プライベート・クレジットはインカムリターン追求に有効か?

以下は、2021年11月10日にラッセル・インベストメント(英国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

リターンを求める投資家にとって、オルタナティブ投資は一層検討すべき対象となっています。その主な理由は、ポートフォリオ全体のレベルでリスク分散効果が期待できることにあります。本稿では、プライベート・クレジットに焦点を合わせ、プライベート・クレジット・マーケットの成長と市場における存在感の高まりの背景について説明します。

投資機会の拡大

歴史的に見て、企業融資は商業銀行の主要業務の一つでした。しかし、1990年代半ばに始まった銀行再編や2008年の世界金融危機に伴う各種規制(ドッド・フランク法、バーゼルIIIなど)により、商業銀行の中小企業向け融資活動は低下しました。その結果、伝統的な資金調達手段が縮小する一方で、プライベート・クレジット・ファンドからの資金はその空白を埋め、プライベート・クレジットの運用資産残高(AUM)が2008年末の総額2,379億ドルから2020年末には8,480億ドルに増加するなど、この10年間で大幅な伸びを記録しました。プライベート・クレジットのAUMは今後数年間でさらに増加し、2025年末には1兆4,600億ドルに達すると予測されています1

プライベート・クレジットには様々な形態があります。最も一般的な形態では、ノンバンクがそれぞれのビジネスから生み出されたキャッシュフローに基づいて、非上場企業に対してハードアセット(不動産など)取得のために実行したローンであるか、セカンダリー・マーケットで取得した既存のローンとなります。下記は主なローンの種類です。

  • シニア債 – 借り手が債務不履行に陥った場合、優先的に返済されるローン
  • 劣後債 – 破綻時にシニア債に次いで返済されるローン
  • ユニトランシェ債 – シニア債と劣後債を一つのローンにまとめたもの
  • メザニン – デットとエクイティを組み合わせたファイナンス形態

投資すべき理由

プライベート・クレジット投資には以下のような明確なメリットがあります。

公募の債券に比べ、パフォーマンス面で優位性がある

ハミルトン・レーン社のデータによると、プライベート・クレジットは、過去20ヴィンテージ・イヤーのすべてについて、公募債の類似指数(クレディ・スイス・レバレッジド・ローン・インデックス)を平均5.48%アウトパフォームしています2。また、米国ミドルマーケット向けダイレクト・ローンのリスク・プレミアムは、一般的なシンジケート・ローンに比べて2.3~3.4%高いと推定されていることから、現在の市場環境を考慮すると今後もアウトパフォームする可能性があると思われます。

ポートフォリオの分散化

プライベート・マーケットは巨大な投資可能ユニバースです。例えば、米国には年間売上高が1億ドルを超える非上場企業が17,000社以上ありますが、上場企業のうち同規模の売上高を有しているのは約2,600社に過ぎません。こうした数字から考えると、公募市場のみを対象としている投資家は、自らの投資機会を米国大企業のわずか15%に限定していることになります3

プライベート・クレジットの場合、銀行ローンやハイイールド債などの公募債に比べて、ボラティリティは低水準で推移しています。その理由は、プライベート・クレジットは公募市場で取引されておらず、通常は四半期ごとに時価評価されるからです。つまり、市場における日次ベースのテクニカルな価格変動に影響されることがありません。

また、プライベート・クレジットは投資家により大きなダウンサイド・プロテクションを提供します。なぜなら、通常はキャピタル・ストラクチャーの上位に位置しており、強力なコベナンツ条項も備わっているからです(有利子負債/EBITDA比率やインタレスト・カバレッジ・レシオなどの一定の財務条件を企業に課すことでレンダーを保護するなど)。デフォルトが発生した場合でも、1989年から2018年における米国ミドルマーケットのシニアローンの平均回収率は75%であり、担保付シニア債券の回収率56%を大幅に上回っています4

また、ハイイールド市場の年間リターンがマイナスになった年(2008年、2015年、2018年など)においても、クリフウォーター・ダイレクト・レンディング・インデックスはブルームバーグ・バークレイズ・ハイイールド・インデックスを平均13.26%上回っています5

プライベート・エクイティに比べて短いデュレーション

プライベート・クレジット投資はプライベート・エクイティに比べてファンドの平均存続期間が短いため、投資期間や資本回収期間が短くなっています(多くの場合、2年~6年以内)。そのため、流動性に制約のある投資家の場合でも、プライベート・エクイティのように投資期間が10年にも及ぶファンドに投資することなく、プライベート・マーケットのエクスポージャーから恩恵を受けられます。

結論

投資家は、リターンの創出、ポートフォリオの改善や保護、広範な分散化による株式のダウンサイド・リスクの軽減など、様々な課題に対処しようと努めています。その結果、資産配分においてプライベート・クレジットを活用することに、投資家の関心がますます高まっています。

最終的には投資家ごとに状況は異なっているため、画一的なソリューションはありませんが、潜在的なパフォーマンスを向上させるためには、プライベート・クレジットへの代替的な配分を複数検討してみる価値は十分にあるでしょう。

1 「The Rise of Private Credit: Who, What, Where and Why」(2020年7月)、S&P Global Market Intelligence(2020年11月
2 Hamilton Lane(2021年3月31日時点)
3 Hamilton Lane「Broader Horizons: The Case for Private Markets Investing」(2021年4月)
4 Oaktree Insights「Direct Lending: Benefits, Risks, and Opportunities」(2021年5月)
5 Cliffwater「2021 Q2 Report on U.S. Direct Lending」(2021年6月30日)

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