2023年10月 アクティブ・マネジメント・インサイト:高金利の長期化が主な懸念

以下は、2023年10月27日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

概要:

  • 金利が従前の予想よりも長期間にわたり高水準にとどまるとの見通しから、世界中の株式マネージャーは強固なバランスシートを有する企業を選好しています。対照的に、負債依存度や資金調達の必要性が高い企業に対しては、慎重な姿勢を強めています。
  • 中国株式に対するマネージャーの見方は依然として分かれていますが、バリュエーションは過去の水準や新興国市場全般と比較して魅力的になっています。マネージャーはボトムアップの銘柄固有な投資アイデアに基づき、中国市場への投資活動を慎重に再開しています。
  • 抗肥満薬であるGLP-1受容体作動薬が今年の重要な投資テーマになっており、開発に携わる製薬企業に年初来で大幅な株価上昇をもたらしています。医療機器や食品セクターで、このトレンドから外れていると考えられる米国企業はアンダーパフォームしています。一部のマネージャーは、これらの企業の現在のバリュエーションには過度に悲観的な予測が反映されていると考え、新規投資やポジションの積み増しを始めています。

第3四半期は、高金利環境の長期化に対する懸念から四半期として12カ月ぶりにマイナスとなり、株式市場の力強い上昇は一巡しました。

先進国の大半ではインフレ率が目標よりも高い水準で推移しているため、投資家は現在、大半の主要中銀が従来の予測よりも長期にわたり金利を高い水準に維持する必要があると予想しています。金利見通しの修正が契機となり、第3四半期には悲観的なセンチメントが再び強まりました。さらに、OPECプラス加盟国が生産量の削減を2024年末まで延長することで合意したことを背景に原油価格の高止まりが続くとみられます。加えて、ロシアとウクライナとの戦争およびイスラム組織ハマスのイスラエル襲撃による中東情勢を巡る不透明感もまた、引き続きインフレと投資家のセンチメントへの懸念材料となっています。

このような不透明な状況下でリスクと投資機会の双方を活用するには、専門的なマネージャーの見解が不可欠だとラッセル・インベストメントでは考えています。本レポートでは、当社とマネージャーとの独自の関係を活用して、専門的なマネージャーたちが持つ最新の見解をまとめました。以下では、2023年末までの今後数カ月間の株式マネージャーによる全般的なトレンド、ならびに世界中の主要株式と国・地域についての戦術的所見をご紹介します。

世界の全般的なトレンド

高金利の長期化

  • これは先進国市場では特に懸念事項であり、長期投資に影響を及ぼしてきました。また、消費者マインドの悪化を受け、裁量的支出に依存する企業に対する懸念も増しています。
  • マネージャーは、強固なバランスシートを有する企業や自己資金投資を行える企業を引き続き選好する一方で、負債比率が高い企業や借り換えが必要な企業に対して慎重な姿勢を強めています。

コモディティ市場に吹く追い風

  • マネージャーは世界的にコモディティ市場に対する前向きな見方を維持しており、現在のアロケーションを継続しています。
  • 背景には、構造的需要があります。例えば、銅などの金属はクリーンエネルギーへの移行に不可欠です。一方、セメントや鉄鉱石は、インフラ投資を要するサプライチェーンの国内回帰から恩恵を受けています。
  • 同時に、供給制約がコモディティ価格の構造的な下支え要因になっています。

エネルギー価格高騰の長期化

  • 原油価格の高騰が長期化するとの見方から、マネージャーはエネルギーセクターを引き続き選好しています。同セクターへの投資不足、OPECプラスの主要加盟国(ロシアとサウジアラビア)の協調減産、イスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃に起因する中東情勢の不安定化を背景とした不確実性の増大などが根拠とされています。

中国のセンチメント

  • グローバルファンドの中国に対するエクスポージャーは大幅に減少しています。マネージャーの見解は分かれていますが、過去の水準や新興国市場全般と比較してバリュエーションは魅力的になっています。マネージャーはボトムアップの銘柄固有な投資アイデアに基づき、中国市場での投資活動を慎重に再開しています。
  • 特に消費者セクターでファンダメンタルズの回復がみられるなど、復活の兆しも表れています。また、政府による不動産セクター支援の継続が好感されています。

