プライベート・エクイティのセカンダリー・マーケットを活用するメリットとは?

以下は、2021年5月20日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

プライベート・マーケットのセカンダリー戦略に対する関心が近年高まっています。活動も空前の盛り上がりを見せており、取引高は過去最高を毎年更新しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大以降は、大型ファンドやメガファンドの資金調達も好調を維持しており、2020年の資本取引高は過去3年間の合計額を上回りました1

このような関心の高まりには明確な理由があります。セカンダリー・マーケットは、バイヤーとセラーの双方にメリットがあるからです。セラーにとっては、セカンダリー取引によってプライベート・マーケットに関する構造的なニーズを解消できます。バイヤーにとっては、戦略的な可能性を秘めた既存資産に対して、参入する手段や付加価値創出の機会が得られます。

現在では手法として確立していますが、セカンダリー取引は必ずしも順調に受け入れられたわけではなく、懐疑的な見方も根強く残っています。

セカンダリー・マーケットとは?

詳細な説明に入る前に、概要をご紹介します。プライベート・マーケットのファンド・マネージャーは、様々な戦略的アプローチを通じて、複数のプライベート・マーケット分野で投資を行っています。これはとても単純化していますが、投資開始方法としては、通常3つに大別されます。マルチ・マネージャー投資会社は、資金を集めて別のファンドに投資します。また、投資したファンドは、対象企業に直接投資するという点で、ダイレクト戦略をとることが一般的です。セカンダリー・ファンドは、投資マネージャー(ゼネラル・パートナー:GP)またはファンドへの出資者(リミテッド・パートナー:LP)から購入する場合が一般的です。言い換えれば、セカンダリー・マネージャーは既存投資家(GPまたはLP)が保有する投資資産を購入するのです。

セカンダリー取引:LP主導またはGP主導

セカンダリー取引は取引のタイプで分類できます。伝統的な手法としては、LPの単一持分または持分ポートフォリオを購入します。この場合、単独または複数のLPが、ファンドの持分(株式)をセカンダリー・マネージャーに売却します。この方法により、LPは流動化が難しかった投資から抜け出すことができ、セカンダリー・マネージャーは投資を望んでいたファンドに投資できるようになります。このような投資では、投資対象のポートフォリオ数を自由に選べるため、投資対象資産の数は、様々になります。

もう1つは、セカンダリー取引が大きくなっていくタイプであるGP主導です。GP主導の取引には多数の形がありますが、既存のファンドを購入し、新しいビークルの中に置く場合が一般的です。GP主導の取引は幅広いエクスポージャーを持つこともありますが、基本的にはLP主導の取引より投資先が集中しています。GP主導の取引の方が複雑ですが、投資対象資産へのアクセスを増やすことができ、魅力的な権利を得られる機会も提供されます。

セカンダリー取引のタイプや資産特性は多岐にわたるため、これらを組み合わせてプライベート・マーケットで独自のポートフォリオを構築することや、ニーズに合わせたソリューションを作成することができます。このようなサブ戦略の魅力度は、投資対象のセカンダリー・ファンドのポートフォリオ構成や、その時点のマーケット見通しによって左右されます。

取引に関する一般的な懸念事項

伝統的タイプ(LP主導)と複雑なタイプ(GP主導)のいずれも今日では広く認知されていますが、セカンダリー投資が市民権を得るまでには長い時間がかかりました。実際、GP主導の取引が受け入れられ始めてからまだ5年ほどしか経っておらず、依然として課題も指摘されています。例えば、以前から指摘されている懸念事項として、「逆選択」に関する問題があります。

例えば、投資をやめたいと思っているLPの持分をなぜ購入するのか?低い パフォーマンスが予想されるから売りに出されているのではないか? などの疑問はもっともです。懸念通りになる可能性はありますし、実際にそうなった場合もあります。しかし、それ以外の様々な要因で売りに出されることもあります。他の投資家と同様、持分を売りに出すLPの多くは、ビジネスや投資上の必要性からポートフォリオのリバランスを絶えず行っています。会社の方針(企業のベンチャーキャピタル・ポートフォリオの解消など)が新しくなった、または同一ファンドに13年間も投資していたので単に目先を変えたいなどの理由で、売りに出される可能性もあります。売却は、魅力のない投資先を手放す場合もありますが、LPにはさまざまな理由から持分を流動化するニーズがあるのも事実です。したがって、どのようなマネージャーを選択するかは、セカンダリー・マーケットにおいて極めて重要になります。投資対象資産に強く焦点を当てるバイヤーは、セカンダリー・マーケットをアクセス獲得のための一種のメカニズムと見なしており、有望な投資先とそうではない投資先を常に見分けて、セカンダリー・マーケットにおいて高度な投資提案を実施することができるのです。

同様に、GP主導の取引についても、「逆選択」や「ブランドへの影響」についての問題があり、供給側も需要側も躊躇する状態が何年も続いていました。例えば、なぜGPは投資先のエグジットに成功できなかったのか? 追加の時間と資金が必要ということは、投資先のパフォーマンスが悪い、またはGPが優秀ではないことを示しているのではないか? GP主導の取引は、GPのブランドを傷つけることになるのではないか?などの疑問が挙げられます。しかし、例えば売却によって、プライベート・マーケットでは比較的よく見られるタイミングのミスマッチを解消することが可能です。ファンドの資産をすべて売却するために必要な時間は、予想より長くかかる場合があるからです。そのため、GP主導の取引を行うことで、根本的かつ構造的なニーズに対応することが可能になるのです。

