2023年5月 株式市場見通し:インフレと金利に関する明確なサインが現れるまでは不安定な状況が続く

以下は、2022年5月3日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら 内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

概要:

  • 2023年第1四半期(2023年1-3月期)は、米国を除くグローバル株式、新興国株式、欧州株式、米国小型株、英国株式、オーストラリア株式、カナダ株式、グローバル不動産株の運用機関にとって有利な環境となった。
  • 第1四半期は、クオリティファクターがほとんどの地域で突出したパフォーマンスを示し、グロースファクターもアウトパフォームした。
  • 運用機関は、インフレ率の低下と金利の安定化についての確証が得られるようになるまでは、市場のボラティリティが継続すると予測している。

変動と逆転の影響を強く受けた第1四半期を終え、株式運用機関はこの先も騰落が続くと予測しているのだろうか?

ラッセル・インベストメントの最新の株式市場見通しによると、答えはイエス。

3月の銀行危機をきっかけに経済にシステミック・リスクが起こる可能性についての目下の懸念は和らいだものの、銀行が投資家の注目材料であることに変わりはない。運用機関はインフレも注視しており、緩和傾向にあると見ている。全体的に運用機関は、インフレ率の低下とそれに続く金利の安定化についてもう少しはっきりとした確証が得られるようになるまでは、市場のボラティリティが継続すると予測している。また、投入コストの上昇と需要の減少により、当面は企業収益へのプレッシャーが続くという予想も基本的に変えていない。

今年最初の3カ月間は不安定であったが、すべての株式市場で絶対リターンがプラスとなり、引き続き好調な四半期となった。米ドル(USD)がほとんどの先進国通貨に対して割安となった影響で、ドル建てでは特に好調だった。米ドル安は、特に米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルの終盤にかけて続いていくことが予想される。米ドル安は、米国外の資産にとって引き続き追い風となるだろう。

全体的に見ると第1四半期は、米国を除くグローバル株式、新興国株式、欧州株式、米国小型株、英国株式、オーストラリア株式、カナダ株式、グローバル不動産株のアクティブ運用機関にとって有利な市場環境になったが、米国大型株、グローバル株式、日本株式、ロング/ショート戦略、インフラ関連株の運用機関にとっては難しい環境となった。

クオリティファクターは、ほとんどの地域で突出したパフォーマンスを示したが、グロースファクターも同様にアウトパフォームした。一方、モメンタムファクター、低ボラティリティファクター、バリューファクターは、程度の差はあるもののいずれも出遅れとなった。バリューファクターは、新興国株式、英国株式、日本株式で好調だった。新興国株式では、グロースファクターがアンダーパフォームした。

セクター別では当四半期中に反発したIT(情報技術)のパフォーマンスが最も良く、通信サービスおよび一般消費財もまた高いリターンを示した。エネルギー価格の下落と、銀行危機をきっかけとする景気後退不安という二重の困難に見舞われたことで、エネルギーセクターと金融セクターが最も低いパフォーマンスを示した。ヘルスケア、公益事業、不動産、生活必需品でも低迷が見られた。

本レポートは、ラッセル・インベストメントが運用機関との間に築いた独自の関係を活用して、運用機関のスペシャリストの見解を読みやすい形にまとめたものである。2023年第1四半期の世界の主要な株式市場と地域について、主な戦術的見通しを以下で紹介する。

グローバル株式

決算はまちまち、慎重な楽観論

  • 利益は減少したが、コスト圧力が緩和され始めたことで、名目成長の継続が期待される。運用機関は利益の拡大が見込める投資機会を探している。
  • テクノロジー企業は、株価が下落し、厳しい金利環境に合わせて資本配分方針を調整しているため妙味が感じられる。
  • 運用機関は、バリュエーションに対して実利的で、エネルギーセクターなど、昨年の好パフォーマンス銘柄の一部を売却して利益を確定している。

ディフェンシブ銘柄へのエクスポージャーを高めてテールリスクを低減

  • 運用機関は、マクロ経済的リスクを踏まえて、引き続きシクリカル銘柄へのエクスポージャーの調整を進めており、ディフェンシブ銘柄や長期シナリオ(ヘルスケアなど)へシフトしている。
  • 運用機関は、下振れに備えて優良株以外の銘柄の売却も進めている。収益性、資本配分、競争優位性に関する意識が高まっている。

