運用機関入替時のジレンマ?インタリム・トランジション・マネジメント(トランジション・マネジメントによる暫定運用)の効用

2021年 エクスポージャーを管理する

以下は、2021年5月27日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

インタリム・トランジションマネジメント(インタリムTM)。トランジション・マネジメントを使わない従来のアプローチに比べて、インタリムTMは、エクスポージャー・マネージメントにおいて使いやすさと大幅なコスト削減の両方が期待されます。これらは両立するのでしょうか?ラッセル・インベストメントは、この2つを両立させることは可能であると考えています。

機関投資家にとって運用機関の変更はよくあることであり、時には急に変更が必要になることもあります。最終的に新規の運用機関が選定される前に、既存の運用機関から資産を移動させることが必要になることもあります。

運用機関を変更する一般的な理由としては、ファンドマネージャーの退職、運用機関の事業閉鎖や特定の戦略の縮小、スキャンダルや不適切な行為、パフォーマンスの低下などが挙げられます。このような場合、投資家は速やかに運用機関を変更したいと考えますが、理想的な選択肢を揃えられず、新しい運用機関を検討・選定する間、資産が宙に浮いてしまうことがあります。多くの場合、新規の運用機関の検討と選定のプロセスは、完了するまでに数か月かかることがあります。

既存の運用機関の解約やマンデートの終了を決定した後、機関投資家は、新しい運用機関を選定し、契約が締結されるまでの間、資産をどうするかという問題に直面します。このような状況に対処する理想的な方法はあると考えますが、ここではまず、理想的とはいえませんが、この課題に対処するための一般的なアプローチをいくつか見てみたいと思います。

  1. 既存の運用機関にマンデートを任せる(可能な場合)
  2. マンデートを終了し、管理のみを委託する
  3. パッシブ・マンデートへの再構築

これらの選択肢には、それぞれいくつかのデメリットがあり、それは潜在的なメリットを上回る傾向があります。

オプション 1: 既存の運用機関にマンデートを任せる(可能な場合)

驚くことに、これはよく使われる方法ですが、新しい運用機関の準備が整うまで、既存の運用機関を維持します。しかし、この方法で得られるメリットはほとんどありません。

メリット

  • 作業量が少ない/管理がしやすい。

デメリット

  • 当該資産のガバナンスに関する懸念。信頼関係のなくなった運用機関との関係を維持することは、本当に受給者や加入者に対して受託者責任を果たしているといえるか。
  • 当該アクティブ運用を既に必要としないにもかかわらず、アクティブ運用報酬を支払い続けること。
  • 経験の少ないファンドマネージャーがお客様の運用を担当する可能性がある。これは、従来の運用担当者が解任された場合に起こることが多い。それまでに一度も面識のない運用担当者に割り振られる可能性がある。
  • 運用機関が破綻した場合に、お客様も他のすべての投資家とともに、最終的には解約せざるを得ず、資産は投げ売りに巻き込まれる可能性がある。

オプション 2: マンデートを終了し、管理のみを委託する

この方法では、既存の運用機関は運用を停止するよう告げられ、正式に解約となるまではコーポレートアクションや議決権行使などの管理業務のみを行うよう指示されます。

メリット

  • 管理がしやすい。
  • 何もしないアプローチと比較すると、このアプローチでは信頼関係のなくなった運用機関が新たに能動的な投資判断を下すことはないため、少なくともガバナンスは改善される。

デメリット

  • 運用機関が取ったアクティブな投資判断が残っており、時間の経過とともに陳腐化する。
  • ポートフォリオに対するアカウンタビリティ(説明責任)に加え、実際の積極的なモニタリングもなくなる。
  • アクティブ運用報酬の支払いが継続される。

オプション 3: パッシブ・マンデートへの再構築

このオプションは、アクティブ運用を行っているポートフォリオの資産を、ETF(上場投資信託)やインデックスファンドに移すというものです。

メリット

  • 管理がしやすい。

デメリット

  • アクティブ運用からパッシブ運用へ、そしてその後パッシブ運用からアクティブ運用へと移管するのは、往復で資産を売買するための取引コストを支払うことなるため、非常にコストがかかる。
  • 特定の超過収益目標や投資エクスポージャーを達成するためにアクティブ運用報酬を支払ってポートフォリオを構築したのに、アクティブ運用の採用を休止することにより、投資目標を達成できない可能性が高くなる。