日本ではマクロ経済とガバナンス改革がプラス要因

  • ガバナンス改革、景気回復、消費者行動の変化による良好なセンチメントを背景に、投資家は日本へのエクスポージャーを継続的に増やしています。

極めて破壊的な医薬品イノベーション

  • 抗肥満薬であるGLP-1受容体作動薬が今年の重要な投資テーマになっており、GLP-1を扱う製薬企業の株価が大幅に上昇しています。医療機器や食品セクターのなかで、このトレンドから外れていると考えられる企業は売り込まれており、市場が過剰に反応していると考える投資家もいます。

カナダ株式

エネルギーセクターの投資機会が継続

  • 堅調だった前四半期に続き、株式投資家はエネルギー株に対して強気の姿勢を維持していますが、インフラよりもエネルギー生産に注目しています。現在の需給関係は良好であり、エネルギーセクターへの投資が中東での紛争に対するリスクヘッジにもなると考えられています。

素材セクターでは見解が分かれる

  • エネルギー革命が長期的に主要な上昇要因になるため、銅関連企業が最も有望なセグメントだとみられています。金鉱株も魅力的なファンダメンタルズを備え、インフレヘッジに効果的だと考えられています。しかし、投資家はアセットの所在地と潜在的な政治的リスクに非常に敏感になっています。

金融株は見劣り

  • カナダの銀行セクターに対するマネージャーの警戒は続いています。銀行は融資が鈍化する中、貸倒損失も増加傾向と相当な逆風にさらされています。また、銀行の株価収益率(PER)は過去最低水準まで落ち込む一方で、高金利環境下では現在の株式益回りは債券利回りに比較して見劣りします。

高配当利回り株は伸び悩む見込み

  • 債券利回りが低リスクで魅力的なインカム機会を提供することから、銀行だけではなく、公益事業やエネルギーインフラなど、高い配当収入を提供する企業や業種は苦戦すると予想されています。

新興国株式

中国は底を打ったのか?

  • 中国のマクロ経済に対する懸念と経済回復時期の不透明感から、同国に対するマネージャーの見解は分かれています。一方、過去の水準や株式市場全般と比較して、バリュエーションは魅力的になっています。
  • 中国政府は、センチメント悪化の主要因である不動産セクターを支援するため、金融緩和政策を強化しています。投資家、特にバリューマネージャーは、嵐を乗り越え、より強い姿を現す可能性の高い、強固なバランスシートを有する企業への投資を選択的に増加させています。
  • ファンダメンタルズが改善し始めるなど、特に一般消費財セクターには明るい兆しが見受けられます。

ラテンアメリカ諸国に対する楽観論

  • ブラジルやチリなど、実質金利の高い国の多くが既に金融緩和を進めており、自国経済と株式市場に好影響を与えています。
  • 多くの投資家の共通見解では、これらの国々の多くは好調なコモディティ・サイクルからも恩恵を受けています。
  • ブラジル株式は、法人税改革とインフレ再燃の潜在的影響のため、前四半期は低迷したものの、EM(新興国市場)マネージャーは積極姿勢を維持しており、ブラジル市場全般の投資機会への配分を継続しています。

インドは構造的には魅力的だが割高

  • 中国経済からのデカップリング、主要企業によるインド経済の成長ドライバーとなる同国への設備投資とインフラ投資の増加によりインドの長期的な構造的成長見通しは改善しています。
  • しかし、短期的には、バリュエーションに関する懸念から、投資ポジションを縮小しています。

マネージャーは再びトルコを視野に

  • 数年にわたり投資が不可能なほど困難な状況が続いていましたが、先般、エルドアン大統領は政策転換に踏み切りました。トルコ中央銀行がより正統的な政策に転換したため、バリュエーションの観点から投資機会が訪れています。高金利、通貨下落、金融規制の緩和は前向きな兆候とみられます。