不安定な市場がもたらす個別の投資機会

  • 市場の不確実性と恐怖心がファンダメンタルズを混乱させていることで、特定の銘柄への投資機会が生じている。
  • 長期投資家は、持続的な収益力があり相対的に割安なイノベーション分野への投資を続ける。

投資家の銀行不安が緩和

  • 直近の銀行破綻はリスクの高い預金基盤と脆弱なガバナンスに関連したものだが、運用機関ではそのような中小・地方銀行にはほとんど投資していない。世界金融危機以降、金融規制の健全性や安定性が改善されてきたことから、今回の銀行破綻はシステミックなものとは見ていない。

新興国株式へのオポチュニスティック投資

  • 運用機関は引き続き米国外で過小評価されている銘柄を探しているが、具体的には新興国株式とアジア株を物色している。

米国大型株式

景気後退予測が続く

  • 第1四半期は米国市場が急回復したにもかかわらず、グロース株運用機関とバリュー株運用機関はいずれも、資本財・サービス、一般消費財、金融などのシクリカルセクターへのエクスポージャーを削減し続けた。
  • 2022年に過熱銘柄の保有で痛い目を見たグロース株運用機関は、現在のポジショニングについては以前より精選するようになり、信頼性と収益性の高い企業を選好している。

銀行への影響

  • 運用機関は、3月のシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの破綻は連邦準備金制度(FR)、米財務省、FDIC(連邦預金保険公社)が迅速に対処しており、連鎖リスクはないと見ている。
  • 銀行は、その規模にかかわらず、規制コスト増加の影響を受けて長期的に収益が減少するというのが運用機関の一般的な見解である。運用機関は、この見解や前述した景気後退懸念を参考に、銀行や関連する金融株のポジションを削減している。
  • 一方で、見方にはばらつきがあり、一部の運用機関は大手ブローカーの中に割安なものが出てきたことを確認して、慎重に追加投資を行っている。
  • 商業不動産融資は、コントロール可能ではあるが、特に地方銀行にとっては新たなリスクになると見られている。ただし、影響が現れてくるのはリースが更新される数年後となる可能性がある。

市場集中度

  • ブロード・マーケット・インデックスのリターンは、テクノロジー、通信サービス、一般消費財分野の一握りの大企業に占められており、時価総額上位10社が市場リターンの約90%を占めている。
  • 第1四半期の高い市場集中度は、アクティブ運用にとって逆風となったが、歴史的に見ると、市場集中度が高い期間の後に、アクティブ運用機関が大幅にアウトパフォームするというのはよくあることである。

欧州および英国株式

銀行株が輝く時代の到来か?

  • 第1四半期は2008年を思い起こさせるものだったが、銀行が世界金融危以降、有意義な進化を遂げてきたことを裏付けたことに注目すべきである。
  • 現在の銀行業界では、流動性比率および資本バッファーが改善し、保守的なビジネス・プラクティスが当たり前となっている。さらに低水準のバリュエーションと、金利上昇による業界の追い風を受け、投資家にとっては魅力的な分野となっている。

金利引き上げによる試練は続く

  • 低金利での借入に依存した社会の修復は容易なことではなく、流動性の低いビジネスや、負債比率の高いビジネスに深刻な影響を与える可能性がある。平均的な欧州企業は2008年の時より資本が強化されているが、市場にはある程度のリスクが残る。
  • シリコンバレーバンクの破綻により、プライベート・エクイティがこのようなリスクの1つであることが明らかになったが、収益性の低いグロース株や不動産株もこのリストに加わる可能性がある。すでにそれぞれのセクターの株価に織り込まれてはいるが、運用機関はさらなる下落圧力があると見ている。

英国市場の深層を見据える投資家

  • 英国株式は魅力的なバリュエーションで世界の投資家の注目を着実に集めてきた。歴史的な低PER(株価収益率)倍率、魅力的な配当利回り、さらに英国国内経済よりも全世界に収益源を持つグローバル企業の割合が極めて高いことを踏まえると、先進国市場の中でも割安と言える。
  • 英国株式市場は、エネルギー、素材、金融などのバリューセクターの割合が高いが、現在のバリュエーションディスカウントは、セクターバイアスだけでは説明がつかない。
  • 従来英国では高配当銘柄が好まれる傾向があるため、上場企業が割安な自社株買いによる資本配分に転じたことが、株価の下支えにつながる可能性がある。