あらゆるプライベート・マーケットにおいて、マネージャーの選択は、魅力的な投資機会の発見と実現に欠かせません。これはセカンダリー・マーケットにも当てはまります。適切な知識、経験、眼力を持ったセカンダリー・マネージャーは、投資サイクル全体を通じて「逆選択」を最小限に抑えつつ、魅力的な取引を発見して選択する態勢を整えています。

バイヤーのメリット:ブラインド・プール・リスクと初期のパフォーマンス低下の回避

セカンダリー取引は、セラーだけでなくバイヤー(セカンダリー・ファンド・マネージャー、プライベート・マーケット投資家)にもメリットがあります。プライベート・マーケット・ファンドは、保有期間の長さ以外にも、このマーケット特有の多数の要因から影響を受けます。LPがプライベート・マーケット・ファンドに最初に投資する時点では、大半のファンドはポートフォリオで保有することになる資産への投資をまだ行っていない、または一部だけしか行っていない状況にあります。そのため、マルチ・マネージャー・ファンドが新たなファンドに投資する際には、ブラインド・プール・リスク(投資先が分からないリスク)を負うことになります。プライマリー・ファンド・マネージャーは、投資先の戦略やタイプを見極める優れた感覚を持っているかもしれませんが、実質的にはまだ選ばれていない資産に資金を拠出していることになるのです。一方、セカンダリー・ファンド・マネージャーは、投資先やGPの戦略の進展を把握しやすいため、ブラインド・プール・リスクは大幅に軽減されます。

投資が進捗するとセカンダリー・ファンドの投資家にとっては、さらに多くのメリットがあります。一般的なプライベート・マーケット・ファンドでは、投資が開始すると資金が流出し、当初パフォーマンスがマイナスとなる「Jカーブ効果」が発生します。これは、初めてプライベート・マーケット・ポートフォリオを構築する新規参入者にとって、特に厄介な問題でもあります。既に長期間運用されているファンドからの分配がなければ、プライベート・マーケットへの新規参入者は、何年間もマイナス・リターンや低リターンに直面することになります。セカンダリー・ファンドを追加すると、ポートフォリオ構成を最適化することが可能となります。投資ライフサイクルの途中(つまり価値を生み始める、または生んでいる段階)で参入することによって、当初のパフォーマンス低下を軽減できるからです。言い換えれば、資金流出の期間を短くする、または流出量を減らすことで、資金流入に転じる時期を早められるため、プライベート・マーケットのポートフォリオにおける初期段階のJカーブ効果を軽減し、資金の早期回収につなげられるのです。

セカンダリー・ファンドでの投資が進捗しているほど、投資資産から短期間でエグジットが可能となり、プライマリー・マーケットでの投資に比べて投資期間を短縮することが可能となります。つまり、セカンダリー・ファンドを活用することで、長期戦略をとることなく短期間で成果の獲得を目指すことができるのです。


その他のメリット:ヴィンテージ・イヤーの分散とディスカウント

セカンダリー・マーケット取引によって、ヴィンテージ・イヤーを分散することもできます。ここでも、プライベート・マーケットへの新規参入者がポートフォリオを初めて構築する場合について考えてみましょう。ファンドのヴィンテージ・イヤーが違えば、経験するマクロ経済上の逆風や追い風が異なるため、ファンド設立時の状況は異なります。したがって、ヴィンテージ・イヤーの分散は、プライベート・マーケット投資家のポートフォリオに対する有効な追加策になります。ただし、十分にヴィンテージ・イヤーを分散するには時間がかかります。マルチ・マネージャー・ポートフォリオの中には、多数のヴィンテージ・イヤーを有しているものもありますが、投資先ファンドの投資期間が重複しており、分散度合いは制限されていることがあります。さらに分散を広げたい場合には、制限が比較的少ないセカンダリー・ファンドを活用することで分散を図ることができます。

最後に、セカンダリー投資では、セカンダリー・マーケット特有の価格ダイナミクスから生じるディスカウントの恩恵があります。ディスカウントによって、セカンダリー・ファンドは早期に時価評価を行うことができ、ダウンサイド・プロテクションを段階的に強化することもできます。ただし、ディスカウントの恩恵を受けられるかどうかは、セラーの状況、投資資産やスポンサーの質、関連するマーケット環境など、さまざまな要因に左右されます。セカンダリー投資が幅広く受け入れられるようになった結果、競争も激化しています。現在では、セカンダリー取引で必ずしもディスカウントの恩恵を受けられるとは限らず、パーやプレミアム価格の場合も珍しくありません。上述の通り、GP主導の取引は比較的歴史が浅く小規模ですが、この数年で人気が高まってきました。グリーンヒル・コージェント社によると、取引の増加率は顕著な伸びを示しており、8%(2012年)から44%(2020年)に上昇しています。

結論

状況は変化していますが、セカンダリー取引のさまざまな潜在的メリットは今後も変わりません。セラーにとってはプライベート・マーケットにおける流動性の乏しさに対する解決策となり、バイヤーにとっては投資資金の早期回収、Jカーブ効果の回避、ヴィンテージ・イヤーの分散、短期ファンド化などのメリットがあります。セカンダリー取引は、今後もプライベート・マーケットの重要な部分であり、投資家が検討すべき魅力的な分野となるでしょう。関連するマーケット環境やセカンダリー・ファンドの投資戦略にもよりますが、ディスカウントはマルチ・マネージャー投資や直接投資よりも優れた緩衝材の役割を果たせる可能性があります。

1 出所:PitchBook「2020 Annual U.S. PE Breakdown Report