投資成果とのリンクを意識したESGスコア

~Materiality Matters(マテリアリティが重要)~

「Materiality(マテリアリティ)」のそもそもの英語の意味は「重要性」ですが、会計領域において財務に重要な影響を及ぼす要因を指す言葉として使用されるようになり、その用語が、将来の企業価値を左右する重要性の意味から、企業の社会的責任(CSR)の分野やESG投資においても使われるようになっています。

年金運用に関するセミナーのハイシーズンは毎年春と秋の2回があると言われますが、昨年秋には弊社を含めて数多くのESG投資をテーマとしたセミナーが開催されました。また、実際に、スチュワードシップ・コードに係る議論の高まりと相まって、日常的なクライアント・ミーティングにおいてもESGに関する話題にふれることが急激に増えています。運用戦略選定の場でESGへの取り組みをヒアリングされる弊社のお客様が数多くおられ、ポートフォリオ管理におけるESG投資への意識は着実に浸透しています。本記事では、ポートフォリオのモニタリング段階におけるESG取り組み事例として、上場株式ポートフォリオのESGスコアに関する弊社のリサーチ事例を紹介します。

弊社はESGへの取り組みと投資成果との関連性を高めることを目指して、「マテリアルESG」という独自のスコアリング手法を開発し、自社運用戦略のモニタリングや運用機関調査の対象戦略の分析など、様々な場面で活用しています。ESGスコアは一般に百を超える細項目を総合して計算されますが、ここでの「マテリアリティ(重要課題)」とは、その細項目ごとの、スコア計算対象企業の事業活動との関係の強さの指標です。特に、その指標を業種ごとにまとめたマテリアリティ(重要課題)は、SASB1やTCFD2等の関連団体などによる取り組みもあり、実務的に活用可能な形で公表されています。データ提供会社各社が発表しているESGスコアの中には個別上場会社の事業の性質の違いを考慮しない計算プロセスとなっているタイプも見られますが、弊社の手法では、スコアリング対象各社の事業と関係が強いESGカテゴリーにウェイトを傾けた計算としており、業種によっては計算結果のESGスコアが大きく異なることもあります。

  1. 米サステナブル会計基準審議会(Sustainability Accounting Standards Board)
  2. 金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

例えば、自動車業界のテスラとBMWを比較すると、ESGの各種カテゴリーを幅広く考慮し業種ごとのマテリアリティ(重要課題)を織り込まない手法では、ガバナンスやソーシャル・カテゴリーを理由としてBMWのESGスコアの方が高くなることがあります。しかしながら、弊社のマテリアルESGでは、自動車業界では製品のライフサイクル環境インパクトのカテゴリーが特に「マテリアル(重大)」であるとして大きくウェイト付けされ、テスラの方のESGスコアが高いという、逆の結論となっています(2018年9月末時点の各種データによります)。

ユーザーのESGスコア利用目的によっては、全業種共通のマテリアリティ(重要課題)を重視しない計算方法が適することもありますが、受託者として投資ポートフォリオ運営に携わるお客様をサポートする場合には、やはり投資対象各社の事業収益へのインパクト、ひいては将来の投資パフォーマンスを意識することがきわめて重要であり、ESG投資への事後的検証においてマテリアリルESGは実効性の高い手法の一つと弊社は考えています。株式ポートフォリオのESGスコアの変遷を時系列でたどることによって、スポンサーとしてのESGへの取り組みが保有銘柄の特性にどのように影響しているかを確認したり、アクティブ運用株式ポートフォリオのESGスコアを独自に計算し、ポートフォリオ・マネージャーとの対話に活用する等、様々な示唆を得るきっかけとなりそうです。また、未だ議論の分かれる「ESGスコアと将来の投資パフォーマンスの関連」についても、数値的に補足するための材料となります。

以下のリンクに弊社リサーチ・チームによる「マテリアリルESG」算出の考え方や実証分析を含むリサーチ・レポートの要約版がございますので、ぜひご覧いただければと存じます。

Materiality Matters要約版はこちら。英語版日本語版

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