新興国株式

不安定なセンチメントの中、引き続き中国株式に投資機会

  • 業績のボラティリティが高まり、市場の動きが過熱化する中、運用機関は選択的に中国株への追加投資を進めている。このような市場環境で、再評価されたインターネット関連銘柄の一部に利食い売りが出た。
  • 中国の経済活動再開シナリオの流れで、ホスピタリティ、旅行、レジャーが引き続き注目されている。

売られ過ぎのラテンアメリカのセンチメントが選択的投資機会を広げる

  • ブラジルでは、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領当選後の政治的閉塞感がネガティブセンチメントをもたらしたため、比較的優良な金融セクターが魅力的と見られている。
  • 最近の市場の急落により、エネルギーセクターにバリュエーションの観点からの投資機会が生じている。
  • メキシコは米国企業の主要なニアショアリング先として恩恵を受けると見られている。投資家は旅行セクターについてもますます楽観的になっている。

シリコンサイクルの改善

  • 過剰在庫は引き続き目下の課題であるが、デジタルインフラとAI(人工知能)からの明確な構造的需要が見込まれることから、投資家はシリコンサイクルに対して前向きな見方を示している。

インドのガバナンス課題を再確認

  • 運用機関は、アダニグループのスキャンダルについて、優良な競合企業に投資して市場シェアを獲得する機会と見ている。

サウジアラビアの改革が投資家にリターンをもたらす可能性

  • 運用機関は、サウジアラビアについて、原油価格は下落しているものの、民営化と国内投資の進展による収益回復の兆し(green shoots)があると見ている。優良銀行が最も恩恵を受けると考えられる。

投資家は地政学的リスクの軽減を目指す

  • 米露および米中関係の見通しが不透明な中、運用機関はベトナムやインドなどの中国以外の製造拠点へのエクスポージャーを増やしている。

米国小型株式

高まり続ける景気後退懸念

  • 運用機関は、最近の銀行不安をきっかけに銀行が融資を縮小することで、利上げの影響を悪化させ、米国経済を景気後退に近づけると予想している。

業績予想の下方修正が続く見通し

  • 運用機関は、経済情勢を踏まえ、業績予想の下方修正が続くと予想している。また、証券会社の業績予想はまだ楽観的過ぎると考えている。運用機関の多くは、小型株は相対的に割安感があるものの、さらに下落する可能性があり、景気後退時は大型株に対してアンダーパフォームする傾向があると考え、ディフェンシブに転向している。

市場志向の運用機関はGARP銘柄に投資機会を見出す

  • 2022年に超割安株に比重を置いていた運用機関は、今はプロセスの柔軟性を生かして、収益性の把握がはるかに容易な「成長性のある割安株(GARP銘柄)」に投資機会を見出している。こうして、ポートフォリオのバリュエーションが少しでも上昇することを期待している。

バリュー株運用機関は慎重になり、新たなアイデア探しに苦戦

  • バリュー株運用機関は、新たな投資機会の不足により、ここ数カ月の間にポートフォリオの現金比率が上昇したことを認めている。特に資本財・サービス分野については、在庫水準が高く注文が少ない状態が続くため、収益の伸びが鈍化して利益が減少すると考え、慎重になっている。銀行、オフィスREIT(不動産投資信託)、エネルギー銘柄は割安と評価されているが、ファンダメンタルズが伴っているとは言い難い。インフラ投資の恩恵を受ける業界は、一部のバリュー株運用機関にとって貴重な投資機会である。

シクリカルより長期投資:グロース株運用機関の新たなキャッチコピー

  • グロース株運用機関は現在、エネルギー、資本財・サービスといったシクリカル銘柄から、ヘルスケアや相対的に割安なテクノロジー株などの長期成長株へシフトしている。景気後退リスクの懸念を強める中で、このような長期成長株が景気後退局面でより良いパフォーマンスを示す可能性が高いと考えたためである。