これらの単純化されたアプローチは、コストがかさみます。しかし、この3つのアプローチに共通するメリットは、「使いやすさ」、つまり「管理の負担が小さい」ということです。言い換えれば、コア業務でもないポートフォリオの再構築に煩わされることがないということです。

では、管理の負担を軽減しつつ、コストを削減できる解決策があったらどうでしょう。

ラッセル・インベストメントは、この問題を解決するには第4の選択肢、つまり「インタリム・トランジション・マネジメント」が有効だと考えています。

より良い選択肢: インタリム・ トランジション・マネジメント

インタリム・トランジション・マネジメントでは、旧運用機関から新運用機関へ移行する一時的な期間中、トランジション・マネージャー(移行運用機関)がポートフォリオのパフォーマンスの責任を負います。この期間中、資産はトランジション・マネージャーが管理している口座に保管されます。それと同時に、トランジション・マネージャーは、ポートフォリオ再構築によるパフォーマンスへの影響を最小限に抑え、望ましい投資エクスポージャーを維持する責任を負います。これには、デリバティブなどを採用し、報われないリスクを軽減するだけでなく、お客様にとって不要な取引コストを最小限に抑えることも含まれます。これにより、いわゆるパフォーマンス・ホリデーを排除し、全体的なパフォーマンスにギャップが生じないようにします。これは、説明責任を果たし、ポートフォリオに対する受託者責任の遂行を確実に行うための鍵となります。

また、作業負荷がお客様からトランジション・マネージャーに移ることで、組織内の重要なリソースが非中核的な管理業務によって過度な負担を強いられないのも重要なことです。

その結果、お客様は、アクティブ運用報酬を支払うことなく、リスクを抑えた運用の成果を受けることができます。例えば、お客様のリスク選好度に応じて、ポートフォリオを特定のベンチマークに最適化することで、トラッキングエラーを削減することができます。これは、複数回の計算を行って最適なトラッキングエラーを決定し、目標とするトラッキングエラーを達成するための取引バンド(一定の比率以下の取引を行わない閾値)を設定してリバランスを行うことで実現します。

インタリム・トランジション・マネジメントのメリット

  • コストを削減し、ベータエクスポージャーを最適化。
  • 純粋なパッシブ運用と比較して、大幅なコスト削減を見込む。一時的なパッシブ運用に移行する際に、インデックスファンドに含まれる各証券を売買する必要がない。
  • 現物移管を最大化する。
  • 複数の移行を統合することにより、取引に伴うコストの削減。
  • トランジション・マネージャーは、既存商品の運用条件等に拘束されないため、柔軟性と機動性が高まる。
  • 迅速かつ効率的に旧運用会社を解約することができ、さらに最終的にどの運用機関に資産を預けるかを決定するための時間も確保できる。
  • 新運用機関が選定されてから、既存の有価証券を活用して新ポートフォリオを構築することができる。現物移管を最大限に活用することにより、全体の取引コストを削減することができる。

ケーススタディ #1: MSCI ACWIの最適化ポートフォリオの構築

当社グループのお客様にMSCI Worldを解約し、MSCI ACWI(約3,000銘柄を含むインデックス)の完全なパッシブポートフォリオの構築を依頼されたことがありました。注目すべきは、制限があり移管できない一部の市場が、トランジション口座では開かれていなかったことです。

私たちのチームは、お客様のポートフォリオを分析し、個別の有価証券と少数のETFからなる最適なポートフォリオを構築した結果、年率トラッキングエラーが35ベーシスポイント(bp)以内に収まりました。また、インデックス採用銘柄のうち約1,200銘柄のみを購入し、旧ポートフォリオの大部分を維持することができたため、取引コストとカストディ手数料を大幅に削減することができました。また、流動性の低い銘柄を高いコストをかけてすぐに売却するのではなく、時間をかけて売却することができました。

