オルタナティブにおける分散投資の落とし穴
概要:
- オルタナティブ投資の比率が高まるにつれて、特定の資産クラス(不動産、インフラ、PE等)毎に一定の資産配分比率を定めるケースが増えつつある。
- 資産クラス内で分散されたポートフォリオを構築する必要がある。特にインフラやPEでは1ファンド当たりの投資案件が多くなく、投資家がファンド分散を工夫しなければならない。
- 本稿では、どのような分散が適切であるかを提示し、定量的な分析を活用しつつ望ましい採用ファンド数を提案している。
活況なインバウント
訪日外国人観光客が急増している。訪日目的は色々とあるだろうが、いくつかのアンケートを見ると日本食がランキングのトップに挙げられることが多いようだ。満足した料理には寿司といった伝統的な日本料理もあれば、海外から輸入し魔改造したラーメンやカレーも上位に位置している。カレーに至っては海外発祥のパンと組み合わせたカレーパンにまで発展したが、これは日本発祥だと言われている。日本料理とはうまみ成分を中心に季節の食材の味を最大限に引き出す料理である(菊乃井主人村田吉弘氏談)とのことだ。しかし、今は国境を越えて、多くの人が伝統的な日本食以外にもラーメンやカレー、たこ焼きを広義の日本食として楽しんでいると言えよう。
オルタナティブ投資の管理方法
オルタナティブ投資の拡大傾向が続いている。弊社顧客のポートフォリオに占めるオルタナティブ比率は中位値で17%超(2023年3月末)となっており、2008年の7%や2013年の13.5%から大きく上昇している。最近までの資産配分における検討状況を見ても、オルタナティブ投資を拡大する動きに変化は見られない。さながら、サブスクリプションサービスで取り敢えずお試し会員として入会したものの、今ではすっかり本会員となり、そのサービスを楽しんでいるといった様子である。オルタナティブ投資に換言すると、まずは少額で開始したものの、経済的リターンを伴った満足度の向上があり、もはや「代替」ではなく伝統資産と「同格」とみなす投資家も増えてきているのでないだろうか。
さて、ここまで比率が拡大していくと、伝統資産と異なればとにかくオルタナティブ投資枠として一括りに管理するといったステージを超えてくる。つまり、目的や魅力度に応じてヘッジファンド、インフラ、不動産等を独立した資産クラスとして扱う、またはオルタナティブ投資枠内で管理するにしても、資産クラス毎にある程度の投資枠を定めていくような管理形態に移行していくことになる。多くの投資家が、この連続的で漸進的な変化の過程を経験しているが、オルタナティブ投資における難易度はここから急に上がっていくことになる。それは、良いファンドを選定し、十分に分散されたポートフォリオを構築することに他ならない。概念的には誰でも理解していることかもしれないが、いざ実践するとなると実はできないことの方が多いとも言える。人間ドックで医師から推奨された改善計画を実践できないことに近いかもしれない。
オルタナティブ投資におけるポートフォリオ構築
株式や債券のポートフォリオ構築にはかなり完成された枠組みがある。まずはパッシブファンドで概ね市場ベータに追随させ、アクティブファンドは株式であればファクター(バリュー・グロース)とサイズ(大型・小型)の2軸を用いて各象限の中で優秀なファンドを選定している。債券も同様に金利とクレジットという2つの軸が明確に存在している。そして、選定するファンド数は概ね3,4ファンドといったところであろう。
しかし、オルタナティブ投資には市場ベータを追随する安価なパッシブファンドは存在せず、全てをアクティブファンドで運用しなければならない。そして、特にプライベートエクイティ(PE)とインフラで顕著であるが、ファンドは伝統資産の視点から見ると相応の集中投資になっている点に注意が必要だ。具体的に言えばPEとインフラでは一般的にファンド当たり10-20件程度の投資しか行わない。その理由は、自分たちの得意とする手法・セクター・地域でリターンの再現性を担保できる案件に限りがあることや、ハンズオンで企業価値を高めるための手間暇を考えるとあまりに数多くの投資案件を手掛けることが難しいといったことが挙げられる。運用者の意識としてはウォーレン・バフェット氏が言う「分散投資は投資を知らないことへのヘッジである」という格言を十分実践しており、10-20銘柄の投資でも不足なく分散している、という認識なのであろう。
この格言をアセットオーナーは無知なので兎に角分散すればよいと解釈する必要はない。全方位的に分散されたファンドが存在しないのであれば、異なる手法・セクター・地域への投資によって長期的にアルファが期待できる優秀な運用者を数多く集めることで、結果的にポートフォリオが活性化すると理解すれば良い。そのように考えると、大規模なグローバルファンドに限定的に投資するよりも、スペシャリストを集めた結果として、手法・セクター(含むサブセクター)・地域を十分に分散するということも合理的な判断と言えるだろう(下図ご参照)。まずは、自らのポートフォリオにおいて、最終的に投資している「案件ベースの分散」の度合いを確認し、集中投資になっていないか、または、空白となっているスペースが無いかを点検しておきたい。
【インフラ投資の事例(イメージ図)】
網掛けが大規模なグローバルファンドに限定的に投資した場合の地域とセクターのエクスポージャーを取っている部分であり、空白地帯も多くなっている。
![chart1](/-/media/images/jp/blog/chart1_pitfalls_of_diversificaion_in_alternatives.png)
分散投資の効用
ここまではやや概念的な話を展開してきたが、分散投資の効用を定量的に確認してみよう。ここでは案件ベースで集中度合いが高いPEの過去データを活用し、投資家がどの程度のファンドに分散すれば、結果的に案件ベースの分散につながり、リターンが安定するかを分析したものである。グラフの横軸はファンド数を表しており、ファンド数の増加に伴ってポートフォリオとしての上位・下位25%のリターン分布がどのように変化しているかを表したものである。なお、恣意性を排除し、十分な統計値とするためにファンドの抽出はランダムに5万回実施している。例えば、1ファンドしか選定しない場合、上位と下位の差は10%程度となり、かなりの格差が生じる。先ほどの集中投資に関連するが、オルタナティブではファンド間のリターン格差が伝統資産よりも大きいことも理解できるだろう。そして、ファンド数が増えるほどに格差は縮小し、かつリターンが安定していくことが分かるだろう。概ね10ファンドまでは分散効果が高いことから、最低10ファンドへの分散が望ましいとも言える。
![chart2](/-/media/images/jp/blog/chart2_pitfalls_of_diversificaion_in_alternatives.png)
次に、下方リスクの観点で見たものが下のグラフとなる。ここでもファンド数が10程度になるとIRRがマイナスになる確率はゼロ近辺となっていることが分かる。
![chart3](/-/media/images/jp/blog/chart3_pitfalls_of_diversificaion_in_alternatives.png)
要するにPEやインフラのような資産クラスではファンド分散が肝要で、シングルファンドを数ファンドだけ投資した場合、上手くいけば高いリターンを享受できる可能性があるものの、失敗した時のダメージも大きくなるということである。この点が特に伝統資産のファンド分散との大きな違いであり、しばしば見過ごされているポイントと言えそうだ。
(ユニバースデータに関する補足)
- データ量が豊富なPEの全ファンドのIRRをPitchbookより抽出(全834ファンド)
- ビンテージ:2006年~2015年
- アセットクラス:バイアウト、グロース、ベンチャー、メザニン等
- 地域:グローバル
- ファンドサイズ:300mil以上