オーストラリア株式

座して待つ

  • 2023年第1四半期のオーストラリア現物株式の売買高は、前年同期(2022年第1四半期)比で26%減少した。 2022年第1四半期の売買高の増加は、ウクライナ侵攻の影響によるものだったが、今回の売買高の減少と、ポートフォリオにほとんど変化が見られなかったこととの整合性がある。
  • 運用機関は2022年後半に、ポートフォリオのディフェンシブ性の向上に努め、ヘルスケア、金、保険銘柄に選択的に追加投資し、優良銘柄を広く探し求めた。
  • 一般消費財の中では、小売や旅行関連銘柄よりも、景気後退局面で力強い回復力を見せるゲームや教育関連銘柄を優先してきた。このため、2023年2月の決算発表シーズンでは市場予想からのポジティブサプライズよりもネガティブサプライズが多く、業績の下方修正が上方修正を上回った2023年2月の決算発表以降、運用機関の中央値がベンチマークを上回ったことに不思議はない。
  • 運用機関は、業績ガイダンスの下方修正は、2023年8月の第2四半期の決算報告シーズンを待たず、5月の業績予想の修正シーズン(confession season)に行われると予想 予想している。このため、現在のポジションを維持し、割安となった場合にポジションの調整(売却または追加)を行う程度にとどめておくのが望ましい。

SVBではなくNIMsの影響を受けた豪州銀行のポジショニング

  • 将来の純利息マージン(NIMs)を左右する競争の激化や貸出成長の鈍化の見通しが、シリコンバレーバンク(SVB)関連の金融不安よりも銀行株の評価に大きく影響を及ぼしている。
  • 大半の運用機関が、銀行セクターに対してアンダーウェイトを維持している。

M&A案件の増加

  • 第1四半期はオーストラリア証券取引所(ASX)上場企業に対する買収オファーが増加したが、その多くが海外企業からのものだった。
  • 運用機関は、買収の可能性がバリュー企業の底値を形成していると指摘する。

カナダ株式

運用機関は景気減速を予想

  • 運用機関は、カナダ中央銀行とFRBによる金融引き締めが2023年後半にカナダと米国に景気後退をもたらすと予想する。
  • 北米全体の景気減速予想をもとに、投資家はシクリカルな業界の中でも安定収益が見込める企業、優良企業、持続力のあるビジネスモデルを持つ企業に重点的にポジションをシフトさせている。

銀行業界の懸念

  • カナダの銀行業界は米国の銀行よりもはるかに銀行危機に対処しやすい立場にあるが、運用機関は、カナダの銀行の融資環境はシリコンバレーバンク破綻の波及効果でより厳しいものとなると予想している。融資が保守的になることで銀行の収益見通しにプレッシャーがかかり、景気低迷にも追い打ちをかけることになるだろう。

M&Aに対する強い関心

  • 運用機関は、買収を通じて成長を目指す企業の環境については楽観的である。市場全体でバリュエーション倍率が比較的低水準であり、戦略的な買収企業にとっては買収対象が豊富な環境が形成されている。その中でも投資家は、買収による収益拡大の実績を持つ買収企業を好む傾向がある。

素材株では銅と木材を選好

  • 景況感が悪化する一方で、投資家は景気後退が深刻なものになるとは考えておらず、景気回復時の銅と木材については楽観視している。供給のひっ迫が散見されるコモディティ業界だが、銅と木材についてはいずれも、非常に有利な長期需要が見込まれている。
  • 電化や代替エネルギーの拡大によって銅の需要が増加し、北米全域に渡る住宅供給不足が木材の需要を後押しする。

日本株式

金融セクターの混乱に静観の姿勢を崩さず

  • 運用機関は、先進国の銀行システムや企業のバランスシートは比較的健全と見ている。発生したストレスは吸収することが可能で、システミック・リスクの懸念もないと考えている。
  • 一部の運用機関は、銀行の業績予想を含む経済への悪影響を懸念して、金融セクターへのエクスポージャーを削減している。それでも、全般的に日本の銀行は十分な資本を有していると見られている。

FRBの政策転換に対する様々な見解

  • 今年中にインフレ率が低下を始め、FRBが利上げを停止すると考える運用機関が増えている。
  • グロース株運用機関は、金利の安定化や低下によって市場環境はグロース株に有利になると考えている。
  • 一方、バリュー株運用機関は、新型コロナウィルス感染症拡大以前と比較すると、インフレ率と金利がより長期間にわたって、より高水準まで上昇を続けると予想しており、マルチプル拡大の抑制につながると考えている。

サイクル底打ちの見通し

  • インフレ圧力の持続、金融不安、米国の景気後退の可能性など数々の懸念が残る一方で、運用機関は、今年中に景気サイクルが底打ちすると予想している。このため、一部の運用機関は、テクノロジー銘柄や資本財などの、景気回復初期に反応しやすい銘柄へのエクスポージャーを増やしている。

日本の相対的な企業業績は良好

  • 東アジアにおける経済活動の正常化の恩恵を受ける企業が、経済再開により引き続き投資家を引き付けている。
  • 供給問題の解消による生産回復を見込んだ自動車株のポジションが拡大している。
  • 東京証券取引所からは、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れる株式の資本効率を改善するよう、ますます圧力がかかっている。時間はかかるかもしれないが、運用機関は前向きに捉えている。

ロング/ショート戦略

景気後退懸念が高まる中、ヘッジファンドが安全資産にシフト

  • 景気後退リスクが高まる中、運用機関はハイリスクとされるセクターや地域からローテーションを行っている。例えば、小型株から大型株(テクノロジー銘柄からヘルスケア銘柄など) 、国際株から米国株などである。
  • ヘッジファンドは、固有の投資機会を見出しながら、ロング/ショートの両建てでグロスエクスポージャーを拡大してきたが、マクロ経済的環境に対する強い懸念から、ネットエクスポージャーは低水準を維持している。
  • シリコンバレーバンクの破綻は、景気後退懸念が高まる中で、銀行危機や信用危機の始まりを示すシグナルの可能性があると受け止められ、火に油を注いだに過ぎない。

テクノロジー系のヘッジファンドで資金保有のニーズが終息

  • テクノロジー銘柄のバリュエーションが長期平均に近い水準に迫り、新たなテクノロジートレンド(AIなど)が大きなアルファ機会を生み出しているため、テクノロジー銘柄の運用機関の多くで手元現金を温存する必要がなくなった。
  • 運用機関はAIをまたとない最大のテクノロジートレンドと見ている。チャットGPTは数あるAIモデルの一つだが、近年では何よりも早いスピードで成長し、需要も圧倒的に多い。

リアル・アセット

銀行危機と経済の不確実性

  • インフラと不動産セクターはディフェンシブ銘柄としての特性を備えている。通常、賃貸借契約やコンセッション契約などの契約形態がとられるため、安定したキャッシュフローをもたらす。一方、第1四半期の銀行危機では、両セクターの直接的または間接的なリスクに注目が集まった。
  • 運用機関はインフレ率が高止まりすると見ている。歴史上の2つの事例を挙げ、第二次世界大戦後と1970年代の「WIN」時代(Whip Inflation Now 「今すぐインフレを打倒せよ」のキャッチコピーで知られる)に、予想外の高インフレが起こり、当初は抑制されたが、その後大きく悪化したことを指摘する。

インフラ

  • 規制公益事業は、インフレコストの転嫁が可能な短期的な料金設計となっている。空港や高速道路のようなコンセッション方式がとられるセクターでは、物価変動が生じた際の対応がコンセッション契約に含まれている。料金への転嫁に即時性はなく、投資家は高いディスカウントレートと長期間のキャッシュフローを使用して株価の評価を行うため、短期的には株価の下落要因となる可能性がある。
  • 北米の貨物鉄道は、これまで輸送量の減少や、オハイオ州で起きた貨物列車の脱線事故で有害物質が拡散したことなどの複数の理由で売られ過ぎていたため、有利な位置付けにある。貨物鉄道は、運行の改善と、列車1台に機関士一名体制の計画の断念が求められている。鉄道は経済と成長にとって極めて重要なもので、価格決定力も強いため、コスト上昇局面でも回復が見込める。

不動産

  • 銀行危機の影響で、大規模な借入を伴う新規の建設や物件取得が困難になった。世界的な取引量が世界金融危機の水準まで減少し、プライベート市場のバリュエーションに悪影響を与えている。
  • 上場市場については取引が可能で、リスクも十分に織り込まれているため、長期志向の不動産投資家にとっては良い投資タイミングかもしれない。

結論

インフレ沈静化のサインやFRBの大幅利上げが最終局面にあるとの見込みは、株式運用機関にとっては喜ばしいニュースである。しかし運用機関は、価格圧力の緩和が十分なスピードで進み、各国中央銀行が利上げ停止に至るという確証が十分に得られるまでは、ボラティリティが引き続き最重要課題となると考えている。そのような不透明な状況下で、運用機関のスペシャリストの見解は、リスクや投資機会の特定と活用に当たって重要なものと考える。ラッセル・インベストメントでは今後も各運用機関の見解をご紹介していく予定である。