プライベート・マーケットの活用により重大な投資課題を解決

以下は、2022年6月14日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

プライベート・マーケットは、マクロ面での重大な課題に対処する必要がある機関投資家にとって有用です。そのような課題の例としては、インフレ圧力との戦い、望ましい水準の成長の達成、地域社会への社会的なインパクトの実現、不確実な世界への効果的な対処などが挙げられます。本稿では、重大な投資問題に取り組む際に活用できるプライベート資産戦略や手法について考察します。

インフレ

インフレ率の急上昇とそれに伴う投資価値の毀損を受け、投資家はインフレによる悪影響からポートフォリオを防衛する方法を探しています。プライベート不動産やインフラ資産は、ポートフォリオにかかる重圧の軽減に役立ちます

不動産

 

投資家がこれまで不動産に投資妙味を感じてきた理由の一つは、不動産固有のインフレ防衛力です。現在のインフレ環境を考えると、プライベート不動産への注目が高まっているのは驚くべきことではありません。不動産がインフレに対し防衛機能を持つ理由は、その収益が契約に基づいており、賃料が定期的に更新されるからです。

契約更新の際に、物価上昇など外部環境の変化に応じて賃料が調整されます。また、インフレ環境下では不動産の再調達原価が上昇するため、既存建物の価値が高まります。再調達原価とは、現在の市場価格で建て直すために必要な最終的な費用のことで、土地の価値、労働力、材料(木材や鉄鋼)などの要素が含まれます。

現在の環境において投資家の資産の購買力を維持するためには、純営業利益(「NOI」)が好調なセクターにポートフォリオを移動させることが有効であるとラッセル・インベストメントは考えています。

以下に例を挙げます:

  • 産業施設:この数年にわたり、米中貿易摩擦、新型コロナウイルスのパンデミック、ロシア・ウクライナ戦争など、世界経済に深刻な混乱をもたらす事象が複数発生しています。そのような状況を受けて、企業は「ジャストインタイム」から「ジャストインケース(万が一に備える)」モデルへと移行しつつあり、倉庫やフルフィルメント・センター、物流センターへの需要が高まり、結果として賃料が上昇しています。
  • 一戸建て住宅:慢性的な供給不足、魅力的な人口動態(ミレニアル世代の膨大な住宅需要)、低い空室率、住宅ローンコストの急上昇などの要因が重なり、インフレ環境下で賃料上昇の素地が整っています。

さらに、これらのセクターのリースは相対的に期間が短いため、インフレ環境下では契約更新の際に賃料が上昇しやすいという強みもあります。

インフラ

ほとんどのインフラ資産は、規制やコンセッション合意、契約を通じて、インフレとの明確な連動性を有しています。また、多くのインフラ資産が独占的な競争力を持ち、需要パターンが不変であることも、そのような特性につながっています。つまり、需要を破壊することなく価格を上げることが可能なのです。

成長の達成

プライベート・マーケットに投資する主な理由は、公開市場よりも高いリターンを得るためです。プライベート・マーケットは常に進化しているダイナミックな投資機会であることを踏まえ、以下では成長につながると考えられる長期的なトレンドを紹介します。

サプライチェーンのオンショア化

地政学的な事象により、経済全体におけるグローバリゼーションの減速、つまり「スローバリゼーション」に関する長期トレンドが進んでおり、官民ともに複数の業界にわたる国内サプライチェーンの確立に注目しています1

サプライチェーンの強化は現在進行中であり、米国の産業施設セクターはこのトレンドから直接的に恩恵を受けられると予想されます。つまり、未公開の産業施設事業への投資機会が創出され、様々な方法(オペレーションの改善、EBITDA成長を促進する戦略的な取り組み、エグジットなど)を通じて価値を生み出せるでしょう。また、米国GDPの2.3兆ドルを占め、設備投資の20%および生産性向上の30%に相当する大きな投資機会でもあります2

サプライチェーンのテーマでは、短距離鉄道への投資も有望です。大規模な貨物鉄道ネットワーク(「クラスI鉄道」)と企業を結ぶ、比較的小規模な鉄道です。短距離鉄道は貨物鉄道インフラのエコシステム全体にわたる流通および支線のシステムとして機能するため、米国の製造能力が拡大するにつれて、製造業者を全国の鉄道ネットワークに接続する上で重要な役割を果たすことが見込まれます。

エネルギー移行:石炭発電から天然ガス発電へ

液体天然ガス(LNG)は、特に石炭に代わる発電用燃料として、世界のエネルギーシステムにおける重要性を増しています。LNGは炭素排出量が少ないことから、脱炭素化に向けた段階的な改善策の役割を果たすとラッセル・インベストメントは考えています。

パイプラインや貯蔵・輸送などのLNGインフラの整備が進み、世界中でLNGへのアクセスが拡大しています。10年前にはLNGにアクセスしていた国はわずか23カ国でしたが、2019年にはLNG輸入国は43カ国に達しました3。このようなアクセスの改善が、大気汚染や炭素排出量の低減に直接的に寄与しています。

また、ロシア・ウクライナ戦争の影響で欧州各国がエネルギー不安に直面する中、LNGの供給危機が現実になろうとしています。2022年の世界のLNG需要は4億3,600万トンで、供給可能な4億1,000万トンを上回ると予想されるため、LNGインフラ・プロジェクトへの投資にとっては魅力的な環境になるでしょう4

