危機から生まれる機会:銀行システムの最近の激動はプライベート・クレジットの利益に

以下は、2023年5月22日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら 。

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概要:

  • 銀行危機の後、多くの地方銀行はおそらく、融資基準が厳格化されるとともに資本の調達が困難になる。
  • 近い将来、ノンバンクの貸し手対銀行の競争は減る可能性がある。
  • そのような状況では、プライベート・クレジットの機会が増えると予想している。

 

「プライベート・クレジット」と「プライベート・デット」という語は、信用を直接オリジネーションする戦略を意味する語として区別なく使用されることが多々あります。一方で、「ノンバンク融資」と呼ばれることもあります。

おそらく、欧米の銀行は最近、パニック状態にあると思われていることでしょう。現在その影響は公開市場に留まっていますが、米国でこれまでに起きた最大の銀行破綻4つのうち3つと、クレディ・スイスの破綻が市場に及ぼす影響が今後数週間では収束しないことはほぼ間違いありません。おそらく銀行貸出の縮小にもつながります。ラッセル・インベストメントは、「絶好の危機を無駄にするな(Never let a good crisis go to waste)」という心構えを持ち、ノンバンクの貸し手が市場シェアを拡大する機会が続き、最終的な投資家が高いリスク調整後リターンを実現する可能性が非常に高いと考えています。

世界金融危機はどのようにノンバンク融資の増加に拍車をかけたか

米国におけるノンバンクの貸し手のルーツは一般に、事業開発会社(business development company)の構造が法律で制定された1980年代にまでさかのぼります。しかし、特殊な事業形態の借り手や借入が非常に多い企業を除き、銀行がほとんどの借り手に緩い条件で融資していたため、ノンバンク融資の市場規模は何十年間も小さいままでした。

2008年に起きた世界金融危機(およびその後の規制強化)は、そのような状況をすべて変えてしまいました。銀行業界は再編され、その傷ついたバランスシートを改善するために融資を縮小、規制当局は銀行の融資をさらに制限する新たなルールを策定しました。その結果、銀行は中小企業に対する信用供与を大幅に減らしました。そこでノンバンク融資市場がその穴を埋め、規模と多様性の両方の点で大きく成長しました。

世界金融危機の後、プライベート・デットに流入する資本はすぐに危機前の2倍に増加、その後も成長を続けました。 重要なことですが、それは投資家にとって非常に好ましい結果を伴いました。2009年と2010年(通常その後2~4年にわたって融資が発生します)、クレジット運用会社のうち統計上全体の中央に位置する会社は2桁の内部収益率(IRR)を生み出しました。 これは、ほとんどすべての融資が変動金利で、ファンド期間の大部分でLIBORがゼロをわずかに上回る程度だったにもかかわらず、起きたことです。まさにプライベート・クレジットやノンバンク融資にとって最初の黄金時代でした。

プライベート・クレジットは米国地方銀行への圧力から利益を得ることが見込まれる

さて、現在何が起こっているのか見てみましょう。ファースト・リパブリック・バンク、シリコンバレー・バンク、シグネチャー・バンクが破綻しました。他の地方銀行もまだ不安定な状況にあります。規制当局は議会の厳しい追及を受けています。各銀行の最高経営責任者(CEO)もすぐに同じ状況に陥るでしょう。現時点では2008年ほど深刻な状況ではありませんが、歴史は必ず韻を踏みます。3つの大手地方銀行にはもはやバランスシートがありませんが、より大きな影響としては、他の地方銀行は、融資を実施したい場合でも、その資本を調達するのが困難になる可能性があります。地方銀行の最近の業績発表では、預金者がまだ地方銀行から離れていることがわかります。規制当局はおそらく、地方銀行にさらに保守的な姿勢で融資業務を行うことを奨励するでしょう。その上、リテールとオフィス物件いずれの見通しも良くなかったため、多くの地方銀行は、基本的な信用の観点から今回の景気サイクルにおける 台風の目かもしれない商業不動産市場に多額の融資をしていました。近い将来、銀行とノンバンクの貸し手との競争は減少していくでしょう。

プライベート・クレジットの機会は米国外にも及ぶ

機会を得られるのは米国市場だけではありません。週末にかけてクレディ・スイスがグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)としては初めて破綻、スイスの長年にわたるライバルであるUBSと合併、銀行のストレスは大西洋を越えて急速に広がりました。クレディ・スイス自体は中小企業への主要な貸し手ではありませんでしたが、米国と異なり、欧州の他の大手銀行は、世界金融危機後も同分野で重要な貸し手でした。

クレディ・スイス買収に関するニュースがショッキングだったのは、同行の普通株式がまず完全に無価値になるのではなく、最終的に追加ティア1(AT1)債が全額無価値になったことです。AT1債は、欧州の銀行によって株式を希薄化することなく資本を調達するために広く発行されており、ニュースに対して市場が非常にネガティブな反応を示したことは驚きではありません。英国と欧州連合の規制当局はすぐにAT1債が自身の管轄内でそのように扱われることはないとして市場を安心させようとしましたが、銀行のAT1債の発行コストは以前よりも高いままです。最後に、資本調達コストの上昇のため、新規融資実行の能力が低下、あるいは新規融資にあたってのプレミアムが大幅に上昇しています。こういった背景から、ラッセル・インベストメントは、欧州のノンバンクの貸し手がそのような希少な資金を優良な借り手に提供するだろうと予想します。

結論:プライベート・クレジットは成長する可能性が高い

まとめると、預金者は地方銀行を離れ、世界中で銀行の資金調達コストが上昇しており、規制当局は銀行のバランスシートに厳しい目を向けるようになっています。そのため、中小企業に対する融資を巡る競争が低下していることを示す兆候が明らかになっています。ラッセル・インベストメントは、銀行が手を引くことで、ノンバンクによる融資の機会が増加すると予想しています。銀行の資金調達コストが上昇しているため、ノンバンクの貸し手は市場シェアを獲得するために収益を犠牲にする必要はありません。これは資産運用会社と投資家双方にとっての勝利と言えます。

1   世界金融危機後4年間(2009~12年)のプライベート・クレジット・ファンドへの平均四半期拠出金を危機直前(2004~07年)と比較した、ハミルトン・レーンのコバルトLPのデータに基づきます。

2  出所:ハミルトン・レーンのコバルトLPのデータ(2022年9月30日時点)