欧州および英国株式

英国株式は極めて割安

  • 英国の株式市場は世界で最も割安な水準にあるにもかかわらず、投資家の注目を引き付けるのに苦戦を続けています。セクター・エクスポージャーの偏重と高成長銘柄の不足がその理由としてしばしば挙げられるが、これらを中立化したとしても、英国株式はグローバル株式に対して30%近く割安になりつつあります。[1]

国内事業に専念する企業に機会

  • 英国の内需株は外需株と比較して、特に弱含んでいます。 インフラ株は特に脱炭素化支援に向けた政府支出の増加の恩恵を受ける立場にあります。このような中小型株の多くは、安定したファンダメンタルズにも関わらず一桁台の低株価倍率で取引されており、このセグメントは企業統合に向けて機が熟していると言えます。

保険会社に成長の時が訪れる

  • 保険セクターには、世界金融危機後の健全性規制、ソルベンシーⅡ規制、人口動態の変化がもたらした超過資本という構造的な追い風が吹いています。成長の観点では、金利上昇を受けて年金バイアウトが増加する一方で、年金自動加入により資金流入が下支えされています。このような良好なファンダメンタルズにもかかわらず、保険セクターのバリュエーションは割安となっており、多くの企業の配当利回りが二桁台に近付いています。

消費者は価値を提供する企業を選好する

  • 消費者行動について注目に値する転換が進行しています。消費者は、ぜいたく消費よりも、品質や満足度といった価値や必要性をより重視するようになっています。この傾向は当初、欧州のパンデミックに関連する超過貯蓄のために表面化していませんでしたが、最近実施されたボトムアップ分析により、企業の需要状況や製品構成に影響を及ぼしていることが明らかになりました。特に低価格商品を扱っているような、コスト意識の高い消費者を顧客層としている企業は、このパラダイムシフトが進むにつれて恩恵を受けると考えられます。

グローバル株式

欧州のバリュー投資機会の魅力は不均一

  • バリュー投資家は、リスクを考慮しつつも、高い純金利マージンと健全な資本構成を備えた資産の質が優良な金融機関に注目し、魅力的なバリュエーションに基づいて欧州の金融セクターへの投資を一層拡大しています。
  • マネージャーは、ユーロ圏の生活必需品株が魅力的なリスク・リターン特性を有すると考えており、弾力的なキャッシュフローがあり、バリュエーションが割安となっている企業に目を向けています。

EV市場の競争激化の兆し

  • 輸入中国車への追い上げに努める欧州自動車メーカーには暗雲が立ち込めつつあります。価格競争力の高い中国製EV(電気自動車)メーカーがもたらすデフレ圧力により、欧州の自動車メーカーの収益見通しは悪化する可能性があります。

コモディティが戦略的なディフェンシブに

  • グロース株とバリュー株の投資家は、持続的な構造的需要によって回復力が高まっており、供給削減の引き締めから恩恵を受けていると見られている銅やアルミニウムなどの卑金属へのエクスポージャーを増加させています。

極めて破壊的な製薬分野のイノベーション

  • 食欲抑制と体重減少作用のある糖尿病治療薬の最近の成功により、肥満病と関連疾病の治療手段が突如として向上しました。特定の医薬品メーカーの業績見通しが急激に引き上げられる一方で、競合のインスリンメーカーの見通しは引き下げられています。また、消費者習慣の変化や糖分摂取量の減少を通じて、食品・飲料メーカーにも影響が及ぶ可能性があります。

マクロ経済状況およびガバナンス改革に伴い日本への投資が増加

  • 日本銀行(BoJ)がよりタカ派的な政策に転換するとの期待から、投資家は日本へのエクスポージャーを増加さ
  • せています。高金利の恩恵を享受するのは、主に日本の銀行です。対米ドルで円安が進行することで、輸出企業にも恩恵が及ぶとみられます。

センチメントはグロース株へと戻る

  • マネージャーは、金利の高止まりによる経済成長への影響について再調整を行っています。弱含んでいたグロース株には、値ごろ感がある時点でマネージャーがポジションを積み増しできるチャンスがあります。