インパクト

インパクト投資とは、財務的なリターンだけではなく、社会や環境に対して測定可能なポジティブなインパクトを生み出すことを目的として行われる投資です5

現在では、すべての人にとって未来をより良く、より持続可能にするという目標と、資産規模を拡大するという目標の両方を推進できる機会として、インパクト投資は注目を集めつつあります。実際に様々な組織が、測定可能な結果を目指しているイニシアチブへの参加や支援にメリットを感じ始めています。インパクト投資は一般的に、クローズドエンド型のプライベート・エクイティやベンチャーキャピタル・ファンドによって行われます。インパクト投資の大きな特徴は、投資活動に伴う成果を測定し報告する義務があることです。インパクト投資の目標は多岐にわたりますが、多くの場合、国連の「持続可能な開発目標」(「SDGs」)と関連しています。国連が2015年に策定した17の明確な目標は、貧困、飢餓、健康と福祉、清潔な水と衛生、安価でクリーンなエネルギー、気候変動対策など、グローバルな課題に取り組むための青写真となっています。

以下の図表1では、インパクト投資家が彼らのポートフォリオにおいて、国連SDGsの3つの目標に沿った具体的な成果をどのように追跡できるかを示しています。

図表1:

Private markets investment challenges 01

  • 医療診断へのアクセス向上(スクリーニングされた患者数)
  • 医療製品へのアクセス向上(現在治療を受けている、または治療を受けた患者数)
  • 医療サービスを受ける際の経済的障壁の縮小

Private markets investment challenges 02

  • 林業および土地利用による炭素排出量の低減(隔離されたGHG(Green House Gass:温室効果ガス)排出量のトン数)
  • 木材・木製品の持続可能性の向上(持続可能な森林経営の認証を受けている土地の保有)
  • クリーンエネルギーの生産(再生可能エネルギーによる発電)

Private markets investment challenges 03

  • 雇用創出と経済発展の支援(雇用創出数)
  • 歴史的に十分な金融サービスを受けられなかった人々に対する金融サービスへのアクセスと利用の改善

SDGsのアイコンについて
出所:国際連合 当資料におけるSDGsのロゴ・アイコンは、情報提供目的で使用しています。国際連合が当社の運用等に責任を負うものではなく、また支持を表明するものでもありません。

不確実な世界

世界経済や金融市場の見通しには、依然として大きな不確実性があります。地政学的問題からインフレ、金利、株式市場のボラティリティ、エネルギー価格、中央銀行の政策まで、様々な要因が組み合わさり、結果の振れ幅が大きくなっています。このような不確実性を増す世界において、プライベート・マーケットへのエクスポージャーは、公開市場よりも構造的に有利であるとラッセル・インベストメントは考えています。その主な理由は、プライベート・マーケットの投資家は「ペイシェント・キャピタル(忍耐強い資本)」のメリットを享受できる可能性があるからです。

プライベート・エクイティ・ファンドの寿命は通常10年程度で、マネージャーの裁量で1年延長が2回可能なオプションが備わっています。さらに、ファンドの最終的なクローズ時に、新たな投資を行うための期間(通常は4年間)がマネージャーにあらかじめ与えられている場合が一般的です。投資家にとっては、この構造のおかげで、プライベート・エクイティ・マネージャーが原資産となるポートフォリオ企業へのエントリーとエグジットの両方に忍耐強く取り組めるという点が挙げられます。プライベート・エクイティ・マネージャーは市場の状況に応じて、任意の時点で、資本投下やエグジット活動のスピードを抑える、または加速させることが可能です。また、新規株式公開(IPO)、戦略的買い手、その他のプライベート・エクイティ・スポンサーなど、エグジット方法を慎重に見極め、価値を最大化するため自ら選択したタイミングでエグジットすることができます。これに対し、上場株式の保有者は売買を毎日行えるため、パフォーマンスばかりを追求しやすくなる可能性があります。例えば、当初の取得価格よりも低い価格で資産を売却して損失を確定し、その資金で最近パフォーマンスが好調な証券やファンドに投資した場合には、忍耐力の無さによって、損失拡大を招くことだってあるのです。

さらに、金利上昇と株式相場の下落によって金融市場のボラティリティが高まる期間においては、プライベート・マーケットは伝統的な株式や債券にはない独自の構造的なメリットを発揮します。例えば、インフレ高進により金利が上昇した場合、プライベート・クレジット投資は投資家に利益をもたらします。基本的に変動金利であるため、資本を防衛しつつ、関連する基準金利上昇に伴う優れたリターンも得られるからです。

結論

インフレへの対応、望ましい水準の成長の達成、地域社会へのインパクトの実現、不確実な世界への効果的な対処など、直面する重大問題を解決しようとする中で、投資家が成果向上のためにプライベート・マーケットに一層注目するのは驚くべきことではありません。

結論としては、十分な規模を持ち、トップクラスの投資機会にアクセス可能で、投資とポートフォリオ運用の専門知識も有している企業と連携することで、成功確率を最大化し、プライベート・マーケットのメリットをトータル・ポートフォリオで享受することが可能となります。

1 モルガン・スタンレー「グローバル政治経済のリモデリング」2022年5月
2 マッキンゼー&カンパニー「米国の製造業:持続的かつインクルーシブな成長に向けた次のフロンティア」2022年4月
3 マッキンゼー&カンパニー「液化天然ガスの未来:成長の機会」2020年9月
4 リスタッド・エナジー「避けられない最悪の嵐:LNG供給危機は2022年冬に上陸」www.rystadenergy.com/newsevents/news/press-releases/a-perfect-and-unavoidable-storm-LNG-supply-crisis-will-make-landfall-in-winter-2022/
5 リスタッド・エナジー「避けられない最悪の嵐:LNG供給危機は2022年冬に上陸」thegiin.org/impact-investing/need-to-know/#what-is-impact-investing