前グローバル最高投資責任者からの6つの教訓 — レッスン1:危機を無駄にするな
以下は、2024年4月16日にラッセル・インベストメント(豪州)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。
危機ほど投資マネージャーを謙虚にさせるものはありません。少なくとも私のラッセル・インベストメントにおける30年のキャリアの中で、ボラティリティが極度に高い時期ほど、ファンドの戦略やオペレーションに対する改善点が浮き彫りになることを学びました。
ラッセル・インベストメントにとって、米国史上最大の破綻となった2008年9月14日のリーマン・ブラザーズの破綻ほど重要な事例は無いでしょう。
この世界金融危機は、市場の混乱時に資産運用会社が正確なポジションを把握していなければ、情報が不十分なままで、判断を強いられるということを教えてくれました。
リーマン・ブラザーズの破綻の影響を受けたのは株価にとどまらなかったため、この事件はすぐに知れ渡りました。短期金融資産、債券、デリバティブのカウンターパーティにも波及したほか、言うまでもなく様々な市場におびただしい間接的影響を及ぼしました。やがてこのような市場混乱イベントがマルチ・アセット・ポートフォリオ全体にどのような影響を与えるかに関心が向かいました。
ラッセル・インベストメントでは、リスク管理システムが個別資産に偏り過ぎていたことに気付きました。当時、精緻な株式リスク管理システム、債券リスク管理システム、ヘッジファンド・リスク管理システムを有していましたが、ポートフォリオ全体レベルに統合されてはいませんでした。
そのため、世界金融危機後の数年間で、より正確にエクスポージャーを把握・判断することが可能なリスク管理システムへと再構築をしました。つまり、伝統的なアカウンティング(会計)ベースのシステムから、インベストメント(投資)ベースのシステムへと切り替えたのです。
従来の会計ベースのプロセスでは、当社のマルチ・マネージャー・ポートフォリオにおいて、各運用会社が売買(約定)を行い、カストディアンに報告することになります。そして2日後などの決済(受渡)の後、当社に通知されるため、ラッセル・インベストメントはその時点で正確な保有資産を把握することになります。
しかし現在では、投資ベースのプロセスが組み込まれているため、各運用会社の売買(約定)はカストディアンと当社チームの両者に同時に通知されます。これにより採用運用会社の売買情報をリアルタイムに得ることが可能になり、ラッセル・インベストメントはさまざまな資産クラスそして運用会社のポジションを集計し、ポートフォリオ全体の詳細なリスク分析を行っています。
この新しいリスク管理システムへの再構築は、その後、何度も成果を上げています。
新型コロナ・ウイルスの感染拡大初期の市場下落を受けてポートフォリオがドローダウンを経験した際、運用チームはポートフォリオのエクスポージャーならびに対処方法を知っていました。2022年のロシア経済制裁が発動される前に、運用チームは全てのロシア関連保有銘柄を把握しており、株式、債券、通貨のエクスポージャーを分離することができました。
そして昨年、シリコンバレー銀行が週末に破綻し、お客様が電話をかけてきた際に、当社の運用チームは既にポジションを把握していたため、リアルタイムの状況を伝えることができました。
ラッセル・インベストメントは、「危機を無駄にするな」という格言に従って、世界金融危機に続く市場のボラティリティの高い期間を切り抜けるために、お客様を強い立場に置いています。
次回:レッスン2:プレッシャーはダイヤモンドを作るのか、あるいは石炭を作るのか