時間が経つにつれ、ポートフォリオは一貫してインデックスに追随するようになり、リバランスは資産が口座に出入りした時だけ実行すれば済むようになりました。最初の最適化の後も、お客様は当口座を引き続き6年間使用しました。当口座は、お客様の入替状況に応じて、2億ドルから50億ドルの間で変動し、当口座には年に8回から10回程度、資産の出入りがありました。これにより、お客様は運用機関の変更や全体的な流動性のニーズの管理を支援してくれる強力なツールとして当口座を活用しました。

ケーススタディ #2: 事業を閉鎖した運用機関からの移行

2020年10月、ある運用機関は2020年末に事業を閉鎖することを発表しました。これにより、お客様は当該資産を別の運用機関に移す必要が生じました。このニュースを受けて、当社グループには複数のお客様から、資産移行に関する相談が寄せられました。

最終的に私たちは、7社のお客様から当該運用機関のポートフォリオを引き継ぎ、トラッキングエラーをベンチマーク対比約4%だったものを約1.5%~2%に抑え、お客様が新しい資産運用機関を見つけるまでの間、一時的に資産を運用することになりました。

当該運用機関のマンデートを有していたある米国の年金基金には、いくつかのシナリオを提示しました。そのシナリオは、パッシブ運用への移行(推定コストは-46.5bp、+/-23.6bp)から、ベンチマークに対するトラッキングエラーを2%にする定量的管理ポートフォリオ(推定再構築コストは-9.8bp、+/-12.7bp)まで、多岐にわたります。

このお客様は、ベンチマークに対して1.75%のトラッキングエラー(推定コストは-12.5bp、+/-14.2bp)を選択し、インデックスに完全に連動させる場合と比べて、推定34bpの取引コストを削減しました。このケースでは、売買対象をポートフォリオの15%に抑えながらも、お客様の希望する投資エクスポージャーを維持するという結果を出すことができました。重要なのは、この手法によって、お客様が新運用機関を選択するまで、アクティブ運用のポートフォリオを維持できるということです。なお、この一時的なポートフォリオは、運用開始以来、ベンチマークを34bpアウトパフォームしています(2020年12月2日~2021年1月31日、報酬控除後)。

ケーススタディ #3: エマージングマーケット(EM)債券運用機関での年金制度

2020年初頭、よくあるジレンマを抱えたある公的年金から相談を受けました。EM債券運用機関を解約したいが、まだ新しい運用機関と契約していないというものでした。この年金基金は、新運用機関を選ぶのに6か月はかかると予想していましたが、現在のEM債券運用機関との関係をできるだけ早く解消したいと考えていました。

我々は、まずお客様のカスタムベンチマークに対して複数のポートフォリオの最適化を行い、様々なリスクとコストのシナリオを提示することで、いくつかの選択肢を評価する支援を行いました。この分析では、5%から20%までの様々な入替のシナリオを想定し、それぞれのシナリオに関するリスクとコストの影響を分析しました。コストは、様々なシナリオで-0.4 bpから-7.2 bpの範囲となりました。最終的には、望ましい投資エクスポージャーを維持しつつ、ポートフォリオの5%のみを入れ替えることで、トラッキングエラーを約40%削減することができました。

最初の取引は2020年の2月に実施されました。お客様が新運用機関を調査し、採用に至ったのが8月下旬でした。我々は、それまでお客様のポートフォリオを管理し、その時点で新しいマンデートに移行しました。

結論

機関投資家にとって、運用機関を変更する必要性は、日常的ではないにしても、かなりの頻度で発生します。しかし、私たちは、新旧の運用機関間の移行には、一般的ではないアプローチが必要だと考えています。お客様のポートフォリオは、常に高度のモニタリングと管理を必要としており、特に変更時にはそれが必要です。

最終的に、投資家の皆様のポートフォリオはかつてないほど多くのリスクにさらされる可能性があります。これらのリスクをどのように軽減すればよいのでしょうか? 誰と相談すればよいのでしょうか? 私たちは、お客様のエクスポージャーの管理や、今後の困難な道のりのナビゲートを支援できる経験と能力を備えていると考えています。ラッセル・インベストメントがどのようにお役に立てるか、ぜひご相談ください。

本稿において記載されている数値、データ等は過去の実績であり、将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではありません。