求められる忍耐力:僅差の投票結果が市場や投資家にどのように影響するか(あるいは影響しないのか)

 

※以下は、米国時間2020年11月3日(火)夕刻および11月4日(水)午前にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

米国西海岸標準時間11月4日午前8時現在

昨日の米大統領選挙から一日経過したところで、要点の整理を行いたいと思います。

第一に、ドナルド・トランプ大統領が事前の世論調査を上回ったことが今なお事実ということです。そしてまだ接戦が続いています。アイオワ州などの州においてトランプ大統領が事前の予想を上回ったことは、共和党が上院の過半数支配の維持に貢献するには十分なものだったようです。幾つかの州ではまだ結果が判明していませんが、今のところ民主党は上院議席を一席増やしたのみで、定数100議席に対して48議席を持つ少数派に留まる模様です。

分断された政府(ねじれ議会)は、2021年の財政刺激策が少なくなることを意味します。この報道を受けて、金利は低下し、米国西海岸標準時間午前6時時点で米国10年国債利回りは、約0.75%で推移しています。民主党の候補者であるジョー・バイデン氏が勝利した場合でも、共和党が過半数を占める上院は、同候補の公約でもある法人税の引き上げを妨げる可能性があり、これは米国の株式市場にとってプラスになると考えられます。いずれも現段階ではまだ予測に過ぎませんが、ねじれ議会が生じる可能性は高まっているようです。

第二に、大接戦の状態が続いていることです。 ネバダ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州の6つの州がまだ正式にどの候補者が勝利したかを発表していません(米国時間11月4日午前現在)。しかし、一晩かけて集計された投票に基づくと、バイデン氏が勝利する可能性が高まっているようです。たとえば、人気予想サイトの「プレディクト・イット」(PredictIt)は、バイデン氏勝利の確率を80%としています。何が起きているのでしょうか?

中西部では集計が遅れていた郵便投票の開票で民主党候補者に票が集中している模様です。バイデン氏は現在、ネバダ州、ウィスコンシン州、ミシガン州の投票数で僅かながらリードを保っています。そしてバイデン氏がこれらの州で最終的に勝利することになった場合、勝利に必要な過半数の270人の選挙人確保に到達するとみられます。ねじれ議会の下では大統領職の権限はかなり制限されますが、バイデン氏は中国との通商問題に対してより予測可能で多国間的なアプローチを取ることが予想され、アジア太平洋地域における投資機会にとって好ましい政策となる可能性があると考えています。

選挙結果が明確化するまでは引き続き忍耐力が求められる局面です。ウィスコンシン州、ミシガン州、ジョージア州は、本日の集計作業で大きな進捗が見込めることを示唆しています。

ラッセル・インベストメントは、今後の動向を注視してまいりますが、新しい景気拡大局面の初期段階において、投資家の皆様がこの政治の季節を通じて投資を継続され、戦略的計画を維持されることを推奨いたします。


米国時間113日夕刻

今夜(米国時間11月3日夕刻)は米国中が緊迫した夜でした。投資は冷静に行うのが最善と考えられますので、まずは感情を脇に置いて冷静に考えていきたいと思います。当レポートでは、以下3点を客観的に見ていくこととします。

  • ここまでの選挙結果について私たちが知っていること
  • 米国大統領選挙が私たちのグローバル市場の見通しの全体像にどのように影響するか
  • 初期の結果と潜在的な結果が今後の考察にどのように役立つのか

選挙当日に私たちが知っていること

米国西海岸時間11月3日の午後8時現在、主要な通信社から公式に発表された結果はまだありません。しかし、確率は明らかに変化しています。これは非常に僅差の競争であり、そのこと自体が何かを示唆しているということです。選挙前、民主党の大統領候補であるバイデン氏は、世論調査で大きくリードをしており、それは少なくとも大勝利の可能性を示唆していました。しかし、いわゆる(バイデン氏が勝利し民主党が上下院で優勢となる)ブルーウェーブは実現していません。トランプ大統領は、フロリダ、ジョージア、ノースカロライナで優勢なようです。同氏がこれらの州を押さえた場合、最終的な選挙結果は(2016年時のように)ラストベルト、つまりミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア州の結果に依存すると考えられます。

いくつかの初期のデータは、トランプ大統領がこれらの重要な州も勝利することができるという見方を支持しているようです。ただし、当面は注意が必要です。民主党を支持する傾向があるとされる郵便投票は、これらの州ではよりゆっくりしたペースで集計されており、ギャップを埋める可能性があるからです。残念ながら、今夜中に勝利者を知ることはまずありません。ペンシルベニアとミシガン各州の州務長官は、同州における連邦議会選の結果は11月6日金曜日まで判明しない可能性を示唆しました。

僅差の大統領選挙はまた、民主党が上院を支配する可能性を低下させます。しかし、そこにおいても、現時点で決定的に何かを言うのに十分な情報を見出せていません。民主党は、2021年に立法権を得るためには最低限上院で3議席を獲得する必要があります。最も競争の激しい7つの連邦議会選(現状すべて共和党保持)の結果は、現時点では明らかになっていません。

全体像

特定の選挙結果が経済見通し、金利、または株式市場にとって何を意味するのかについて見通すことは容易ではありません。もちろん私たちは、資産運用会社として多数のシナリオを戦わせて議論・分析してきました。しかし、今夜はこれまで以上に、投資環境に対してより広い視野を以って見渡す必要があると考えています。

何よりもまず、世界経済がグローバルなビジネスサイクルでどこに位置しているかということが重要です。新型コロナウイルスの感染爆発がもたらした衝撃は、最も急激な景気後退を引き起こしました。しかし、この危機に対する歴史的にも大規模な財政および金融政策の発動により、家計および企業に対する打撃は相応に緩和されました。

たとえば、米国では政府の財政支援が非常に大きかったため、今回の景気後退局面における全体の世帯収入は実際には増加しています。また世界経済も、経済が再開し始めた5月に急速にプラス成長に戻りました。そして10月に至るまで、これらのプラス成長率は先進国と新興国を通じて継続しています。一般的に景気後退から脱却する過程で、トレンドを上回る経済成長と企業収益の成長が見られることは珍しいことではありません。余剰生産力は、インフレの影響や中央銀行の利上げなしに成長する余地を提供します。ある意味で、私たちの見通しは非常にシンプルです。世界経済は、新しい景気拡大局面の初期段階にあると見るもので、その場合は通常、株式やクレジットなどのよりリスクの高い領域への投資が選好される傾向があるということです。

もちろん、新型コロナウイルスは依然として不確実性の源であり、欧州主要国は今月から部分的なロックダウン(都市封鎖)の状態に戻っています。しかし、希望の光もあります。ファイザー社とモデルナ社は、最終段階にあるワクチン試験から有効性を示す結果が11月中にも期待できる可能性を示唆しています。科学者達は、ワクチンが2021年半ばに大規模に提供される可能性があるとの慎重ながら楽観的な見方も示しています。その見方が正しければ、12か月後の人々の生活は、今日よりも正常なものに転じている可能性があります。これもまた、中期的には前向きな景気循環的見通しを裏付けるものと考えています。ワクチンの開発はまた、景気回復を増進し、低迷したセクター(飲食やその他サービス等)をも支援するように作用するとみられます。

金融市場にとっての主要な政治問題

景気拡大局面の初期段階におけるマクロ的な視点が重要であると考えていますが、政治情勢も経済及び市場の見通しに対して影響を与えます。ホワイトハウスと議会を分けて考察する必要があると考えられます。

大統領は米国の通商政策を管理し、規制案を導入することもできます。この点で、バイデン氏が勝利した場合は、米中政策に対してより予測可能で多国間的なアプローチを取ることが期待されているため、米国以外の株式市場(特にアジア)をサポートすることになると考えられます。規制の観点では、バイデン氏は環境の重要性を強調しており、それは米国内のエネルギー部門にとって中程度の逆風をもたらす可能性となります。一方、両候補者ともに、テクノロジー大手企業に対するより強力な独占禁止法の施行について言及しています。しかし、民主党はこの問題に少しばかりより熱心に取り組んでいるため、バイデン氏の勝利はテクノロジー株とグロース(成長)株にとってはマイナスとみなされる可能性があると考えられます。

一方、マクロ経済及び市場の見通しにとっては、議会の状況が大統領職よりも重要です。それは、議会が税と支出の両方を管理しているからです。米国の新たな財政刺激策を巡る行き詰まりとは対照的に、(民主党が上院でも勝利する)統一議会が誕生する場合は2021年に大半の財政刺激策を可決することになるとみられます。失業手当の強化、家計や中小企業、また低迷する業種への追加的な資金供与は、合計で2〜3兆ドルに達することになるとみられます。これは、これまでのところほとんどのエコノミストにポジティブサプライズをもたらした景気回復へのさらなる支援を提供することになると考えられます。

このシナリオでは、米国長期債利回りが上昇することが予想され、より景気敏感特性が高い小型株やバリュー株がアウトパフォームする可能性をもたらすとみています。しかし、トランプ大統領の法人税減税の半分を解消するというバイデン氏が提案している政策が実行される場合には、米国の企業収益成長率が5~6%程度低下させる可能性があると考えられます。言い換えると、このシナリオにおける金利と相対的な株式スタイルへの影響は、株価全体への影響よりも見通しを立て易いということかもしれません。

最後に、共和党が上院の過半数を保持する場合で、財政保守主義に回帰するようなねじれ議会は、税制と財政刺激策の両方を抑制的にする可能性があります。これは株式市場にとっては総じて中立的な材料と考えられますが、最終的には金利低下につながり、現在私たちがバリュー株に見出している魅力的な投資機会に対する小さな逆風として作用する可能性があるとみています。

市場の反応

(米国時間11月3日現在)市場はこれらのシナリオの想定範囲内で推移しているようです。米国10年国債利回りは0.82%まで緩やかに低下しています。NASDAQ先物は、昨日より約3%高い水準で取引されており、米国株全体を牽引しています。より長期のデュレーション特性を反映して、これらの証券は、割引率の低下と、税および規制政策からは幾分好ましいと判断されるシナリオの恩恵を受けているようです。

重要なポイント

今週一杯は投票結果が継続的に出るとみられるため、市場参加者は健全な忍耐力を求められる局面です。不透明な局面の長期化は、金融市場にボラティリティをもたらす可能性があります。しかし私たちが知っていることは、米国と世界経済はどちらもまだ新しい景気拡大局面の初期段階にあるとみられることです。現時点における私たちの最も強いアドバイスは、投資家の皆様が投資を継続し、規律を維持されることです。政治は往々にして多くの驚きをもたらしますが、ホワイトハウスの住人が誰かを気にせずに済む程の非常に強力な経済の力が既に動き出していると考えています。