスト削減効果も期待できます。多くのOCIOプロバイダーは、複数の顧客の資産をまとめて運用することで、単独の組織では実現できないスケールメリットを享受しています。その結果、投資コストを大幅に抑えることが可能になります。つまり、より優れたリスク管理と継承リスクの低減を実現しながら、コスト効率の向上も図ることができるのです。

  2. 選択肢の柔軟性

     OCIOの導入は「すべてをアウトソースするか、しないか」という二者択一ではありません。優れたOCIOプロバイダーは、各組織の状況に合わせた柔軟なソリューションを提供します。例えば、特定の資産クラス(例:管理が複雑化しがちなプライベート資産)のみやリスクが大きい領域(例:運用における執行の統合的な管理やリスク管理・調整)のみをアウトソースし、運用機関の選定自体は社内で継続することも可能です。特にCIO(最高投資責任者)の退任を1年以内に控えている企業であれば、まずはリスク管理・調整業務のみをOCIOに委託し、OCIOの活用を段階的に拡大する方法も考えられます。

  3. 選択肢の拡張性

     ここで、2つの継承シナリオを考えてみましょう。

    • 選択肢① : 新しい社内人材を採用する、または既存の若手メンバーを昇格させる。
    • 選択肢② : OCIOプロバイダーを活用する。

もし、新たに採用・昇格した社内人材が期待通りの成果を上げられなかった場合、その対応は容易ではありません。再採用・配置転換といったプロセスが必要になるからです。一方、OCIOプロバイダーを活用している場合、担当者を変更するだけで対応できるため、はるかに柔軟な調整が可能になります。この選択肢の拡張性も、OCIO導入の大きな特徴の一つと言えるでしょう。

最後に

変化はどの組織にも避けられないものです。そのため、金融資産を管理する上で、適切な運用継承計画を策定しておくことが不可欠です。しかし、その計画は複雑である必要はありません。スムーズな移行を実現するためにも、経験豊富なOCIOプロバイダーへの相談を検討してみてはいかがでしょうか。