日本株式

マネージャーは日本株に対する積極姿勢を強める

  • 日本経済は、観光業の持続的な回復、設備代替需要により予想される資本支出の増加、エネルギー効率向上に向けたさらなる投資、労働生産性の改善、生産拠点の国内回帰などの恩恵を受け、比較的好調な状態にあります。
  • ガバナンスの向上が、株価純資産倍率(PBR)が低い銘柄の再評価につながると予想されます。こうした銘柄は、銀行や商社のようなオールドエコノミーに属する企業に該当する場合が多く、また、インフレ環境からも恩恵を受ける傾向があります。投資家の多くはこれらのセクターから一定の収益を獲得しつつ、前向きな見通しも維持しています。
  • 2024年に導入が予定されている新NISA(非課税貯蓄口座)制度には非課税枠の拡大と投資期間の無期限化が含まれており、資産配分の株式へのシフトが起こる可能性があります。

ロング/ショート戦略

日本での楽観的傾向の高まり

  • デフレからインフレへの移行:日本では、デフレから緩やかなインフレへの移行の初期兆候がみられ、消費や投資に対する姿勢に大きな影響を与える可能性があります。
  • コーポレート・ガバナンス改革:10年にわたるコーポレート・ガバナンス改革は、ガバナンス、資本配分、株主還元の真の改善に導いています。多くの企業は依然として適応の過程にあることから、膨大な未開の価値が眠っているとみられます。

中国のダイナミクス

  • 2023年上半期には、中国のマクロ経済と政情の不透明感から、グローバルおよび汎アジア株式のロング/ショート・マネージャーによる同国へのグロス・エクスポージャーが急減しました。
  • 最近では、ボトムアップの銘柄固有な投資アイデアに基づくロングポジションを中心に中国市場での投資活動を慎重に再開しています。また、主に超大型銘柄を対象とした狭く、高コストなショート・ユニバースにもかかわらず、ショートポジションの漸進的な積み増しを試みる慎重な活動も行われています。

株式ロング/ショート(L/S)戦略への関心の再燃

  • 2022年第3四半期の市場底打ちを経て、2023年には、ロング/ショート戦略に対する投資家の関心が再燃しました。中でも、ロングポジションとショートポジションをほぼ同額保有するマーケットニュートラルのロング/ショート戦略への関心が強まっています。

米国株式

小型株時代の到来?

  • 米国小型株は大型株に対して、年初来第3四半期末までの期間で10.5%、過去5年間で40%アンダーパフォームしており、過去の平均と比べ30%超も割安な水準となっています。
  • さまざまな運用スタイル(バリューおよびグロース)とアプローチ(ファンダメンタルおよびクオンツ)のマネージャーは、この数カ月間、財務体質がより健全な小型株への関心を強めており、選択的にポジションを増加させています。

高金利の影響が表れるのはこれから

  • 第3四半期には長期金利が大幅に上昇し、10年物米国債と社債の利回りが15年超ぶりの高水準にまで上昇しました。
  • マネージャーは融資条件の厳格化や物価上昇が住宅や自動車の需要鈍化につながるとみており、裁量的個人支出に依存する企業に対して慎重な見方を強めています。
  • また、金利コストの上昇が企業の資金調達と支出に対する判断に影響を及ぼしており、不動産や公益事業セクターのなかでも、負債比率の高い企業は特に借り換えリスクに対して脆弱だと考えています。

ヘルスケアと生活必需品における機会

  • ニュースの見出しでは人工知能に比べて目立たないものの、糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬が今年の重要な投資テーマになっており、開発に携わる製薬企業に年初来で大幅な株価上昇をもたらしています。
  • 医療機器や食品セクターで、このトレンドから外れていると考えられる企業はアンダーパフォームしています。マネージャーの一部は、これらの企業の現在のバリュエーションは、過度に悲観的な予測が反映されていると考え、投資ポジションの保有や積み増しを始めています。

[1]出所:MSCI、IBES、Morgan Stanley Research(セクター中立のPE、PB、PDivの平均)